【小説】桜も満開すぎて散りはじめるし即興で小説書こうぜ【ワナビ】
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予定と称して、冬の聖夜に日雇いバイトを入れるのは珍しくないはずだが、春にも同じ行動をとる輩がいる。
かく言う自分もその一人で、花見頃の市立公園では緑地課が短期アルバイトの募集をかけるのだ。
見物客のマナー違反を咎めるのは市の職員のおしごとで、我々のような素人の作業といったら、興醒めかもしれないが散った桜の後始末だ。
閉園後かあるいは日没後、訪れる人々から隠れてこっそりと園内を箒がけするのは実は大変な重労働で、これもほとんど本職の清掃員が担っている。
ではお前は何をやっているのかと問われたら、花筏を処理しています、と答えている。 桜の花弁が最も美しく花開く時、私は彼女の大陰唇をについて思いを馳せずにはいられない。 花筏、つまり散った桜の浮き舟は、落ちてすぐは水面に薄紅色のかわいい絨毯でも敷いたかのようで綺麗なのだが、これがしばらく経つと茶色く褪せていってしまう。
ごみが浮いてるなどと思われる前に、お堀へ水を汲み上げているポンプの流量を調節し、川へと流れていくよう仕向けるのだ。
「結局、花筏はどこに行っちゃうんですか?」
誰がどう考えてもそれを解き明かす話の腰を折って、冗談みたいな名前の新人アルバイト花子ちゃんが質問をぶつけてきて、俺は厳かに咳払いをした。 「説明してやろうと思ったけど、やっぱやーめた。自分で確認しなさい」
「えー、そこが聞きたかったのにー」
作業員共通のオレンジ色のジャンパーを二人して着て、こんなやりとりで役得と思ってしまう程度には寂しい日々を送っている俺は正直うかれてしまっていた。
じゃあ始めるぞ、と声を掛け、竹柵から手を離して覗きこんでいたお堀から数メートル離れる。
地面にある黒い鉄製の蓋をあけてT字の棒をさしこんで回し、ポンプの調節を行なった。 昼間書いてたのはここまで
みんな適当にどんどん書いてってくれ お堀のほうから聞こえる水音が激しさを増す。
さきほどと同じ水際の竹柵にまで戻ってしばらく監察していると、水位が徐々に上がっているのが見てとれた。
「花筏がどんどんのぼってきますね」
「水位がある点を超えると、川に流れ出ていくんだ。お風呂が溢れるのと一緒だな」
両手で柵をしっかり握り込んだ花子ちゃんは聞いているんだがいないんだか、水面から目がはなせないようだった。 今ちょうど眺めているお堀の水際の右手に、木の板をわたしただけの古めかしい堰があり、それを超えた水と桜の花びらが滝となって、下を流れる川へと注いでいく。
「花筏の川下りですね、でも公園外ではあんまり浮かんでるのを見ませんが?」
「そこが筏の終着駅なんだよ。川に至るずっと手前、あそこの滝壺でたいていの花びらは水を吸いすぎて沈んじゃうんだよ」
「花の沈没船ですね」
こちらが感心して顔をのぞきこんでも、花子ちゃんの視線は相変わらず桜を追いつづけていた。 「さっ、今日の仕事は終わったも同然。花子ちゃんはお花見とかしないの?」
さり気なく言えたはずだが、胸の内では威勢のいい火消しがこれでもかと早鐘を打っていた。
「私が、ですか? 先輩も人を見る目が無いんですね」
「いや見る目はある方だと思うけど」
後ろ手にくるっと回って花子ちゃんがジャンパーの背中を見せる。
「じゃあ私とします? お花見?」
二の句が継げずおもわず一瞬、間が空いてしまう。
行こう、と口から出る前に、なーんて冗談ですよーと先を越されて、千載一遇のチャンスは敢えなく終わった。
散った桜の花びらは留まる処を知らず、水底につぎつぎと沈んでいった。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています