命乞いをする住民を銃殺し、最後に手榴弾を投げ込んだ
洗い物をしていたのか、手をタオルで拭きながらマンさんが家のなかから出てきた。マンさんは、私を見るなりほころんでいた顔を急に強張こわばらせ、「韓国人かい?」と小声で言った。「いえ。日本人です」。そう私が答えると、マンさんの表情は少し和らいだ。

ベトナム中部の取材を始めてから、ライダイハンが住む村や韓国軍による民間人殺害事件が起きたとされる村で、私は韓国人に間違えられることが多くあった。特にベトナム戦争を知る世代の人からは、露骨に無視されることがあり、明らかに煙たがられているなと感じたこともある。

「ひと月ほど前、韓国人数名が石碑にお参りをしているところを見かけたんです。韓国人を見ると今でも恐ろしくて」。そう言いながら、マンさんはダオと私を自宅に招き入れた。そして事件当時の様子をゆっくりと語り出した。

「……日が昇ると同時くらいにヘリコプターの音が聞こえ、北の方角から韓国兵が村に押し入ってきました。村人らは家に隠れているとベトコンだと誤解されるので、家族を集め、外に出たんです。男たちは殺されるからとほぼ全員がその場から逃げました。

https://president.jp/articles/-/60464?page=5