皇帝「あー……反乱でも起きねえかな」
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皇帝「本日の政務はここまでだな」
宰相「鮮やかな仕事ぶりでございました」
皇帝「今日も帝国は平和であった」
宰相「これも全て、陛下のご人徳によるものでございます」
皇帝「しかし、こう平和だとついこんなことを考えてしまうな」
宰相「というと?」
皇帝「あー……反乱でも起きねえかな」
宰相「さっきの人徳云々は無かったことにして下さい」 ―宮殿―
皇帝「あー……疲れた」
宰相「一日であちこち動き回りましたからね……」
皇帝「こんだけ動いたのに、反乱の一つも起こせないなんて、自分が情けないよ」
宰相「そんなあなたに一日中付き合った私も、自分が情けないです」
皇帝「他に反乱を起こす勢力はないか? だいぶ疲れたし、できれば身近で」
宰相「となると、軍ではないでしょうか」
宰相「軍部がクーデターを起こし、国がひっくり返ったという事例は多数ございます」
皇帝「軍の最高責任者といえば司令官だな。司令官を呼べ!」
宰相「あまり気が進まないですけど……」
皇帝「早くするのだ! 上官に逆らう気か!」
宰相「イエッサー!」
皇帝(案外ノリノリじゃないか? こいつ) 司令官「お呼びでしょうか、陛下!」ビシッ
皇帝「忙しいところすまんな」
司令官「いえ! 陛下の命令は最優先であります!」
皇帝「じゃあさ、反乱起こしてみない?」
司令官「はい?」
皇帝「数十万の軍勢を預かる司令官なら、多少の野心はあるだろう? その野心、爆発させてみないか?」
皇帝「きっと盛り上がると……」
司令官「……」 司令官「死にます!!!」
皇帝「ちょっ!?」
司令官「今のご命令、私に謀反の心ありとお疑いになったから発せられたのでしょう!? でしたら死にます!」
皇帝「お、おい!」
司令官「陛下から疑われたなら、死んだ方がマシです!」
皇帝「なにも死ぬことは……」
司令官「そうですね、私が死んでも何も解決しませんね」
皇帝「だ、だろ!? だから剣を納めて……」 司令官「我が一族も滅ぼします!」
皇帝「えええええ!?」
宰相「セルフ一族誅滅!?」
司令官「では今すぐ取り掛かりますので。急がねば」
皇帝「バカやめろ! お前の奥さんにはお世話になってるし、息子さんも有望な騎士だし……」
司令官「このような時に情は挟めません」
皇帝「違う! ジョークだ、ほんのジョークなんだ!」
司令官「なんだ、冗談でしたか。ハハハ、面白い試みですな」
皇帝「……」ホッ
宰相「だから気が進まなかったんですよ……」 皇帝「うーむ、あと反乱を起こす勢力というと誰だ?」
宰相「あと思いつくのは……親族ですね」
皇帝「俺の場合、弟か」
宰相「はい、王位を奪おうと王の弟などが反乱を起こすケースがあります」
皇帝「皇位を巡る兄弟対決……なかなかワクワクするものがあるな。少年心がくすぐられる」
宰相「皇帝になる前に済ましとけって話ですけどね」
皇帝「よし、弟に会いに行こう」 ―大図書館―
皇帝(弟はいつもここで本を読んでいるはず……)
皇帝「おーい」
弟「なんだい、兄上」
皇帝「お前は実に優れた弟だ。頭脳も政治力も申し分ない」
弟「どうしたんだい、いきなり。褒めたって何も出ないよ」
皇帝「だから……反乱起こさない?」
弟「すごいセリフが出てきたね」 皇帝「我が国は世界有数の大国だし、その頂点といえばこの世の栄華を極めたも同然だ」
皇帝「どうだ、お前も反乱を起こし、頂点を目指してみないか!」
弟「結構だよ」
皇帝「あっさりだな! なんで!?」
弟「たしかにボクは兄上より優れてるかもしれない。頭脳も、政治力も、気品も、ルックスも」
皇帝「ルックスはちょっと傷つく……」
弟「だけどボク……あまり重い責任負いたくないから」
弟「皇帝の弟として、気楽な生活してる方が性に合うんだよねー」
皇帝「この現代っ子め!」 弟「それに……」
皇帝「それに?」
弟「ボクの方が能力が優れてるとしても、それでもやっぱり皇帝に向いてるのは兄上なんだよ」
皇帝「え、どゆこと?」
弟「さぁて、読書の続き続きと。今日中にこの本読み終わりたいんだ」
皇帝「……」
弟「あ、そうそう。反乱なんて言い出したのはどうせ『立ち上がる戦士』の影響だろ?」
皇帝「!」ギクッ
皇帝(モロバレじゃん……恥ずかしいっ!) 皇帝「弟もダメだった……」
宰相「陛下と違い、賢明な殿下で何よりでした」
皇帝「他に反乱を起こさせる方法は……」
宰相「まだ諦めてないんですか!?」
皇帝「当然だろう! 何かアイディアを出せ!」
宰相「でしたら……こればかりは勧めるべきではないと思いましたが……最後の手段があります」
皇帝「お?」
宰相「悪政したらどうでしょう?」
宰相「部下を粛清しまくり、税金を上げまくり、贅沢しまくり、庶民を虐げまくれば、絶対反乱が起きますよ」
皇帝「……」 皇帝「そういうのはちょっと……」
宰相「はぁ」
皇帝「俺としてはその、がっつり善政をやりつつ、みんな幸せなのに反乱が起きちゃう……って感じの」
皇帝「程々に盛り上がって鎮圧される誰も傷つかない反乱、みたいなのが起きて欲しいんだよ」
宰相「ほう」
皇帝「だから、何とかそういう反乱が起こるようにしてもらいたい。頼む、宰相!」
宰相「……」
宰相「出来るかボケェ!!!」 宰相「善政されてて、みんな満足してるのに、反乱起こすバカなんかいるかぁ!」
皇帝「ひっ!」
宰相「誰も傷つかない反乱!? んなもんあるかぁ!」
皇帝「あわわ……」
宰相「そんな反乱起こせるアイディアが私にあったら……とっくに私が皇位を簒奪しとるわぁ!」
皇帝「えええええ!?」
宰相「いっそここで簒奪したろかぁ!!!」
皇帝「お、落ち着いて……ね? 俺が悪かったから……」
宰相「このっ! このっ! このっ!」
ボカッ! ボカッ! ボカッ!
皇帝「や、やめてくれえ……! 宰相が反乱するぅぅぅぅぅ……!」 皇后「大丈夫ですか?」
皇帝「いてて……宰相を怒らせてしまった」
皇后「宰相様も陛下を想って怒ってらっしゃるのですよ」
皇帝「分かってるよ」
皇帝「これに懲りたら、しばらく反乱のことを考えるのはやめるかぁ」
皇后「それがよろしいかと」
皇帝「だけど、やっぱり『立ち上がる戦士』への憧れはあるんだよなぁ」
皇后「まあまあ。そのうち反乱ではなくかっこいい皇帝の小説も出版されると思いますよ」
皇帝「そういうもんかね」
皇帝「それじゃ……今夜どうだい?」
皇后「今夜は遠慮しておきますわ。やることがございまして」
皇帝(嫁にまで反乱されてしまった) ……
政務中――
皇帝「我が国の地図を見て、ふと思ったのだが――」
皇帝「北西のこの地方、手薄ではないか? 砦も関所も存在しない」
宰相「そこは険しい山岳が近くにあり、天然の要害ですからな」
宰相「代々兵が置かれることがなかった地域です」
皇帝「……しかし、未来永劫攻めてくる敵がないとも思えん」
宰相「たしかに、北の王国も我が国に野心を向けているという情報は入っています」
皇帝「近々兵を派遣し、この地域の防備も固めることとしよう」
宰相「かしこまりました」 皇后「近頃、兵士たちの動きが慌ただしいですわね」
皇帝「うん、今まで手薄だった地域の防備を固めようと思っていてね」
皇后「よくぞその考えに至りましたね」
皇帝「これもこの間、反乱を起こさせたいと思って、色んな地域を回ったおかげだ。視野が広がった」
皇帝「『立ち上がる戦士』の作者には感謝してもしきれない。早く新作を出して欲しいよ」
皇后「きっとそのうち出ますよ」
皇帝「出たら皇帝権限使って真っ先に買う!」
皇后「陛下ったら」クスッ
皇帝(しかし……妙な胸騒ぎもするんだよな。的中しなければいいが……) 数日後――
