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ξ゚⊿゚)ξ雨垂れに紫煙が燻るようです
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2022/09/13(火) 17:50:31.478ID:ySNMbRfK0
たて
0002以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 17:51:34.415ID:ySNMbRfK0
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開け放たれた玄関から湿り気を帯びた風が入ってくる。
時期は梅雨に入るだろう。
換気の為と思って部屋の窓を全開にしていたが湿度が煩わしかった。

ξ゚⊿゚)ξ「あ……」

すっかり部屋の空気もよい具合になり、玄関の扉を閉めようとした時だった。
ふと視線を落とすと、そこには羽を畳み休んでいる蛾の姿があった。

ξ゚⊿゚)ξ「……梅雨が過ぎれば、もう夏ね」

私は呟いて扉を閉める。
蛾を残したまま、私は扉を閉めて、目を伏せてリビングへと戻った。
背に冷たい感触があるような気がして、それを拭うようにかぶりを振る。

ξ゚⊿゚)ξ-~「はぁー……」

身についた習慣のまま煙草を咥えて火を灯す。
煙を喫みこみ、咽喉の疼きを感じ、堪えていた息と共に煙を吐く。
一連の動作を嫌う人々もいる。ニオイからして嫌悪の対象だともいう。

梅雨の迫った部屋の中は換気を終えたばかりなのに、湿気た空気に煙草のえぐみが加わってしまう。
顔を顰める誰彼もいるだろうか。眉根を寄せて直ぐに火を消せという人もいるだろうか。
0003以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 17:51:58.097ID:YjSb+ms60
0004以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 17:52:30.415ID:ySNMbRfK0
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ξ-⊿-)ξ-~「……蛾、か」

私はそれらの反応を気にもしない。
若い女が煙草なんぞと言われても知ったことではない。

一つの儀式であり、これは呪いにも等しい。それを業と呼ぶことも出来るかもしれない。
この火が消えることはないし、頭上に渦巻く紫煙が霧散することもない。


『ねえ、少しは量を減らしてみたら?』


それは幻聴だったろう。私は薄く目を開いてみる。
私はイスに座っている。リビングのテーブルにいる。
その向かいに誰もいないのに、私は分かりきっているのに、目を開いて現実と対峙する。

ξ゚⊿゚)ξ-~「……お腹すいたなぁ」

私は煙草を咥えたまま、煙を吹きながら、火種を宿したままに虚空に言葉を向ける。
この煙草の火が消えることはない。某かの言葉も態度も反応も全て私を強制出来やしない。

例えば燃える火に羽虫が集まるように、それは自然なことだ。
私は煙の中でしか私を確立出来ない。そしてその火を越えて、私は私に到達することも出来ない。
0005以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 17:53:02.576ID:ySNMbRfK0
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例えば燃える火に照らされる羽虫の中に、蝶がいて、蛾もいたら。
私はその羽を燃やし、二度と飛べぬようにと出来たかもしれないのに。






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0006以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 17:54:42.271ID:ySNMbRfK0
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孤独を好いていた人生だったと私は思う。

幼少期から人と触れあったり馴れ合ったりするのが苦手だった。
煩わしい気持ちがあって、群れて行動することも面倒で仕方がなかったし、
無理に他人と趣味嗜好を共有するだの同調するだのが堪らなく嫌だった。

テレビに映るアイドルの誰彼のことだとか話題のポップスだとか、
流行りのファッションだの今年のトレンドカラーだのに振り回されるのが嫌だった。

だから中学生くらいの時分から他人を避けてみたり、半ば不登校のようにもなっていた。

煙草はその時分からの習慣だった。
煙のニオイを纏って登校すると子供であれ大人であれ私という人間を理解せざるを得ない。

つまり、私という子供は少数派だとか忌み嫌われるような立場で、
切っ掛けとするように、以降の私に関わろうとする人は激減したと思う。

では不良だったかと言えばそれも違う。所謂ヤンキーと呼ばれる人種も嫌いだった。
喧しいし横柄な態度は率直に言って癪だ。威圧するような大声も過度な香水のニオイも嫌悪に値する。
何度か絡まれもしたし、危ない目に遭ったような気もするが、そういった対処も何となくで出来ていたと思う。

『あの女、生意気だわ』

『鼻持ちならんわね』

『高飛車だとかという話しの程度じゃないのよ』

『そうね、まるでヒロインの気取りでいけ好かない』

次第に私の居場所はなくなった気がする。
元よりないも同然だったが、高校生活の三年間は出席日数はギリギリで、卒業を危ぶまれる位置に私はあった。
それでもなんとかして卒業は出来た。

家庭での私の立場と言うのも不思議なもので、所謂空気のような感じで、
父も母も当然のようにいたが、私に構うことは少なかったと思う。

高校を卒業し、大学へ通うことになると、彼等は私に住まいを提供し、生活は今後そちらでしてくれと簡潔に言われた。

何とも思わない私が可笑しいのかもしれない。愛情のない両親だったかというと多分そうでもない。
ただ、私が禄に反応を示さなかった結果が関係値の全てを物語るだろう。
0007以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 17:55:59.720ID:ySNMbRfK0
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興味を抱くことができないでいる。
他人に、いやさ肉親を含めて、私は全ての人類を相手にまったくの無関心でしかいられない。
もしかしたら精神的な異常を抱えているのかもしれない。
だが検査の一つもしてこなかったから、これが私だという自覚を抱く他にない。

面倒だとか拒絶の気持ちが核にある。
出来るならば誰にも話しかけられたくない。

よく聞く言葉に、他者の存在なくして生きることは出来ないという。
含めて他者に優しくするべきだともいう。
尤もだろう。だがそれを理解しても尚、私は誰とも関係を持ちたいと思わない。

結論を出すならば、私と言う人間は社会不適合者であって、自分勝手で、
とても普通という枠組みの中ではまともに生きられないヒトモドキだろう。

とは言え、自覚すれども、では死ねばいいのではないかと思われようが、
或いは自己完結しようが、死ぬのは恐怖だし、そんな勇気もない。
許容される範囲で――されてはいないだろうが――私は静かに身勝手に生きてきた。

あとの人生はそのままだ。
適当な会社にでも入社してなんとなしに年老いて死ぬ。
それが完遂出来るか否かは定かではない。

ただ要領は割とよい方だったし、適当にやっていても人並以上の成果を出してきた。
そういった部分が可愛げのない人形のそれにも思われてきただろうが、能力値は生まれ持ったものだとして、
きっと私にはこの器用な能力の他に優れたものはないと自覚している。

なんとも呆れた生き物だと思う。思えども、こう生まれてしまったからにはそうやって生きていくしかない。
後悔を抱いたことはない。孤独を辛いと思ったことも同じく。
その時、その時の流れに身を任せ、私は死ぬまで面倒臭がりで生きていくしかないんだろう。
0008以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 17:57:31.082ID:ySNMbRfK0
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ζ(゚ー゚*ζ「不味そうな顔をして煙草を吸うんだね、あなた」

ξ゚⊿゚)ξ-~「は?」

口先にあった煙草が感触から消え失せた時だった。
梅雨も間近な時期だったと思う。
大学一年生になった私は付近の喫煙所でいつものように呆けた感じで煙草を吸っていた。

言葉を寄越されて顔をあげてみれば、そこには今し方私の口先から奪った煙草を手に持ち、
顰め面でそれを見つめる女性がいた。

ξ゚⊿゚)ξ「あー、と……あの、なんですか、いきなり」

藪から棒に、とかいう次元の話しではなかった。
まず見知らぬ人だったし、唐突に煙草を取り上げられた事実も意味不明だった。
戸惑いつつも適当な台詞を言う私に彼女は小さく笑う。

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ……いやその、なんか煙草を吸う割に全然似合わない風だったから、
       なんか見かねちゃって」

ξ゚⊿゚)ξ「はぁ……」

なんのこっちゃ、というのがシンプルな感想だった。
人によっては異常者の行動にも思えるだろうし、
赤の他人によく分からない感想を述べられてお節介のような真似をされたら、それは普通に考えても気味が悪い。

しかしそうはならないのは、彼女が美女だったからだろう。

今時の風だった。
緩く巻かれた亜麻色の髪だとか濃過ぎない化粧だとか、淡い色のカーディガンにロングスカートの姿は、
婦女子の様で、顔立ちは美形だったし笑顔も愛くるしい。
0009以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 17:59:29.807ID:ySNMbRfK0
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細い首や腕も、その白磁のような肌も、全身を見た感想はやっぱり今風の女性で、
声色にも悪意はなく、寧ろ無邪気な風で、気味の悪さはなかった。

とはいえ突然の行動だし、やはり面識もない他人だ。
それが嫌煙家の仕業だとしたら腑に落ちるかもしれないが、何となくそういう人種にも思えなかった。

私は首を傾げつつ懐からシガーボックスを取り出し、彼女の台詞に適当な返事をすると新たな紙巻に火を灯す。
そうしてから背を向けると、その場から立ち去るべく歩き始めるが、何故か彼女はついてきた。

ξ;゚⊿゚)ξ-~「……いやあの、何? 普通に怖いんだけど」

ζ(゚ー゚*ζ「いや、また煙草吸ってるなぁ~って。しかも歩き煙草」

よもや後をついてくるとは思いもせず、先までの印象はやはりマイナスに落ち、これは面倒な手合いだと結論した。
そうしてから、何故に絡んでくるのかと疑問を抱くが、やはりというか私特有の感性というべきか、
面倒が勝るが故に適当に済ませようとする。

ξ;゚⊿゚)ξ-~「その、煙草がお嫌いなら先ので満足したでしょう? もう済んだのならそこで終わりにしてほしいんだけど」

ζ(゚ー゚*ζ「まぁまぁ、別に嫌がらせしたいとかじゃないの。ただ何となくあなたが気になっちゃってね」

ξ;゚⊿゚)ξ-~「はぁ……?」

一体全体何事だろうかと胸中は珍しく焦燥に満ちていた。
所謂、気の触れた人物と対峙したことがない。そういう風に見えなくても彼女の行動はどう考えても普通とは違う。

何故か隣に立ち私の歩幅に合わせるように歩みを続ける美女。
紡がれた台詞に理解が及ばないと思いつつ、さてどう切り抜けるべきかと考えた。

ζ(゚ー゚*ζ「ツンデレさんだよね、あなた」

ξ;゚⊿゚)ξ-~「え、あ、はい」

ζ(゚ー゚*ζ「同じ大学の同期なの。いつかの授業で見た気がしたから何となく覚えてたんだけど」
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2022/09/13(火) 18:00:49.800ID:ySNMbRfK0
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名前までか、と言いかけて口を噤む。
果たして私を知る誰彼が同じ大学にどれだけいるかは分からない。
だが情報なんてものは知ろうと思えば手段は幾らでもあるだろう。

だから彼女が私の名前を知っていても可笑しくはない。
とはいえ何故に名前を知ろうとしたのか、どう言った気持ちで覚えようと思ったのかは疑問だった。

ζ(゚ー゚*ζ「一人が多いの? 誰ともつるんでいないよね」

ξ;゚⊿゚)ξ-~「あー、まぁ……」

対してあなたは友達が多そうね、とでも返せばよかっただろうか。
厭味に取られるかは不明だ。だが会話を続ける気が起きなくて相槌しか打てないでいる。

そんな私の態度やら反応を見れば、大抵の人は怪訝そうに、
或いは不快そうに会話を切り上げて離れてくれるのに彼女は会話を続けようとしていた。

ζ(゚ー゚*ζ「煙草は何を吸ってるの? ダンヒル? 渋いね、女の子で吸ってる人、見たことないよ」

ξ;-⊿゚)ξ-~「…………」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、別に未成年喫煙を叱るだとか誰かに言いつけようだなんて気はないからね」

では先の行動はなんだったのかと改めて疑問が浮かぶ。

ζ(゚ー゚*ζ「気になる?」

ξ;゚⊿゚)ξ-~「え?」

ζ(゚ー゚*ζ「いや、訊きたそうな表情だったから」

彼女の大きな瞳が私を射抜く。私の表情がそう見えた、と彼女は言った。
仏頂面の鉄面皮とまで蔑まれた私の表情から感情を読み取る人物がいるとは思えなかったが、
しかし事実、その疑問は抱いていた。
0011以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 18:03:22.421ID:ySNMbRfK0
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少なからず見透かされた気がして驚いたが、私は彼女の言葉を無視する。
フィルターまで吸いつくした煙草を携帯灰皿に押し込み、それを手慣れた動作で仕舞う。

ξ゚⊿゚)ξ「……悪いけれど急ぎの用事があるから、これで」

無論それは嘘の言葉だった。単純に面倒を終わらせるための台詞だった。
見え透いていたものだったかもしれない。けれども私は彼女の反応も待たずに背を向ける。
向かう先は大学の予定だったがその気力も削がれた。このまま本日は家で静かに過ごそうと結論する。

ζ(゚ー゚*ζ「……そう。それじゃあ」

てっきり彼女はしつこくする性質かと思いきや、私の言葉を受けて素直に引き下がった。
先までの問答やら意味不明なやり取りからすると拍子抜けする程だったが、これにて面倒が了となる。
心持ちは軽やかになり先までの微妙な緊張感からの離脱も加味して妙な安堵感に包まれもした。
振り返ることもせず気配だけで様子を窺う。足音はついてこないし視線も感じない。間違いなくエスケープは完了だった。

ξ-⊿゚)ξ-~(また妙な人間に絡まれたわね、ああ面倒臭い……)

ああいった手合いは初のことだったが、感想を述べるならば奇妙、に尽きた。

暫く歩き、再度煙草に火を灯し、煙を吹きながら帰路を辿る。
その最中に先の美女の顔が浮かび、願わくば二度と再会せぬようにと祈りもした。

ξ゚⊿゚)ξ-~(私が変な人間だっていうんなら、きっと世の中には、それに似た人種が幾らかも蔓延っているんじゃないの)

これまで私に向けられてきた奇異な視線の数々、私は先々のそれらと同じ面持ちで彼女に接しただろう。

なんだ、そうなると世の中は変人奇人が少なからずいて、孤独主義者の私もそれに含まれるにしても、
存外、存在しているのは自然なことなのかもしれないと思う。

何せああいった今時の、それも見目麗しい程の美女ですら外観に見合わないというか意外な真似をする訳だから、
やはり人の裡なんてものは分かったものじゃない。

ξ゚⊿゚)ξ-~「はぁー……ご飯、何食べるかなぁ」

昼の街中の隅の方で私はぼんやり呟いていた。
立ち昇る煙が揺れる。梅雨の近付いたまろみを感じる湿気た風に撫でられ、煙は揺れる。
0012以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 18:05:55.634ID:ySNMbRfK0
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結果的に言えば私の危機感やら意識というものは足りていなかったのかもしれない。

ζ(゚ー゚*ζ「やっほ、ツンデレちゃん」

ξ;-⊿゚)ξ-~「…………」

例えば場所が大学構内であれ、どこぞの喫煙室であれ、或いは街中をブラブラと歩いている時であれ、
彼女と遭遇する機会が増えた。

それも週、どころか日に幾度ものことだ。流石にこれは気味が悪いを通り越して気持ちが悪い。
毎度会う度に彼女は悪戯っ子のように笑うが、私の内心には悍ましい感想しかない。

つまりだ、彼女は私をつけまわしている訳だった。

行動のパターンすらも把握しているのか、
予想だにしない場所で彼女と会敵――敵だ、敵で間違いない――した際は素直に面を顰めてしまった。
この日なんぞは人通りの少ない夜道を歩いている最中に出現し、いよいよ犯罪者という単語が脳裏に過る。

ζ(゚ー゚*ζ「うっわ、凄い顔。今の心境当ててあげようか? “出やがったこのクソアマ”でしょ?」

ξ;-⊿-)ξ-~「……足すことの“死んでくれストーカー女”だわよ」

ζ(゚ヮ゚*ζ「わーお、辛辣ぅ! ふふっ、折角の美人が台無しなくらい鋭い表情してるよ、ツンデレちゃん」

ξ;-⊿-)ξ-~「はぁー……」

どういった趣味の持ち主なのかも不明だが、彼女のそんな行動は最早一月弱にも及んでいた。
こうなってくると、あからさまな無視は無意味だったし、かといってまともに相手をすると下手に調子に乗らせてしまう。
だから一言の感想を零すくらいで丁度いい塩梅と言えた。
彼女も私から寄越される罵詈雑言を毎度のやり取りとして気に入っている。

口から出た死んでくれ、というのは本心だった。

これまで私の生活を脅かすだとか邪魔をしてきた人間の中で彼女は間違いなく一等賞だった。
無理矢理のように絡んでくる鬱陶しさ。
その煩わしさを自覚しつつも持ち前の美貌で可愛らしく微笑んで、上目遣いで謝意を述べれば許されるとでも思っているらしい。
0013以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 18:07:47.724ID:ySNMbRfK0
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ζ(゚ー゚*ζ「今日はこの後どうするの? いつも通りに適当にプラプラ歩いたら帰宅?」

ξ;-⊿゚)ξ-~「…………」

ζ(゚ー゚*ζ「……ああ、煙草を買いに行くのかな。ご飯は? 何食べるの?」

この女の恐ろしさはここにある。
ここ、というのは率直に言うならば罪の意識を一切抱いていない、というところだ。

自身の異常行動も、こうして他者のパーソナルスペースやらを浸食しようが、
どころか相手の反応もお構いなしに寄ってくる様は普通に考えれば狂気だ。

だがその狂気は彼女の無邪気な笑みやら醸す空気感やらで薄れ、
寧ろそういったものすら受け入れて許してしまいそうになる。

勝者の立場であり、彼女は絶対的な強者だと言えた。
全ての都合は己こそが決めるものだとでも思っていそうで腹が立つ。

ζ(゚ー゚*ζ「なら殴るなりすればいいのにね」

その言葉に私は立ち止まり、殺意を抱いたままに彼女へと振り返る。
出来やしないと分かっている口ぶりだ。
その面構えは自然だが、全身から沸き立つ程に溢れて見えるのはこれまでの人生経験から得た自信だろう。

きっと、誰もが彼女を御姫様のように扱ったに違いない。
この一カ月弱で私もある程度彼女という人間を知った。
0014以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 18:08:51.053ID:ySNMbRfK0
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彼女は人気者だ。
いつだって周りに人がいる。
それが同性であれ異性であれ皆が彼女を中心としている。

惹きつける何かがあるのは私にだって分かっていた。
それは初っ端の邂逅からだ。ある種は魔性のようなものにすら思える。

彼女はいくつもの笑みを浮かべる。無邪気なものも、歳不相応なくらい大人びたものも、
かと思えば風が凪いだように涼しいものも浮かべる。

それは誰しもが憧れるものだ。多面性を持つのは人として当然だ。
だがそれの全てが通用し、しかも許される程の人間など数少ない。

幼気であれ妖艶であれ、対極にも等しい二面性を惜しげもなく披露する。
その純白さに、或いはか黒さに誰もが羨望し、彼女の虜となっていく。

ξ゚⊿゚)ξ-~「……違うわね、言葉が」

ζ(゚ー゚*ζ「ん? 何が――」

そんな中心にいる人物が、ここ最近は私にばかり御執心だった。

取り巻きもいい気はしないだろう。本当ならばこういった時間すらも彼女と共有し、
酒でも飲みにいったり、青春にでも明け暮れるのだろう。

その中に彼女も加わればいいのに、それをせずに何故に私にばかり気が向かうのか、
どうしてストーカーのような真似をするのか――
0015以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 18:09:12.624ID:ySNMbRfK0
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ξ゚⊿゚)ξ-~「殴ってほしい、じゃないの?」



ζ(゚ー゚*ζ「――……」






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0016以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 18:10:15.742ID:sJZ/ZFOt0
ツンだぁー!!
0017以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 18:10:55.768ID:ySNMbRfK0
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何故に私に彼女の魅力が通じないのか、という問いの答えはとてもシンプルだ。
私は彼女の取り巻き共のように“彼女の下僕になるつもりはない”からだ。

ξ゚⊿゚)ξ-~「……そんなに嫌? 孤独でいられないことが、他者と共にあることが」

彼女の心の奥に何があるかは分からない。
だが彼女の異常行動には必ず理由があり、彼女なりの答えがある。
私にその理由だとか答えは分からない。何故にそうまで私に夢中なのかも不明だ。

ただ、そう、ただ、見える景色が違うだけだ。
それは彼女の下僕共と、私の目に映る彼女の景色が、或いは姿や、挙動や、仕草だとかの映りが違うだけだ。

ζ(゚ー゚*ζ「……やっぱりね。ツンデレちゃんは――……ツンちゃんは分かるんだね、蝶と蛾の違いが」

例えば燃える火に羽虫が集まるように、それは自然なことだ。
明々と燃え盛る火炎を前に人々は息を呑み、自然の生み出す力の、その神秘にも等しい物を受けるだけで理解する。
温かく力強い炎はきっと、人類史のみならず、この世を照らし続けてきた星の命の源にも等しいんだと。

その火炎に群れ、踊る羽虫は、きっと己から燃えるべく身を投じる訳ではない。
それこそは種としての性だとか科学的な根拠はあるだろうが、きっと、
炎に身を投じるのは単純に“もっと近くに寄って触れたいから”だ。

では彼女こそはその火炎だろうか。多くの羽虫を寄せ付ける力強い温かさなのだろうか。
私は煙草を喫み、煙の先にある彼女を見つめる。

ξ゚⊿゚)ξ-~「……どっちだろうと虫は虫よ」

拳を振り上げ、勢いを保ったままに彼女の顔面に叩き込む。
鈍い音がして、倒れこむ音がする。揺れる煙の先に鼻血を垂らして這いつくばる美女の姿がある。
0018以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 18:12:52.640ID:ySNMbRfK0
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その様を見ても私の胸の中に感想はなかった。
殴った方の腕の、拳の痛みにこそ意識が向き、眉根を寄せる。
人を殴ったのは初めてのことだったけれども、これは好きではないと結論した。

殴った方も痛いからだ。相手の受ける衝撃やらストレスやら外傷はどうでもいい。
第一に自分にダメージが発生すると分かって、暴力は碌なものじゃないと学習した。

ζ( ヮ(#ζ「うっわぁ、いったいなぁー……殴られるってこんなにしんどいんだねぇー……」

けらけらと笑う声がする。大きく腫れた自身の顔に手を宛がい、まるでギャグでも垣間見たように大きく笑う。
その様子に私は何を言うでもなく、相変わらずのように眉根を寄せたままで、煙草を燻らせながらに背を向けた。

ζ( ー(#ζ「ほらね、私は正しかった。ツンちゃんはね、蛾じゃないの。綺麗な蝶々だもの」

背後から立ち上がる音がして、声がして、それでも私は立ち止まらない。
もう、これ以上踏み込むつもりはなかったし、彼女との奇妙な関係も終わりにしたかった。
だから彼女が望んでいたであろう最大のことをして、それで完結する筈だった。

だのに、やはり私は、まったくもって足りていなかったと言える。

果たして彼女が人々を引き寄せる火炎なのか、
はたまたその火炎に群がり熱を求める羽虫なのかは知ったことではない。興味もない。
その厚かましさだとか鬱陶しさからして火炎でいいんじゃないかと私は思う。

蝶と蛾の違いなんぞはさっぱり不明だ。
どっちも同じ種なのは事実だから差異なんてのは呼び方の違いでしかない。それで終わりでいいだろうに。

けれども彼女は見つけてしまったようだ。己が求める火炎とやらを。
0019以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 18:13:52.960ID:ySNMbRfK0
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私の背後から質量を感じる。
後ろから彼女が抱き付いてきて、その腕を回してきて、さらには強く密着してくる。

その煩わしさに、私は振りほどこうと、そして再度思い知らせてやろうと振り返るが、
このやり取りの結末を言ってしまうなら、私はこの時点で負けていた。




ζ(^ー(#ζ「ねえツンちゃん。私たち付き合わない?」


ξ;゚⊿゚)ξ-~「はあ?」




いつかの時と同じように、口先から煙草の感触が消え失せる。
だがその刹那後にやってきた軟さと甘いような、ともすれば酸味を帯びた味に私は目を見開く。
それは鉄の味で、それは血の味だった。

やはり、私は孤独こそが似合う。こんなにも面倒極まる人間なんぞは御免だ。

それこそ、人の煙草を無理矢理に取り上げ、突然に口付けを寄越し、
得意気な面をするような美女など、心底に、御免だ。
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2022/09/13(火) 18:15:09.827ID:ySNMbRfK0
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境界線を持つのは誰しもがそうだろう。現代的に言えばパーソナルスペースであって、
人と人の距離感というのは踏み込み過ぎないぐらいが丁度いい。

だが距離が近づけばその境界線は曖昧になる。
恋愛事情は最たるものだろう。

例えば根底にあるのは人は皆、相対的な存在であるということだ。
極論を言えば私とあなたが違うのは当然だ。
互いの産みの親は違うし、今に至るまで生きてきた経験から得た様々なものも含め、
全てが一致する他人などいやしない。

そんなことはきっと誰にだって分かることだし、
何を分かりきったことを言うんだと呆れられたりもするだろう。

では痴情の縺れとかいう言葉だ。
長く付き合いのある人間を、他人と分かっていても許容出来ない時がきたり、
そういったシーンに直面する瞬間がある。

根底にある相対性に対する意識が希薄な証拠だ。
価値観の差異すらも曖昧になって“互いはとても近い距離にあり、きっと互いは理解しあっている”
と根拠のないものを抱く。
0021以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 18:16:48.672ID:ySNMbRfK0
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そんなものある筈がない。
突き詰めれば他者との争いの原因は相違や差異であり、何故に分かってくれないのかと問う以前に、
何故己は理解が出来ないのかと自問出来る人は少ない。

人は皆、違う生き物だ。ただ同じ人間と言う種類なだけでしかない。
好きな色が違うように、見える景色が違うように、どれだけ親睦を深め愛を育み、
長い道のりを共に歩もうとも自分と誰かは異なる存在だ。

その大前提を失うことさえなければ争わない。納得は出来なくても理解を寄せることは出来る。
それがその人だからと答えに辿り着く。

だが腑に落ちないとも思う。心のどこかで苛立ち、何故に互いは別の考えを抱くんだと思う。
攻撃的にもなる。あなたが悪いんだと思う。私をもっと理解してくれてもいいのに、
受け入れてくれてもいいのにとすら思う。

そうなった時、果たしてどれだけの人が振り返ることが出来るのだろうかと私は思う。

あなたとその近しい誰かは自分とは違う生き物だと思い出すことが出来るのだろうか。
あなたのその考えを傲慢だと思わないのだろうか。

別に傷つくことを恐れるだとか傷つけることを恐れているとか、そういうことではない。

無駄だ、という話しだ。

その争いも諍いも、辿ればシンプルな答えに行き着くだろうに、
何故に面倒な言い争いをして互いの理解を遠ざけてしまうのだろうと思う。
0022以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 18:20:09.785ID:ySNMbRfK0
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ξ゚⊿゚)ξ-~「はぁー……」

梅雨の空に煙が溶けていく。窓辺に寄りかかり、煙草を喫む私は曇る空を見上げていた。
白けた室内に物は少ない。小さなテーブルにベッドくらいで、適当に放り出されてあるドライヤーが床に落ちている。

脳内に溢れる感情論に対する糾弾は、きっと、私自身が面倒な状況にあるからこそ生まれてくるものだった。
頭を掻き、幾度と煙を吸う。曇った空を見上げ、微かに香る雨のニオイに、その日の大学をサボることを決めた。

ζ(゚ー゚*ζ「いつまでそうしてるつもり?」

背後から声がする。振り向きもせず、そもそも反応もせず私は煙草を吸う。
そんな私の態度に据えかねる思いなのか、いやそもそもちょっかいをかけたい気分なのか、
声の主は背後から身を寄せてきて私の顔を覗き込んでくる。

ξ゚⊿゚)ξ-~「……暑苦しいんだけど」

ζ(゚ー゚*ζ「そう? 気持ちがいいじゃない、肌の触れ合いって」

薄着姿の美女は遠慮もなく絡みついてくる。柔い肢体が私の肌に密着し、背に豊満なバストの圧力を感じた。
この美女と言えば面もさることながら身体の具合も絶品と言えた。世の男共からすれば垂涎する程の魅力があるだろう。

背後から抱き付かれる形の私は振り払おうとする。
それを手慣れたようにいなす美女と言えば私の口先にある煙草へと指を伸ばした。

ξ-⊿゚)ξ-~「本当、気安く触れて、さも当然のようにいるけどね……あんた普通に考えて異常者の行動だわよ」

その指をはたき落とし、私は寄せられる顔面を押しのけると、お返しにと煙を近距離から顔へ吹きかける。
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2022/09/13(火) 18:22:03.743ID:ySNMbRfK0
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ζ(>д<*ζ「うわくっさ! も~やめてよね、髮にまでニオイつくんだから!」

ξ-⊿゚)ξ-~「なら近寄んじゃないわよ。つーか出ていきなさいよ。ここは私の部屋であって、
         あんたの部屋じゃないのよ」

勘弁してくれと彼女は顔を顰めて文句を言う。それに対して私は呆れながらに言う。

先の殴打事件から一週間が経過していた。
普通に考えて関係は悪化するどころか絶縁にも等しい所業だったろうに、
彼女は私の暴力を喜び、どころか愛の告白めいたものまで寄越される。

当然返事はノーだ。そもそも同性での付き合いなど想像すらしたことがないし、
恋愛なんぞはまったくもって興味がない。

ましてや相手は重度にイかれた人間だ。
持ち前の美貌やらは私には通用しないし許容出来る程の関係性だってない。

だのにこの女は私の部屋に普通のように入ってくる。
最初のうちは何度か殴ったり蹴ったりしてみたけれども、この女にとって暴力は然程の問題もないようで、
幾度の拒絶を受けても彼女は部屋にやってくる。

ここまでくると死神とか、そういった現象にも等しい。怪異と呼んでもいいだろう。
結局、諦念に至った私は彼女を放置することにした。
そんな私の態度を了承と受け取ったかは不明だが、彼女は足しげく我が家に通いだし、飯まで作る。

ξ゚⊿゚)ξ-~(これ以上の何を求めるのやら)

全て揃っているだろうに、と思う。
この美女と言えば品行方正とは程遠い。理由は単純だ。

ζ(゚ー゚*ζ「あ、ちょっと待って、ラインきたー」

彼女は我が家に住み着いている訳ではない。通っているだけだ。
あれだけ思い切りのいい告白をしてきた訳だが、彼女の異常性、というか理解の及ばない人間性は染みだすように露わになってきた。
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2022/09/13(火) 18:24:03.697ID:ySNMbRfK0
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ζ(゚ー゚*ζ「ねえツンちゃん、明日くるの遅くなるかも」

ξ゚⊿゚)ξ-~「こなくていいわよ、二度と」

ζ(゚ー゚*ζ「そう言わないでよー。あ、ご飯、冷蔵庫の中にあるからね。それじゃいってきまーす」

彼女には恋人がいる。それも複数いる。或いは恋人ではなく肉体関係のみもあるだろう。
彼女の携帯端末が鳴らない日はないし、文字のやりとりにせよ電話のやりとりにせよ多くの人々との関わりがある。

明日は遅くなると言っていたから今夜は泊まりだろう。
第何号の恋人だかセックスフレンドだか分からない誰彼とホテルだか誰ぞかの部屋で一夜を過ごすのだろう。
今時ならそれも普通なのかもしれない。忙しそうに支度をし、玄関を飛び出していった彼女の背を見送るでもなく、
私は煙草をもみ消して台所へと向かう。

冷蔵庫の中にある作り起きの食事をゴミ箱へ捨て、適当なカップ麺を手に取り、お湯を注ぎ、いい具合になったらそれを啜る。
啜りつつ、はてさて性の事情も含め、恋人とは如何なるやと思った。

ξ゚~゚)ξ「うんめー……日清は偉大だわね、カップ麺は人の産み出した発明品の中でトップだわよ」

別に彼女の口から告げられたことはない。ただ彼女も事実を隠そうともしていない。
それが彼女なりの答えであり、彼女の示す距離感だろうと理解した。

恋人のあり方とは多くあるだろう。
別に私は彼女と恋仲にはないし、肌を重ねた夜もない。だがそんな私に夢中の彼女は一方的にも恋人としてのアピールをしている。

歪に思われるだろうし、実際、そういった阿婆擦れのような所業を受け入れがたいと思う人もいるだろう。
しかし私は気にならない、というよりは、やはり興味が向かわないから、どう言ったやり取りを目の前でされようが知ったことではない。

彼女が勝手に部屋に入ってきて、どことなく漂う色香やら、
事後に冷めやらぬ自然的にも振る舞われる媚態を前にしても煙草を吸うだけだ。

そんな私の反応こそが彼女が最も求めているものなのだろうと思う。
距離を掴む以前に彼女は私という人間が他者との関わりを嫌うと理解しているし、
一方的に愛を囁くだけの自身が何一つ失う物がないとも理解しているだろう。
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2022/09/13(火) 18:25:55.549ID:ySNMbRfK0
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彼女はここを安全地帯のような、最も長くとどまれる止まり木だとしている。
多くの人々と関わり、それが恋だの愛だの以外も含め、疲労困憊となった際の、最後の砦のようにしている。
最早私は面倒が極まって追い払いもしなくなったが、それこそが最終局面であり、
彼女はこれにて求めていた休息の宿を手に入れた訳だ。

