【タイトル】
お湯加減

【本文】
「今日も疲れたなあ」と思ったエヌ氏は、帰宅するとすぐにお風呂に入ろうとした。しかし、浴室のドアノブを回すと鍵がかかっていた。「あれ?妻は?」と思ったエヌ氏はリビングに行ってみると、妻の姿は見当たらなかった。テーブルの上に置かれたメモが目に入った。

「今日は友達と食事会だから遅くなるわ。お風呂入って待っててね」

「そういうことか」と納得したエヌ氏は再び浴室へ向かった。鍵穴から覗くと中から青白い光が漏れていた。「何だろう?」と不思議に思ったエヌ氏はドアノブを叩き始めた。「開けてください!誰かいますか?」

しばらくするとドアノブが回り始めた。「よし!」と思ったエヌ氏だったが、その瞬間ドアノブから強烈な電流が流れ込んだ。「ギャー!」と叫んだエヌ氏は床に倒れ込んだ。

気付いた時には救急車で運ばれていた。「何が起こったんです?」と聞くエヌ氏に医師は答えた。「あなたの家では最近エコロジー浴槽(Eco Bath)という製品を使っていますよね?」

「そうですけど」

「それが原因です。エコロエコロジー浴槽というのは、水を使わずに電気でお湯を作るという画期的な製品です。しかし、その仕組みは非常に危険で、電気が漏れると大火傷を負ったり感電死したりする可能性があります。あなたの妻はそのことを知らずに鍵をかけてお風呂に入ったのですが、その時にショートしてしまいました。そして、あなたがドアノブに触った時にも電気が流れてしまったのです」

「ええ!?妻は大丈夫なんですか!?」

「残念ながら…」

医師の言葉は聞き取れなかった。エヌ氏は涙で目が見えなくなっていた。