( ・∀・)Ammo→Re!!のようです
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人の中に愛を見つけた者がいると聞いた。
だが私は見つけられなかった。
神の中に愛を見た者がいると聞いた。
だが私は見つけられなかった。
私は、愛を見つけたいだけなのだ。
理解してくれるのは、きっと、神だけなのだろう。
――ある神父の手記より抜粋
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十字教の聖地、セントラス。
静謐かつ荘厳な空気の漂うその街で銃声が響くのは、極めて珍しい事だった。
しかしそれ以上に珍しいのは、セントラス内で戦闘が起きていることだった。
街を守るための“クルセイダー”は遠征しており、外敵との戦闘は銃を手に戦うことを決めた一般市民たちだった。
彼らの信仰する十字教の教えに反する行為だったが、それを破ってでも戦わなければと覚悟を決めたのだ。
だが現実は非情で、奇跡が起こることもなく、一人またひとりと銃弾に倒れていった。
セントラスを攻め落とす為に現れたのは、彼らがこの世界の地図上から消そうとしているストーンウォールの精鋭たち。
戦闘経験も覚悟も段違いだったが、何より、加護と奇跡を信じていないのが大きな差だった。
銃弾の恐ろしさを知るストーンウォールの人間は自らの安全を確保した上で射撃し、英雄的行動などはとらずに淡々と攻撃を加えた。
街の防御はお世辞にも万全とは言えなかった。
特に、外敵からの攻撃に対する防御手段が何もないのは致命的だった。
壁か、あるいは簡易的な地雷原でもあれば展開は違ったことだろう。
多数の車輌を止めるだけの手段がないセントラスは、ストーンウォールの部隊を発見してから僅か3分で侵攻を許してしまった。
街の法律上、路上駐車の存在がなかったことにより、まるで山から流れ込む川の水のように、武装した人間がセントラスの大地を進んで行く。
機動力を生かした電撃戦は、平和に慣れ、自衛手段が手元にないセントラスに対して極めて有効だった。
やがて、川の行き着く先が海であるかのように、ストーンウォールの大部隊はセントラスの中心に集まっていた。
――即ち、大聖堂“ノーザンライツ”。
そこが、セントラスとストーンウォールの戦いの終着点となった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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illllllllllllllllllllllliiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii_:| γ ⌒ヽ
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TIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII了 l⌒ll⌒ll⌒l|
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ラヴニカで起きている戦闘は、依然としてその激しさを増すばかりだった。
初撃の混乱は既に収まりを見せ、ゲリラ戦の有利を失ったラヴニカの人間達は地の利と武器の質を頼りに戦っている。
使用される多くの武器が大量生産されていない物ばかりで、棺桶に至っては初めて起動する類の物も混じっていた。
複雑に入り組み、高低差のある街の構造を知るだけでも彼らにはかなりの利がある。
内藤財団の支援を受けている弱小ギルドも参戦していたが、ラヴニカの意思と反する存在はあらかじめマークされており、早々に殲滅されていた。
彼らの決起は組織立っており、尚且つ計画的だった。
世界規模で起きた同時多発的な内藤財団の戦闘行動の利点は、その突発性だ。
その突発的にも思える攻撃に対し、出鼻を挫くことが出来たのは世界でもイルトリア、ジュスティア、そしてこのラヴニカだけである。
蜂の巣をつついたような反応。