ξ゚~゚)ξ「そういやお金どんだけあったかな……後で銀行いかんと」

そう、彼女は絶対的に有利で有効なカードを手中におさめた。
だのに、彼女は寄ってくる。この煙草と湿気た空気に満ちた部屋に毎日通って、私に身を寄せて、当たり前のように愛を囁いてくる。

そこから先に何もないと分かっているだろうに。
私が彼女を抱きしめるだとか、褥に沈めて愛を貪るだとか、そんな真似をする訳がないと理解しているだろうに。

ξ゚⊿゚)ξ-~「はぁー……やっぱラーメン食べた後の一服は最高だわね」

都合のいい人形を欲するならば、残念ながらに私はそうはなれないし、なるつもりもない。
或いは呪いのように、彼女にとって他者の中に入り込む手段がそういったあざとさしかないのかもしれない。

ξ゚⊿゚)ξ-~「……あいつ、今日にでも死なないかな」

そうなったら楽になるのにな、と思う。
面倒だった、心底。殴っても無視をしても身を引いてくれない。
この部屋で羽を休めては夜の蝶になり飛んでいく美女。

そんな彼女をどう相手取ればいいのか、最早私に術はなく、出来ることと言えば窓辺に寄りかかって呟くくらいなものだった。

ξ-⊿-)ξ-~「……雨、ダルいなー……」

呟いて、私は項垂れて、いつの間にか降ってきた雨が口先にある煙草の火に直撃して、それが幾度も重なって、火が途絶えた。
それを曖昧な瞳で観察し、満腹による眠気に抗うこともせず、私は湿気た煙草を吐き出すと床に寝転がった。
寝しなに届く雨音が次第に意識を溶かしていく。
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2022/09/13(火) 18:27:19.237ID:ySNMbRfK0
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ふと、私は眠りから覚めた。外は暗がりで夜だと理解する。
気だるげに起き上がり、傍にあった時計を見て、日を跨いだ時刻に欠伸を一つ。

ζ(゚ー゚*ζ「あれ? 起きたんだ、おはよう」

暗闇に声が生まれた。少々の驚きを抱きつつ私は自分のベッドへと視線をやる。
そこには出ていった筈の美女が横になっていて、まるで家主のように当然の様だった。
若干の苛立ちを抱きつつ、私は立ち上がると暗がりの中を歩き、冷蔵庫からアイスコーヒーの入ったボトルを取り出す。
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2022/09/13(火) 18:28:43.277ID:ySNMbRfK0
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ζ(゚ー゚*ζ「あ、ねえねえ、私にもちょうだい」

同じく起き上がった彼女もやってくる。やはり纏わりつくように背後に立ち、私の腰に手をまわしたところでその腕を止める。
彼女を無視し、ボトルをそのままに、私はアイスコーヒーを注いだカップを傾けた。
内容を啜る。静かに咽喉が上下する。その様子を彼女は見つめ、私の咽喉へと指を這わせた。

ζ(゚ー゚*ζ「本当に無関心だよねぇ、ツンちゃん。何も訊かないの?」

ξ゚⊿゚)ξ「取りあえず指が邪魔。折るわよ」

ζ(゚ー゚*ζ「ふーぅ、本当に恐ろしい美女だこと」

何も訊かないのか――逆に何を訊けというのだろう。
何故に帰ってきたのか、だとか、今夜の予定はどうしたのか、とか、そんな普通のやり取りでもすればいいのだろうか。

心底面倒臭いことだ、それらは。
オチがどうであれ、結果として彼女は今夜、この部屋にいる。それが分かっているのなら経緯はどうでもいいだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「いやーエッチしまくってたらなんか相手方の彼女さんがきちゃって。あわや大戦争ってな訳で逃げてきちゃった」

ξ゚⊿゚)ξ-~「ふーん」

所謂、修羅場というやつだろう。そういった状況は本当にあるんだなと、少々の関心からの感想を抱く。
煙草に火を灯し、シンクに背を預けるようにする。対面する位置に彼女があり、真正面から彼女が抱きしめてきた。

腰にまわされる腕と、接近する彼女の顔、それから香り。その全てに違和感がある。
それも当然というか、何せ先まで情欲に浸っていて、例えば妙に火照った肌の具合や、節々から漂う唾液のニオイだとか、余計な情報が多い。
それらを観察しつつ私は煙草を燻らせる。
そんな私の反応に彼女はカップを奪うと残っていた内容を飲み干し、空いたカップを適当に置いた。
0028以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 18:29:40.290ID:ySNMbRfK0
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ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、エッチしない?」

その言葉に私は何の反応も示さない。
別に初の誘いでもなかったし、半ば襲われるような状況にもなった時がある。

その度に無視をしたり、適当に殴り飛ばしたりして回避してきた。
だが今夜の彼女はまるで狩人のそれで、私は腰にまわされた腕を、さてどう対処しようかと悩んだ。

ξ゚⊿゚)ξ-~「セックスったって、何で?」

ζ(゚ー゚*ζ「ん~、消化不良っていうかさ。あのね、私って結構性欲が強いみたいで。
       そういうのもあって、もうすこーし気持ちよくなりたいっていうかさ」

ξ゚⊿゚)ξ-~「オナニーすれば?」

ζ(゚д゚*ζ「いやいや、恋人が目の前にいるのにソロプレイは寂しすぎるでしょ」

ξ゚⊿゚)ξ-~「いや恋人じゃないから」

私は当然のように言う。だが彼女は首を傾げると、再度こう言った。

ζ(゚ー゚*ζ「んーん、恋人だよ。ツンちゃんは私の大切な彼女だよ」

ああ、お決まりの病的なやつか、と紡ぎかける。
けれど、そんな私の言葉を遮るように、彼女が一つの真実を私に突き付けた。
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2022/09/13(火) 18:30:08.975ID:ySNMbRfK0
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ζ(゚ー゚*ζ「だっていつも鍵、あいてるもん」





ξ゚ -゚)ξ-~「――……」






湿気た空気に煙草が馴染み、まろみを以って部屋に溶けていく。
私は香りを聞きつつ、彼女のその言葉に挙措を失う。








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0030以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 18:31:29.174ID:ySNMbRfK0
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ζ(゚ー゚*ζ「それがツンちゃんの答えでしょう。無関心で片づけてもいいと思うよ。
       でも鍵って外界との途絶の為にあるんだよ。他者との関わりを完全に断つものなのに」

私は煙草を吸う。
火種が赤熱し、煙が私と彼女の合間で揺れる。

ζ(^ー^*ζ「別に私のこと、好きじゃなくてもいいよ。私にとってツンちゃんは唯一無二の存在で、
          何よりも綺麗な蝶々だから。だから、扉が開いているっていう、それだけでいいよ」

私の口元の煙草を彼女が奪う。
それを返せと言わんばかりに手を伸ばすけど、彼女は私の手を空いた方の手で握りしめた。

ξ゚ -゚)ξ「……返しなさいよ。煙草」

ζ(゚ー゚*ζ「……その煙の中が、ツンちゃんの境界なんでしょう」

ξ゚ -゚)ξ「いいから、早く返しなさいよ」

境界線を持つのは誰しもがそうだろう。
現代的に言えばパーソナルスペースであって、人と人の距離感というのは踏み込み過ぎないぐらいが丁度いい。
だが距離が近づけばその境界線は曖昧になる。

私にとって紫煙こそがその範囲であり、湿気た空気と共に煙が溶けていくこの部屋こそは最後の砦だ。
誰も踏み込ませないし、誰も近寄らせない。
私は煙の中でしか私を確立出来ない。そしてその火を越えて、私は私に到達することも出来ない。

この部屋しか、この煙の中にしか私の居場所がないからだ。
ここにしか作ってこなかった。他に余計なものは全て捨てたり、関心を失くしたり、面倒臭がって見ないことにしてきた。
だからこの部屋が、この煙草と湿気た空気が私の境界で、私だけの世界だ。
0031以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 18:32:19.352ID:ySNMbRfK0
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ζ(゚ー゚*ζ「ねえ。好きだよ、ツンちゃん」


死ねばいいのに。

この女。

無理矢理に私の煙の中に入ってきて、私から煙草を奪うつもりなのか。


ξ ⊿ )ξ「大嫌いよ、あんたなんて」

ζ(゚ー゚*ζ「あっ――」


なら、いい。
返してくれないし、無理矢理に入ってくるのなら、もう、無視をしていても暴力を働いても意味がない。

だったらそうすればいい。
こいつを、この女を紫煙と同じようにすればいい。

いつものように、煙草に火を灯すのと同じだ。
その邪魔な衣服を無理矢理に剥ぎ取って、組み伏せて、あとは煙を喫むことと同じだ。



ξ; ⊿ )ξ「ああ、むかつく、本当に。このクソアマ」

ζ( ー ;ζ「ふふっ……なら首でも絞めてよ、ツンちゃん」



燃える音がする気がする。
火炎を間近に見ている気がする。

ああ、と思った。
彼女が私を蝶と呼んだ理由が分かった。
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2022/09/13(火) 18:32:45.258ID:ySNMbRfK0
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羽虫が誘われるように、火炎へと身を投じるかの如く。
私は彼女へと沈み、その美しさを見て、蝶のようだと、そう、思った。






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2022/09/13(火) 18:34:15.987ID:ySNMbRfK0
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心を交わすことはその実、簡単なことだ。
頷き続ければいい。

否定にも肯定にも首を縦に振り、話しを聞く素振りを見せ、言葉の最後をオウム返ししていれば全ては片がつく。

適当な風ではダメだ。だが真面目に意見をしてもダメだ。
心を汲むという、その姿勢が何よりも大切で、
心を交わす相手が最も求めているものは不純物のないシンプルな同意だけだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、少しは量を減らしてみたら?」

梅雨も終わるだろう季節に彼女は言う。
私は一糸まとわぬ姿のまま、彼女も同じ姿でベッドに仰向けになっていた。

初めて肌を重ねた夜から私と彼女はひたすらに互いを貪りあっていたと思う。
時にご飯を食べて、時にお風呂に浸かって、互いの目が合えばそれが全ての合図になる。

流石に大便をひり出す時くらいは配慮してほしいところだが、
この気狂い女の恐ろしさは“排便見せて”の一言で誰しもに伝わるだろう。

無論見せやしなかったし相手の公開排泄とやらも遠慮した。
人としての在り方の問題だ。私は別に全てを共有するだとか同一の存在になりたい訳じゃない。

兎角、幾夜を越えた現在、気がつけば夏に差し掛かる季節の、
これまた平日の真昼間に彼女が私のアイデンティティを否定する一言を放つ。

寝煙草でも注意されるかと思えば吸う本数を減らせ、というところがまた彼女らしい意見かもしれないが、
私は彼女の顔面に肘鉄を落として起き上がる。
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2022/09/13(火) 18:35:35.429ID:ySNMbRfK0
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ζ(>д<*ζ「いっだぁ!?」

ξ゚⊿゚)ξ-~「愚かしい台詞もあったもんじゃないわね。
          あんたは酸素を失って生きていけと言われたらどうする? 無理でしょう?」

ζ(゚ー゚*ζ「ツンちゃんいるし」

ξ゚⊿゚)ξ-~「私は大気でもないし生きる為に欠かせない要素でもないのよ。
          つまり呼吸せずして人は生きられないでしょうが」

ζ(゚ー゚*ζ「え~? でもツンちゃんいれば多分空気なくても生きていけるよ私」

ξ;-⊿゚)ξ-~「マジで狂気かよ……もういいわよ、阿呆くさい」

呆れつつ、こうも人は一人の人物に対して執着出来るものなのかと思いもする。

彼女は夜の外に出かけなくなった。
それこそ四六時中私と共にいて、大学でも供回りの如くに侍り、某かの誘いに一切乗らなくなった。
宛らに傅く様だが、他者から見れば逆ではないか、と思うだろう。彼女は姫の立場であり侍女こそは私だと思うだろう。

実際、私たちの関係に立場の上下だのはない。
ただ互いがありたいがままに行動をし、時を気にもせず色に狂い、嬌声に意識を飛ばし嬌声に覚醒を促される日々だ。
だが私たちはやはり、恋人のような関係ではないと私は思う。
愛を交わしている訳ではない、互いの欲しい物を互いに強請るような児戯に等しい。
0035以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 18:37:43.866ID:ySNMbRfK0
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ξ;-⊿゚)ξ-~「しかしニオイが強すぎる……淫蕩に耽るってのは正しくね。換気せにゃだわ」

ζ(゚~゚*ζ「えー、やめようよ外の空気暑いってば」

ξ;-⊿゚)ξ-~「ほぼあんたの所為でしょうが、鯨も真っ青な潮吹き娘めが……所構わずくっせーもんぶちまけやがる」

ζ(゚ヮ゚*ζ「いやぁ、ツンちゃん要領いいよねえ、凄まじい成長っぷりに私もビックリ。
         世の男達ももっと努力してほしいなと思う所存ですぞぉ」

こうも見目麗しい美女が性欲の権化だというから世の中は分からないものだ。
ぐずぐずになったベッドから同時に立ち上がると軽く腰を捻り、私は換気と新しいシーツの回収を、
彼女は台所に向かって作り起きのご飯を冷蔵庫から引っ張り出してくる。

ζ(゚~゚*ζ「もう床でいいんじゃない?」

ξ゚~゚)ξ「無理、私ベッドじゃないと眠れないから」

ζ(゚~゚*ζ「いやいや敷布団でしかエッチしないようにするとか」

ξ゚~゚)ξ「あんたそれ守れるわけ?」

ζ(゚~゚*ζ「ん~……無理!」

ξ゚~゚)ξ「二度と無駄な提案しないで」

開け放たれた窓から温い風が入ってくる。湿り気を帯びたそれを受けながら、私と彼女は向かい合ってご飯を食べている。
会話の内容は下世話だが、こうして誰かと意思の疎通を、それも自然な風にする自分が信じられないでいた。

ξ゚⊿゚)ξ-~(何をしているのやら)

食べ終わり、食器を洗う彼女を眺めながら紫煙を燻らせる。今の今までずっと互いは全裸のままで、その珍妙な光景も含めて状況に疑問を抱いた。
しかし抱けども、私は問いの先を探せないでいた。答えのない状況ではない。それを探り当て言語化し、納得することだって可能だった。
けれどもそうする気が起きない。状況の説明も、動機というか経緯すらも、全てを曖昧なままにしていて、それが存外、心地のよいものだとすら思う。
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2022/09/13(火) 18:40:23.295ID:ySNMbRfK0
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らしくないことだった。私を知る人間がどれだけいるかは不明だが、現状の私を見た場合、どういった感想が出てくるだろう。
奇妙だろうか、ないしは不気味だろうか。他者に対して関心を寄せず、常に孤独を選び、一人で完結していた人間だとは思えまい。

とは言え私にとって現状の行き着く先には関心がなかった。
例えば彼女が夜の外に出かけなくなった事実だが、別に強要するだとか、ましてお願いのような真似をしたこともない。
別に出ていくならそれでいいし、そもそも引き留めるつもりもない。何故ならどれだけ肌を重ねようが他人は他人だからだ。
彼女が、または往々が言うところの恋人の関係であったとしても、私は個人が決定した物事を否定するつもりがないし介在するつもりもない。
すべては流れのままだ。揺れる紫煙が天に向かうのと同じことで、そうなってしまったのならそれは自然なことに違いない。

今し方、食器を洗い終わった彼女が手を拭っている。その様子を見て、そういえば最後の入浴はいつだったかと思った。

ξ;゚⊿゚)ξ-~(……いよいよ女を捨てたかね、私も。臭いのは自分自身もだわね)

彼女が入り浸るようになってから時間の感覚すらも曖昧で、それこそ誠に阿呆らしいことだが、生活のサイクルが崩れる程の淫蕩に狂っていた。
お陰で昨日から入浴していない事実に気が付く。全身から発せられるのは様々なニオイだが、腋やらの局部から酸味の強いニオイがすると気が付き落胆する。
美意識の云々を語れる程ではないにせよ、人として、一応は女として清潔感くらいは保っておきたいのが心情だった。
煙草をもみ消し、兎角として身体を清めようと浴室へと向かう。

ξ-⊿゚)ξ「んで、なんでこうなるわけ」

ζ(^ー^*ζ「ん~? だって一緒に入るのってなかったし」

当然のように後をついてきて私と同じくシャワーに打たれる美女。
ほんの数時間前まで呆れるくらい肌を重ねていたのに、彼女は当然のように私を抱きしめてくる。
それを無視しながらに私は髪を洗い、勝手に発情する彼女を無視しながら身体を洗い、洗顔等も済ませたら即座に出ようとした。

