0001以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします
2023/02/23(木) 05:45:57.281ID:DYqZNnjz0俺はいつも通り歩いて勤務先に向かう最中で(交通費も出せないほど金が無い訳ではない。ただ単に家から近いだけだ)
さっきまでは10メートルほど先をひょこひょこと黄色い帽子が上下に動いていた。
さて、数十メートル先まで曲がり角がない状況であの謎の物体が視界から消えたという事は。
俺は空を見上げてみた。いつにも増して太陽が眩しい。なぜ俺はこんな爽やかな日にクソみたいな勤務先に向かわなければならないんだ。
ただでさえ上司のニヤついた顔を思い浮かべるだけで胃が痛いのにこの上通勤中にトラブルとご対面なんて御免被りたい。
ところで、聞こえないようにしているがぴーぴーと鳴く何かが足元で蠢いている。きっと気のせいだろう。
俺はいつものように太陽にガンを飛ばしながら10分にも渡る長い長い通勤路を歩いていくのだ。
足元にある物体を左に避け、青い空を見て歩く。
俺はいつもの決まった行動を崩されるのが極端に嫌いだった。
朝起きたらニュースのヘッドラインを見る。コーヒーとパンで朝食。ヒゲを剃りながらニュースキャスターの谷間をチェック。そういえばお気に入りのボインちゃんは今日はお休みだった。調子が狂う。
そんな取り留めのない思考を巡らせながら交差点の前で立ち止まった。信号ってどうみても緑なのになぜ青信号なのだろうなどと無駄な思考で時間を潰していると、
後方からよーちよち。とか。大丈夫でしゅよー。とか、お前マジかと言いたくなるようなガチガチの所謂赤ちゃん言葉が聞こえてくるではないか。
世の中には善人ってのがいるもんだ。俺には真似できないね。せいぜい少ない人生の時間をその尊い行動に費やしてくれや。俺は先行くから。
と、心の中で毒を吐いたが気の迷いなのか。
普段はこんな事ないのだが何故か少しだけ気になったので後方を振り返った。
時が、止まった。
いや本当に時が止まった気がしたんだ。
体長100センチに満たないであろうぴーぴー喚く物体を抱き抱えているのはポニーテールに白ブラウスの…大学生だろうか。
聞いてるこっちが恥ずかしくなるような言葉遣いで、痛くないでちゅかーとか歩けましゅかーとか言ってる。
彼女はずっと笑顔で転んだ子供を励ましていた。
俺の前にある歩行者信号は青く点滅していた。
きっと、見惚れていた。
というか。
ママ!ぼく仕事いきたくありましぇん!とか思わず幼児退行したくなってしまう衝動に駆られてもいた。
あれ?俺ってそういう属性だったの?これってマズイよなぁと思っていたら信号が赤に変わってしまっていた。
少しだけ頬が熱い気がした。
俺は決められた行動を変えるのが嫌いなんだ。
自分の行動倫理を再確認しつつ2回目の赤信号を横目にしながら白ブラウスの彼女を遠くから、見つめていた。