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大学生の夏に体験した人生で一番怖かった話
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0001キズアト
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2023/02/07(火) 09:26:49.619ID:cg/foxrt0
たったらはなす
0002キズアト
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2023/02/07(火) 09:27:42.007ID:cg/foxrt0
たったな

はじめるか
0003以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2023/02/07(火) 09:27:56.570ID:5znqwdYf0
そして、伝説へ
0004以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2023/02/07(火) 09:28:20.313ID:cg/foxrt0
当時俺は、通っていた大学のそばで一人暮らしをしていた。
そこはいわゆるベッドタウンみたいなところで、県庁所在地に隣接した市で、元は山や林がいっぱいだったところを切り開いて家や団地をたくさん建てたような場所だった。だから街中に起伏が多かったのをよく覚えている。
電車や幹線道路が県庁所在地とつながっていて、そちらへのアクセスは良かった。一方で、市内の、県庁所在地と隣接している側と逆サイドは、まだ開発されていない山が残っていたりして、自然豊かでもあった。俺は大学に通いやすい方が良かったので、どちらかというと市内の田舎側に近いところで一人暮らしをしていた。
0005キズアト
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2023/02/07(火) 09:29:22.751ID:cg/foxrt0
あれは忘れもしない大学2年の夏。お盆を過ぎたころだった。
その頃俺は、下宿先から歩いて10分くらいの、近所のラーメン屋でバイトをしていた。
昼前から開いていて、日付が変わってちょっとくらいの時間まで通しで営業をする店だった。

その日の俺のシフトは夜の6時から10時だった。退勤時間になってタイムカードを押し、スタッフの休憩室に戻ると、シフトを9時に上がったA、Dさん、Sさんの3人が喋っていた。

Aは俺と同じ大学の同級生で、大学1年の最初の頃からの友人(男)だ。
Dさんは違う大学に通う3年生で、仕事は丁寧で優しい性格なんだけど、小太りで「ぐふふっ」と笑うようなちょっと陰キャ風な人(男)。
Sさんは、少し離れたところの女子大に通う3年生(女)で、穏やかなんだけど仕事はできる人で、バイトのホールスタッフの中では支柱みたいな人だった。

シフトを上がった後にまかないを食べたり喋ったりする人もいるので、バイト後に1時間以上休憩室に人が残っていることもあるのだが、普段あまり見ない組み合わせだったので、何かあったのかとも思った。
0006キズアト
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2023/02/07(火) 09:31:39.045ID:cg/foxrt0
部屋に入ってきた俺に気づいたAが「待ってたんだよ」と言う。
何の話かと思い聞いてみると、Dさんの通う大学で最近有名な心霊スポットがあるらしく、「今からそこに肝試しに行くから、一緒にいこうぜ」とのことだった。
話の発端としては、Dさんが、AとSさんを肝試しに誘ったのだが、Aは条件として、俺も一緒なら良いと言ったらしい。
俺は、なんで俺が巻き込まれるんだ・・・、と思ったが、友人であるAが両手を合わせて「頼むよ〜」と拝んでくるので、しぶしぶ同行を了承した。
その代わり、その日はまだ晩飯を食べていなかったので、行く前にまかないだけは食べさせろ、と言った。
0007以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2023/02/07(火) 09:31:50.091ID:5znqwdYf0
永井産業
0008以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2023/02/07(火) 09:32:34.354ID:cg/foxrt0
俺は店内に戻って、まかないの費用をレジで処理しつつ、厨房で味噌ラーメンの準備をした。
当時の俺のお気に入りのまかないは、味噌ラーメンのスープに、ランチ営業のサラダなどにつかう乾燥ワカメをぶちこんで作る、ワカメ入り味噌ラーメンだった。
バイトが自分でまかないを作る場合には、ネギ爆盛りするやつやチャーシュー増しするやつがいても、店長は黙認してくれていた。俺のワカメもそうだった。
俺は、完成したお気に入りのワカメ入り味噌ラーメンを手に休憩室に戻り、ラーメンをすすりながらDさんの話を聞いた。
0009キズアト
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2023/02/07(火) 09:34:09.969ID:cg/foxrt0
何でもその心霊スポットは、もともとそんな噂はないような場所らしいのだが、その夏に限っては、Dさんの大学の学生が肝試しで行ったところ、奇妙な音を聞いたという人が、ちらほらいるのだと言う。そしてその音を聞くと、寒気がしたり、吐き気がする人もいたそうだ。Dさん曰く「大きめのゴムボールが弾むような、ボウン、ボウンって音がするらしいよ」とのことだった。
ただその場所が、市の端の方にある山の中らしく、ラーメン屋から歩いて行くのは現実的ではなく、また、山の中腹くらいまでは車で行けるらしいので、車を出せる人間の協力があると助かる、ということで、車持ちのAとシフト上がりが被っているその日に、肝試しを持ちかけたのだと言う。

Aは、大学1年の冬に免許を取っており、2年の初めごろに、親からの誕生日プレゼントで中古の軽自動車を買ってもらっており、以来バイトには車で来ていたので、Aが車持ちなのはラーメン屋スタッフの誰もが知っていた。
0010キズアト
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2023/02/07(火) 09:34:40.489ID:cg/foxrt0
そんな話を聞きながらラーメンを食べ終えた俺は、先に車に乗っててください、と言い、店内に戻り丼を食洗器に入れて、休憩室でバイトの制服から私服に着替えて、駐車場に向かった。

駐車場でAの車を見つけた俺は近づくと、運転席にA、後部座席にDさんとSさんが座っているのを見たので、助手席に乗り込んだ。
0011キズアト
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2023/02/07(火) 09:35:48.085ID:cg/foxrt0
移動中の車内では、最初の方は、その日のバイトの夜のピークタイムでの、厨房とホールの連携がどうこうとか、真面目な話をしていた。そのあたりを語りつくした頃に、Dさんが、「そうだ、俺君の分の懐中電灯ないけどどうしようか」と言ってきた。
Dさんは、「もともと3人で行くつもりだったからさー」と、Dさんのリュックの口を開けて中に入っている3つの懐中電灯を見せてきながら、何故かにやにやしていた。俺が「そうですか。どうしましょうね」と言うと、Dさんは嬉しそうに笑って「ぐふふっ。そう言えば俺、これがあるからこっちを替わりに使おうかなー」とリュックから、当時最新型の某リンゴのマークの携帯端末を取り出した。
Sさんがそれを見て「わーすごいねー」とか言ったのでDさんはより気を良くして、「ぐふふ。こんな機能があって・・・」とか2人で盛り上がっていた。
Dさんが端末を自慢したいだけなのは見え見えだったが、Sさんが上手いこと合いの手を入れるから、後部座席の2人は、なんとなく話が盛り上がっていた。
0012キズアト
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2023/02/07(火) 09:37:34.724ID:cg/foxrt0
やがて車が山の入口に到着すると、そこからは舗装されていない道で、ただ幅は車4〜5台は並べれらるくらいあるような上り坂を、10分以上進んでいった。すると突然、やや開けた広場のような場所に到着した。
Dさんが「車で行けるのはここまでらしいよ。みんなこの辺りを駐車場代わりにしていて、ここからは歩いて進むんだって」と言った。
車が20台以上は停められそうなそのスペースには、その日には他には1台も車は停まっていなかった。

その時点で時刻は既に11時半ごろになっていたため、翌日のこともあるので、1時間後くらいにはここに戻ってこれるような進み方をしよう、という話になった。
0014キズアト
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2023/02/07(火) 09:38:07.357ID:cg/foxrt0
車を下りると、月明りのおかげで、ある程度は視界は確保されていた。
また、いくら8月とはいえ深夜だったので、若干肌寒い感覚もあった。
遠くでは虫の声も聞こえたが、さすがに例の「ボウン、ボウン」という音は聞こえてこなかった。

俺たちはさっそく、携帯端末を片手にしたDさんを先頭にして出発した。
0015キズアト
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2023/02/07(火) 09:38:36.360ID:cg/foxrt0
広場の奥から伸びる道は、人間が藪を切り開いて踏み固めたような道で、左手の何十メートルか先には山頂へ続く斜面に木が生い茂っていて、右手には高い木はなかったがどこまでも藪が続いているような風景だった。道幅は10m以上あり、近づいてみれば、あぁ、ここから進めるんだな、とはっきりと分かるような道だった。
Dさんは「途中でいくつか分岐があるらしいから、迷わないように気を付けよう」と言って進んでいった。
0016キズアト
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2023/02/07(火) 09:39:26.797ID:cg/foxrt0
歩き始めてすぐに、その場所は意外と、歩くのにさほど不快でない環境だということが分かった。
月明りのおかげで懐中電灯を点けなくてもある程度見渡せるし、地面の凹凸も少ない。何より蚊などの羽虫がいなかった。

大声で喋るのは憚られるような空気感だったため、時折小声で、怖いね〜とかちょっと寒いねーとか言い合っていた。俺たちはDさんを先頭にしながらも、時折AやSさんがDさんと並んだりして、Dさん先頭と後ろ3人か、前2人と後ろ2人、の隊列で歩みを進めた。
0017キズアト
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2023/02/07(火) 09:39:59.867ID:cg/foxrt0
進むうちに、Dさんの言う通り、道に何度かの分岐があり、Dさんはそれらを全て左に、左に、と進んでいった。そのため次第に、道と山の斜面の距離が近づいてきて、道を照らしていた月明りが斜面に生えた木々にさえぎられるようになってきた。