そして祝祭の様な熱狂。
街中に散らばる約8000人の敵勢力に対し、街がほとんど総出で対応すれば、これまでラヴニカで開かれたどんな祭りよりも盛り上がることは必至だった。
素人の8000人ならば即座に降伏する程の抵抗だったが、それぞれが古強者の戦闘員で構成された部隊。
地の利と数の不利を負いながらも、彼らは一歩も引かずに街中で戦闘を繰り広げていた。
極めて小さな探し物。
たったそれだけの為に、ラヴニカは戦場と化していた。
消耗戦が予期されたが、それは長くは続かなかった。
――“灯内戦”の最終局面は、文字通り炎と共に幕を開けた。
拮抗状態が崩れたのは、街に火が放たれてからだった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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第十二章 【 Ammo for Rebalance part9 -世界を変える銃弾 part9-】
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マドラス・モララーが十字教の信者となったのは、生まれた時からだった。
彼の両親は敬虔な十字教の信者で、息子である彼も入信させたのは自然なことだった。
生まれてから彼の周囲には十字教の人間が多く、学校で作った友人も皆同様だった。
宗教は彼にとって、日常生活の一つであると言っても過言ではない環境だったが、それは世界中にいる信者にも言えることだ。
十字教の教えを教育に生かした学校に入り、彼は多くを学んだ。
教養。
友情。
集団生活。
そして、命の事。
彼が初めて命の終わりを見たのは、6歳の時だった。
クラスで飼育していた金魚が死に、校庭に埋めた。
皆が泣く中、モララーだけがその理由を分からずにいた。
死んだ者は皆神の傍に旅立つと教えられていたからだ。
家庭で、そして学校で。
彼は死を悲しむことが理解できなかったが、他にも涙を流していない人間がいたので、自分がおかしいとは思わなかった。
13歳の時、再び彼は死を知ることになる。
彼の祖母が死に、葬式が開かれた。
彼にとって、初めて身近な人間の死だった。
歌を歌い、色とりどりの花で満たされた棺桶に彼もまた花を添えた。
祖母の死に顔は穏やかな物だった。
だが、彼の心は凪いでいた。
祖母にはよくしてもらった思い出しかない。
お小遣いも、おやつも、全てが優しさで溢れていた。
しかし、祖母が急逝したと聞いた時も、こうして死体を見た時も、湧き出る感情は金魚の時と同じく虚無だった。
死は、果たして悲しい物なのだろうか。
神の傍に行くことが悲しい事なのだろうか。
神のいる国は悲しみも苦しみもない楽園だと教えられた。
そう教えた大人たちが、一人の人間の死に対して涙している光景は、彼の目には異常に映った。 モララーが神について学ぶにつれ、疑念が膨らんだ。
神の実在と同様に、聖書に現れる愛という言葉。
その二つはまるで同義の様に語られ、使われている。
つまりは、神と愛は同時に存在し得る存在なのだと結論付けたのは彼が16歳の時。
丁度その時、彼に好意を寄せる異性がいた。
彼と同じ学校、そしてクラスにいる異性だった。
彼の事を好いていると言ってくれた。
年頃の彼にとって、初めての恋愛だった。
彼は恋が分からなかった。
それ故に、この機会を大切にしようと思った。
手を繋ぎ、下腹部に熱い何かを感じた。
口付けを交わし、下腹部に熱いものを感じた。
だが、愛は感じられなかった。
彼の生殖器だけが反応するだけで、心はまるで揺らがなかった。
彼の心を揺るがしたのは、彼女の言葉だった。
「私はあなたを愛しているの、モララー」
愛していると告げられたのは、これが初めてだった。
いや、ひょっとしたら過去に両親が言ったのかもしれない。
しかし彼の記憶にある最初の言葉は、それが初だった。
その時の感情は、彼の記憶に強烈に残されている。
何と。
嗚呼。
何と、陳腐な物なのだろう。
神が皆に与えているという無償の愛。
その正体は、果たして、こんなに安っぽい物なのか。
