男「ダムはいいぞ~」
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男「齢30にして、恋人すらいない」
男「友人たちも、俺を忘れたかのか連絡の一つも寄越さない」
男「安物のソファーで、乾いた豆をつまみながら甲子園球児を眺める日々だ」
男「ケチって冷房をつけず、扇風機の風にあたってるが汗がにじんでくる」
男「部屋中の窓を開けているせいで、ワシワシと健気になくクマゼミの声がやたらとうるさい」 男「先日の台風のせいで、仕事もできず長い長い盆休み」
男「長い退屈は憂鬱を作る」
男「日も明るいうちから酒でも飲もうかと思ったが」
男「あとで体重計にのって後悔することを考えると躊躇してしまう」
男「自暴自棄にすらなれない自分に、年相応の老いを感じてしまう」
男「そしてそれが、更なる憂鬱が生む」 「ダムは良いぞ~」
男「そういえば、いつだったか」
男「兄貴が『ダムはいいぞおじさん』になってた時期があったな」
男「……」スマホポチポチ
男「へえ、九州最大のダム。結構近くにあるんだ」
男「部屋で暗雲低迷としているよりは、幾分か有意義な休日となるかもしれん」
男「行ってみるか」 ⛰ 🏍 🏢
男「真夏のツーリングというのは最悪だな」
男「照りつける太陽と、燃え上がるエンジン」
男「とにかく熱い」
男「そのうえ、スピードを出すとエンジンが震えてケツが痛い」
男「くそったれ、思い付きで出かけるべきじゃなかったか」 男「……と思っていたが」
男「山道に入ったら一気に涼しくなったな」
男「スピードを押さえたらエンジンも静かになったし、快適快適」
男「お、見えてきたぞ」
男「あれが、九州最大のアーチ式ダム」
男「一ツ瀬ダムか」 男「駐車場とかないんだな。まあ交通量も少ないし道のはじに停めればいいか」
ミンミンミンミン
男「ミンミンゼミが鳴いてるな。なんでだろうか」
男「アパートで聞くクマゼミよりどこか気持ちのいい鳴き声だ」
男「川から上がってくる風も気持ちいい。出かけてみてよかったな」 男「一ツ瀬ダムでかいな」
男「ところで、アーチ式ダムって一体何なんだ?」
男「それにアーチ式にこだわらなければ、九州にはもっとでかいダムがあるのかな」
男「うわ、ダムの上流きったね」
男「黄土色の水で満杯じゃん」
男「しかもくせえ」 男「それに、放流中って電光掲示板を見たけど」
男「チョロチョロと水を流しているだけじゃねえか。期待外れもいいところだ」
男「……」
男「だけど……」
男「それでも、こんなでかい構造物を人間が作ったのか」
男「なかなかいいな」 ♰ 🏍 ⛰
男「さて、帰るか」
男「なんだか、痛む尻を思えば安物のソファーでも恋しく思えてきた」
男「……ちょっと寄り道するか」
男「一ツ瀬ダムは、臭いし期待外れでもあったけど。それでも、なかなか良かった」
男「だから、『ダムは良いぞおじさん』にお礼でも言いに行くか」
男「とりあえず、手土産にコンビニでビールでも買っていこう」 男「ここに来るのも久しぶりだな」
男「よう兄ちゃん」
男「いつだったか兄ちゃんが言ってたダム見に行って来たぜ」
男「おいおい、なんだよ百合の花なんか飾っちゃって、誰からの贈り物だ?」
男「……まあ、盆だしな。誰かしら来てたんだろ」
男「ごめんな、家族なのに迎え火も焚かないで」 男「思い返せば、俺の趣味は全部兄貴譲りのものばっかりだな」
男「バイクも、映画や漫画も、それにダムも」
男「兄ちゃんは、俺にとって遊びの師匠だったんだな」
男「まあ、嫌いなところもいっぱいあったけど」
男「俺のことしょっちゅう小突くし、金もけっこう貸した」 男「だけど、まあ」
男「この憂鬱な盆休みにダムの良さを思い起こさせてくれたことに免じて許してやるよ」 🛋 λ.... 🏍
男「ほんの数時間空けただけなのに、もう部屋がサウナ状態だ」
男「まあまあ、とりあえずビールだ」
男「うわあ、ぬるくなってる」
男「買いなおせばよかったな」
男「まあ、それでもビールはビールだ」ゴクゴク 男「かーっ!うまい!」
男「さて、ツイッターもといエックスで」
男「ツイートもといエクセズもといポストでもするかな」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています