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2023/01/26(木) 08:20:32.920ID:xmnzhj/K0運転手は後ろを振り向くと、気違いでもみるような顔をして僕を見やがった。「どんなつもりでそんなことをきくんかね、あんた」と、彼は言った。「おれをからかうつもりか?」
「とんでもない――興味があったからさ、それだけだよ」
彼はそれ以上なんとも言わなかった。それで僕も黙っていた。〔注2〕
「魚はどこへも行きやしねえぞ。あいつらは、てめえたちがいるところから動くもんじゃねえ、魚って奴はな。湖の中から動きやしねえよ」
「魚か――そいつは別さ。魚は別だ。僕は家鴨のことを言ってんだよ」
「どこが違う? なんにも違いやしねえじゃねえか」ホーウィッツはそう言った。彼の場合、何を言っても何かに腹を立ててるみたいに聞こえるんだな。「魚のほうが、家鴨よりもよっぽどつれえんだぞ、冬やなんかにはよ。頭を使いな、頭を」〔注3〕
「奴らは氷の中にいながら生きてんのさ。奴らはそんなふうにできてんじゃねえか。冬の間じゅう、おんなじ格好で、氷の中にじっとしてんだがな」
「そうかな。じゃあ、何を食うんだい? つまり、氷の中に堅くとじこめられちまったら、泳ぎ回って餌やなんかを捜すことができないだろう」
「身体(からだ)ってもんがあるじゃねえかよ――どうしたんだ、おめえ? 奴らの身体が栄養やなんかを取るんだよ、氷の中にある海藻だとかなんかからさ。奴らはずっと毛穴をあけっぱなしなんだ。奴らはそうできてんだよ。わかったか?」そう言って彼は、ぐるっと振り返って僕の顔を見た。
「そうか」そう言って僕は、話をうち切った。車をぶつけるかどうかしやしないかと、心配でならなかったんだ。〔注4〕