放課後の校舎は薄暗くて、それでいて人気も少ないからまるでホラー映画の一節のようだ。俺は誰もいない図書室で本を探していた。
 この時間になると、もう入口で受付をしている司書さんもいない。完全に無人状態だ。自分が立てる物音しか響かない空間はやや寂しさを感じさせる。
 上の方の棚に手を伸ばしたところで、近くからばさばさと音がした。

「あっ……!」

 わずかに響いた女子の声に、俺は身を固くする。音がした方の棚を覗いてみると、一人の女子生徒が手に持っていたらしい数冊の本を床に散らばせてしまっていた。

「わっ、大丈夫?」
「あ、は、はい……」

 それは同じクラスの悠里だった。おっとりした雰囲気で口数の少ない、いわゆる陰キャ女子。でも俺は彼女がたまに見せる笑顔に密かに好意を寄せていた。

「拾うよ」
「あっ、ありがとうございます……」

 どうしてクラスメイトなのに敬語なんだ。俺は本を拾ってあげてから手渡すと、悠里は顔を真っ赤にして俯いた。

「えっと……わた、私になにか……お礼できること、ありますか……?」
「え?」

 暑くもないのにたくさん汗をかいて、悠里は上目遣いに聞いた。俺は言葉に詰まる。

「そんな、お礼なんて良いよ別に。拾っただけだし」
「で、でも……どうしても、なにか……」
「だから、良いってば」
「どうしても……」

 依然引こうとしない悠里に少し調子を崩され、俺は冗談交じりに言う。

「じゃあ……ここで俺にキスしろって言ったらすんのか?」

 言ってから、さすがに気持ち悪すぎたかと訂正する。

「ご、ごめん!調子乗った!」

 訂正してから、俺は悠里の唇に釘付けになる。真っ赤で、ぬったりしていて、穢れを知らない厚めの唇。俺はずっと前から彼女とキスをする夢を見ていた。

「……いい、ですよ」
「え?」
「キス……ですよね。……し、しましょう」

 俺はそのまま為す術なく手を引かれ、一番奥の本棚の列へと引っ張りこまれた。
 がしっと頬を固定され、俺がなにか言いかける前に悠里の唇が迫ってきた。


エロかったら続ける