「あなたは私を愛している、モララー?」
問いかけられ、彼は答えに窮した。
何が正解なのかは分かっている。
だが、ここで答えてしまえばその言葉の陳腐さを肯定することになる。
彼は反射的に答えた。
( ・∀・)「うん」
愛している、と口にしなかったのは彼に残されたたった一つの希望からだった。
「嬉しい」
その時。
世界に、一匹の獣が生まれた。
愛を知る為に、愛を貪る獣が。
16歳、それが彼の最初に殺人を犯した年齢だった。
街から離れた森で、恋人だった異性――名前は忘れた――は彼の手によって絞殺された。
つい先ほどまで目を潤ませて愛を口にしていた彼女は、死ぬ寸前の虫の様に四肢をばたつかせて死んだ。
愛は、そこにあったのだろうか。
果たして、その死体のどこに愛があるのだろうか。
その手で命を奪ったという実感はあったが、感慨はなかった。
蚊を潰したような、そんな感覚だった。
手に愛は残されていない。
神は、愛は、果たしてどこにあるのだろうか。 死体と化した恋人を見て、モララーが抱いた感情はただ一つ。
この死体と己の殺人をどのようにして正当化するかという、極めて単純な困惑だった。
床に水をこぼして、それをどうするか悩む程度の感情。
つまり、彼女とモララーとの間には正しい愛はなかったのだと考え、後悔は一切なかったのだ。
結局、死体は野生動物に食わせ、彼自身は獣から逃げるために崖から落ちたという設定にして誤魔化せた。
学校を卒業してから、彼は聖職者としての仕事を得て、世界中に派遣されることになった。
若さとその傾聴力によって、多くの異性が彼に惹かれた。
そして、その多くが彼の手によって殺された。
命をどれだけ冒涜しても、どれだけ分解しても、その中に愛は見つけられなかった。
最後の希望である神は、未だに見つかっていない。
世界を愛で満たせば神が見つかると考え、世界を変える為に戦うことを決めた今となっても、未だに答えは出ていない。
( ・∀・)「うんうん、いい感じですね」
彼はノーザンライツの屋上で、恍惚とした表情を浮かべていた。
足元からは銃声と悲鳴が響き、爆発音も時折聞こえてくる。
命が消え、その魂という概念は神という概念に吸収されていく。
目に見えないその連鎖が、今、足元で起きている。
それらは全て想像に過ぎない。
仮に直視していたとしても、その循環を直視することは出来ない。
見られないからこそ、見ないのだ。
観測しなければ可能性は存在し、彼の中に残された神と愛という存在を否定することは無い。
死体の山の中に神を、愛を見出せるかもしれない。
全ては、まだこれからなのだ。
殺し合いの果てに愛はあるのか。
戦いの果てに神は姿を見せるのか。
まだ、何も分からない。
愛と神の観測者になるためには、何もかもが不足している。
ギコタイガー・オニツカ・コブレッティは信奉する正義の為に戦いに赴いているが、モララーはまだ戦う必要性を感じていなかった。
セントラスという街が滅びるのは、正直なところ、計画の一つでもあるからだ。
世界中に影響力を持つ宗教を利用したのは単純に組織の根を張り巡らせるためで在り、その後は切り捨てる予定だった。
無論、モララーは今でも十字教徒だ。
しかしそれとセントラスの存続とは、まるで別問題だった。
聖地が失われることで神の力に影響が出るのであれば、それまでの話であり、信仰心に影響が出るのであればその程度の存在ということだ。
全てはただの名称であり、大した意味を持たない。
( ・∀・)「はぁ…… 悲鳴はいい……」
ノーザンライツにいるのはほとんどが非武装の人間で、戦闘などとは無縁の人間達だ。
自分たちの街を守る為に攻め入ってきた相手に対して出来ることは、神の愛やその類を口にする程度の知識しかない。
そんなもので守れるものは何もないのだと知りながら、今、銃殺されていく人間の悲鳴はどんなワインよりも豊潤で雄弁だった。
女子供も関係なく、ストーンウォールの人間達は殺していくだろう。
彼らの存在を否定する相手に遠慮など無用。
道徳や倫理に反することだと知っていても、生存するためにはやむを得ないと割り切って殺してくれる。
全ては生存のため。
互いに殺し合い、疲弊し、極限まで削り切った後に残るものが愛なのかもしれない。
モララーはその残滓を覗き見たいがために、組織の意とは別の動きをしているのであった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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ギコタイガー・オニツカ・コブレッティはジュスティア警察の中でも、ある意味で異質な存在として知られていた。
正義の味方に憧れて警官になる人間は大勢いたが、トラギコ・マウンテンライトに憧れて警官になったと公言する人間は一人だけだったからだ。
ジュスティア警察内でトラギコと言えば、はみ出し者の厄介者。
警察の汚点とも言える存在だったが、一部の界隈では彼の暴力的な素行を肯定する者がいるのも事実だった。
“CAL21号事件”は、特にそうした力による正義の執行を是とする人間達にとって、まるで伝説の様に語り継がれる話だ。
ギコタイガーはトラギコの姿に憧れ、彼の様になるべく、型破りな捜査で事件の解決を図った。
だが警察上層部も馬鹿ではない。
ジョルジュ・マグナーニとトラギコの存在だけで頭を痛め続けてきたこともあり、第二、第三の無法者を生み出さないために徹底して規則の順守を言い渡した。
表面上、彼は上層部のいいなりとなり、大人しく模範的な警察官として事件に関わることになった。
実際は違った。
法で裁けない犯罪者を、彼は闇夜に紛れて殺して回ったのだ。
あらゆる犯罪者は、より残酷に、より凄惨に殺された。
殺人を犯した者も、窃盗を働いた者も、ギコタイガーが関わっていない犯罪者も、皆殺された。
ナイフで、銃で、素手で、その辺にあった石で。
警察内部でもその異様さに気づいた者がおり、ギコタイガーを事件担当者から外すなどの措置が取られたが、彼はその手を血で汚すことを止めなかった。
事件が起きたことを聞きつければ、人知れず現場となった街に繰り出し、容疑者を殺した。
一時、ジュスティア警察の未解決事件の数が増えたのはこのためであると言われている。
彼の信条は極めて単純だった。
犯罪者を全て殺せば、犯罪は起きない。
その結果、犯人と確定していない段階で殺された人間が大勢生まれ、その犯行が内部の人間によるものだと確定した。
警察は内部の汚点を世に知らしめることを嫌い、確たる証拠を見つけずに一連の事件を迷宮入りにさせた。
犯人候補であるギコタイガーは現場から遠ざけられ、監視を付けられることになった。
資料整理係という現場から離れた、いわば警察署内でも隠居した老人たち向けの業務へと追いやられたのは自然な流れだった。
しかし、それこそが彼にとって転機となった。 資料整理の中、彼はジュスティアが歴史の闇に葬り去ろうとしたある事件の資料を見つけたのだ。
“CAL21号事件”。
トラギコが関わり、そして、その後の警察全体に影響を与えた大きな事件だ。
警察署内でこの事件について知らない人間はいない。
無論、ギコタイガーはこの事件について誰よりも興味を持ち、調べてきたと自負していたが、彼の知る情報と事実は違った。
“金の羊事件”、“砂金の城事件”、そしてCAL21号事件。
この事件は全て連鎖的に起きており、その起爆剤は言うまでもなくトラギコだった。
そのトラギコが、この事件を機に“モスカウ”へと転属になったのは周知の事実である。
彼が関わったこの3つの事件。
その後、それぞれの街に復興の名目で介入したのはいずれも内藤財団だった。
目が覚めた思いだった。
トラギコの成してきた正義の代償は、街の経済に対する絶望的な打撃だ。
暴力だけでは世界は救えない。
経済力だけでは世界は救えない。
その両方を持った存在が必要なのだ。
ギコタイガーが内藤財団を訪れ、そして、ティンバーランドに参加したのはあまりにも必然だった。
彼は今、夢の中にいた。
<゚Д゚=>「はぁ……はぁ……!!」
興奮で息が上がる。
彼の陰茎は勃起し、全身が性感帯になったかのように敏感になっている。
彼にとって暴力は性交のようなものだった。
だがそれを自制できるからこそ、彼は警官としていられた。
今、その暴力性を存分に解き放てる。
弱者を守る為に。
圧倒的な悪者たちに対し、世界の平和を乱す輩に対し、思う存分振るえるのだ。
<゚Д゚=>「いいぞ、もう少しだトラァ!!」
ノーザンライツの正面玄関。
分厚い金属で作られた扉の閂が、外側から火花を散らして切断されている。
避難指示に従わず、遅れて避難してきた人間達は皆扉の前で射殺された。
銃弾が扉に当たる音も、必死の思いで扉に爪を立てて開こうとする音も、神の名を呼ぶ声も。
全て、ギコタイガーは分かっていた。
数多の死が、今後の教訓になるだろう。
避難指示に従わなければどうなるのか。
不当な暴力を前にどうすればいいのか。
宗教で平和ボケした人間達にはちょうどいい薬になったことだろう。
<゚Д゚=>「俺はここだ、ここにいる!!」
ノーザンライツは巨大な施設であると同時に、巨大な避難施設でもある。
天災や人災から聖職者たちが自分を最優先に守りつつ、信者に恩を売ることが出来る重要な施設だ。
その為、地下にはシェルターと脱出路を用意しており、外壁は極めて頑丈な金属の複層構造。
建物はその外壁が突起の少ない滑らかな形状をしているだけでなく、全ての階の壁が反った形をしているために、よじる昇ることも出来ない。
噴き出した噴水、あるいは、芽吹いた花の様にも見える。
宗教的な象徴性を持たせつつ、侵入者を徹底して排除する構造は籠城にうってつけだ。
そしてそれを正面から迎え撃つ準備と覚悟さえあれば、後は、問題なく殺せる。
扉の前から音が聞こえなくなり、頃合いだと判断した。 相手は今、この扉を爆破するために工作している頃。
扉を吹き飛ばすと同時に突入してくるだろうが、その出鼻を挫く。
<゚Д゚=>『お前ら全員病気だ!! 俺が特効薬だ!!』
口にしたのは、彼が与えられたCクラスの強化外骨格の起動コード。
警察組織が軍に開発を依頼し、あまりにも殺傷力が高すぎるために実戦配備を見送られた量産機。
重武装暴徒鎮圧用強化外骨格“コブラ”。
艶のない黒色の装甲に施された黄色の縞模様のマーキングは、遠目に見ても警告色であることを意味している。
装甲は衝撃を吸収しやすくするためと、電撃による攻撃を無力化するために表面を特殊樹脂でコーティングしている。
右腕部には空気銃が組み込まれており、棺桶に対しても有効な威力を持った高圧電流弾を撃ち込める。
左腕部には催涙効煙幕弾の射出装置が付いており、その煙が持つ粘性はガスマスクを無力化するだけでなく、生身の人間が吸えば呼吸器官の全てを塞ぐことになる。
高すぎる殺傷力のため、集団での戦闘には不向きだが、単身で多数を相手にする時には非常に優秀な力を持っていた。
そしてこのコブラは、この場所を防衛するために徹底した改造が施されている。
[::-■=■]『来いよ!!』
避難してきた人間達は皆、建物の中心部にある礼拝堂に押し込めてある。
入り口は無数にあり、扉の頑強さは正面扉の数分の一。
爆薬を使わずとも、棺桶の蹴りで簡単に破壊されてしまう。
だからこそ、燃えるのだ。
彼の声に呼応するかのように、目の前で扉が吹き飛んだ。
そして、彼が夢にまで見た防衛戦が始まったのであった。
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(三ゝ.:.ヾ-t.:.:l.:.:.:.',ii、 ',\ ',.:-. ii.:.:.:.:.:.', ..l.:.:.:.:.:ヽ |. | | |. | ./.:.:.:.:..:.| |.:.:~ ii - |.:.:|
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入.:.:`、.:.:.:\ト.:.:.:.:/iiiiiiiiiiiヽ/`、 .',.://.:.:°:', r.:.:.:..:ノ |,,,|⊥|,,,| ヽ.:.:.:.:.| |.:.:°.:.:。 |.:.:|