深夜の暗がりとなると、さすがに不気味さを感じ、俺はそのあたりからは懐中電灯を常にONにして手に持っていた。が、いくら周りに懐中電灯を向けたとしても、不気味さはさほども緩和されず、俺は次第に帰りたい気持ちが強くなっていった。

だが、自分から帰ろうとは言い出したくなかったので、周りを懐中電灯で照らしつつ、ちらちら腕時計を確認して、どこかで時間を理由に戻ることを切り出そうと考えていた。
そして更に5分ほど進み、まもなく0時になろうかという時刻になった時、俺は思い切ってDさんに呼びかけた。
0018キズアト
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2023/02/07(火) 09:41:41.423ID:cg/foxrt0
「Dさん。もうすぐ0時になりますし、そろそろ引き返しませんか?」
一人で5mくらい先に進んでいたDさんは、俺の呼びかけに反応して振り返り、手元の端末をちらっと見てから、こちらに歩いてきた。そして、Dさんが何か言おうと口を開いた瞬間、周囲の静寂を破る、全身を包み込むような大きな声で

「ま」

と聞こえてきた。正確には、ま、と聞こえた後にあ あ あ あ ぁ ぁ んと反響を繰り返すような聞こえ方をした。
その声が耳に入った瞬間から、俺は、全身に鳥肌が立ち、とてつもない恐怖感に襲われた。また、額や背中に冷や汗が伝うのを感じながらも、金縛りにあったように身体が固まってしまい、動けなくなってしまった。また、その声そのものが人間の恐怖感を直接刺激するかのように、あ あ あ あ ぁ ぁ んと反響するたびに、身体が、ぶるぶる、ぶるぶると震えるのを感じていた。
俺はすでにこの時、無意識に半泣きになっていたように思う。

いつの間にか辺りには生臭いにおいが立ち込めており、にじんだ視界の中では、同じくDさんやA、Sさんも固まっていた。
そして俺は気づいてしまった。
今の声は、俺たちの左側から聞こえた。俺たちの左側に、今の声を発した何かがいると。
0020キズアト
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2023/02/07(火) 09:42:48.514ID:cg/foxrt0
Dさんもそれに気づいたようで、震える手で握った携帯端末の明かりを、導かれるようにゆっくりと、俺たちの左方向に動かしていった。俺はそれに合わせるようになんとか、首だけをゆっくりと左方向に向けた。

そして、斜面に生える木と木の間。こちらから10mほどの距離。Dさんの持つ明かりに照らされて、そいつはいた。
0021以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2023/02/07(火) 09:43:36.587ID:kpoE0HL7a
ぎゃあああああああああああああ!!!!!!!!!
0022キズアト
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2023/02/07(火) 09:43:50.685ID:cg/foxrt0
ひと目見て、巨大な肉塊という印象を受けた。だがその表面が異様だった。
全身の皮膚(?)のようなものが、あちこちででろでろに垂れているのだ。イメージが近いもので言うと、皮下脂肪を吸引した直後の垂れた皮膚とか、体重200kgオーバーの外国人が短期ダイエットで一気にやせたあとのたるんだ皮膚とか、それをデフォルメして、でろんでろんしたような状態だった。

よくよく見るとそれは、人間のように頭部もあり四肢もあり、二足で直立していたが、明らかに人間よりも大きかった。身長は4mか5mはありそうだった。また、横にも大きく、相撲取りを縦横比そのままで3倍くらいにしたような巨躯だった。
頭頂からは、だらんと垂れる髪のようなものもわずかにあったが、それが本当に頭部なのかは分からなかった。頭部らしき箇所も皮膚(?)がでろでろに垂れており、目や鼻、口があるのかも分からなかった。

だが俺は何故か、そいつは俺たちの方を向いているように思えた。
0023以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2023/02/07(火) 09:44:00.840ID:xqCu/8Tf0
そんなわけで、帰り道にある、とある公衆トイレに立ち寄ろうとしていたのだが、
トイレの近くのベンチに座っていたツナギ姿の男と目が合ってしまう。

「ウホッ! いい男……」

思わず見とれてしまう道下。
すると男は、道下の目の前でツナギのホックを外し始め、チャックを下ろし自らのジュニアを見せつける

「やらないか」
0024キズアト
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2023/02/07(火) 09:44:33.445ID:cg/foxrt0
誰かが小さく、「ひぃっ!」と言った気がした。しかしそれ以上言葉を発することができず、そいつと目と目(?)が合った状態で誰も声を発せない状態がどれほど続いただろうか。実際は5秒とか10秒だったのかもしれない。だがその時間は、10分にも20分にも感じた。

静寂を破ったのはそいつだった。
そいつは軽く身体を揺らすと、再び

「ま」

と言ってきた。その声は、声そのものに質量でもあるかのようにぶつかってきて、俺は膝から崩れ落ちそうになりながらも身体はがちがちで動かず、再び全身に恐怖感があふれだして、半ばパニックで頭が真っ白になっていた。
そして、あ あ あ あ、と反響するたびに意識が遠のいていった。
0025以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2023/02/07(火) 09:44:48.358ID:K+ML69L80
安倍総理
0026キズアト
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2023/02/07(火) 09:45:18.712ID:cg/foxrt0
しかし次の瞬間、そいつの反響音を切り裂くように
「きゃああああああああああああああっっっ!!!!」
とSさんが叫んだ。

俺は、その声が耳に入ると、それまでの恐怖感やパニックが、冷水でもぶっかけられて飛んで行ったかのように噓のように消えさり、金縛りも解けていることに気が付いた。
崩れ落ちそうになる膝を必死で踏ん張りながらAやDさんを見ると目が合って、誰からともなく頷いて、Sさんの手を引っ張りながら全力で車を停めた広場に向かって走りだした。
0027キズアト
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2023/02/07(火) 09:45:55.907ID:cg/foxrt0
最初こそ、Sさんを引きずるように走っていたが、途中からSさんも自分の足で走ってくれたので、車までは10分もかからずに戻れた。途中、怖くて振り返れなかったが、追ってくるような足音は聞こえなかったし、少し走れば生臭い匂いもなくなったので、たぶん振り切れたのだろうとは思いながら走っていた。でも足を止めたらまた遭遇するのではと思うと怖すぎて、とにかく必死に走った。

息も絶え絶えに車まで到着すると全員無言で乗車した。車内灯に照らされた顔は、全員真っ青で、汗とか涙とか鼻水とかでぐちゃぐちゃだったが、Aは何も言わず、すぐに車を発車させた。
下山中、気まずい沈黙の車内では、時々Sさんが後部座席から後方をちらちらと伺っていたが、何を言うわけでもなく、沈黙が続いた。
0028キズアト
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2023/02/07(火) 09:46:27.125ID:cg/foxrt0
山を下りて一般道に出てからしばらくして、Sさんが「さっきのって、何だったんだろう・・・」と口にした。
Aは「分からなかったけど、巨大な人間のようにも見えたけど・・・。でも人間にしては大きすぎたし」と言った。ただ、とAは続けた。

A「あいつが何かは分からなかったけど、あいつの声が聞こえてから、身体が金縛りにあったみたいに動かなかった」
俺「うん、俺も」
Sさん「私も・・・。でもDくんはあの時、明かりをアレに向けたよね?」
Dさん「・・・。あの時は、呼ばれるというか、引っ張られるような感じで、自分の意思でそうしたのかもよくわからない・・・。でも・・・」

Dさんは口ごもってしまったが、俺は続きが気になったので聞いてみた。
0029キズアト
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2023/02/07(火) 09:47:13.907ID:cg/foxrt0
俺「でも、どうしたんですか?」
Dさん「・・・あいつの2回目の声を聞いた瞬間、明かりを向けていた右腕が、めちゃくちゃ痒いというか、痛くなった・・・」

Dさんが言うには、荒縄とかをこすりつけて締め上げるような痛みだったという。しかしいまDさんの右腕をみても、痣や腫れはなく、何だったんだ・・・、とつぶやいた。
Aは、2回目の声を聞いたら喉の奥が締まるような感じで、ものすごい吐き気がしたという。
Sさんは、2回目の声を聞いたら視界が思い切り揺れるような感覚があり、そのまま顔から倒れるかと思ったら大声で叫んでしまったらしい。
0030キズアト
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2023/02/07(火) 09:47:46.505ID:cg/foxrt0
俺は、Sさんの声のおかげで金縛りが解けて動けるようになったので、みんなSさんに助けられましたね、と笑いながら言った。
するとAやDさんも、そうそう、と同意し、車内の空気も少し明るくなり、ちょっとだけみんなに笑顔が戻った。
そのまましばらく、でも何だったんだろうねー、という話をしたが、最終的には、人に話しても信じてもらえないだろうから、この4人での秘密にしようとなった。また、Dさんの大学で変な音を聞いたという人は、アレの声を遠くで聞いたのだろう、という結論になった。
Dさんは最後まで時折、写真を撮っておけば良かった〜、と言っており、端末を手にしていたのに写真を撮れなかったことを悔やんでいるようだった。
0031キズアト
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2023/02/07(火) 09:48:15.476ID:cg/foxrt0
そんな話をしているうちに、ラーメン屋の近くまで車は戻ってきており、俺はそのまま下宿先まで送ってもらい、車を下りた。
またバイトの時に、と挨拶して、部屋にもどった俺は、シャワーを浴びて布団に潜った。
眠れないかも、とも思ったが、山中での全力ダッシュの疲れが出たのか、すぐに睡魔に襲われた。
0032キズアト
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2023/02/07(火) 09:51:22.135ID:cg/foxrt0
暗いくらい空間に俺はいた。いまいち頭が冴えなかったが、何故か俺は夢を見ているんだろうな、という実感があった。
俺は3m×3mくらいのコンクリの床の上に立っており、その周りは窪んでおり水路になっているようで、水が流れていた。20cmくらいの水路を挟んで、隣にも同じくらいの広さのコンクリの足場があり、水路、足場、水路、足場と、それが色々な方向に迷路のように広がって続いているようだった。
また、足場は、階段のように段差になっているところがあったりするのも見えた。
天井は見えないほど高く、壁はコンクリ。
明かりはまったくないのだが、何故か水路を流れている水がわずかに発光しているようで、その明かりのおかげで、その空間内のある程度の範囲は見渡せた。

俺が、(遊びたいな・・・)と考えると、身体が無意識にこっちの方向だと分かっているように、ひとりでに走り出し、水路を飛び越え、足場を走り、飛び越え、走り、角を曲がったり、段差になっている足場を上ったりして、やや広い10m×10mくらいの広さの足場まで到着した。
到着したら、そこで踊って遊んだ。
0033キズアト
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2023/02/07(火) 09:52:52.910ID:cg/foxrt0
俺は、その空間の内部を把握しているようで、俺が何かをしたいと考えるたびに、身体が無意識に動き出して、その行動をする指定の足場まで移動した。
ただ唯一、自分がスタート地点だと思う場所だけは、(ここから先は行ってはいけない・・・)という考えが頭によぎり、先に進めなかった。その場所は、足場の向こう側がコンクリの壁ではなく土壁になっていて、すぐに右に折れて進めるようになっていた。そしてその先には、この空間にはない強烈な光があるようだった。

俺はその先に何があるのか見てみたいと思ったのだが、頭の中の(ここから先は行ってはいけない・・・)という考えを無視できず、ぼうっとその土壁を眺めることしか出来なかった。やがて疲れを感じて(眠りたいな・・・)と考えると、また無意識に身体が動いて寝る専用の足場まで移動し、そのまま倒れるように横になって眠りについた。
0034キズアト
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2023/02/07(火) 09:54:19.943ID:cg/foxrt0
目を覚ますと、俺は布団の中にいた。
夢の中でも夢だとは分かっていたが、目が覚めた後でも記憶に焼き付いており、まるで自分があの場所にいて、本当に走ったり水路をジャンプしたりしたかのような、妙なリアルさがあった。
俺は、夢は夢だと割り切って布団から出たのだが、立ち上がった際に左足の裏に妙な違和感を覚えた。足がつる時の感覚に近いのだが、それが左足の裏の真ん中付近のごく一点にだけ感じた。
最初は何か踏んづけているのかとも思ったが、特にその様子もなかった。
変な感覚ではあったが、歩く分には支障がなかったので、まあいいか、と思って気にするのを辞めた。

その日はバイトは休みだったので、カップ麺を昼飯にし、適当にだらだら暇をつぶし、晩飯には蕎麦を茹でて食った。次の日が開店準備の時間からのバイトシフトで、翌朝に早起きしなければいけなかったので、その日は夜更かしはせずに早めに寝た。
そして俺は、2日続けて同じ夢をみた。
0035キズアト
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2023/02/07(火) 09:55:23.642ID:cg/foxrt0
暗いくらい空間に俺はいた。足場が迷路のように広がっており、足場と足場の間が水路になっている。
俺はすぐに昨日と同じ夢だと気が付いたが、何故かこの身体は、自分の意識では動かせないようで、その場所から移動することが出来なかった。
俺はふと、昨日見た土壁を思いだし、(あのスタート地点に行きたい)と考えた。すると、ひとりでに身体が動き出し、足場を走って、水路を飛び越えて、走って飛び越えてを繰り返し、何度か角を曲がった先に、昨日見た土壁の通路を見つけた。

俺は(この先を見たい)と思ったのだが、それに対しては何者かの(ここから先は行ってはいけない・・・)という考えが被せ気味に思考に割り込んできて、身体を動かすことはできなかった。
0036キズアト
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2023/02/07(火) 09:56:15.410ID:cg/foxrt0
そこで俺が(この先には何があるんだ)と考えると、しばらく間をおいて、俺の思考に答えるように、頭の中に、明るい空間に防護服のような白い服を着た人間が立っているイメージが湧いた。そして(この人は怖い人・・・)という思考が流れた。

怖い人ってどういう意味だろうと思い、それを考えようとしたところ

「ヤダ」

という強烈な思考が頭に流れ、そのまま視界が真っ赤に染まり、頭の中から意識が引きちぎられるような感覚とともに、自分の存在がばらばらになるような恐怖感に襲われた。その、刹那とも永遠とも感じるような時間の果てに、俺の意識は暗転した。
0037キズアト
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2023/02/07(火) 09:58:16.915ID:cg/foxrt0
翌朝目を覚ますと、やはり俺は布団の中にいた。ただその日は、全身にじっとりと汗をかいていた。
夢の中で意識を失う直前の感覚を思いだし、気持ち悪さで吐き気がしたが、まずは汗で濡れたTシャツを着替えようと立ち上がった。
そして思わず「痛っっ!!」と叫んだ。左足を床に付けたら、予期せぬ痛みが走った。
昨日足がつるような違和感のあった箇所から、土踏まずの方向と、その逆の方向にも、点が線になったかのように違和感のある箇所が広がっていた。それに加えその日には、硬いブロックや鉛筆などをその箇所で踏んづけたかのような鋭い痛みも伴っていた。

なんだこの痛みは、と思ったが、ふと目に入った時計の針は8時過ぎを指しており、俺は目覚まし時計のセットを忘れていたことに気づき、やばいと思った。
0038キズアト
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2023/02/07(火) 09:59:02.887ID:cg/foxrt0
ラーメン屋の開店は11時で、開店準備のシフトの場合には9時に行けば良いことになっている。だが俺は、過去に開店前に準備が終わらなくて開店時間から大変な思いをした経験があったため、いつも8時半から9時の間のなるべく早い時間に行くように心がけていた。準備が順調に進めば開店前に休憩すれば良いし、準備が開店ぎりぎりまでかかったとしても、営業が始まってお客さんが入ってきたタイミングでも仕込みなどを続けるよりは、よっぽどマシだったからだ。

俺は、左足の裏の痛みは、左足だけに体重をかけるような姿勢にならなければ大丈夫、普通の速度で歩く分には我慢できる、走るのは無理そう、ということだけ確認し、急いで支度をして家を出た。
0039キズアト
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2023/02/07(火) 10:00:03.091ID:cg/foxrt0
ラーメン屋の開店前準備は、厨房1名、ホール1名でやるのだが、やることが多い。
何となく男は厨房、女はホールみたいに分かれていたのだが、一部スタッフはホールも厨房もどちらもできる。俺も両方できる人間のひとりで、どちらの開店前準備も経験があった。だが、その日はもう一人がホール専門の女の子だったため、俺の担当は厨房だった。

厨房の仕事は、健康体の時にはあまり気にしていなかったが、意外と足の負担になるものが多かった。前日の残りのスープが入った寸胴を冷凍ストッカーから運び出したり、その量に応じてスープを作ったり。スープ作りも、材料の鶏ガラとか香味野菜は冷凍されたものがあるのだが、それを持ち上げて寸胴の中のざるに入れたり、出来上がったあとでざるごと持ち上げて取り出したり、寸胴のスープの灰汁を濾すために他の寸胴に移し替えたり、痛む足でやるには、なかなかの重労働だった。

他にも、麵茹で機の準備をしたり食材を出したり、ストックの少ないものの仕込みをしたりなどしていたのだが、自分ではっきりと、徐々に足の痛みがひどくなってきている事に気づいていた。それでも準備の手は止めず、開店時間前に全て終えることができたが、その時にはもう、左足は引きずるような歩き方になっていた。
0040キズアト
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2023/02/07(火) 10:01:25.392ID:cg/foxrt0
その日の昼シフトは6人。厨房は俺とAともう1人。ホールは店長と女の子2人。
厨房を3人で回す場合には、麺場、焼場、飯場で分かれることが多い。麺場は、麺を茹でたり湯切りしたり、スープを手鍋で温めたり、盛り付けなどをメインとして行う。焼場は、鉄板で餃子を焼いたり揚げ物を揚げたりサイドメニュー中心で作りつつも、麺場の盛り付けなどの仕事をフォローする。飯場は、ご飯ものの注文を捌きつつ、洗い場を担当して、麺場の盛り付けの仕事も手伝いつつ、出来上がった麺をカウンターに運び、ホールに声をかけて提供してもらう役目だ。
Aは、俺が足を引きずっていることにすぐに気付き、大丈夫か?と言いつつ、その日の俺の持ち場を麺場にしてくれた。麺場は、作業場所が限られているので、一番歩き回らなくて良いポジションだったからだ。俺はサンキューと言いつつ、内心では、どんどん痛みが増してくる左足に、不安感でいっぱいだった。
0041キズアト
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2023/02/07(火) 10:02:43.503ID:cg/foxrt0
その日は、学生にとっては夏休みでも、社会人にとっては普通の平日だったので、やはり12時頃から13時頃までは客が多かった。でも13時を過ぎると急速に客足が遠のいていく、まあ典型的な平日の来客パターンだった。13時少し過ぎたくらいで注文も一段落したのだが、俺の額は脂汗でいっぱいだった。
とにかく左足が痛い。

その日の朝痛かったのは前日に痛かったところから伸びた線といった感じだったが、働いているうちに痛みを感じる箇所が面になり、左足の裏全体に痛みがあった。
また、その痛みはだんだんと足の側面を回り、足の甲の側にもやってきた。
そして次第に指先の感覚がなくなり、足首から下全体が痛みに包まれていた。
しかもその痛みは徐々に増してきていて、13時過ぎには、足の筋肉という筋肉が、水ぶき雑巾をぎゅーっと絞っているかの如く絞り上げられるような感覚で、そこに巻き込まれた神経が圧迫されたり引き千切れそうになっているかのような痛みだった。
0042キズアト
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2023/02/07(火) 10:03:52.073ID:cg/foxrt0
俺は、ラーメンの提供が遅れればお客さんの迷惑になるから、という一心でどうにか耐えていたのだが、注文が途切れたことで、ついに限界を迎えた。
「痛いっっっっ!!!」
そう叫んで尻もちを付いた俺を見て、Aが慌てて駆け寄ってきた。
ホールにもその声は聞こえたようで、店長もやってきた。

俺はもう、あまりの痛みに立ち上がることもできず、湯切りでベトベトになった床で制服のズボンが汚れるのも気にならず、かろうじてそれ以上叫ぶと客の迷惑になるかと思い、唸り声のように声を押しとどめるので精一杯だった。

店長が、どうした、大丈夫か?と聞いてきたが、俺は首を思いっきり横に振った。その動作だけでも、身体を少しひねった勢いが左足まで伝播して、左足の激痛が更に増した。
その様子を見て店長は、これは病院だな、と言ってAに、車で連れて行ってやれないか、と聞いた。病院に行っている間のバイト代は出すから病院まで付き添って、診察結果を聞いて、俺を家まで送った後にまた店に戻って様子を報告してほしいと言っていた。
Aはすぐさま頷いて、自分と俺の厨房スタッフ用のエプロンと帽子を外して、俺の左側から肩で担いで、制服のまま駐車場まで移動した。
0043キズアト
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2023/02/07(火) 10:08:09.525ID:cg/foxrt0
左足のあまりの痛みに、そこからの記憶はぶつぶつだ。
流れとしては確か、Aの車で病院まで行き、受付まではAの肩を借りて移動して、そこで車椅子に乗せられた。診察室で左足の靴を脱いだら、医者に「真っ赤だね」と言われたのは覚えている。なんともない右足と比べると、足首から下が明らかに一回り腫れていた。
靴を脱いだことで、締め上げるような痛みの一因は、腫れあがった足を靴に押し込んだ状態になっていたせいだということが分かり、そこからは靴無しで移動したが、それでも圧倒的な痛みの前には焼け石に水程度だった。
X線を撮る時には、足が痛いし足首も動かせないと言っているのに、足の角度がどうとか、無理な姿勢をさせておいて動かないでくださいね、とかめちゃくちゃな注文を付けられたのは覚えている。

最終的には、骨に異常は無いので骨折ではなく、でも原因は分からないと言われ、湿布と痛み止めと胃薬を処方され、また、松葉杖をレンタルしてもらった。
0044キズアト
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2023/02/07(火) 10:09:23.887ID:cg/foxrt0
Aに家まで送ってもらうと、もう夕方になっていた。
俺は、状況はAから店長に伝えてもらえるのは知っていたが、恐らく明日以降もしばらくはまともに歩けないだろうと直感的に分かっていたので、明日以降のシフトに穴を開けてしまうことだけ謝罪したくて、店長に電話した。
店長は話を聞いて、シフトのことは気にするな、稼ぎたい子たちがいるからそいつらに入ってもらうよ、と言い、また、とにかく歩けるようになるくらいまでは大人しく安静にしておけ、と言われた。俺は感謝の気持ちを伝えると電話を切り、布団に寝ころんだ。

しかし大変なのはそこからだった。
0045キズアト
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2023/02/07(火) 10:10:47.616ID:cg/foxrt0
左足の足首から先はとにかく、何もしていなくても痛いのだが、床に付いたり何かに接触すると激痛が走る。また、身体をひねりすぎると痛みが走るので、取れる姿勢に限りがあった。
俺は基本的には、布団から半身を起こし、左足の膝の下あたりにクッションを置いて、左足首から先が宙に浮くような姿勢を保ちつつ、たまに横になったりとか姿勢を変えていた。
部屋の中では、上手く壁に手を付ければ左足を使わずに移動することも出来たので、トイレやシャワーは何とかなった。しかしとても買出しにいける状態ではなかったので、申し訳ないと思いつつAに頼んで、2日おきくらいに、肉・ネギ・ワカメ・インスタント袋麺・カップ麺あたりを買いこんで貰って、届けてもらっていた。金は多めに渡してお釣りはいらいないと言って頼んでいた。

寝ている時には、無意識で寝返りを打とうとするだけで左足に激痛が走り目が覚めた。寝返りの度に目を覚ますことになるので、あまり深い睡眠は取れなかったし、昼寝が増えた。

自分が暗い空間にいる謎の夢も、2〜3日おきに続いた。
何度もその夢を見るうちに、俺は法則に気付いた。眠りたいと思って寝る部屋に移動すると目が覚める。しかし、夢を見てからいきなり眠る部屋に行っても眠りには付けないので、いくつか「遊ぶ」とか「歌う」とか「走り回る」とかをやってから寝る部屋に移動すると夢から脱出できた。
0046キズアト
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2023/02/07(火) 10:11:47.382ID:cg/foxrt0
そんな生活を繰り返し、病院に行ってから10日後。
痛みが引くようだったら次回は来なくて良いと言われていたのだが、最初に処方された薬を飲みきったもののまだ痛みはあった。とは言えその頃には、痛み止めが利いていて、左足が何にも触れていない状態であれば、痺れているような感覚はあるものの痛みはなく、薬が切れている時やどこかに足を当ててしまった時だけ痛みがあるような状態だった。
家の中で松葉杖で歩く練習もしていたので、俺は思い切って松葉杖をついて病院へ行くことにした。左足は靴を履くと痛みが酷かったので、右足は靴、左足はサンダルで出かけた。

病院は、普通に歩けば10分もかからない距離だったが、松葉杖をつきながらだと20分以上かかった。しかも久々に外に出て身体を動かしたものだから、移動だけで汗だくになった。
0047キズアト
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2023/02/07(火) 10:12:25.863ID:cg/foxrt0
病院で診察を受けると、俺に告げられたのは「足底腱膜炎」という病名だった。足にある腱膜という部分が損傷して腫れ上がる病気らしい。ただ先生が言うには、しょっちゅう足を踏み込みに使う剣道だとか、激しい運動をする人に表れることが多いらしく、何かスポーツやっていた?と聞かれたのだが、俺が特に何も、と答えると、少し不思議そうな顔をしていた。
俺は高校の時から帰宅部で、基本的に運動はしていなかった。そんな俺の足の裏の腱膜がなぜ損傷したのかは、結局は謎のままだった。
俺はふたたび、湿布と痛み止めと胃薬を、今度は多めに処方してもらい、帰路についた。
0048キズアト
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2023/02/07(火) 10:13:38.396ID:cg/foxrt0
そして一週間後。
俺の足底腱膜炎は、徐々に回復していた。その頃には、薬が効いていれば普通に歩けたし、薬が切れていても、足首の動きは制限されているような感覚だったが、痛みはほとんどなくなっていた。ただ、薬が切れた状態で足首を曲げたりすると、痛みはあった。
少なくとも、痛み止めさえ効いていれば日常生活に支障がないレベルまで回復したので、俺は店長に電話をして、状況と、次の週からバイトに入れる旨を伝えた。
またAにも、これまでの買出しへの感謝と、次の週からバイトに復帰するつもりであることを電話で伝えた。

すると話を聞いたAが、どこか外で会えないか?と言ってきた。
俺は、特になんの用事もなかったので、いつでも大丈夫だと了承した。Aは、時間と場所は後でメールする、と言って電話を切った。
2時間後に届いたメールには、翌日の午前10時に、場所は近所の喫茶店で、車で迎え良いくから9時50分くらいには出れるようにしておいてくれ、とあった。俺は了解と返した。
0049キズアト
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2023/02/07(火) 10:15:21.588ID:cg/foxrt0
翌日。Aの車に乗った俺は、何も喫茶店じゃなくても俺の部屋でも良いのに、と思っていたが、すぐにその理由を知ることになった。
喫茶店で通されたテーブルには先客がいた。Dさんだ。
Dさんは俺たちに気付くと、おう、と言って手を振ってくれた。

俺とAはDさんの向かい側の席に座ると、それぞれ飲み物を注文したところで、Aがやけに深刻というか、悲痛な表情を俺に向けた。
お前に伝えておかないといけない事があるんだ、と改まって言うAに対して、なんだよ?と聞くと、しばらくの沈黙の後に告げられたのは、Sさんの死だった。
0050キズアト
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2023/02/07(火) 10:18:03.072ID:cg/foxrt0
A「Sさん、亡くなったんだよ」
俺「・・・はぁ?冗談だろ?」
A「冗談なんかじゃない。それも、お前が足が痛いって言って、病院に行った日にだ」

俺は信じられず、Aの顔を見返したりDさんの方を見たりもしたが、Dさんは顔を俯き気味にしており、その表情は見えなかった。

Aが言うには、Sさんは、俺が病院に運ばれた日の夜のシフトに入っていたのだが、時間を過ぎてもラーメン屋にやって来ないSさんを不思議に思って、店長がSさんの携帯に電話を入れたのだそうだ。その時に電話に出たのが母親で、店長が、Sさんがバイトのシフトの時間に遅れているけれど何か知らないかと聞くと、しばらくの沈黙の後に、「娘は本日、急逝しました」と告げられたのだという。

Sさんは実家暮らしだったため、葬儀に参列した店長が亡くなる直前の様子を母親に聞いた話では、亡くなる前日には、頭が痛いと言って、食事の時以外はほとんど部屋に籠っていたそうだ。そしてその翌日、昼過ぎになっても部屋から出てこないSさんを心配した母親が様子を見に行ったところ、布団の中で既に息を引き取っているSさんを見つけたとのことだった。
死因は脳卒中で、若い人が急にかかることも珍しくは無いと医者が言うので、急な病死ということになったそうだ。
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2023/02/07(火) 10:21:17.018ID:TwZ3bkzi0
おもしろかった!今年一番笑った!乙!
0052キズアト
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2023/02/07(火) 10:22:16.020ID:cg/foxrt0
Aは、お前の足イタとあまりにもタイミングが一緒だから、不安にさせないように、足が良くなるまでは伝えないでおこうと思ったんだ、と言った。
その言葉を聞いて若干違和感を感じた俺は、不安ってどういうことだ?と聞き返した。
Aは、何と言おうか迷っているようだったが、Dさん、と促すとDさんが顔を上げた。

Dさん「見る?これ。すごいよ・・・。ぐふふっ・・・」

ちょうど、注文したDさんのホットコーヒー、Aのウーロン茶、俺のアイスコーヒーがテーブルに来たのだが、お構いなしにDさんは右袖をまくった。
すると、Dさんの右肘と右手首のちょうど中間らへんに包帯が巻いてあるのが見えた。

Dさん「これねぇ・・・。Sさんが死んじゃう前の日くらいから違和感があったんだけど・・・」

死、という単語を聞いて、びくっと反応した店員さんだったが、何も言わず飲み物を置いて去っていった。

それを見届けたDさんは、おもむろに、巻いてある包帯を外し始めた。何巻きか回すと、包帯の端がほろりとテーブルに落ち、腕の外側に大きめのガーゼが貼ってあるのが見えた。
そしてDさんは、ガーゼを留めているテープを剥がすと、その下にあるものを俺に見せた。
0053キズアト
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2023/02/07(火) 10:25:44.074ID:cg/foxrt0
それは明らかに異物と感じるものだった。漫画で書かれるようなコブそのもの。アンパンマンの顔に付いている鼻のような感じと言うと分かりやすいだろうか。直径5cmほどもありそうなコブが付いていた。さらには、真ん中らへんに傷口のようなものがあり、そこと接していたガーゼには、黄色みがかった白いべとべとしたものが付着していた。

Dさん「これね、膿が溜まって出来ているコブなんだって。急に膨れてきてさ。痛いから病院に行ったんだけど、切り取ることも出来るけど大がかりになるから、まずはこうやって切れ目を作って、そこから膿を出して様子を見ようって話になったんだ・・・」

Dさんはひとしきり俺にそのコブを見せたあと、手慣れた様子で新しいガーゼを取り出してテープで留め、その上に包帯を巻いた。
0054キズアト
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2023/02/07(火) 10:29:02.603ID:cg/foxrt0
そこまで言われると、俺にもAの言いたいことが分かってきた。

俺「Sさんが死んだのも、Dさんの腕のコブも、俺の足も、肝試しに行ったのが原因かもしれないってことか?」
A「俺はそう思っている。もっと言うなら、あの時出会ったあいつにやられたんじゃないかって思ってる」
俺「・・・。Aは何ともないのか?」
A「俺は今のところ何ともない。ただ・・・」
俺「ただ、なんだ?」
A「変な夢は見る」

夢、と聞いて俺は動揺した。Dさんも、少し表情を変えたように思った。
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2023/02/07(火) 10:30:25.406ID:5h1FaR5H0
Aさん一人だけ強い
0056キズアト
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2023/02/07(火) 10:32:37.554ID:cg/foxrt0
Aが言うには、肝試しに行った日の夜から2〜3日おきに、同じような夢を見るのだそうだ。その夢の中では、Aは廃墟のような町におり、誰かを探しているようで、倒壊している廃屋の瓦礫を動かして探し物を続ける夢らしい。

A「それが妙にリアルな夢で、目が覚めた後も、舗装されていない道を走った感覚とか瓦礫をどかした時の腕の疲れとかが、何となく身体に残っているんだよ・・・」

俺はAのその話を聞いて、自分が見る奇妙な水路の夢も話した。
Aは俺の話を聞いて、うぅん、と唸って黙り込んでしまった。
0057キズアト
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2023/02/07(火) 10:34:24.241ID:cg/foxrt0
すると、それまで俺とAの話を静かに聞いていたDさんだったが、俺も変な夢見るよ、ぐふふっ・・・、と言った。

Dさんは2〜3日おきにその夢を見るようで、夢の中では、右腕のコブが何倍にも膨れ上がって、それが、2回に1回はSさんの顔に、2回に1回はなんと、あの日山で遭遇したあいつの、皮膚がでろんでろんに垂れた顔になるのだそうだ。
Sさんの顔になる場合には、近況を話したり、普通の世間話をするらしい。
山のあいつの顔になる場合には、Dさんはそいつを倒そうと床や壁にそいつの顔を叩きつけるのだが、しばらくすると、山中で聞いたあの声を発するのだそうだ。それを聞くと、やはり全身が恐怖感で震え、また山中で遭遇した時のような荒縄でこすって絞り上げるような痛みが全身の何か所にも表れるのだそうだ。恐怖心や痛みで悶絶していると、そいつはさらに、あの声を発して追い打ちしてくるらしい。Dさん曰く、だいたい3〜4回聞くと限界になって失神して目が覚める、とのことだった。
0058キズアト
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2023/02/07(火) 10:36:57.950ID:cg/foxrt0
その話を聞いてAは、やっぱり山で遭遇したあいつから何か影響を受けたんだと思う、と言った。

俺は何と返すか迷ったが、Aは、人間に悪さをする何かの影響を受けたのなら、そういったものの専門家に相談するべきだと言った。専門家?と聞き返すと、そういう伝手があるから3人で揃ってそこに行こう、と言った。

俺は、Aの真剣な様子を見て、分かったと言い、Dさんはぐふふっ、と笑っていたが、特に拒否する様子は無かった。
Aは、Dさんの直近のバイトシフトを確認すると、極力ラーメン屋に迷惑をかけないよう、全員の空いている時間が揃っている時に行けたらと思うが、相手の都合もあるから今の段階では何とも言えない、と言い、その会話は終わった。

そのまま何かの会話が盛り上がることもなく、それぞれが頼んだ飲み物が空になった頃、その場はお開きとなった。

夕方、Aから届いたメールには、2日後、朝7時に車で迎えに行く、と書いてあった。
0059キズアト
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2023/02/07(火) 10:50:58.421ID:cg/foxrt0
2日後の朝。迎えに来たAの車には、既にDさんが乗っていた。Dさんは後部座席にいたので、俺は助手席に乗った。

車が走り出してすぐ、俺はAにどこに行くんだ?と聞いた。
Aは、隣の市に自分の家とゆかりの深い神社があるから、そこに向かう、と言った。
Aはすでに、おおむねの経緯は電話で先方に伝えているらしい。そして、お祓いをしてもらう約束をしているようだった。

Aは最初は、幹線道路を制限時速ぎりぎりで飛ばしていたが、30分ほど走ると道を折れて、細い道に入っていった。道を折れてすぐには、多少民家もあったのだが、しばらく走ると周りは木ばかりになっていた。その道は片道1車線でカーブが多く、分岐もあったが信号や横断歩道はなかった。人間が歩けるスペースもわずかにあったがガードレールはなく、普段から人通りはなさそうな雰囲気だった。
0060キズアト
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2023/02/07(火) 10:53:46.180ID:cg/foxrt0
次第に道は上り坂になっていき、山道になっているようだった。他に通る車は一切なく、俺は窓の外で流れていく景色を見ながら、ずいぶん奥まったところに行くんだな、と言った。

それに対してAは、「この山に入る手前辺りからもう隣の市に入っているよ。あとは道なりに30分くらいかな」と返してきた。俺は、そんな山奥の神社に参拝客なんてくるのか?と疑問に思った。
するとそれを察したのかAは、人を集めるための神社じゃないんだ、と呟いた。
つまりは、一般人がお参りするための神社ではなく、お払いだとかお清めだとか、そちらに特化した神社なんだそうだ。

そんな話をしながら後部座席をちらりと見ると、Dさんはあの肝試しの夜に持っていたのと同じリュックを胸に抱えて、眠っていた。
0061キズアト
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2023/02/07(火) 10:55:15.433ID:cg/foxrt0
8時を15分ほど回ったところで、車が鳥居をくぐり抜けた。Aは、寝ているDさんに向けて、少し大きな声で、もうすぐ着きますよ、と声をかけた。そのままさらにもうしばらく進み、2個目の鳥居をくぐった先に、広いスペースが表れた。Aはそこの端に駐車するとここです、と言った。

車を下りて手を清めたところで、Aは「少し歩くと社務所があります。まずはそこに行きましょう」と言って、先頭を切って歩き出した。

Aが社務所と呼んだ建物は、広場から伸びる細い道を歩くと、5分もせずにすぐに目についた。
雰囲気としては、いわゆる普通の神社でお守りなどを売っているような建物だった。そしてその向こう側に、おそらく本殿であろう大きな建物が建っているのも見えた。
0062キズアト
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2023/02/07(火) 10:56:05.139ID:cg/foxrt0
社務所の勝手口のようなところには呼び鈴があり、それをAが押してしばらく待つと、中から20代後半くらいの、いわゆる巫女さん服の女性が出てきた。Aが、9時に約束していた〇〇(Aの苗字)です、と言うと、女性は、伺っております、どうぞ上がってくださいと言って、中に通してくれた。
0063キズアト
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2023/02/07(火) 10:58:47.653ID:cg/foxrt0
俺は、印象からその扉を勝手口だと思い込んでいたが、中に入ると20足分以上入るシューズロッカーにびっしりとスリッパが用意されていて、多くの人が出入りする出入口なのだと気付いた。
廊下はまっすぐ伸びていて、左右にいくつか部屋があるようだった。
俺たちが通されたのは、そんな中の一室だった。

その部屋は、端にソファ、真ん中あたりに大きめのラウンドテーブルがあり、テーブルを囲うように4脚の椅子があった。
とんでもなく山奥まで来たと思っていたが、電気は引かれているようで、天井の照明によって部屋全体が明るく照らされていた。
女性は、ではこちらをお願いします、と言ながら机に鉛筆と小さな紙を置いて、後ほどまた伺います、と言って部屋を出て行った。
0064以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2023/02/07(火) 10:59:27.484ID:TwZ3bkzi0
やっぱり寺生まれってすごい!
0065以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2023/02/07(火) 11:00:07.377ID:dw99CbR70
長すぎて読む気がしない
0066以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2023/02/07(火) 11:00:28.928ID:cLZMge0Ld
全然読む気が起こらない
0067キズアト
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2023/02/07(火) 11:01:01.963ID:cg/foxrt0
Aは早速その紙に何かを書くとDさんに渡して、住所と名前を書いてください、と言った。Dさんが記入したあと、俺も自分の住所と名前を書き込んだ。

それからしばらく待たされた。
待っている間、Dさんは一人でソファに座っていた。俺とAは、机のそばの椅子に座り、大学の後期の講義の話なんかで時間を潰していた。
10分ほどそうしていただだろうか。
部屋のドアをノックする音が聞こえ、Aがどうぞ、と言った。
0068キズアト
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2023/02/07(火) 11:03:18.639ID:cg/foxrt0
扉が開き、そこには先ほどの女性と、その後ろには、50を超えたくらいだろうか、白髪混じりの髪の面長な男性が立っていた。いわゆる神主さんの袴姿といった服装であり、俺は、見た瞬間にこの人がお祓いをするのかな、と思った。

Aが席を立ったのを見て、俺とDさんも何となく席を立った。そしてAが、よろしくお願いします、と言って頭を下げたので、俺たちもそれに倣った。

A「本日はお時間をとって頂きありがとうございます。また、お約束より早く着きすぎて申し訳ございません」
神主「時間はね、朝は早い分には構わないよ。遅れてきてずれこんで、次の人と鉢合わせになったりするのは良くないんだけれど。朝一で早いのは大丈夫」
A「ありがとうございます」
神主「時間までただ待つのもなんだしね、準備はできているし、もう始めてしまおうか」
A「分かりました」

俺たちはAに促されて、女性と神主さんの後に付いて歩いた。名前を書いた紙は、Aが女性に渡していた。
廊下の突き当りまで進むと、2階へつながる階段があった。
0069キズアト
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2023/02/07(火) 11:05:45.782ID:cg/foxrt0
2階は1部屋のみのようで、50人以上は入れそうな広い空間だった。その部屋を横切り、ガラス戸を開くと、ベランダのようになっている場所に出た。そしてそのベランダからは、さしずめ、屋根付きの渡り廊下とでも呼ぶべき通路が、木々が生い茂っている林のような場所の中へ延びていた。

渡り廊下は、何度か折れたり、ゆるやかなカーブがあったり凸型になっていたりとしていて、歩けば歩くほど方向感覚がなくなり元の社務所の方向が分からなくなっていった。5分以上そんな通路を歩いた頃だろうか。渡り廊下の先の方に、廊下とつながる建物が遂に見えた。それは最初、社務所の奥に見えた本殿だろうな、と思った建物だった。

俺は、社務所の出入口から出て、外を歩いて本殿までまっすぐ行けばもっと早く着くんじゃないか、とも思ったが、わざわざこんな長い通路を歩かせることにも、きっと意味はあるのだろうと、一人で納得していた。
0071以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2023/02/07(火) 11:07:38.678ID:NcqgLYqw0
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               |:::::::∧   _    ./リlヘ/ ルl/
               ヤ:::::::::::> 、    イ  ∨`ヽ_, へ _
              ∨\::≧ソ「≧= ´     〉    / 入
               r´ ̄ 7 ∧     /  / / .イ`ヽ
                   ノ l  /  /   _ . / / イ /    ∧
              f  ∧ {  k _  イ\l/  l /     l
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            i 7`ー―― ュ     ∨_ r 、_、      |
           イ ゝ, `ー――、       }   ヤl   `ヽ   ム
          /  ∧r-― ' ´_     /    l         }
           {      ̄ ̄ 7 l .>--、/    /         |
          |       /  .|      l>_/            ィ
          >、__ /   |     l    ̄ ―――― ' l.
                   |   .|     ∨              ∧
                 /   l     丶            \
0072キズアト
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2023/02/07(火) 11:07:51.870ID:cg/foxrt0
本殿に入ってすぐ、神主さんは、あとは彼女に案内してもらって、と言って俺たちと別れた。女性はそのまま俺たちの先頭を歩き、建物の中を進んだ。
少し進んですぐに、女性がどうぞ、と言ってひとつの部屋の扉を開けた。その中は、20畳ほどの広さがあり、壁側に祭壇や神棚があり、それと向かい合うように3枚の座布団が並べられていた。座ってお待ちください、というと、女性は歩き去った。

俺たちは何となく、Aが真ん中かな、という雰囲気で、祭壇に向かって右から俺、A、Dさんの順で座布団に座った。
Aは小声でDさんに何か言うと、Dさんは頷いて、リュックから3本の懐中電灯とリンゴのマークの携帯端末を取り出して、Dさんの前に並べた。
俺はその懐中電灯に見覚えがあった。あの肝試しの日に俺も持っていた懐中電灯だった。
0073キズアト
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2023/02/07(火) 11:09:27.115ID:cg/foxrt0
何となく無言の雰囲気を感じて黙っていると、数分も経たず、俺たちが入ってきたのとは別の入口から、烏帽子を付けた先ほどの神主さんが、白い紙がぶら下がってついている棒を手に部屋に入ってきた。
神主さんは、何方向かに礼をしてから扉を閉めて、その雰囲気からすでに、お祓いが始まっていると感じさせるものがあった。俺はどうしたものかと思って困ってしまったが、Aの方をちらりと見ると、正座で背筋を伸ばし、黙とうするように目を伏せていたため、俺も真似をすることにした。
0074キズアト
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2023/02/07(火) 11:11:44.443ID:cg/foxrt0
最初は神主さんの衣擦れの音が聞こえていたが、しばらくすると、祝詞ってやつが聞こえてきて、また、紙の付いた棒を振るしゃらん、しゃらんという音も聞こえてきた。
祝詞は、俺にはまったく意味が分からなかったが、途中で俺たちの住所と名前が呼ばれたのは分かった。

神主さんは、部屋の中を歩いて移動したり、祝詞を唱えたり、棒を振ったりをやっていた。
そんな時間が20分か30分くらい続いただろうか。扉を開ける音が聞こえたので、俺はうっすらと目を開けて確認すると、神主さんが部屋から出るところだった。
すると今後は、俺たちが入ってきた方の扉が開き、先ほどの女性が立っていた。
こちらへどうぞ、と促されるままに後についていくと、10畳ほどの和室に通された。
そこには、座布団1つと3つが向き合うように敷かれていたので、俺たちは何となく先ほどと同じ並びで座布団に座った。
俺は、祝詞を聞いている途中ですでに一度足が痺れて胡坐に変えており、ここでは最初から胡坐で座ることにした。
0075キズアト
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2023/02/07(火) 11:14:30.569ID:cg/foxrt0
少し待つと烏帽子を外した神主さんが部屋に入ってきて、続いて女性も入ってきた。女性は暖かいお茶を持ってきてくれたようで、人数分の湯呑置きと、まだ湯気の立っている湯呑を並べると、軽く会釈して部屋を出た。

神主「お疲れ様でした。聞きたいこともあるでしょうし、少しお話をしましょうか」

そう言って神主さんは湯呑を手にして、軽く口を付けた。
0076キズアト
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2023/02/07(火) 11:16:23.591ID:cg/foxrt0
神主「今回は、4人で山に行き、そこで不思議なものに出会い、その声のようなものを聞いて、逃げて帰ってきたということでしたね」
A「ええ。そしてそれから、そのメンバーが、変な夢を見たり、怪我をしたり・・・」
神主「おひとり、亡くなられたと」
A「・・・はい」
神主「亡くなられた方には、ご冥福を祈ります」
A「この一連の出来事は、やはり山で遭遇したもののせいなのでしょうか」
神主「・・・。それが何だったのかは、私にはさっぱり分かりません。ただ、ここに来られた時、貴方たちには間違いなく悪い気のようなものが纏わりついていました。そして先ほどの儀式で、それを祓えたのは確かです」

その言葉を聞いて、俺はほっとして、じゃあもう奇妙なことは起きなくなるんですね、と言った。すると、それを聞いて神主さんはうぅん、と唸って

神主「その、山で遭遇したものから何か影響を受けたとすると、声を聞いた時と姿を見た時でしょう。貴方がたは、その時点で影響を受けていて、その後の様々なものはその後遺症という考え方もできます」
俺「・・・というと?」
神主「例えば、貴方という存在の一部が影響を受けた、あるいは傷つけられたと言い換えても良いでしょう。そうなると、傷と悪い気は、その時に受け取ったものだということです」
0077キズアト
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2023/02/07(火) 11:18:12.037ID:cg/foxrt0
神主さんが言うには、傷はその時その場で付いたもので、悪い気の影響が強いと治りが遅くなったり、あるいは悪化することもあるらしい。そして今回祓ったのは、あくまでも悪い気の部分であり、傷は既に、俺たちという存在に付いてしまっているのだと言う。

神主「私は専門家として出来ることはやりましたので、ここから先、何か身体に異変や不調があった場合には、専門的な対処ができるのは私たちのような職業の者ではなく、医者の先生です。病院に相談してください」
0078キズアト
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2023/02/07(火) 11:23:57.538ID:cg/foxrt0
俺は、神主さんに祓ってもらえれば解決するものだと思い込んでいたが、今後は医者に相談しろと言われて面食らった。それにしても、と神主さんは続けた。

神主「その異形の存在は、よほど強い力を持っているのですね。もし逃げるのが遅れていたら、恐らくみなさん亡くなられていましたよ。それにもし、貴方たちと同じように短時間の遭遇で逃げられたとしても、1人や2人で出会っていたら、間違いなく後日にみなさん亡くなってますよ。いや3人で遭遇したって、2人は亡くなるかもしれない」
A「分かるんですか?」
神主「祓った人間として、力の強さは分かります。亡くなられた方は、脳卒中とのことでしたね。4人いたから、頭と腕と胴と脚、それぞれに影響が分かれて、亡くなられたおひとりは残念でしたが、貴方たち3人は運よく生き残れたのです」
0079キズアト
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2023/02/07(火) 11:28:27.883ID:cg/foxrt0
俺「胴って何ですか?Sさんが頭、Dさんが腕、俺が脚なのは分かりますが・・・」

神主さんは頷いて、Aに向かって、最近身体の不調はないか尋ねた。すると

A「・・・俺自身、そのせいだとは気付いていませんでした。でも確かに、時期からするとちょうど・・・」

そう言ってAは、腹のあたりを手でさすった。
なんとAは、俺が病院に運ばれたあの日から、ずっと腹の調子が悪いらしい。うどんや素麺などの消化に良いものを食べた時はまだ大丈夫らしいのだが、揚げ物や、ラーメン屋のまかないラーメンなどを食べると、1〜2時間で腹痛になり下痢が出るのだと言う。
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2023/02/07(火) 11:29:16.132ID:yIdEzt4uM
まだやってて草
0081キズアト
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2023/02/07(火) 11:32:01.653ID:cg/foxrt0
俺は、最近Aはやつれたと思っていたが、それは変な夢にうなされているからかと思っていた。まさか体調不良が原因だとは気が付かなかった。するとDさんが、でもSさんは命を落としたのに、Aは下痢なんて差がありすぎなんじゃ・・・、と言ったが、神主さんは頷きながらも、どのような影響をどのくらい受けるのかは、きっと個人差はあると思う、と返した。

神主「しかしそれらは間違いなく貴方がたに付けられた傷です。今後それとどう向き合っていくかは、貴方がた自身でよく考えてください」
0082キズアト
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2023/02/07(火) 11:36:03.722ID:cg/foxrt0
それから俺は、Dさんがお祓いの際に懐中電灯や携帯端末を取り出していたことが気になっていたため尋ねたところ、遭遇した時に手に持っていたものは、悪い気の影響を強く受けている可能性があるためお祓いしたとのことで、その時着ていた衣服や靴、ポケットの中に仕舞っていた携帯端末や持ち物などは、特にお祓いの必要はないとのことだった。ただし、気味悪く思うなら処分した方が良いとも言われた。
0083キズアト
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2023/02/07(火) 11:40:32.140ID:cg/foxrt0
お祓い以降、俺は水路の夢を見ることがなくなったため、お祓いの効果を実感した。
Aにも確認したが、Aもお祓い以降、何かを探す夢を見なくなったらしい。
ちなみに、件の山が心霊スポットと騒がれいたのはその年の秋くらいまでだった。それ以降は、ぴたりと怪音現象がなくなったらしい。
A曰く、もともとそんな噂はない山だったらしい。
俺たちが遭遇したあの何者かは、何処からか来て、何処かに去ったのだろうか。

あの夏の経験は以上だが、俺はその後も足底腱膜炎に悩まされることになる。
ここからはそんな俺、A、Dさんそれぞれの後日談。
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2023/02/07(火) 11:41:48.745ID:TwZ3bkzi0
結局神社の女性とはセックスしたの?
0085キズアト
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2023/02/07(火) 11:47:29.484ID:cg/foxrt0
まずは俺の後日談。

俺は、お祓いを受けてから半年ほど経って、ラーメン屋のバイトを辞めた。
何故なら、お祓いから3カ月ほど経ってから、再び足底腱膜炎を、今度は右足に発症し、それが治った2カ月後にまた、今度は左足に発症したからだ。どちらも2週間で、痛み止めが効いていれば日常生活に戻れるくらいの早さで治ったため、初回よりやや早く快方したのは幸いなのだが、それにしてもシフトの穴あけをたびたび繰り返して申し訳なさが限界に達したので、辞めた。
それ以降は、立ち仕事や力仕事系のアルバイトはやっていない。家庭教師を軸に、短期のバイトをいくつかやった。
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2023/02/07(火) 11:49:22.096ID:cg/foxrt0
また、その後も足底腱膜炎はたびたび発症した。いったん治っても、長くても6カ月、早いと2か月くらいで発症する。ただ、何年も繰り返しているとだんだんと取扱いには慣れてきて、最初の足の裏の違和感の段階から痛み止めを飲んでいると、めちゃくちゃ痛いのは1日か2日で済んで、10日もすれば元通りに力仕事をしたり走ったりもできるレベルまで回復する。それに気付いてからは、結構楽になった。

俺は卒業後は、大学のあった県から離れ地元の企業で働いている。
基本は座り仕事で、お客さんに呼ばれたら出ていくのと、たまに力仕事があるくらい。
足底腱膜炎が治るまでに何週間もかかっていた頃は、仕事との両立が大変だったが(というか迷惑かけていて事実上は両立は出来ていなかったかもしれないが)、上記の攻略法を発見してからは上手くやれていたと思う。
そして今回書き込んだのは、前回の足底腱膜炎から、初めて1年間再発がなかったので、ここまで回復したのかと思って記念を兼ねて書き込んだ。
0087キズアト
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2023/02/07(火) 11:51:18.855ID:cg/foxrt0
次はAの後日談。

Aもラーメン屋のバイトを辞めた。いやむしろ、俺より先に辞めた。
理由は、腸に穴が開いたからだ。
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2023/02/07(火) 11:53:30.363ID:cg/foxrt0
お祓いを受けてから2週間くらい経ったある日のこと。
その日は家で家族と晩飯を食べたAだったが、食後1時間くらいして急に嘔吐して気絶したらしい。救急車を呼んで病院に搬送したところ、腸に穴が開いているとのことで、そのまま入院になった。
Aは、医者の判断で外科ではなく内科への入院となり、点滴と投薬の日々を過ごしていた。
そして医者との相談の上で、立ち仕事は身体への負担が大きいということで、バイトを辞めた。
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2023/02/07(火) 11:55:28.599ID:cg/foxrt0
もともとAは、お金には困っていなかった。家がすごい裕福だったのだ。

何でも、俺が下宿していた地域に開発で家や団地が大量に建つ前から、ある程度の住民はそこに住んでいたらしい。そしてAの家は、そのあたりでは1、2を争うほど広い土地を持っている家で、名士として知られてた存在だったそうだ。そして開発の際に多くの土地を売り渡して、多額の財を成したらしい。だから今でも、もともと住んでいた住民の中でも特に開発前の時代を知っている世代からは、昔と同じように地元の名士のように扱われているらしい。
その話を、Aの高校の同級生から聞いたとき、俺はある意味納得した。親に軽自動車を買ってもらったり、お祓いに強い山奥の神社と2日後に約束を取り付けたりなど、そういうったバックボーンがあれば全て納得がいくからだ。
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2023/02/07(火) 11:57:41.933ID:cg/foxrt0
ただしAの両親は、社会勉強のためにアルバイトをするのは良いことだと言うので、それに従ってAはラーメン屋で働いていたのだそう。だから、健康上の仕方がないことが理由だったので、辞める際にはあっさりしたものだったらしい。

俺は何度かAの見舞いに行ったが、もともと細身のAがげっそりと痩せていて、見ていて痛々しかった。
今思えば、肝試し以降の腹の調子が悪かったのは、腸に穴が開く兆候だったとしか思えない。もしお祓いに行くのがもっと遅く、神主さんの言う悪い気の影響というやつをたくさん受けていたなら、もっと酷いことになっていたのかもと思うとぞっとした。
結局Aは、1か月と少し入院した。
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2023/02/07(火) 11:59:14.270ID:cg/foxrt0
ちなみにAとは、ラーメン屋を辞めた後も友人関係は続いた。
連絡をとって遊びにも行くし、大学で会えば話す。俺の足底腱膜炎が再発した時には、食料を買ってきてくれた。

卒業後も、今も関係は続いている。
俺が地元で就職してからは、特に俺が車を買ってからは、俺が運転して遊びに行く形でたまに会っている。
俺の車をAの家のAの軽の隣に停めさせてもらって、それからAや大学時代の友人たちと、飲みに行ったり遊びに行ったりして、そのままオールか、Aの家に泊まらせてもらうか、という感じ。
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2023/02/07(火) 12:00:55.655ID:cg/foxrt0
関係ない話だが、俺は、Aの軽が停まっている場所を、最初は駐車場だと認識していたのだが、A曰く、家族の使う正式な駐車場は別にあって、厳密にはその場所は駐車場ではなく前庭らしい。
車を買ってもらう際に外壁や庭の一部に手を入れて、車で入れて停めれるようにいじったらしい。
言われてみれば、そこはAの軽しか停まっていないのだが、金持ちのAの家に軽1台とは考えづらい。
なんでここに停めてるの?と聞いたら、その方が家の建物に近いかららしい。
0093キズアト
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2023/02/07(火) 12:04:26.501ID:cg/foxrt0
ちなみに、Aと飲みに行く場合には、Aは最初の1杯はアルコールだが、その後はソフトドリンクだ。今でも腸は完治した訳ではなく、また穴が開く可能性もあるそうで、アルコールや刺激物は控えるように医者に言われているらしい。
そして飲み始めてから1時間か1時間半経つと、Aはトイレに立つ。
初めのころは大丈夫か?と毎回聞いていたが、Aはいつも、いつものことだ、と言うので、もうそれは、Aの人生から切り離せないものなのかもしれないと思っている。

またちなみに、最初に腸に穴が開いたとき以外でも、それの後遺症に関連したことでAは一度入院している。
0094キズアト
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2023/02/07(火) 12:08:40.940ID:cg/foxrt0
そして、A絡みで残っている最後の怖い話。
俺はいまだにAに聞けないことがある。

あのお祓い、いくらだったの?

縁のある家の人間だからと言って、お祓いってタダで受けれるものじゃないよな?
あの時、1回分なのか3人分なのかは分からないが、払ってたんじゃないかと思うのだが。
直接「代金」って形ではないにしろ、「寄付」とか「玉串料」とか名目が違うだけで、何かは発生していたと思うのだけれど、俺は未だに、それをAに聞けない。
就職して貯金もあるし、100万円くらいならさっと出しても大丈夫なのだが、もし聞いて俺の負担分の金額が5倍とか10倍だったら払えない。
とは言えいつまでも先延ばしにしたくないので、次にAに会う時か、次の次の時にかは聞いてみようかなと思っている。
0095キズアト
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2023/02/07(火) 12:10:53.049ID:cg/foxrt0
そして最後はDさんの後日談。

俺が最後にDさんと1対1で話したのは、2回目の足底腱膜炎と3回目の足底腱膜炎の間の時期で、シフトが被った時だ。
Dさんは、お祓い以降もずっと右腕の包帯を巻いていたため、気になって、その腕のコブはまだ治らないんですか?と聞いたのだ。

するとDさんは、「これ?・・・医者は切除しろって言うけどさ。・・・これがあれば週に1回くらいは夢でSさんに会えるんだからさ。これはそのままだよ。ぐふふっ・・・。週1であいつが出てきたとしても、切らないよ。取ったりしない。Sさんと話したいから・・・」と言って、そのままぶつぶつ呟きながら歩き去った。

その頃のDさんは、ほとんど誰とも会話しないし、目の下にクマが出来ており、口の端に泡が溜まっていて喋るときに飛ばしていて、正直怖い雰囲気だった。だから俺は、それ以上何かを聞くことはできなかった。
ただ、Dさんはまだ悪夢にうなされているんだ、ということを知った。
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2023/02/07(火) 12:14:31.162ID:cg/foxrt0
そして大学を卒業してから何年後か。Aと飲んでいる時の話だ。
俺とAは、あの肝試しの話をすることはほとんど無かったのだが、飲みの席で他の連中が輪になって盛り上がっており、俺とAだけ加わり損ねたタイミングがあったので、その時にずっと気になっていたことを聞いてみた。

俺「Aさ。大学2年の時の肝試しのこと覚えてるか?」
A「ははっ、当たり前じゃん。たぶん一生忘れないよ」
俺「俺さ、ずっと気になってたことがあるんだけれど」
A「なんだよ」
俺「あの日、最初3人で肝試しに行こうって話をしてたんだよな?でもAが、俺も連れて行こうって言ったんだよな?別にそれ自体は良いんだけど。結果的には4人いたことで影響が分散して、俺たち3人は命があったんだろうし」
A「そうだな」
俺「でもAは何で俺を誘ったんだ?4人いたから・・・、ってのは、後から神主さんから聞いた話だよな。そもそもは、何であの時俺を誘おうと思ったんだ?」

それを聞くとAは苦笑いを浮かべた。

A「お前ほんとうにニブイよな」
0097キズアト
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2023/02/07(火) 12:20:40.461ID:cg/foxrt0
俺「何の話だよ?」
A「Dさんはさ、Sさんに気があったんだよ。肝試しってのも夜に一緒にでかけたい口実だったんだよ」
俺「え?そうなの?」
A「そうだよ。で、俺は車係。そんな状態で3人で行ったら、Dさんに気を遣ってなるべくSさんとくっつけようとしなくちゃいけないじゃん。そうなったら俺、2人の後方で1人で肝試しだぜ。それは流石に嫌だったんだよ」

俺はその話に驚きつつも、腑に落ちる感覚があった。Dさんが腕のコブにこだわっていたのは、確かにそれが理由ならパチリとピースがはまる。
0098キズアト
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2023/02/07(火) 12:22:08.582ID:cg/foxrt0
俺はAに、Aがラーメン屋を辞めた後に、Dさんが医者の忠告を無視してコブを切除していなかったこと、そしてそのせいか、お祓い後もDさんの悪夢が続いていたことを伝えた。

俺「DさんがSさんを好きだったなら、ある意味では納得するわ」

しかし俺の話を聞いた途端、Aは深刻な顔をして黙ってしまった。

俺「どうかしたのか?」

しばらく、まさか・・・、とか小声で言っていたDだったが、やがて、「今の話を聞くまで、自分の見間違いだと思っていたんだが。」と口を開いた。
0099キズアト
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2023/02/07(火) 12:24:28.190ID:cg/foxrt0
A曰く、お祓いの際に退屈したAは、目を開けて神主さんの動きや周りのものを見ていたのだと言う。ちなみに俺は、Aが最初に目を閉じていたからそれに倣ったのでそれを言ったのだが、別に目を閉じなきゃいけないなんて決まりはないよ、と言われてがっくりときた。

そして、その時にAが見たDさんの前に置かれていた携帯端末が、後日にラーメン屋の休憩室でDさんが手にしていた携帯端末と違ったような気がするのだと言う。

A「色は確かに同じなんだけどさ。大きさが違ったような気がして。んで、気になってDさんに、その携帯端末ってこないだお祓いしたやつですか?って聞いたんだよ」

するとDさんは「うるせぇ、知らねーよ」と言って、トイレに立ったらしい。
0101キズアト
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2023/02/07(火) 12:29:52.925ID:cg/foxrt0
俺「それって、どうういうこと?」
A「Dさんあの頃さ、ちょうど携帯端末を買い換えたって言ってたじゃん」
俺「ああ。肝試し行く車の中でSさんと話してたよな」
A「もしDさんが、夢の中でSさんと会うことにこだわっていたなら、あのお祓いの時の携帯端末は、Dさんのひとつ前の古い端末だったのかもしれない」
俺「えっ!?」
A「俺さ、お祓いの日程が決まった後に、電話でDさんに伝えたんだよ。あの異形と遭遇した時に手に持っていたものは影響を受けている可能性があるから、神社まで持ってきてくれって」
俺「・・・そうだったのか」
A「でも、夢でSさんと繋がりたかったDさんは、腕のコブと同じように、携帯端末も残すことを考えたのかもしれない。でも何も持って行かないと色々聞かれるだろうから、代わりに、自分が使っていたひとつ前の端末をお祓いに持って行ったのかもしれない」
俺「・・・」
A「それによく考えるとさ。Dさんって基本、バイトの休憩時間も携帯端末触ってることが多かったよな?」
俺「ああ」
A「でもあのお祓いの日、山の中は電波が悪かったとしても、行きの車の中でも帰りでも、一度もDさんは端末を触っていなかったように思う。それって買い換えて使わなくなっていた古い端末だったから、ってことなんじゃないか?」

俺は驚愕して何も言えなくなってしまった。
Aは、でも自分の見間違いかもしれないし、本当のところは分かんないよな、変なこと言ってごめん、と続けた。その話はそこで終わった。
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2023/02/07(火) 12:31:59.183ID:cg/foxrt0
ちなみにA経由の噂では、Dさんは卒業後、大学と同じ地域の企業の就職したが、人間関係のトラブルで1年経たずに退職し、それ以降は実家に引き籠っているらしい。

Dさんは今も、週に1回、夢の中でSさんに会うために、腕のコブを切除していないのだろうか。
お祓いしていない携帯端末を大切にしているのだろうか。
そして、夢の中で、あの山で遭遇した異形と対峙し、あの声を聞かされているのだろうか。
俺は知らない。
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