宰相「訓練場増設の件は……」
皇帝「それは建築ギルドに一任しよう。彼らは優秀だからな」
宰相「かしこまりました」
バタバタ…
兵士「報告申し上げます!」
皇帝「どうした」
兵士「北西地方より北の王国軍が侵入し、近隣の村を襲撃したとの情報が!」
兵士「さらに敵軍は凄まじい勢いで首都に迫っています!」
宰相「……なんだと!?」
皇帝「……」
宰相「陛下!」
皇帝「司令官を呼べ。大至急、迎撃態勢を整わせろ」
宰相「はっ!(陛下の危惧してたことが現実になってしまうとは……)」 司令官「首都周辺の全軍を集めました。直ちに出撃させます」
ズラッ…
皇帝「どうだ、勝てるか」
司令官「あの山岳を乗り越えてきたということは、敵は準備を万全に整えたものと思われます。士気も極めて高い」
司令官「厳しい戦いを強いられるでしょう」
皇帝「そうか」
宰相「……陛下、大変でございます! こちらへ来て下さい!」
皇帝「なんだ?」 宰相「我が国の危機に、各方面からも援軍が駆けつけてきました!」
皇帝「おお……!」
ワイワイ…
農民「国があぶねえ時だ! オラたちも一致団結して戦いますだ!」
皇帝「ありがとう。ただし無理はするなよ」
教主「我々もそれなりの兵力を有しております。存分に使って下さい」
皇帝「教主よ、神と信徒たちに深く感謝する」
頭領「敵が攻めてきたと聞く! 我ら民族も参戦させてもらう!」
皇帝「これは頼もしい援軍だ。心強い」 弟「兄上、ボクも参戦させてもらうよ。軍師としてなら役に立てるはずだ」
皇帝「頼むぞ!」
弟「じゃあさっそく、士気を高めるために兄上から檄を飛ばした方がいいね。ガツンと頼むよ」
皇帝「そのつもりだ」
宰相「陛下、こちらへどうぞ」
皇帝「……」ザッ
皇帝「諸将よ、そして集まってくれた大勢の義勇軍たちよ」 皇帝「……」ベリッ
宰相「な、なにを!?」
弟(爪を……?みちぎった!?)
皇帝「こんなことになったのはひとえに余の力不足によるもの……」
皇帝「犠牲になった者たちには死をもって償いたいが、生憎そうもいかない」
皇帝「ゆえにこれで勘弁してもらいたい」
皇帝「敵は北の王国、勇猛な騎兵軍団を抱える強国だ。それが攻めてきたということは敵も必勝を期しているはず」
皇帝「しかし、我らなら必ず打ち破れる。君たちならばそれができる」 皇帝「余が愛する国のため、民のため……犠牲になった者への弔いのため……」
皇帝「諸君ッ!」
皇帝「我が帝国に侵入した奴らを追い払え!」
皇帝「奴らに我が国に侵入したことを、骨の髄まで後悔させてやれッ!!!」
ウオオオオオオオオオオオオッ!!!
弟「これだ……これが兄上が持っていて、ボクが持っていないもの……」
宰相(やっと分かった気がする……。この国で反乱が起きない本当の理由……)
宰相(この人……本気で怒ると怖いんだ)
宰相(歴代皇帝みなこのような素養を持っていたのだろうが、この人は特に……) ―戦場―
司令官「敵軍が見えたぞ!」
司令官「全軍突撃ーッ!」
ワアァァァァァッ!!!
ドドドドドドド…
弟「いい突撃だ。頃合いを見て、側面に回った部隊も突撃させよう」
皇帝「うむ」
弟(これも兄上の檄があったおかげだ。敵も手強いが、こちらの士気の高さは天まで届くようだ) 教主「むむむ……むむむ……」
教団兵「どうしました、教主様!?」
教主「神の声が聞こえる! あっちから敵が来るぞ、気をつけろ!」
ドドドドド…
教団兵「来ました! ようし、受けて立ってやる!」
教主「戦うのだ、帝国のために!」
宰相(おいおい、あの件をきっかけにホントに神の声が聴けるようになってるよ。すげえ) 頭領「我らの強さを見せてやれェェェェェ!!!」
部下A「うおおおおおおっ!」
部下B「恐れるな! 突っ込め! 切り刻めェェェ!」
ドドドドドド…
ザシュッ! ズバッ! ザクッ!
部下A「ここらの敵は全滅っす!」
頭領「我らの力、思い知ったか!」
宰相「なんという戦闘力……。あの時は、入るなら大きな傘だなんて言ってたのに」
頭領「その大きな傘が脅かされてるのなら本気を出さねば!」
宰相「なるほど……」 司令官「はあっ!」ドスッ!
敵兵A「ぐぎゃっ!」
ワァァァ… ワァァァ…
弟「帝国軍が奮闘してるけど、ここもだいぶ乱戦になってきたね、兄上避難を」
皇帝「しかし……」
弟「兄上がやられたらオシマイなんだ! 本来戦場に来るのだって反対だったんだよ!」
皇帝「……分かった。退こう」クルッ
皇帝「!」
敵兵B「ククク……」ガサ…
敵兵B「貴様をやれば、我が軍の勝利だッ!」
弟「兄上ッ!」 皇帝「反乱ならまだしも……」ギロッ
敵兵B「うっ!?」ビクッ
皇帝「侵略など絶対許さん!!!」
ズバァッ!
敵兵B「がはっ……!」ドザッ
皇帝「たとえ俺を倒しても、帝国は滅びないがな。重臣たちと……民がいる限り」
弟(決して剣は得意じゃないのに……迫力でねじ伏せるとは) ワァァァ… ヒィィィ…
司令官「敵は総崩れになった! 畳みかけろ!」
ワァァァ……
司令官「陛下、我が軍の勝利は決定的となりました!」
皇帝「よくやった。必要以上の追撃はかけないでおけ」
弟「そうだね、死に物狂いになられても面倒だし」
弟「それにこんな無茶な戦争仕掛けたんだ。外交でたんまり賠償金獲れるだろうさ」ニンマリ
皇帝「うむ、二度とこんなことがあってはならない」 今回は仕掛け少ないけど流れで読ませるねえ最後の伏線回収に期待 ―宮殿―
皇帝「ただいま」
皇后「お帰りなさいませ」
皇帝「勝てたよ」
皇后「陛下と帝国軍は、必ず勝って帰ってきて下さると信じていました」
皇帝「ありがとう」
皇帝「俺はやはり、帝国が好きだ」
皇帝「反乱が起きれば……などと愚かな考えであった」
皇后「そうですね。この国にはいつまでも平和であってほしいものです」
皇帝「だけどやっぱりほんのちょっとだけ憧れちゃうよなー、反乱!」
皇后「そういうところもまた陛下らしいですわ」 ……
皇帝「本日の政務はここまでだな」
宰相「天晴な仕事ぶりでございました。弟殿下のおかげで戦後処理もすみやかに済み……」
皇帝「あいつすごいよなぁ。俺より絶対優秀だもん」
宰相「私もそう思います」
皇帝「おい」
宰相「しかし、それでもなお、皇帝は陛下が務めるべきなのですよ」
皇帝「ひょっとして、神輿に乗る奴はマヌケの方がいいってこと?」
宰相「はい!」
皇帝「肯定すんな!」 皇帝「仕事が終われば、さっそく読書タイムだ」
宰相「小説ですか」
皇帝「例の作者の新作が出たんだよ! これがまた面白いんだ!」
宰相「反乱の次は謀略とかですか?」
皇帝「いや違う。正義の皇帝が大活躍する小説なのだ!」
皇帝「かっこいい皇帝が活躍しつつ、お涙やお色気もある……新作おもしれ〜!」
宰相「未だに正体は謎らしいですが、いったいどんな作者なのやら……」 ……
皇后「……」カリカリ
皇后「ああ……かっこいい陛下を見られたおかげで筆が乗るわ!」
皇后「山賊を倒す陛下、敵国を圧倒する陛下、災害に立ち向かう陛下……」
皇后「かっこよく書きますからね、陛下!」
カリカリ…
皇后「出来た! 出版社に送ろうっと! バレないようにこっそりとね」 ……
皇帝「本日の政務を始める」
宰相「はい」
皇帝「今日は反乱の起きないシステム作りについて議論しよう」
宰相「おおっ……」
皇帝「だって、俺の子孫の代で反乱が起こったら、羨ましくておちおち死んでられないもんな!」
宰相「見直して損しました」
皇帝は多くの改革を行い、帝国をさらに豊かにした。
それらの改革が実ったのか、あるいは皇帝が願いが通じたのかは定かではないが、
後世になり現代に至るまで、帝国では一度たりとも反乱は起こっていない。
―おわり― ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています