大阪府吹田市の交番で2019年6月、警察官を包丁で襲って拳銃を奪ったとして強盗殺人未遂などの罪に問われた男性被告(36)を逆転無罪とした大阪高裁判決について、大阪高検は3日、最高裁への上告を断念することを明らかにした。高裁は男性は重い精神疾患で心神喪失状態だったとして、刑事責任能力はなかったと判断していた。同日の上告期限が過ぎた段階で、男性の無罪が確定する。

【警察官が刺され、拳銃が奪われた交番】

 高検の小弓場(こゆば)文彦次席検事は「判決内容は十分検討したが、適法な上告理由までは見いだしがたいため上告は断念した」との談話を出した。

 男性は大阪府警吹田署千里山交番の駐車場で19年6月16日早朝、男性巡査長(30)の胸や腕を包丁で刺して重傷を負わせたほか、実弾5発入りの拳銃を奪ったなどとして起訴された。公判では起訴内容に争いはなく、統合失調症の治療中だった男性の責任能力の有無が争点だった。

 男性は事前に交番の勤務態勢をスマートフォンで検索するような計画的な動きを見せる一方、逃走中に履歴書を購入する不自然な行動も確認されており、疾患の影響に関する精神科医の鑑定結果は分かれた。

 3月20日の高裁判決は「病気が計画や全ての行動に影響した」とした鑑定医の意見を重視し、「銃を奪おうとした動機は幻覚や妄想による極めて唐突で奇異なものだ」と指摘。重い疾患の影響で自らの行動を制御する能力は失われていたとして、懲役12年とした1審・大阪地裁判決(21年8月)を破棄し、一転して無罪を言い渡した。

 地裁は事件前の合理的な行動に着目した別の鑑定医の意見を踏まえ、限定的な責任能力を認めていた。

 心神喪失などを理由に無罪が確定した場合、裁判所は一般的に「心神喪失者等医療観察法」に基づき審判を開く。裁判官は精神科医との合議で、強制入院や通院などの適切な処遇を決めることができる。【沼田亮、古川幸奈】