ζ(゚ー゚*ζ「いやちょっとちょっと、毎度烏の行水だな~とは思ってたけど、湯船に浸かりもしないの?」

ξ゚⊿゚)ξ「そもそもお湯張ってないし」

ζ(゚ー゚*ζ「だったらお湯溜まるまで、ほら、おいでよ」

そういって彼女は空の湯船に私を手招いた。まさか今から溜まるまで空の湯船に一緒に入ろうということだろうか。
まるでガキのやることじゃないのか、と思いもするが、特に文句をいうつもりもなく、どうせやることなんてセックスくらいだし、妙な遊びに付き合う感覚で私も浴槽に入る。
互いは向かい合う形だったが、気に入らないのか、彼女は私に背を向けるとそのままにやってきて、私は彼女を背後から抱きしめるような形になった。
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2022/09/13(火) 18:42:51.718ID:ySNMbRfK0
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ζ(゚ー゚*ζ「はいお湯張りしますよ~。スイッチぽちっとな~」

ξ゚⊿゚)ξ「ねえお尻が冷たいんだけど。あとあんた重いんだけど」

ζ(゚ー゚*ζ「まぁまぁ。ほらお湯が出て……こない! つめたっ! 早くお湯出てよ~!」

燥ぐ彼女。身を沈めてくる彼女。それを拒絶するでもなく、足先から次第に溜まっていくお湯を受け、気が絆される思いだった。
別に風呂嫌いという訳じゃないが、湯船に浸かるのは久々だった。
邪魔な存在はあるものの、水嵩が段々と増してきて、ついぞお腹にまで迫ると自然と息が漏れる。

ζ(゚ー゚*ζ「しっかしツンちゃん、お顔は最強に天才なのにお身体がねぇ……いやそういう控えめなところも好きなんだけどさ」

ξ-⊿゚)ξ「別に胸も尻もデカくなくて結構よ。あんたのそれどんだけ大きいのよ。なんで水に浮いてんのよ」

ζ(゚ー゚*ζ「大きすぎると大きすぎるで辛いんだけどね。高校生の時とかさ、体育祭あったでしょ?」

ξ゚⊿゚)ξ「ああ、あったわね」

ζ(゚ー゚*ζ「リレーあったじゃん。私走るの得意だったんだけど。あれでさ、全力で走ってたらブラが弾け飛んでさ」

ξ;゚⊿゚)ξ「え、マジ?」

ζ(゚ー゚*ζ「マジマジ。そもそもまともなスポブラって訳でもなかったからおっぱい爆裂して痛いし、あれは最悪だったな~」

ξ;゚⊿゚)ξ「巨乳も大変だわね……」

ζ(゚ー゚*ζ「まぁ下着は最近だと可愛いのいっぱい出てきてるし、ただ肩幅が自然と出たりね、あと足元見えないとかデブに見えちゃうのが嫌かな」

他愛のない会話が続く。ふと、彼女が自然と私の手に指を絡めてきた。私は抵抗するでもなくそれを受け入れる。
彼女が私に深く凭れてくる。表情を見下ろせる程に沈む彼女は私を見上げ、柔らかな笑顔を浮かべた。
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2022/09/13(火) 18:44:13.136ID:ySNMbRfK0
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ζ(^ー^*ζ「……好き」

ξ;-⊿-)ξ「……臆面もなく、安売りするかの如く言葉にするんじゃないわよ」

ζ(^ー^*ζ「え~? そうかなぁ? 言葉にすることって凄く大切なことだよ」

手を取り合い、彼女が強く握ると、私も呼応するように握り返す。

ζ(^ー^*ζ「でも言葉にできないからって行動で示すのも凄く大切だよね。本当、ツンちゃんは可愛いな~」

ξ;-⊿゚)ξ「はいはい、何でもいいから……そんで、いつまでこうしてるのよ。いい加減重いわよ、姿勢も変えたい――」

ζ(゚ー゚*ζ「ずっとだよ」

大きな瞳が私を射抜く。
幾度対峙しても思い知らされる。彼女の美しさばかりは否定のしようがないと。
瞳を縁取る長い睫毛も、白磁を思わせる肌も、高く通った鼻も、全てが世の乙女達が抱く理想のままだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「ずっとこうするよ。何度も抱き合って何度もキスするの。目覚める度に好きだって言う。ずっとずっとね」

そんな彼女に向けられる愛の告白。
何故に私なんだ――何度も訊いた。その度に彼女は言う――あなただからだと。
甘ったるい台詞を真面目な表情で言われ、私はその美しさと言葉の強さに口を噤み、姿勢を正した彼女と真正面から向かい合う。

ξ゚⊿゚)ξ「私はあんたがいうところの蝶じゃないと思うけどね」

ζ(゚ー゚*ζ「それを決めるのは私。ツンちゃんは世界で一番綺麗な蝶々だよ」

ξ-⊿゚)ξ「……下らんわね、まったくもって」

胸の中に彼女がやってくる。そんな彼女に頬を撫でられ、次いでなぞる指は唇へと向かった。
私は抵抗の一つもせずそれを受け入れている。やがて互いの顔が零の距離にまで迫り、柔い感触を理解する。
口腔を行き交うのは互いの舌だ。彼女の唾液と私の唾液が絡まって、互いの咽喉を通って、身体の奥底へと落ちていく。
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2022/09/13(火) 18:46:38.753ID:ySNMbRfK0
.
ζ(゚д゚*ζ「んぅぇ~、ほっと、ひは、はははいへほ~」

彼女の舌を噛みちぎろうかと思った。
この饒舌に気持ちのよい言葉ばかりを運ぶ柔らかく小さな舌を取り除けば、もしかしたら彼女は静かになるかもしれない。
言葉さえなくなれば、今よりも落ち着きをもって、ある程度の距離を保ってくれるかもしれない。

ξ゚皿゚)ξ(……ガキじゃあるまいし。しかし千切れないなぁ、舌ベロ)

適当に弾力を確かめ、ある程度の玩味を終えると自由にしてやる。
軽く血が滲んでいる。そこまで鋭く歯を立てた覚えはないが、再度やってきた舌は鉄の味を纏って私の舌をねぶる。
蒸れる熱気としがみついてくる彼女の体温が煩わしくて、風呂もここまで堪能すれば、もう暫くはシャワーだけでいいだろうと結論した。

ζ( д *ζ「あ、ちょっとっ」

さて、ではそろそろのぼせそうだった。私は彼女の花弁へと己の指を沈める。
軽い抵抗をみせた彼女だがそれを無視して、私は慣れたように腕全体を動かす。
甘い息が漏れてくる。それでも口付けを止めもしない彼女は、全身で私を感じようとしていた。

ξ; ⊿ )ξ「はぁ、疲れる……さっさとイきなさいよ、風呂の中、熱いのよ」

ζ( д ;ζ「そんな、風に言わなくてもいいじゃんっ」

ξ; ⊿ )ξ「結局こうなるんだから……どうせそうなろうとしてたんでしょうがよ、変態女」

ζ( ヮ ;ζ「ふふっ、それはお互い様でしょ……あ、あぁっ……きもちっ……」

弓なりに背を反らせ、数度、彼女は震える。瞳が曖昧に揺れ、一寸離れた唇からは言葉にならない言葉が漏れた。
指に身体の反応が返ってくる。幾度か強く締め付けられ、落ち着きを取り戻すまで私の指は体内で包まれ、揉まれを繰り返す。
引き抜きたい思いと、指先のざらつきを散々になぞりたい思いとが駆け巡り、軽く撫でてやると気をやったばかりの彼女が強く跳ねた。

分かりやすい身体だと思う。その反応のよさが、或いは彼女の身体を求めた多くの人間達を虜にしたのだろうと思う。
押し込むように花弁を愛で、口の隙間から漏れる息が次第に嬌声に変わる頃、彼女は先よりも大きく身を反らせ全身で跳ねる。

彼女は矢継ぎ早な息をする。私を潤んだ瞳で睨み付けると、軽い口付けをして私の胸の中に顔を埋めてしまった。
拗ねたのか、或いは顔を見られまいとしているのかは不明だ。
機嫌を損ねたのは事実だろうが、それでも私を強く抱きしめる彼女は、乙女のそのものかもしれない。
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2022/09/13(火) 18:48:32.720ID:ySNMbRfK0
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ξ;-⊿゚)ξ(っとに、何やってんだか……)

ニンフォマニアを相手取ることの苦痛は、その性欲の強さを知る人物にしか分からないのかもしれない。
ただ、では私はそれを苦痛に思うかと言えばそうでもない。単純に気持ちのよいことは好きだし、美女が快楽に狂う顔が嫌いじゃない。
未だ息の整わない彼女を押しのけ、いい加減に湯船から退却すべく私は立ち上がろうとする。
流石にこれ以上は体力的にも厳しい。兎角として一旦の満足とし、彼女の様子を窺いもせず肩に手をかけるが――

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、ちょい、こらっ、やめなさいってっ」

下腹部に異物感があり、ついで体内へと侵入した感覚に背が震える。
焦燥のままに彼女を見やれば、そこにはしてやったりと口角をあげる美女の表情があった。

ζ( ー ;ζ「私ばっかり必死でずるいじゃん? たまには許してよ、ツンちゃん」

ξ; ⊿ )ξ「いやダメだって、のぼせるから、普通にあぶな、いっ……あ、ぅんっ……」

ああ、まったくもってこの美女はお困りだ。
別に、私は嫌いじゃない。気持ちがよいことは好きだ。
頭中の芯と呼ぶべき部分に電気がはしるような感覚と、この、ある意味は支配されているような感覚が、快楽の正体かもしれない。
彼女が覆い被さってくる。私の乳房に顔を埋め、腕を深く動かして、私の全てを貪りつくそうとしている。

ξ; ⊿ )ξ(あー……きもちぃー……)

心を交わすことはその実、簡単なことだ。
頷き続ければいい。

否定にも肯定にも首を縦に振り、話しを聞く素振りを見せ、言葉の最後をオウム返ししていれば全ては片がつく。

適当な風ではダメだ。だが真面目に意見をしてもダメだ。
心を汲むという、その姿が何よりも大切で、心を交わす相手が最も求めているものは不純物のないシンプルな同意だけだ。

果たして彼女と私は心を交わしているのか否か、というのは定かではない。
私は彼女の言葉のどれにも頷いたことはなく、彼女は私の言葉の意味を理解していない。
彼女のいうところの蝶と蛾の差異も分からないし、私の煙草の香りを彼女は好んではいない。

それでも、きっと、私と彼女には繋がっている部分がある。
別に恋仲にもないし、ただ快楽を求め貪りあうだけの間柄だと私は思っている。
所詮女と女、本当の意味で一つになることは出来やしない。先のない関係性だし、やはり愛を持ち寄ることは無意味だとすら思う。
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2022/09/13(火) 18:49:03.458ID:ySNMbRfK0
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ただ、私を強く抱きしめる彼女も、彼女を強く抱きしめる私も。
最早鍵の意味を失った私の部屋で過ごし、外に出ようともしない。
それが一つの、言葉にすらしたくないが、形として提示できる答えなのかもしれない。





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2022/09/13(火) 18:50:55.333ID:ySNMbRfK0
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初夏、強い日差しを遮るように頭上へと手を翳した。
雑踏に紛れるのは蝉の鳴き声だった。煩わしい大合唱に人通りの多い街並みは居心地が悪かった。
立ち寄った喫煙所で一本を吸い切ると人込みの中へと踏み出す。

ξ;゚⊿゚)ξ「あっちぃー……」

夏は嫌いだった。単純に気温の問題もあるが、この纏わりつくような湿度や浮かれた人々の熱気に眩暈すらする。
おまけに蝉等の虫の存在だ。待ってましたと言わんばかりにあれらが空を飛んだり地を這っていたりする。
頭上には憎たらしいまでに強い輝きを放つ太陽が居座り、夜になれどアスファルトは熱を孕み、昼時なんぞは一歩を踏み出すことすら億劫だ。
つまり、最低な時期だと私は思っている。こういう時期こそ家に籠りっぱなしになって静かにのんびりと過ごしたいものだった。

ξ;゚⊿゚)ξ「えーと、なんだ、こっちだったかしらね……」

そんな夏嫌いな私だが、この日、珍しいことに日中の外へと出かけていた。
ことのついでだった。本日は必要な単位の為に午前の講義へと顔をだし、目的を果たしたらば足早に退散する。
そのままの足で帰宅し、冷え込んだ我が部屋で怠惰を貪ろうと思っていた。
ところがそうはならなかった。予定が生まれてしまった。
私は若者の行き交う景色にいた。今風の男や女が流行りの飲み物やらを手に、青春を謳歌せんと誰しもが大声で話していたりする。
それらに全身を殴られているような感覚だったが、兎角として目的の喫茶店を見つけると私は扉を押し開いた。

「いらっしゃいませ。おひとり様でしょうか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ああ、いえ、待たせている人がいるんで……」

駆け寄ってきた歳若い店員に適当な返事をしつつ、広くはない店内を見渡す。
洒落た風の曲が流れる店内は樫木張りの床で、私は履き潰したスニーカーでそろそろと歩いていく。
やがて見えてきた人物と目が合うと、相手は軽く頭を下げ、私もつられるようにして頭を下げた。
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2022/09/13(火) 18:53:13.791ID:ySNMbRfK0
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(´・ω・`)「どうも、ツンデレさん」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、どうも」

利発そうな、感じのよい印象を持つ男性だった。歳は私と同じくらいだろう、まともな情報を持ちはしないがそんなものだろうと結論する。
促される形で向かいの席へと腰かける。店内全域が禁煙なのは今時では当たり前で、私は懐にある煙草を取り出すこともせず、相手の顔へと視線を向ける。

(´・ω・`)「なんだかすみませんね、突然にお呼びしてしまって。喋ったのも、つい先のことが初めてなのに」

ξ゚⊿゚)ξ「はぁ……」

そう言う男性は私にメニューを寄越す。特に腹の減りはない。適当に目についたアイスコーヒーをウェイターに注文し、改めて私は男性と向き合った。
この男との接点はなかった。今し方、男が言った通りの関係だった。

(´・ω・`)「改めて……僕の名前はショボンと言います」

名乗った男性に対し、私は特に反応を示さない。
彼は私の大学に通う生徒の一人で、同期のようだ。ようだ、というのも覚えにない人物だったし、そもそも私は誰とも接点がないが故に認識したのも今日が初だった。
本日、私は彼に声を掛けられた。大学から出てすぐのことで、彼は私に寄ってくると、後で指定する喫茶店にきてほしいと請われた。
初の対面で、かつ、初の会話だった。一体全体こいつは何だ、と訝しんだ目だった私だが、その目的を聞かされると仕方なしに足を運ぶ形となる。

(´・ω・`)「まあ、要件は先にも言ったんですが……デレさんとのことでお話があるんです」

私の性格からして、例えばナンパだとかには頷かないし、それ以外で、単純に親睦を深めようだとかという理由での誘いであれ真正面から断る。
最大の理由はやはり無関心だからだ。面のいい男だろうが金を持つ富豪だろうがそこに差異はない。他人は所詮他人であり、恋だの愛だのを寄せられても興味がわかない。
だからこの場にいることが凄まじく違和感だったりもする。どういった理由があれ、私は他人に付き合ったりすることはないのに、彼女の名前を出されると、不思議と足は向かった。

(´・ω・`)「ここ数か月、あなたは彼女ととても親密な関係にありますよね。真実は知りもしませんが、傍から見ていても分かることです」

ξ゚⊿゚)ξ「はあ、そうなんでしょうかね」

(´・ω・`)「ええ、そうですよ。何せ今まで仲良くしてきた友人たちよりもあなたを優先していますから」
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2022/09/13(火) 18:54:55.130ID:ySNMbRfK0
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話しの途中にアイスコーヒーが手元へと届く。内容に口をつけつつ、男の言葉を聞いて、ああ、やはりと言うべきか、これは面倒な内容になると確信した。
見え透いていたことだった。何故に彼女のことで本人を他所に話すことがあるのか、なんてことは実に単純なことだ。

(´・ω・`)「僕、彼女と付き合っていまして。僕のことは彼女から聞いていますか?」

ξ゚⊿゚)ξ「いや、まったく」

(´・ω・`)「……そうですか」

つまりは色恋の話しだ。男女間の云々なんぞ当人たちの問題だろうに、私に直接くるところが修羅場のそれを思わせる。
とは言え私の台詞に男は少しばかり口をまごつかせ、頷きを見せると手元の飲み物を啜った。

(´・ω・`)「……まあ、なんというか、彼女とは良好な関係を築けていたと思います。
      実際、知り合ったのも付き合ったのも春先のことですが、それでも僕と彼女はちゃんと縁を持つ間柄なのです」

そういう男は私を見つめる。
結構、整った顔立ちだ。服装も清潔感がある。なんとなし男の隣に彼女がいる姿を想像してみるが、存外、画になるんじゃないかと思った。

(´・ω・`)「そんな僕達だったんですが、段々と彼女からの連絡が減りました。
      聞けばあなたと過ごす日々が楽しくて仕方がない、居心地のよさに大層感激している、だとかで」

ξ゚⊿゚)ξ「はぁ、そうですか」

(´・ω・`)「……単刀直入に言いますが、もう、彼女とそういった関係を続けるのをやめてほしいのです」

面倒な手合いだな、と思う。だが男として、そして恋人として彼は立派だとも思った。
普通、そういった目に見える、或いは感じ取れる異常やら状況に尻込みする人達が多数だろう。それも問題の人物を直接に呼び出せる胆力は中々とも言える。

私は寄越された台詞に特に返事もせず、さて、では何をどう話そうかと考えた。

私は彼女と恋人の関係にあるとは思っていない。彼女は私に愛を囁くが私がそれに応えた覚えはない。ただひたすらに情欲を貪りあう、そんな子供のような関係性だと思っている。
大多数の人間から見れば、それはとても不純だろうし、まして恋人の間柄である人物からすれば恋敵だとか、或いは憎き怨敵にすらなり得るだろう。

ところが蓋を開けてみた時、そもそも彼女の恋人というのは複数存在しているし、それが肉体関係のみのセックスフレンドだったりもするし、彼女自身も乱れているのは事実だった。
その事実を知るか否かは不明にせよ、この男の立場からすればどうあっても私は間男、ではなく間女のそのものだろう。
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2022/09/13(火) 18:57:55.115ID:ySNMbRfK0
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ξ゚⊿゚)ξ「まあ、続けるも何も、私は端から彼女との関係なんぞには興味がないのだわ」

(´・ω・`)「そうは言っても、事実、あなたは彼女とそういった関係を続けている」

ξ゚⊿゚)ξ「結果はそうでしょう。でも続けようとも言っていないし、彼女がそうするのは彼女の意思なのよ。私にどうこう言っても仕方がないわよ」

(´・ω・`)「いいえ、彼女ではなく、あなたこそが根本の問題でしょう」

その言葉に、何故に私なのだと疑問に首を傾げる。

(´・ω・`)「その曖昧にも思える態度が彼女にとっては都合のよい風に受け取れる。含めて、あなた自身も負い目に背を向けることが出来る。
      両者にとってそれはとても好都合な免罪符ではないでしょうか」

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

(´・ω・`)「いいや、或いは負い目がないのかもしれませんが、本当にどうでもよいのならば突き放せばよい話しでしょう。ですがあなたはそうしていない。
      今し方の台詞は、言葉のままに受け取れば、まるで彼女が一方的にあなたに迫っているようですが、その実はあなたが彼女を誘い受けている風にしか見えません」

それはまたなんとも、と言いたくなる。
普通に考えて恋人の肩を持ちたくもなるだろう。肉体関係にまで発展した相手を前に怒りに狂って殴る蹴るをしないところが紳士的とも言える。
だが私の言葉を彼なりの解釈と自己都合で理解した風な物言いに少しばかりの憤りを抱いた。

(´・ω・`)「あなたは仰いましたね。彼女との関係には興味がない、続けるつもりもなく、全ては彼女の意思が前提にあると。
      でもあなたは知っていますよね、彼女があなたから離れるつもりはないことを確信しているのでしょう。だからそういった言葉を口に出来る」

ξ゚⊿゚)ξ「さあ、それは分かりゃしませんが、私に飽いて離れる可能性は幾分にもあるでしょう。それに、私は最初から拒絶していたつもりなのですわ。
      散々に殴る蹴るをして、我が家にまで押しかけた彼女を追っ払おうともしたのよ。ところが、あれの性格はまるで堪えやしないのだわ」

事実、私は散々に抵抗をしていたつもりだ。彼女の顔面を殴った日から彼女が私と身体を重ねるまで、無視等の対応も含めれば出来る限りのことをしたと思う。
何せ孤独主義者だから、私にとって他人とあることは苦痛だし、我が城とも呼べる絶対の領域に土足で踏み入られる苦しみなんぞは誰にも理解出来まい。
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2022/09/13(火) 18:59:55.527ID:ySNMbRfK0
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(´・ω・`)「では何故、今、あなたは彼女と共にあるのですか」

その言葉に私の言葉が止まる。

(´・ω・`)「散々に殴るだの蹴るだの、無視をしていたのに、身体の関係を持つに至った。それを諦めと呼ぶかは知りませんし、あなたの心の裡を知る術もない。
      けれども現状、あなたは彼女と共に過ごすことを受け入れているし、最早追い出そうという風でもない。誘い受けていると呼ばず何と呼ぶのです」

ξ゚⊿゚)ξ「だったらどうするべきだったかしら。殺した方がいい?」

(´・ω・`)「それこそは最大の過ちだ。兎角、例えば警察に通報するなり手段は多くあった筈でしょう。そもそもの暴力を振るう以前にそういった対処が出来たでしょうに。
      つまり、あなたは最初から彼女を本当に拒絶していた訳ではないのではないですか」

明け透けに言うが、まるで私の心の内を知った風に言うのは癪だ。
私は眉根を寄せて男を睨む。全ては私が悪だと言いたげだったが――悪であるのは間違いないにせよ――さも己は正しいという男の姿勢には納得し難い。

ξ゚⊿゚)ξ「一人の人間相手にそこまでの対応をする阿呆がどこにいるのかしら」

(´・ω・`)「今時のストーカー規制法が何故に生まれたか御存じないようで」

ξ゚⊿゚)ξ「それを押しとどめることが出来る人間が周りにいなかったのも一つの問題ではなくて、彼氏さん」

(´・ω・`)「……では僕も悪だと?」

ξ゚⊿゚)ξ「……何故にあなたたちは皆、善悪や正否を定めたがるのかしらね」

胸中にある私個人の哲学は単なる呟きだ。男はそれに反論をしようとするが、私は構わずに言葉を続ける。

ξ゚⊿゚)ξ「兎角、私に要求するのはそういった理由だというのは理解したけれども。本人には当然に伝えているのでしょうね」

(´・ω・`)「……ええ」

ξ゚⊿゚)ξ「ならそれが彼女の答えでしょう。どうにもならないのであればあなたが縄で縛るなり、自分の部屋に繋ぎとめるなりすればいいでしょう」

(´・ω・`)「それこそ犯罪ではないですか」

ξ゚⊿゚)ξ「だってそれがあなたのいうところの答えでしょう。人の意思を受け入れられないならば己の意思で屈服させるのが世の常ではないのかしら」
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2022/09/13(火) 19:02:02.442ID:ySNMbRfK0
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彼は言った。己と彼女は恋人の関係だと。
ではそれは今もか、という問いをしなかった。恐らく、彼女の性格からして未だに恋人の間柄だと思う。
互いの了承があって初めて交際の関係にあると言えるだろう。一方がどれだけ愛を寄せていようが、一方がそんなことはないと言えば片思いだろう。
普通ならば愛想が尽きるのではないか、と思う。自分という恋人がありながらも他の人物に夢中で、どころか部屋に入り浸って日夜抱き合っている。
字面で見れば最悪だ。だが事実だった。そんな事実を男は理解していて、尚も彼女とは恋人関係にあると断言した。

ξ゚⊿゚)ξ(愛、ね)

その言葉がぴったりだと思うくらい、男は彼女に心底惚れているのだろう。
例え彼女が他の人物に想いを寄せていようが、形として恋人の関係にあり、また、それをお互いが了承していて、
更に今もそれは続いたものだとしているならば彼はその手綱を離すつもりはないのだろう。

あんなイかれ女の何がいいんだ、とも思う。容姿やらは、そりゃ誰もが認める程のそれだ。身体も含め佳人のままだ。
だが他にもいるだろうに、とも思う。この世には七十億もの人間がいて、その約半分くらいは異性で、だったら一人の人間に固執せず、世界に目を配ればいいのに、と思った。

(´・ω・`)「別れろ、と暗に仰っていますか」

ξ゚⊿゚)ξ「曲解だわね。好きにしろ、というのが私の提示する意見よ」

(´・ω・`)「……それはまた無責任に思えますね」

ξ゚⊿゚)ξ「そうかしら?」

(´・ω・`)「ええ。あまりにも他人事のような意見だ。まるで関心など寄せる必要もないというような、拒絶に等しいのではないですか」

それで正しい。結局、私の芯が折れることはないし、根底にある考えが変わることだってない。
どうでもいい、面倒臭い――それが全ての答えになるくらい私は関心を抱けないでいる。
今現在、私を含んでいるらしいこの問題にすら“好きにすればいいだろう”といった感想しか抱けやしない。

ξ゚⊿゚)ξ「目移りされるような、そんな程度だったのが結論なんじゃないのかしら。あなたからすればふざけるな、という感想でしょうがね、
      私からすれば何故に繋ぎとめることが出来なかったのだというのが感想ですわ。
      別に完璧超人になれと言っている訳ではないのよ。あなたが彼女にとっての特別でいて、唯一無二の存在であれば、
      彼女はあなたしか見えなかったのではないかしら」

私の立場とやらがどういったものかは知らない。
例えば悪の側であり、それこそ浮気相手のようなもので、開き直った風に見えているのかもしれない。
だが主観は正しく主観だ。立場はそれぞれにある。確かに事実上、男と彼女は恋人関係だろう。だがそれだけだ。
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2022/09/13(火) 19:03:39.402ID:ySNMbRfK0
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ξ゚⊿゚)ξ(仮にこの場に彼女がいたら何と言うだろう)

歪な感性を持つ彼女はきっとこう言うだろう――“何で言い争っているの”と。
問題を理解する訳がない。理解できる人間ならばそもそもこういった真似をしないし、元より性に奔放だし責任感なんぞがあるならば複数の人物と恋仲になる訳もない。
つまり、その程度の人間だし、この男がここまで必死になる程の価値はないのではないか、とすら思う。
だがそれこそ十人十色だが、人にはそれぞれに価値観がある。例え不純な真似を仕出かそうが、そういったことすらも許し、受け止め、更には前進したいが為に必死になる人間もいる。

(´・ω・`)「……唯一無二、ですか」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ」

(´-ω-`)「そう簡単になれないから僕は――……いいや、彼女の傍にいる男達は必死なのですよ」

成程、と思う。
この男はその事実すらも理解しているようで、それはきっと、この男のみならず、彼女と関係を持つ全ての恋人達がそうなのだろうと分かった。

ξ゚⊿゚)ξ「……知っていて尚、彼女を我が手にしたいと」

(´・ω・`)「ええ」

ξ゚⊿゚)ξ「まるで病的だわね。あなた達全員、言ってしまえば同じ穴の狢ではないのかしら」

(´・ω・`)「愛に正常なものがあるでしょうか?」

ξ゚⊿゚)ξ「さあ、それこそは哲学の域だわよ」

適当に返事をして私はコーヒーを飲み干す。
からりと鳴った氷の音が不思議と響いた気がした。

(´・ω・`)「言ってしまえば、きっと、僕も含め、彼女と関わりを持つ人物は全員異常の部類で違いはないでしょう」

ξ゚⊿゚)ξ「その中に私も含まれている、と」

(´・ω・`)「ええ、当然です。何せ普通ではないじゃないですか、我々の関係性というものは」

手元を見つめる男の言葉に私は首を傾げた。
0049以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:05:48.109ID:ySNMbRfK0
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ξ゚⊿゚)ξ「はぁ……」

(´・ω・`)「先程、あなたは言いましたね。全てを知っている癖に彼女を独占したいのか、と」

言葉は違うにせよ意味合いは概ね合っている。私は頷きを返した。

(´・ω・`)「もう、そういう歳の頃ではないでしょう、我々は。恋だの愛だので浮かれたり、魅力的な誰かを抱きたいだの抱かれたいだの、
      そんなものは理性のない獣や子供と同じではないですか。僕もね、否定は出来ないのですよ。淫奔だのと語るつもりはないですがね、
      そりゃまあ、幾らかの女性との付き合いはあった。普通に生きていれば恋人が出来るなんてのは当然ですからね。
      だから現状、彼女の自由の様に何を言う権利だってありはしないと思っているのですよ。それは過去の己を否定することになるじゃあないですか」

そこで言葉を切った男は私を真っ直ぐに見つめて言葉を続けた。

(´・ω・`)「でもそういった青春はもう、終わりにするべきなのです。普通はそうして大人になっていく。世間体という言葉は自由に対する責任をも意味する。
      だからもう、子供のような遊びは終わりにして、彼女には僕一人を選んでもらいたい。その為に彼女の目を覚まさせてほしいのです、他ならぬあなたに」

彼の言葉の量に対して私は頷きを同じ程度に返すことはなかった。
言っている意味は理解出来る。突き詰めれば大学を卒業し、その先の社会に出た時をも見据え、共に愛を育む夫婦のような関係にまで発展を望むとするならば、
このぐらいの時期に全ての清算をつけて、青い時代だったよなと思い出を振り返るくらいの、そういう風に落ち着けたいのだろう。

どうやら彼にとって彼女は生涯を共にする伴侶に相応しい、或いはそれ程までの情熱を抱くに足る存在らしい。
その熱意を前に賞賛でも贈りたくなる。別に馬鹿にしている訳ではなく、私からすれば、何故にそうまで他人に執着出来るのだという疑問すら芽生える程に、それは透き通った感情に思えた。
だが羨望はなく、憧憬もない。ある種の理想像を語られ、意味を理解出来ても、私の頷きが少なかった理由は心底に簡単なものだった。

ξ゚⊿゚)ξ「……多分、あなたは立派な人になるんじゃないかしら。よき父となり、よき夫にもなるのでしょうね」

(´・ω・`)「そう思って頂けるのですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ。きっとそうなのだと思うわよ」

私は懐から煙草を取り出した。当たり前のようにそれを咥え、火を灯す。
そんな所業を見て彼は目を大きく見開き、近くにいた店員までも困った顔をしつつ足早に駆け寄ってくる。
他にも店内にいる誰彼の視線だとか舌打ちなんかも聞こえた気がした。
それらの反応を理解しつつも私は立ち上がる。立ち上がり、紫煙を吐き出し、未だ席に腰を落ち着かせ私を見上げる男へと言葉を紡いだ。
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2022/09/13(火) 19:06:22.423ID:ySNMbRfK0
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ξ゚⊿゚)ξ-~「なんで普通じゃないといけないの?」





(´・ω・`)「――……は?」







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2022/09/13(火) 19:09:02.200ID:ySNMbRfK0
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例えば道徳倫理という言葉があり、世の中には法律というものがあり、義務や権利、責任だとかという言葉もある。
それらが機能しない社会なんぞありはしない。そんな当たり前のことは私にだって分かるし、それはきっと彼女も分かっている。
だがそれらがどうしても関与出来ない物事というのはある。

それは魂の在り方だ。

禁煙の席で煙草を吸ってはならない。当然だろう。何せそれが店や行政の定めたものだからだ。
だから煙草を吸いたかったら喫煙室にいくなり自宅で嗜むなりをすればいい。わざわざ禁止された場で煙草を喫む必要性はない。
だが吸いたいと思うのなら吸えばいい。出禁を喰らおうが罰金が発生しようが、提示されたものがあれば責任を果たせばいい。
別に責任を負うから勝手を仕出かしていい訳ではないだろう。そこから先は道徳倫理の問題であり、単純に言えば他者に不快感を与える権利は誰にだってありはしない。

では区分と線引きはどこにある。
法律の内で義務と権利を遵守し、他者に対し中庸に接し生きることに普通だとか個人だとかと分ける起点はどこにある。
身勝手と自由の明確な差はどこにある。

ξ゚⊿゚)ξ-~「普通を願い、そうあるべきと……何故に貴様等はそうも呪いの如くに何かを定めたがるのかしら。
       彼女は普通になるべきだとか、私から全てを終わらせるよう言えだとか……まるで利他的な目的を利己のままに願う貴様等は糞にも程がある」

私は社会不適合者だろう。その自覚は幼い頃からある。
誰も彼も善悪や正否を絶対のように崇め、それを定めるのに、では正しいことの中で悪を仕出かすだとか、悪の中で正しいことをしたらその意味合いは曖昧になる。
あまりにも不完全な社会だし、実質的に言って道徳倫理なんて言葉は微塵も機能していないのではないかといった感想しかない。
だから普通という言葉の意味を理解しかねている。
何を以てしての、何を起点としての普通なのか、世の中とかいう、実体のない大衆が決定した普通とやらにまったく共感が出来ない。

(´・ω・`)「聞き入れては、貰えないという、ことですか」

ξ゚⊿゚)ξ-~「何度言えば済むのかしら。好きにしろと言ったのよ。道徳がどうだの、普通がどうだのじゃあない。
        貴様が是が非でも欲しいと思うのならどうにかしてでも手に入れればいいのに。
        社会が許すかどうかじゃない、正しさや善さなんぞも関係ない。貴様の魂がそうするべきと言うなら何故にそれに頷けない。
        何故に己の心に従えないのかしらね、貴様等は」

仮に世界がそうあるべきと言ったところで己が頷けないのならば頷かなくていい。それが私の在り方だからだ。
別に心をすり合わせるように適応することなんて出来る。誰にだって出来る。
だがそうするまでもなく、私は私で完結している。だから私は私のままで在り続けることが出来ている。

ξ゚⊿゚)ξ-~「それではお暇させていただきますわね。ごきげんよう」

煙草を咥えたまま、戸惑っている店員をも無視して私は店を出る。
背後から男の追撃でもあるかと思えばそうでもなく、私は普通のままに店を出て、夏の太陽に身を焦がされながら人込みの中へと踏み出した。

ξ゚⊿゚)ξ-~(下らない)

煙を吹きながらに歩き出す私を人の群れが避けていく。その流れを当然のように私は歩いていく。
赤熱する火種が顔に迫る頃、私は天を見上げ、一つの解に辿り着くと眩い太陽に手を翳し、呟いた。
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2022/09/13(火) 19:09:54.307ID:ySNMbRfK0
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ξ゚ -゚)ξ-~「邪魔になっちゃったなぁ、火……」





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0053以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:10:33.600ID:ySNMbRfK0
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火炎はもういらない。
羽を燃やされるくらいなら、私はそれを消そう。






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2022/09/13(火) 19:12:23.927ID:ySNMbRfK0
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夜が明けないことはない。いつか必ず朝はくる。
それは誰しもにとって等しく、もしかしたら世の中に存在する唯一の平等というやつなのかもしれない。

私は暗がりの中、微かな月明かりのさすベッドで眠る彼女の顔を見ていた。
一糸纏わぬ姿のまま、自然のままに彼女は寝ていた。
ふと頬にかかる髪に手を伸ばし、それを退けてやる。そうすると彼女は擽ったそうにしたが、寝息は続いたままだった。

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

じきに夜は明けるだろう。四時の頃合いには空の彼方も白けてきて、いつのまにか月明かりが薄れ、夜と朝の狭間に私たちはいた。
私は彼女を見つめている。裸のままに見つめて、その呼吸の音を聞いて、肌から伝う心臓の音を聞いていた。

ζ(-ー-*ζ「…………」

このまま目覚めなかったらいいのにと思っていた。このまま死んでいたら楽だったのに。
そうすれば彼女は物言わぬ物体になる訳で、それは人の扱いではなくなるから、このベッドで静かに横たわっていても不自然じゃなくなる。
この部屋にいても、きっと自然なものになる。

でも夜は明ける。朝はくる。
羽を休めていた蝶は朝露を受け、身を震わせ、空へと飛んでいく。
きっとそれが自然なことだ。夜だからこそに炎の煌めきは目に眩く、その温かさに身を絆されるのだろう。
だが陽が昇れば、そこにこそ真実の居場所があるのだと分かるはずだ。
夜の帳とは暗がりで先が見えないからこそだろう。その境界を越えた先に、実は世界が広がっていたら背の羽を広げ宙へと舞い上がるだろう。

ξ゚⊿゚)ξ(目覚めた時に……)

何を言うのだろう。何と言えばいいのだろう。
彼女は何と言うだろう。何を言われたいだろう。
おはようと言って、おはようと返すだろうか。もう朝だと言えば、もう朝かと言うだろうか。
身体を伸ばし、当たり前のように彼女は私の頬に触れ、口付けをして、笑みを浮かべるだろうか。
私はどう返すのだろうか。眉根を寄せて不機嫌のままに、いつものように軽く小突いて溜息でも吐くのだろうか。
0055以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:14:38.202ID:ySNMbRfK0
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ξ゚⊿゚)ξ「……朝だ」

もう、朝だった。月明かりのさす部屋が明るくなって、私は彼女の顔から視線を窓辺へと向ける。
テーブルにある灰皿を見る。煙草がある。ライターが無造作に転がっている。
私は静かに身を起こし、裸のままに歩いて、煙草を手に取り火を灯す。
紫煙が浮かび、それを割くように歩いて窓辺へと向かい、外の景色を眺めた。

普通と呼ばれる景色が外にはある。次第に人の数は増えて、学校やら職場に向かう人々が溢れるだろう。
私は扉を見る。鍵のかかっていない、世界へと繋がる扉を見て、再度窓辺へと視線を向かわせた。
窓から見える景色も、扉から出た先に広がる景色も、きっと同じだろう。だけど、どうしても私には同じには思えない。

彼女は言った。鍵というのは世界と己とを別つ唯一の手段だと。
では私は何故鍵をかけないのだろう。何故に彼女がこの部屋にあることを受け入れたのだろう。

諦念だったかもしれない。それこそ無理矢理に、いっそ命を奪う手段すらも辞さず、どうにかして私は私だけの世界を保てたはずなのに。
けれども今も私の扉に鍵はかかっていない。窓辺から見える景色に入り口はない。そこは傍観の席だから、実質、繋がりは生まれない。

ξ゚⊿゚)ξ-~「……朝、だ……」

私は私だけでよかったはずだし、この部屋は煩わしい湿度と煙草の香りだけでよかったはずだ。
まるで梅雨の外のように、いつだって陰鬱に満たされた部屋の中、雨垂れに紫煙を浮かべて、窓辺に寄りかかっているだけでよかった。

だのに、私は鍵をかけなかった。
かけ忘れたんじゃない。かけなかったんだ。
火炎の心地が気持ちよくて、羽を燃やされても、それでも身を寄せてもいいくらいに、私はきっと、惹かれてしまったんだ。

ξ ⊿ )ξ-~「…………」

でも、もう、そうじゃない。
火炎に惹かれる羽虫は多くある。そのうちの一つが私だとすれば、きっと誰よりも近い位置にまできただろう。
だが火炎に照らされると、苦しみは当然生まれる。他の羽虫の羽ばたきが傍にあるのが分かる。
その羽音に紛れはしない。だけれどもその羽音が煩わしく、いっそ憎くもあり、心底に嫌だという気持ちも生まれた。

ならば身を離せばいい。だって夜の中でこそ火炎は煌めくが、朝がくれば陽が我が身を照らす。
それで済むはずだ。それで全てが終わるはずだ。
私は煙草を吸う。吸って、煙を吐いて、視線をベッドへと移して、そこに眠る彼女を見る。
羽を畳み、静かに寝息をたてる蝶の彼女を見て、静かに歩み寄って、その頬に触れる。
0056以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:15:05.093ID:ySNMbRfK0
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ζ(゚ー゚*ζ「……おはよう」




ξ゚⊿゚)ξ-~「……おはよう」






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0057以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:16:52.703ID:ySNMbRfK0
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彼女がその瞳で私を射抜く。いつから起きていたかは分からないけど、彼女は私の手に己の手を添えると、優しく握りしめた。

ξ゚⊿゚)ξ-~「いつか……朝はくるのよ。明けぬ夜なんてありはしないの」

ζ(゚ー゚*ζ「……うん」

彼女は優しく微笑んで、私の言葉に頷く。
彼女は分かっているのだろう。私の表情を見て、私の心の裡を理解したのだろう。
何せ彼女は私の鉄面皮とまで評された顔から感情を読み取ることが出来るのだから、彼女には全てが分かっているのだろう。

ξ゚⊿゚)ξ-~「前に、あんた言ったわよね。私は蝶であんたは蛾だって」

ζ(゚ー゚*ζ「……うん」

ξ゚⊿゚)ξ-~「……蝶になんてね、なろうと思えば誰でもなれるのよ」

ζ(゚ー゚*ζ「……うん」

ξ゚⊿゚)ξ-~「例え汚い羽だろうが、見栄えのしない色をしていようが、己が蝶だと言えば蝶になれるのよ」

ζ( ー *ζ「……うん」

彼女の手を握り締める。それを彼女も握り返す。

ξ ⊿ )ξ-~「私はきっと、蝶なんでしょう。でもね、蛾にだってなっていいと思っているのよ」

ζ( ー *ζ「……うん」

ξ ⊿ )ξ-~「だってその方がいいのだわ。誰にも求められず好きに飛び回れるじゃない」

ζ( ー *ζ「……うん」

ξ ⊿ )ξ-~「火を求めなくてもいいじゃない。群れる羽虫の中から抜け出して、朝がくるまで待てばいい。だっていつかは必ず……陽が昇るでしょう」

ζ( ー。*ζ「う、ん……っ……」
0058以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:18:15.920ID:ySNMbRfK0
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鍵を閉めよう。
もう、火炎に身を焦がすことに、私は堪えられない。
他の蝶や蛾の煩わしさを思うと、羽を失ってしまいたい。

それが続くことになるのは明白だ。先の話しが一度で、そして一人だけで済むのなら世界は単純だ。
私は孤独がいい。孤独でいい。
そうある為にこれまでを過ごし、生きてきた。
ただ、ふいに戯れのように開け放たれた窓から蝶が入ってきたから、仕方なしにそれを愛でていた、それでいい。







ξ ⊿ )ξ-~「……終わりにしましょう」





ζ( ー。*ζ「……うん」








朝日の中で、私は涙を流す彼女を抱きしめて、その震える身体を包む。
きっと飛べる。きっと蝶になれる。
世界は不自由だけど、それでも、羽を広げて飛べるほどの広さはある。
だから、だから――
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2022/09/13(火) 19:18:47.006ID:ySNMbRfK0
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ξ ⊿ )ξ-~「あなたは蝶よ――……デレ」





ζ(;д;*ζ「っ……ツンちゃん……!!」








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0060以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:19:13.845ID:ySNMbRfK0
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さようなら。
私の炎、私の蝶。




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0061以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:21:22.384ID:ySNMbRfK0
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開け放たれた玄関から湿り気を帯びた風が入ってくる。
時期は梅雨に入るだろう。
換気の為と思って部屋の窓を全開にしていたが湿度が煩わしかった。

ξ゚⊿゚)ξ-~「ふぅー……」

蝶が飛び立ってから一年だか二年だかの月日が流れていたと思う。
思う、というくらいに私にとってその期間というのは空白のような虚無で、ただ大学に通って家に帰るだけの日々を過ごしていた。
彼女を見かけたりすることはあった。目が合ったこともあった。だが互いが歩み寄ることはないし、そうなれば会話も必然として生まれない。

ξ゚⊿゚)ξ-~「さて、ご飯でも買いにいこうかしらね」

結局、彼女のその後を私は知らない。例の男を選んだのか、或いは他の恋人達とも関係を続けているのかも分からない。
だが、彼女は蝶になった。その事実だけが私の知るところであり、その事実だけ分かっているなら他のことはどうでもいいと完結した。
彼女の思う幸福をあの男や、或いは他の恋人共に与えることが出来るかどうかも分からない。そもそも彼女の思う幸福だって誰にも分かることではない。
私は咥えていた煙草をもみ消すと立ち上がり、適当なパーカーを着込んで扉へと手をかける。
過去の整理と同時に失せていた空腹感が飯を寄越せと訴えかけてくる。その本能に従い、私は外の世界へと踏み出す。
扉に手をかけ、鍵を開ける動作をして気が付く。

ξ゚⊿゚)ξ「……ああ、そうか、換気してたから」

鍵は掛かっていなかった。先まで換気の為にと扉を開いていたから、うっかりと施錠を忘れていたようだ。
では最後に鍵をかけたのはいつだったのか、と記憶を漁る。
漁る最中に私はかぶりを振り、そんな記憶はこの虚無の期間に一度もなかっただろうと自嘲気味に笑った。

ξ゚⊿゚)ξ「雨、うざいなぁ……」

つまり、そんなものだった。
私はずっと、あの日から今に至るまで、鍵なんてかけていなかった。
手前から別れを切り出し、胸中では世界との繋がりを拒絶していた癖に、そこには微かな期待があった。
無様だと思う。間抜けの道化にも思う。だがその事実に向き合うだけの勇気はなかったし、一つの決断として互いは道を別った。それが結末だった。
別に言い訳を重ねてもいい。一々鍵をかけたりチェーンをするのが面倒だった、どうせ私を訪ねる誰彼は存在しない、そもそもとして関わりのある人物はいない、等々。
それらを並べて、では一体誰を納得させる為の言い訳作りなんだと思うと尚更に滑稽で、私は傘を忘れたままに雨垂れの景色を歩き、やっぱり笑いが零れた。
0062以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:23:12.298ID:ySNMbRfK0
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ξ゚⊿゚)ξ-~「はぁー……」

煙草を咥え火を灯す。
紫煙が天へと向かい、落ちてくる雨粒のそれらを包み、或いは穿たれたりしても、香りと共に昇っていく。
時刻は不明だった。時計もなく携帯端末もない。適当に財布をポケットに突っ込んできた。
目深にフードを被っていて、狭まった視界から見える景色は薄暗いような、仄暗いような、何だかブルースな印象を受けた。
では心境を映す世界は正しくブルースのままで、私は青ぐらい景色の中、雨に打たれてヒロインの如くに道を歩いている。

ξ゚⊿゚)ξ-~「……こんなもんなのよね、どうせ」

呟きは雨に紛れる。その言葉の意味を深く掘り下げたりするつもりはない。
ただ、これが真なる諦観だろうということだ。

今更だと呆れる。本心を口にすることもせず、曖昧なままにしてきて、自分自身が面倒を嫌ったり煩わしい思いをしたくないからと拒絶を選んだ。

その先にあったのは何だ。
虚無だ。

空白で、日々は紫煙に蒸れる部屋で食って寝てを繰り返すだけの無駄のそのものだ。
別に生産性のあるようなことは子供の時分からした覚えはない。だが彼女と過ごした日々というのはきっと、生産性はなくても温もりと呼べるものがあった。

ξ゚ -゚)ξ-~「……あとはこのまま、流れのまま。適当に生きて死ぬ、かぁ……」

幼い頃からぼんやりとそんなことを考えていた。所詮社会不適合者の私に選ぶ道なんぞはないだろうし、前提として望んだ道なんかもない。
適当な会社にでも入って適当に生きて年老いて死ぬ。それが漠然としつつも抗えぬ運命なんだろうと結論していた。

ξ-⊿-)ξ-~(運命ね、阿呆らしい……)

なんともまた幼稚というか可愛らしい単語だと思った。夢見がちな思春期の子供が口にするようなものだ。
そんな風に思うと、自分の中身というのはその頃から何一つ成長していないのだと悟る。
愚かしく、やはり無様だと自身を卑下しつつ、次第にフードで狭まった視界に明るみがさしてきた。
近場のコンビニだった。目的の場所についた私は煙草を適当に吐き捨て、濡れネズミのままに店内へと入ろうとする。

ξ゚⊿゚)ξ(ん……?)

そんな時だ、丁度入り口から踏み入ろうとした時、傍にあった傘立てにビニル傘が突っ込まれた。
同じタイミングで到着した他人だろう。こうなると先を譲るかどうかの葛藤が生まれる。
競争心の欠けた現代人らしく、私はその場に留まり、促すようにその人物へと視線を送った。
0063以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:23:55.125ID:ySNMbRfK0
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ζ(゚ー゚*ζ「……なんでそんなずぶ濡れなの?」





ξ゚⊿゚)ξ「――……」







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0064以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:24:35.289ID:ySNMbRfK0
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胸が高鳴った。

同時に締め付けられるくらいの苦しさが生まれ、私は目を見開いて彼女を見つめる。

一年か二年ぶりに聞く彼女の言葉に私は返事もせず、ただ阿呆のように口を開いて、その程度のアクションしか出来なかった。




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0065以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:26:27.781ID:ySNMbRfK0
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ζ(゚ー゚*ζ「……入んないの?」

ξ゚⊿゚)ξ「……入るわよ」

入店の音と同時に私たちは同じ歩幅で、同じタイミングで足を踏み出した。
方やずぶ濡れの私と煌めく程の鮮やかさを醸す美女が隣り合う姿というのは歪かもしれないが、それでも私と彼女が隣り合う景色は過去に確かに存在していた。
まるで去来する思い出が形でももって現れたかのような、そんな心地だった。胸の中では心臓が不規則に脈を打ち、それは緊張から生まれるものだと理解した。

ζ(゚ー゚*ζ「どうせご飯でも買いにきたんでしょ?」

ξ゚⊿゚)ξ「……まあね」

ζ(゚ー゚*ζ「やっぱりね。未だに料理出来ないんだ?」

ξ-⊿゚)ξ「別に困ったりしないから覚える必要もないでしょ。お金で解決出来る問題だもの」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、バイトもしてないくせに」

ξ-⊿゚)ξ「両親が勝手に寄越すお金だもの。使わなきゃ単なる持ち腐れだわよ、在り難く浪費させて頂くわ」

年単位越しの会話はあまりにも自然で、まるで常日頃言葉を重ねている同士のような錯覚すら感じる。
彼女は私の後をついてくる。いつものままの抑揚で語りかけてきて、私の言葉にいつものように笑って、それでも呆れもせずついてくる。
私はそれを面倒臭がるように相手取る。いつものように厭味を通り越した心底からの本音を吐露しつつ、私の好きなコンビニ弁当を手に取る。

複数の“いつものように”が行き交う。この場の時空は入り乱れている。
彼女との“いつも通り”は既に過去のことなのに、だのに、私の中の“いつも通り”に自然とおさまるくらいに、それは当たり前のようだった。
彼女から心配を寄せる言葉を受けても煩わしさはない。それをも掻き消すくらいの多幸感がある。

ζ(゚ー゚*ζ「あ、待って。ついでにこれも買ってよ」

ξ゚⊿゚)ξ「飲み物くらい自分で買いなさいよ」

ζ(゚ー゚*ζ「ケチ臭いこと言わないでよ、お金はあるんでしょ?」

ξ-⊿゚)ξ「親の、ね」

会計の折、彼女が私の弁当の隣に飲み物を置く。文句を言いつつもそれを買ってやり、会計が済むとそれを彼女に手渡した。
これもまた“いつものように”だった。彼女はなんだかんだで甘え上手なのは確かで、私はそれを許していた気もする。
そうして互いに目的の買い物を果たすと、私たちは外へと出る。
0066以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:27:32.954ID:ySNMbRfK0
雨の降る景色は薄暗く、私たちはコンビニの光に照らされてそのままに立ち竦んでいた。
その時間は秒単位だったかもしれないし、もしかしたら時間の単位だったかもしれない。
互いは何も言わず、ただ雨の景色を眺めて、客足の少ない店先で無言で突っ立っている。

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

懐かしい香りがしてくる。彼女のものだった。
嘗ての香水を今も好んで使っている様子で、その香りの中に不純物はない。
純粋なままの姿に安堵を覚えた。覚えたのに、それなのに私は雨の景色に踏み出せないでいた。

ここから先にはもう、“いつものように”はない。
私は自分の家に向かう。だが彼女は、もう、そうじゃない。
嘗てのように同じタイミングで踏み出して、雨の中、適当な話しでもしながら彼女と我が家に帰宅することはない。
何故ならば私たちは関係を別った。全ては私から終わらせたことであって、どれだけ己の愚行を嘆こうが呆れようが済ませた事実を変えることは出来ない。
0067以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:29:16.358ID:D3Ojx9Hz0
読んでる
0068以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:29:55.090ID:ySNMbRfK0
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ξ゚⊿゚)ξ-~「……そんじゃ」

私は煙草を咥え、火を灯し、フードを被ると一歩を踏み出す。
悔恨の念を抱こうがケリはケリだ。それも終止符を打った張本人が何を都合のよい状況に甘えることが出来るだろう。
それこそは無様の極みだし、何よりとして期待を抱く自分自身があまりにもみじめで受け入れることが出来ない。
だからあの朝のように、私から一歩を踏み出す。雨の雫を受け、煙草の火種が弱まろうとも、それでも“いつものように”私は独りで歩き出す。

ξ ⊿ )ξ-~(相変わらず、耳に心地のよい声だこと)

それでも、せめてもの慈しみの手段として、自身の甘えとして、彼女の可愛らしい声ばかりは記憶に強く焼きつけようと思った。
偶々の状況での邂逅は、まるで初めて彼女と出会った時のことを想起させる。
そうすると途端に数々の思い出が蘇ってきて、それらが私の心に染みだし、脳内を掻き乱していく。

ξ ⊿ )ξ-~(ああ、再会なんてするんじゃなかったわね)

どうせ悲観に暮れるなら思い出のみで済ませるのが最善だ。原因のそのものを前にしてはより一層に己の罪悪感が増してくる。
それもまた一方的なもので、独善的でもあり、自分勝手な感想だろう。

だが後悔を抱かない時はないし、結末として関係を終わらせた事実からして、最早残るのはスタッフロールくらいだろうに。
これから先に何の未来があるだろう。先にも後にも私の未来図とやらは時の流れに身を任せる程度だと自己完結していたくらいだから、
そうなると往生際の悪さと後味の悪さが込み上げてきて、やはりこの雨のスクリーンのままにブルースじゃないかと呆れる。

ξ ⊿ )ξ-~(せめて彼女が嫌な思いをしていないことを願うだけだわね)

湿気た空気と雨粒、そして紫煙の香りが色濃く私を包む。
果たして私は先のコンビニからどれだけ歩いてきたかも分からない。視界は相変わらず薄暗く、視線は地を這うばかりだった。
手にあるコンビニ弁当の存在なんてすっかり忘れていたくらいで、どれだけ私は呆けているんだと視線を上げる。
0069以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:30:47.035ID:ySNMbRfK0
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ζ(゚ー゚*ζ「よっす」





ξ゚⊿゚)ξ-~「……あれ?」








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0070以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:31:14.302ID:ySNMbRfK0
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そこには彼女がいる。

“いつものように”私を見つめている。

“いつものように”私の隣にいる。

“いつものように”微笑みかけてくる。

“いつものように”優しい香りをしている。

“いつものように”美しく。

“いつものように”可憐で。

いつものままで“いつものように”彼女はそこにいる。




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0071以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:32:04.971ID:ySNMbRfK0
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ξ゚⊿゚)ξ-~「……なんでいんの?」

ζ(゚ー゚*ζ「ダメなの?」

ξ゚⊿゚)ξ-~「いや、つーか……あれ、未だあんま歩いてない、の?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。まだ歩き出して十秒くらいじゃない?」

ξ゚⊿゚)ξ-~「……いや、えーと」

ζ(゚ー゚*ζ「っていうかさ、ツンちゃん」

ξ゚⊿゚)ξ-~「え?」

ζ(゚ー゚*ζ「本当に可愛らしいよね」

ξ;゚⊿゚)ξ-~「は?」

ζ(゚ー゚*ζ「久しぶりに会えばあんなに大きく目を見開いて。買い物終わったら凄い肩をしょげて歩き出してさ」

ξ;゚⊿゚)ξ-~「え、いや……」

ζ(゚ー゚*ζ「ずっと地面見てるんだもん。ちゃんと家に帰れるか心配にもなるよ」

ξ;゚⊿゚)ξ-~「……流石にそこまでガキじゃあ――」

ζ(゚ー゚*ζ「いやいやガキでしょ。ずっと。意固地で融通きかないの。そんで我儘で自分勝手なクソガキのままでしょうに」

ξ;゚⊿゚)ξ-~「随分と辛辣だわねぇ……」

ζ(゚ー゚*ζ「でも事実だしさ。それに、そんなツンちゃんだからこそ……やっぱり超絶に可愛いんだよ」
0072以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:34:03.488ID:ySNMbRfK0
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彼女が私を見つめている。その瞳の奥には相変わらず不思議な色がある。
それは輝きなのかもしれない。黒く、全てを飲み込むような深い色合いの中に確かな輝きがある。

ξ゚⊿゚)ξ-~(……ああ)

私はその揺らめきも、色も、温もりも知っていた。
それは火炎だ。彼女の持つ、彼女だけが与えることの出来る火炎の揺らめきと色合いと温もりだ。
それと対峙し、真正面から見つめた時、私は氷解する程の理解を得て、合点となると彼女の頬に手を伸ばす。

ξ゚⊿゚)ξ-~「……やっぱり、燃え続けてるのだわね」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ……そりゃね、燃え続けるよ。じゃなきゃ誘うものも誘えないからさ、愛しい蝶を」

ξ゚⊿゚)ξ-~「でも羽虫は多くいるでしょうに。今もそうでしょうに」

ζ(゚ー゚*ζ「かもね。でもそれらの羽はさ、燃え尽きちゃうんだよ」

彼女が私の頬へと手を伸ばす。互いは互いの体温を確かめるように、“いつものように”私たちは触れ合う。

ζ(゚ー゚*ζ「ツンちゃんの炎でさ、皆、羽を焦がされちゃうんだ」

ξ゚⊿゚)ξ-~「…………」

ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、ツンちゃん。私はきっと蝶になれるかもしれないけどさ、それでも……ツンちゃんの温もりがなきゃ、やっぱり嫌だよ」

その言葉にどういった言葉を返したらいいだろう。
既に関係は終わっている。私の意思で突き放し、彼女もそれに頷いた。
だが彼女は今、私と触れ合い、互いから感じる熱に癒しを得て、更には幸福をも感じている。

ξ゚⊿゚)ξ-~「……なら、好きにすればいいんじゃないの」

故の私だ。この答えが出るからこそに私は私足り得る。
好きにしたらいい――己の心に従い生きるべきと私は彼女の恋人に同じ台詞を贈った。
そんな私が彼女の意思を粉砕する道理はないし、一度終えた関係が二度と修復出来ない道理もない。
ただ、私は私らしくそう言うだけだ。そして彼女はそれを理解していたように、まるで端から分かりきっていたように優しく微笑む。

ζ(^ー^*ζ「んじゃ、帰ろうか。一緒に」
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2022/09/13(火) 19:35:06.911ID:ySNMbRfK0
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私は頷く。全ては自由意思であり、己の魂を確立すべきと叫ぶならば、私は私の思うがままに生き続ける。
例え彼女が身を包み全てを燃やし尽くす火炎だとしても。
例え私がその炎に身を焦がされ羽を失おうとも。
そこに陽の光よりも居心地のよさを覚え、夜を越える以前に夜を望むのならば、私には頷くことが全ての正解になり得る。
ただ、そう、ただ――




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0074以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:36:36.939ID:ySNMbRfK0
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ξ゚⊿゚)ξ-~「……本当、悪女極まるわね、あんたは」





ζ(^ー^*ζ「ふふーぅ。何せ是が非でもツンちゃんが欲しいからね、仕方ないよ」






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0075以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:36:57.434ID:ySNMbRfK0
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このあまりにも都合のよすぎる邂逅に私は何も言わない。
全ては彼女の掌の上だろうとも、私は軽くボヤくだけで、雨垂れの景色を二人で歩いていくだけだ。




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0076以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:38:58.581ID:ySNMbRfK0
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一年だか二年ぶりに訪れた喫茶店には、あの日と同じ席にあの日と同じ顔の人物が座っていた。
私は不機嫌な顔のままに、それでも仕方なしと割り切ってその人物の前に腰かけ、歩み寄ってきた店員にアイスコーヒーを注文する。
ややもして飲み物が届き、それを口に含んだタイミングで対面する人物は口を開いた。

(´・ω・`)「相も変わらずの様子で安心しましたよ、ツンデレさん。よくきてくれましたね、急な呼び出しだったのに」

ξ゚⊿゚)ξ「そちら様もお変わりはない様子で。相変わらず人の都合を考えないのだわね」

適当な返事に彼は文句を言うでもなく、小さな溜息を吐くに留まり、改めたように私を真っ直ぐに見つめた。
本日、私はこの男に呼び出された。まるで数年前の再現のようだったが、これも一つのケリとして考え渋々とここへやってきた。

(´・ω・`)「結局、彼女はあなたのみを求める結果になりましたよ。まあ御自身の現状からして言うまでもないでしょうけども」

ξ゚⊿゚)ξ「そちら様は彼女とは完全に縁が切れたようだわね」

(´・ω・`)「果たして本当に縁はあったのだろうかと疑問すら浮かぶ程ですよ、僕――……いや、我々は」

彼女はあの雨の夜からずっと私のもとにいる。
それこそ数年前のように、いやさ、まるでその続きを今正に実現せんとするかのように彼女は私から離れる素振りをみせない。
私としては何一つ問題はなかった。元より後悔があった上に、結果として彼女と再度心を通わせることが出来ている。
その事実だけが重要であり、その他のことにさして思うことはない。

(´・ω・`)「とは言えお気づきなんじゃあないですか。そもそも彼女があなたから離れたことなどこの二年の間に一度もないと」

ξ゚⊿゚)ξ「さあ、さっぱりですわね」

明確に二年の月日だったと告げられて私は曖昧だった虚無の期間に一人で納得する。
未だにその間の記憶は曖昧で、日々は飯を食って寝て大学に通うだけのあまりにも機械じみた生活だった。
それこそが私の最も望んだ生き方だったろうに、その日常に何一つ感慨もないものだから、当人の望む理想や憧憬などというものは、存外、的の外れたものなのかもしれない。
0077以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:40:13.317ID:rX2gtCqA0
ブーン系とかマジかよ
ただ地の文多いのは脳みその限界超えるから支援だけしとく
0078以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:40:42.918ID:ySNMbRfK0
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(´・ω・`)「まあ順を追っていきましょうよ。あなた自身の感じている、なんともご都合主義な現状に対する納得だって必要でしょう」

それは貴様等が納得する為の言い訳ではないのか、と言おうとしたが言葉を呑んで適当に頷いておく。

(´・ω・`)「そもそも彼女はあなたから別離を望まれて頷いた訳ですがね、彼女は心底あなたを想っている。そうとなれば頷くでしょう。
      まして彼女自身が起因となる問題であるなら尚更だ、元より恋人の関係でもない上に繋がりと言えば身体だけ。
      で、あるなら関係なんて普通の恋仲の間柄よりも尚、さっぱりと終えることが出来るというのも、彼女にとっては好都合だったでしょうね」

饒舌に語る男の表情は至って普通だ。そこに怒りや憎しみといった負の感情はない。
淡々と語るだけで、私は男の言葉に耳を傾けつつ手元にある飲み物を啜る。

(´・ω・`)「第一に切り離したのは多くの恋人たちでしたかね。身体の関係のみの相手とも距離をおいて、一つ一つの問題の解決に迫った訳です。
      とはいえ突然に別れを切り出される訳ですから納得しない男もいますよ、僕もそのうちの一人でしたけども」

ξ゚⊿゚)ξ「ふーん」

適当に返事をする私に男は言葉を続ける。

(´・ω・`)「次に近しい人々の選別でしたかね。選別ですよ、選別。意味、分かりますか?」

ξ゚⊿゚)ξ「言葉のままに選んで別けるということでしょう」

(´・ω・`)「ええ。端的に言えば彼女の行動や思想だとかに疑問を抱かないような……
      要するに表面上のみでの付き合いで済む人物だけが彼女の傍におかれることになった、という訳です」

ξ゚⊿゚)ξ「まるで女王様だわね」

(´・ω・`)「ですが元よりその気質ですしね、間違いではないですよ」

あっけらかんと言う男の言葉に私は嘲笑のまま鼻を鳴らす。
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2022/09/13(火) 19:42:34.520ID:ySNMbRfK0
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(´・ω・`)「結局、全ての整理整頓を済ますまでに二年の月日を要したと。彼女の近況とか知らないでしょう?」

ξ゚⊿゚)ξ「幾度か構内で見た程度だわよ」

(´・ω・`)「そんなもんでしょう。なら気づかない筈ですよ、彼女の傍にいる人物たちの入れ替わりようといったら激変したどころじゃない。
      それこそ表面上の付き合い程度の、言ってしまえば顔見知りで済むくらいの連中が今の彼女の取り巻きですから」

そう言われて私は尚のこと呆れる。

ξ゚⊿゚)ξ「多分、元々全員をそういう風に見ていたと思うわよ。それがより見て取れるようになったってだけでしょうよ」

(´・ω・`)「……でしょうね。ですがそこまでの行動をする程に彼女は必死だったんですから、あなたはとんでもない人物ですね」

果たしてそれは賞賛か蔑みかは分らなかったが、言葉を無視して再度コップの内容を飲む。

(´・ω・`)「でもそれが済んだところで手段も状況も不足していたのですよ、彼女にとっては」

ξ゚⊿゚)ξ「不足」

(´・ω・`)「ええ。先ずをして心配だったからお得意のままにあなたを影からずっと見ていたり、ね」

寄越された台詞だが、しかし私は特に驚きもせず、相変わらずに無表情のまま対面する。
そんな私の様子に男は目を瞑り、これもまた恐ろしい人物だ、とだけ呟いた。

(´・ω・`)「そもそもあなたの行動パターンは二年前に把握していた訳ですよ。あなたと恋人ごっこをする以前に散々付き纏っていたでしょう」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、そうね」

(´・ω・`)「で、あるなら……あなたをどこからでも監視出来ますよね。例えばよくいくコンビニだとか。あなたの行動する時間帯だとかも把握出来ますよね」

ξ゚⊿゚)ξ「……そうでしょうねぇ」

(´・ω・`)「それも気取られないように、時には誰かを都合のよい風に使ったり、ね」
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2022/09/13(火) 19:44:26.191ID:ySNMbRfK0
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ξ゚⊿゚)ξ「まあ……出来ちゃうんでしょうね。周りには別れを告げられたとはいえ未だに御執心な男共もいるし人員に不足はないでしょうね」

(´・ω・`)「……つまり、そういうことですよ。それが二年もの間、あなたと彼女の周りで起こり続けていた訳です」

そう言われた私は、やはり特に反応もせず、飲み干した容器を手に取り、適当に観察するくらいなものだった。
そんな私の様子に彼はやはりというか、諦めたように首を振るだけで、結果的に私に対するこの報告に意味はなかったのだと悟った様子だった。

(´・ω・`)「……恐ろしいと感じたりはしないのですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「何を?」

(´・ω・`)「彼女を」

寄越された質問に私は少しばかり口を閉ざすが、天を見上げ、次いで視線を横へとそらし、窓辺から見える外の景色を捉えると小さく微笑む。

ξ゚⊿゚)ξ「そんな獰猛な様こそがいいんじゃないのかしらね」

(´・ω・`)「獰猛、ですか」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ。まるで獣ではないの。己の持ち得るもの全てを利用してでも是が非でも手に入れんとするその必死さって、ある意味羨ましいでしょう」

(´・ω・`)「……その気持ちが、我々には足りなかったのでしょうかね」

ξ゚⊿゚)ξ「どうかしらね。少なくとも二年前に私はあなたに言ったわよ。己の心に従えばいいと、是が非でも手に入れんとするなら他者の意思すら粉砕しろと」

私は立ち上がる。外の景色に視線をやった時、そこには見知った人物がいた。
今日の予定を告げた覚えはなかったが、どうやら告げるまでもなく、その人物は全てを理解し掌握しているらしい。
その手練れの様に自然と笑ってしまうのは、呆れが礼にくるというか、言い換えるなら天晴とでもするか。
つまり、誰もがその人物には敵わないという訳で、私は男への興味が完全に失せると背を向ける。
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2022/09/13(火) 19:46:46.278ID:ySNMbRfK0
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(´・ω・`)「結局、あなたには勝てなかったのですね、我々は」

ξ゚⊿゚)ξ「これは勝ち負けの話しだったのかしら」

(´・ω・`)「違いますか?」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、残念ながらに」

縋るような声の調子だった。既に興味は失せていたが、私は最後の言葉として彼へと振り返る。

ξ゚⊿゚)ξ「トロッコ問題だろうと崖に掴まる妻や母だろうと、選択の余地はたったの一つだと決めつけるその欲の薄さが答えよ。
      死者は必ず出るのではないのよ。失いたくないというのいならトロッコをぶち壊し崖に掴まる人物全員の腕を掴んで引き揚げなさいな。
      用意された当たり前や普通や答えだなんてものに頷くばかりの人生なら、そこが限界の際だわね」

(´・ω・`)「……現代人らしからぬ、理想主義者の言葉ですね」

ξ-⊿゚)ξ「そう思う程度だからその程度でしかないのよ。それではさようなら」

答えを体現した人物に振られるのだから、やはり彼やその他の取り巻き共に彼女を完全には理解出来まい。
別に私だって完全な理解をしている訳ではない。結局のところ同じ人間という生き物なだけで彼女と私は他人だ。
だが、彼女は本物の蝶になったという、その事実だけが重要であり、彼等は溢れる程の火炎を前にして羽を焼き尽くされて終わっただけの話しだ。

ξ゚⊿゚)ξ(彼女を殺してでも独占すりゃよかったのに)

独占や支配の行き着く最終形態は死だ。その人物の持つ心や精神どころか意思の全てを破壊し単一の無機物にしてしまえばそれで完了となる。
それが目指すべきエンドロールかと問われたらば否と言わざるを得ないが、この世の中にはそうでもしなければ手に入れられない人物もいる。
何もかもを燃やし尽くしてでも目的を完遂する為に行動する人物を我が物にせんとするならば、やはり命の一つや二つくらいは奪わなければ太刀打ち出来やしない。

ξ-⊿-)ξ(普通とかいう言葉の柵は、世の均衡を保つための言葉なのでしょうね)

理解できないままでいた私は一つの学習としてそれを受け入れた。
成程、人間社会において普通という言葉の真なる意味というのはセーフティであり、安全策なのだろう。
その言葉は呪いに等しいが、その呪いがあるが故に千差万別の世は成り立ち、一見機能していないと思われる道徳倫理というのは自衛の為の盾でもあり剣なのだろう。
何せ人間は皆が違う生き物だから、誰もが皆強い訳ではないし数多の壁を乗り越えていける訳でもない。

ξ゚⊿゚)ξ(意外とよく出来てんなー……いやはや人間様の叡智とやらは誠に恐れ入るわね)
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2022/09/13(火) 19:49:38.992ID:ySNMbRfK0
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それでもその枠組みから逸れる人間だっている。犯罪がその最たるものだが、それとはまた別に、己の魂のみが絶対の掟とする社会不適合者がいる。
私はそれだ。どれだけ理解や納得が出来ても、やはり私にとってして先の男やその他の人物たちの不出来な様には共感が出来ないでいる。
結果的に支配されたのは彼等であり、結末と言えば敗北だとかと現状を勘違いするくらいに自分本位な連中だった。
そこに本質はない。本質は彼女の心の裡に触れ、理解出来たかどうかが全てだ。

ξ゚⊿゚)ξ-~「とは言え……理解しようにも、それを手懐け己の意のままに出来るかどうかはまた別の問題なんだけどもね」

私は外に出ると同時に煙草を咥える。
空にはどんよりとした雲がある。それがゆっくりと流れていて、微かに香る雨のニオイに私は面を顰めつつも火を灯した。
相も変わらず若い男や女の行き交う洒落た通りだった。だが私が紫煙を燻らせるとそれだけで道は開ける。
私は開けた道を歩む。そう遠くない位置に一人の人物がいる。先の店内からその姿を確認した時、既に私の興味はその人物にしか向かわなかった。
誰もがその人物を見ている。通りすがるその時に、ふと視線を泳がせた時に、なんとなし振り向いた時に、各々の状況は数あれど、一度でも視界に入ればその美貌に見惚れる。
そんな人物は嬉しそうに笑いながら私を見つめている。私は笑みを返さない。だが迷いのない足取りのままにその人物へと歩み寄り、紫煙を振りまき景色を往く。

ξ゚⊿゚)ξ-~「こんなとこで何やってんのよ、あんたは」

ζ(^ー^*ζ「ふふーぅ、さて何でしょうね? 元カレと密会している彼女さんをつけまわしてみたりとか?」

彼女は笑う。紫煙を纏う私の胸の中へとやってきて、誰の目があろうとも気にせずに強く抱きしめてくる。
梅雨の午後の往来で恥じらいもなく、けれども私も彼女も数多の存在を気にするでもなく、いつものままに、当たり前のように言葉を交わす。

ξ゚⊿゚)ξ-~「要らん世話だわよ。大した話しでもなかったし」

ζ(゚ー゚*ζ「えー? どうせ恨み言でも寄越されたんでしょ? ぼくたちのデレちゃんをかえせー、とか」

ξ-⊿゚)ξ-~「いやいや、そこまで腐ってはなかったわよ。なんか知らんけど負けたらしいわよ、私に」

ζ(゚ー゚*ζ「……? 何か勝負でもしてたの?」

ξ-⊿-)ξ-~「さあ、さっぱり理解できなかったわ」

私は彼女と歩き始める。あの二年前の夜を越え、梅雨の曇り空の下をいつものように、当たり前のように歩き始める。
私は彼女に悪女だと言った。彼女はそれに対して仕方がないと言った。
手慣れたように、当たり前のように、私が限界まで落ちたあのブルースの宵闇に現れるべくして現れたように、彼女は己の所業を仕方がないで済ませた。

ξ-⊿゚)ξ-~(それはきっと自然なことなのよ。炎に羽虫が集うのと同じく、己が羽を燃やしてでもより近付き我が手にせんとするなら、きっと、それは自然なのだわ)

全ては御都合のままではない。二年前のあの夜から彼女の全霊を賭した思惑は始まっていた。
先の男に告げられた内容の全ては凡そのところで想像出来ていた。ほぼほぼ的中していたが故に驚愕もなく、また、特に感想も抱かなかった。
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2022/09/13(火) 19:51:45.722ID:ySNMbRfK0
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だってあまりにも不自然過ぎる。
どれだけこの世に都合のよいことはあれど、あの時程に彼女が望んだであろう最高の状況はありはしなかった筈だ。

二年の間、私に一切接近しなかった理由は単純なものだろう。
私を限界まで疲弊させて、散々なまでに罪悪感を抱かせて、その重みに耐えきれずいよいよ膝を折る――そんな折りに出くわせば流石の私だって陥落する。

何せ求め続けていたからだ。何せその為に部屋の扉の鍵を開けっ放しにしていたからだ。

色気のないコンビニというのも拍車をかける。
日常のありふれたシーンこそが過去に体験した思い出の数々を蘇らせる。
追憶の中に希望すら抱き、それが実現すればと願いもする。

してやられた、というべきだろう。
けど彼女は仕方がないで済ませ、いつものように無邪気に笑うのだから、最早私には抗うことなど出来ないしそんな意思すら生まれない。

ξ゚⊿゚)ξ-~「いずれ私も燃やし尽くされるのかしらね」

ζ(゚ー゚*ζ「そうなればどっこいどっこいじゃない? 何せここまでさせる程に私は燃やし尽くされた訳ですからねぇ」

ξ゚⊿゚)ξ-~「お互いさまって訳?」

ζ(゚ー゚*ζ「いやぁ、それはどうかな? 少なからず私の方が遥かにツンちゃんを愛してるし」

ξ;゚⊿゚)ξ-~「何そのガキみたいな台詞、恥ずかしくないの?」

ζ(゚ー゚*ζ「別に~? 結果的に欲しかったものは手に入れたから恥じも糞も気にしませーん」

まるで子供のままに彼女は駆け出して私の先をいく。

ζ(゚ー゚*ζ「あ! ツンちゃん、雨降ってきたよ!」

そんな時、灰色の空から雨が降ってくる。
小さな水滴がまばらに宙を舞い、勢いは弱いにせよ、それらは私たちへと降り注いでいく。
次第にその威力は強まるだろう。ゆるやかな風に紫煙が攫われ、その風の往く先に立つ彼女を見つめる。
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2022/09/13(火) 19:52:31.682ID:ySNMbRfK0
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ζ(゚ー゚*ζ「……やっぱりね、このニオイだなぁ」

ξ゚⊿゚)ξ-~「ん?」

ζ(゚ー゚*ζ「好きなんだ、このニオイ。雨とくっさい煙草のニオイ」

ξ;-⊿゚)ξ-~「臭いのに好きって何よ、妙な感性してるわね」

ζ(゚ー゚*ζ「いやぁ、だって嗅ぎなれたニオイだもん。ツンちゃんのニオイそのものじゃん? 雨と煙草と湿気た空気がさ、ツンちゃんの部屋であり、ツンちゃんそのものだもの」

だから大好きなんだ、と彼女は言う。
次第に雨が強まり、私は咥えている煙草を強く吸い、煙を喫みこむ。

ξ゚⊿゚)ξ-~「そんなにいいニオイじゃないでしょうよ。例え私のニオイだっつってもさ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうかなぁ? 私は凄く好きだよ。だってさぁ」

彼女はそこで一度言葉を切る。
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2022/09/13(火) 19:53:04.832ID:ySNMbRfK0
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ζ(゚ー゚*ζ「ツンちゃん以外の全部がいなくなるじゃない。このニオイの中だけはツンちゃんと私しかいないじゃない?」





ξ゚⊿゚)ξ-~「…………」









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2022/09/13(火) 19:55:19.434ID:ySNMbRfK0
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例えば燃える火に照らされる羽虫の中に、蝶がいて、蛾もいたら。
私はその羽を燃やし、二度と飛べぬようにと出来たかもしれないのに。

陽の光は確かに火炎よりも温かく、朝になれば誰しもに居心地のよい世界を創り出してくれるだろう。
だがそこに居場所を必要としない人だっている。
私は私だけであればよかった。彼女は彼女のままでありたかった。
向かう先も目的も違えども、それでも私たちにとって、この紫煙の燻る灰色の世界こそ居心地がいい。

雨垂れの空を見上げて私は煙を吹かす。それと共にまろみを帯びた風が私を包み、いつものように私の境界線を作る。
そんな境界線の中に軽々と踏み入る彼女は、己のあるべき姿と生き方を実現せしめた麗しき蝶だろう。

身を焦がす程の火炎を裡に秘め、その温もりこそが陽よりも居心地のよいものだからこそ、私もまた、安心して背の羽を燃やし、己そのものが火炎となることが出来る。

私たちはもしかしたら、お互いを焦がし続けるだけの危うい関係性なのかもしれない。
互いは互いに温もりを見出し、憧れを抱き、愛しさを抱き、ないものを強請る子供の同士かもしれない。

それでも彼女は私を蝶と呼び、私も彼女を蝶と呼ぶだろう。
例え他者から見た時に蛾のような悍ましい色合いを放つ羽だとしても、それを蝶と呼ぶも何と呼ぶも全ては己の意思の次第の筈だ。
そうありたいと願い、そうあるべきと思い邁進するが故に私たちは燃え続け、羽を打ち鳴らし夜を越えていける。

ξ゚⊿゚)ξ-~「……まあなんにせよクサイもんはクサイって訳でしょ。そこばっかは否定してないし」

ζ(゚ー゚*ζ「まあねぇ。でもほら、皆散り散りになってお店に入ったりしてるじゃん? こんだけの都会なのにもう通りに人の数が少ない、すごーい!」

ξ゚⊿゚)ξ-~「そりゃ雨に濡れたがる人はいないでしょうよ。英国人じゃあるまいし」

ζ(゚д゚*ζ「あ、偏見だー! あんまり傘ささないらしいけど大雨になったら流石にさすらしいよ?」

ξ゚⊿゚)ξ-~「如何に恵みの雨だとか言っても、根本的に水に濡れっぱなしなんて多くの人が嫌がるってことだわね」

ζ(゚ー゚*ζ「けど居心地いいけどなー……どうせだしこのまま雨デートしよ? 折角の休日だしさ!」

ξ゚⊿゚)ξ-~「しかしそうは問屋が卸さんのよ。何せ我々は最大の過ちを犯したからね」

ζ(゚ー゚*ζ「え?」

ξ゚⊿゚)ξ-~「今日、大量の洗濯物したでしょうがよ。そんでこの雨だわよ。もっと強くなることを考えてみなさいな」

ζ(゚ー゚;ζ「……こりゃてーへんだぁー! 急いで帰らなきゃだよ、ツンちゃん!」

ξ-⊿゚)ξ-~「ええそうよ、こんなところでのんびりしている暇はないって訳なのよ。だから……」
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2022/09/13(火) 19:55:41.879ID:ySNMbRfK0
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私は彼女の手を掴む。

雨の中、いつものように、毎度のように。

紫煙を纏いそれを燻らせながらに。

私たちが私たちであることを確認するように。




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2022/09/13(火) 19:56:09.750ID:ySNMbRfK0
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ξ゚ー゚)ξ-~「家に帰るわよ……デレ」






ζ(゚ヮ゚*ζ「っ……うん!!」







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0089以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:56:38.000ID:ySNMbRfK0
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彼女と共に私は歩いていく。

いつものように、毎度のように。

雨の中、火炎を抱き、それを揺らめかせながら。

背の羽が濡れてしまわぬように、身を寄せ合いながらに。

私たちは寄り添い、歩いていく。






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0090以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:57:22.067ID:ySNMbRfK0
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   終





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0091◆hrDcI3XtP.
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2022/09/13(火) 19:57:49.076ID:ySNMbRfK0
久々のVIPはよーござんした
んじゃまた夏に
0092以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 19:58:28.571ID:sJZ/ZFOt0
乙レズツン
0093以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 20:03:02.928ID:CJioe9G/a
ブーン系とかまだ生きてたのか
おつ
0094以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 20:08:37.247ID:XMdknO0q0
普段はしたらばで活動してるみたいだな
0095以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
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2022/09/13(火) 20:29:51.458ID:bBJ2DiHj0
おつ!
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