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\_ノ .',;;',;;丿γi;;;;レ´|\/)).:.:.:/三三(.:.:.:.:.:.:.\.:',//.:.:.:.:.:.:/三Ξ□T ̄.:.:.:.:.:.:.:',
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ストーンウォールの人間達にとって、十字教徒は常に敵だった。
彼らの在り方を全否定し、居場所を奪い続けてきた。
理解は不可能だと諦め、こちらからの接触は一切してこなかったが、十字教徒は何かにつけて攻撃を仕掛けてきた。
同性愛者や性的少数派が性犯罪を起こした時、それだけでストーンウォールが槍玉に挙げられた。
聖職者が犯罪に手を染めた時、彼らは沈黙した。
しかしそれでも、ストーンウォールは戦争を望まなかった。
自分たちにとっての聖域が守られている限りは、その外で何が起きていようとも気にする必要がないからだ。
だが、今回の戦争は違った。 セントラス内にいる人間が、クルセイダーが攻め入る予定であることを密告してきたのだ。
彼は十字教徒でありながら、同性愛者であることを隠して生き続け、クルセイダーが遠征することを知ってセントラスを裏切ることを決めたのだという。
半ば半信半疑だったが、送られてきた写真や他の詳細な情報から、それを信じることにした。
街が総出で対応することに対して異を唱える者は、一人としていなかった。
そして、戦争が始まった。
作戦通り、そして予定通りに人間と兵士が動き、十字教の拠点に足を踏み入れたのだ。
狙いはただ一つ。
セントラスを乗っ取ることだ。
彼らがしようとしていたように、ストーンウォールがセントラスを滅ぼす。
その最初の一歩が、ノーザンライツの破壊だ。
この街にいた協力者は無事に脱出していることが確認されており、後は、この街にいる人間を皆殺しにすれば終わりだ。
争いには争いで対抗するしかなく、人数と武装で劣るストーンウォールの人間達にできるのは電撃戦しかない。
街に攻め入ると同時に、部隊は二つに分かれた。
一つは街の中にいる民間人を殺す部隊。
そしてもう一つが、大聖堂ノーザンライツを攻略する部隊だ。
(゚A゚* )「一人も生かしておいたらあかんで!!」
これは生き残りをかけた殺し合いなのだ。
十字教の考えが残る限り、ストーンウォールを居場所にする人間達にとって安住の地はない。
ノー・ガンズ・ライフが口にしたその言葉は、彼らの覚悟の表れだった。
不毛を極めるその言葉は、非道徳的ではあったが、最も理にかなった言葉だった。
終わらない争いを終わらせる、最短の道。
冥府魔道。
殺される前に殺す。
十字教の教えがストーンウォールの滅亡を望んでいる以上、十字教を根元から滅ぼさなければならない。
どちらかが滅びなければ、この戦いは未来永劫続くことになる。
荒廃した世界になり、兵器が失われても、石と木の枝で殺し合うだろう。
これはそういう戦いなのだ。
一人でも生き残れば遺恨が生まれ、再び争いが始まる。
(゚A゚* )「女子供、老人も関係なしや!!」
避難の遅れた市民たちを、容赦なく撃ち殺していく。
銃弾の節約をしたいと思う者は銃剣や適当な石で殺し、家には火を放った。
ここに正義はない。
あるのは、殺戮だけ。
そして、ノーザンライツに通じる正面扉の前が血で染め上げられた頃、そこにいたセントラスの人間は全員死体となっていた。
子供を庇うようにして死んだ母親。
祈りを捧げる途中で射殺された老人。
正に、地獄絵図だった。
扉は物理的に封鎖されており、それを開けるには爆破する以外の手段がないことは事前に調べて分かっていた。
他にも侵入者を防ぐための幾つもの防衛装置の存在も承知しており、最短で最大の戦果を挙げるルートは決まっていた。
高性能爆薬を要所に設置し、即座に起爆。
内側に向けて吹き飛んだ分厚い扉が、ゆっくりと倒れる。
事前の指示通り、牽制射撃と同時に焼夷手榴弾が投げ込まれた。
爆発と発火。
薄暗がりだった屋内に、オレンジ色の光が満ちた。
[::-■=■] 炎の中で仁王立ちになっていたのは、警告色をした棺桶。
大きさはBクラス、いや、Cクラスはある。
少なくとも、こちら側が得ていた情報にはない機体だった。
[::-■=■]『いくぞトルァ!!』
防衛を目的としてそこにいるはずなのに、何一つ躊躇せずに飛び出してきた。
振り上げた右手には、棍棒の様な武器が握られている。
何かしらの防衛手段を講じているとは考えていたが、まさか、頭の悪そうな者が一人だけとは思いもよらなかった。
棺桶には棺桶を。
力には力を。
(゚A゚* )「やっちまいなぁ!!」
後方に控えていた棺桶部隊が、彼女の号令よりも早く飛び出していた。
近接戦を得意とする棺桶は、総じて装甲に自信がある。
並みの銃弾では止められないことを瞬時に理解し、その部隊は援護の為にライフルを構えて散開した。
代わりに、一機の棺桶が迎え撃つべく跳躍していた。
対接近戦に特化した武器を構えているのは、クロマララー・バルトフェルドのジョン・ドゥカスタムだ。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『だりゃあああ!!』
構えていたのは、一振りの巨大な太刀。
ジョン・ドゥの身長と同じだけの長大な太刀は、その刃先が高周波振動によって絶叫の様な音を上げている。
切り上げるようにして、振り下ろされた棍棒を迎え撃つ。
[::-■=■]『ちぇぇい!!』
空中で激突し、同時に着地。
即座に鍔迫り合いが始まった。
互いに響かせる高周波振動の金切り声が、ノーザンライツ内に木霊する。
倒れた扉の上で激突した両者だったが、その巨大さが仇となった。
複数で防ぐならばまだしも、単騎でこの広さは防ぎきれない。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『先に行け!!』
二人の脇を通って、続々とノーザンライツ内部に棺桶で武装した味方たちが進んで行く。
だが。
(゚A゚* )「あかん!! 一旦引かなあかん!!」
以外にも、ノーの言葉が味方の前進を止めた。
その言葉が届かなかったのか、あるいは足を止められなかったのか、数人がノーザンライツに入った後だった。
棺桶の身体補助機能が災いし、彼女の声が耳に届いたところで足を止めるには遅すぎたのだ。
内部は煙と炎で満ちていたが、その煙の量が尋常ではないことに、クロマララーもようやく気が付いた。
焼夷手榴弾の高熱でも、流石に無機物を燃やすことはできない。
建物全体が頑丈な素材で作られているノーザンライツを燃やせるのならば、最初からそうしている。
つまり、今発生している煙は敵が意図的に生み出した物で、罠であると考えるのが妥当だ。
彼女の判断と警告は適切だったが、如何せん、遅かった。
『ぶ……はあっ……!!』
聞こえていた声が徐々に小さくなり、そして聞こえなくなった。
ガス攻撃であれば、棺桶に備わっているガスマスクがある程度防ぐはずだ。
だが、そういった類の攻撃ではなさそうだった。 〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『何をしやがった』
[::-■=■]『さぁな!! 異常性欲者にとっちゃ、この建物は毒みたいだな!!』
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『先にこいつをやるぞ!!』
[::-■=■]『やれるんならなぁ!!』
直後、男の持つ棍棒に青白い電流が走ったのを目視した。
それはクロマララーの持つ大太刀に流れ込み、高周波振動装置を破壊。
呆気なく折れた刃が地面に落ちる前に、その棍棒がクロマララーの頭部目掛けて振り下ろされていた。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『うおおっ!?』
電撃を放つ武器と、高周波振動の武器が両立するのは極めて難しい。
特に、高圧電流によって電気系統を破壊する程の物となると、その装置が破損するだけで自爆行為になりかねない。
危険を承知で設計された武器なのか、それとも、その危険性を克服した武器なのか。
近接用の武器を失った瞬間、彼は半ば反射的にその場から跳び退いていた。
それでも、完全な回避は間に合わず、胸部を棍棒が掠めていった。
装甲が剥がれ落ち、生身の胸部が露わになる。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『こいつ!!』
[::-■=■]『逃げるか、変態!!』
棍棒による刺突が、むき出しの胸部に向けて突き出される。
回避運動をするにも、彼の両脚はまだ空中。
接地する前に棍棒が胸を貫くのは必至。
刹那の猶予の中、彼が選べたのは両腕による防御だけだった。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『があっ!?』
高周波振動の打撃は、斬撃と違って芯に響く攻撃だ。
装甲の内側に向けて放たれるその一撃は、防御に使用した両腕の間に巧みにねじ込まれた。
骨に響く攻撃は激痛としか表現しようがなく、まるで直接骨を殴られたような衝撃だった。
踏み込みすらせずに放った一撃だったことが幸いし、棍棒が彼の胸を貫くことは無かった。
〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『これ以上好き勝手は!!』
周囲からの援護射撃がなければ、二度目の刺突でクロマララーの胸はザクロの様に爆ぜていただろう。
対強化外骨格用の銃弾を浴びせかけられながらも、男はまるで怯まなかった。
[::-■=■]『一匹ずつ駆除だ』
〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『弾が……当たらない!?』
誰よりも間近で見ていたクロマララーの次の言葉が、それを正確に説明した。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『曲がってる!!』
銃弾の軌道はある程度までは直進し、途中から減退し、下方に向かう。
しかし、クロマララーが見た銃弾の軌道はそれとは違った。
弾が天井に当たり、更にはクロマララーの耳元を掠め飛んで行ったのだ。
それを曲がったと即断したのは、似た性能を持つ棺桶を知っていた彼の知識と経験だった。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『こいつ相手に銃は使うな!!
同士討ちになる!!』 あの棺桶は周囲に強力な磁界を形成し、電流の強弱によって磁力を操作する。
強装弾に使用されている金属は磁力に反応する性質があるが、それは極めて強力なものに限る。
この棺桶は、それは実現させるだけの力を持っており、銃弾は荒れ狂う磁界によってその軌道を捻じ曲げたのだ。
理屈では可能だが、それを実現させるにはかなりの電力が必要になるはずだ。
かつてラヴニカで技術者として働いていた経験のあるクロマララーは、その装置に関するデータを見た記憶があった。
“フォーチュン計画”という名目の兵器設計図で、あまりにも現実離れしたその構想を鼻で笑った。
一瞬起動させるだけでも棺桶のバッテリーを全て消耗する程のもので、実用性が皆無だったのだ。
だが、今目の前にいる棺桶はその装置を使っている。
補助電源ケーブルもなしに、そんな芸当が可能なのだろうか。
[::-■=■]『おうおう、どうしたぁ!!』
〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『調子に乗りやがって……』
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『こいつに構うな、中の信者どもを殺すんだ!!』
[::-■=■]『曰く、神は来る者を拒まないそうだ。
まぁ、ゆっくりしていけトルァ!!』
直後。
クロマララーの全身が、ノーザンライツに向けて引っ張られる感覚が襲った。
何かが触れているわけではない。
見えない力が四肢を掴み、引き寄せているのだ。
正体は磁力。
銃弾の軌道を捻じ曲げるだけの、圧倒的な磁力が金属の塊とも言える棺桶を引き寄せている。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『まずい、金属の物を捨てろ!!
引き込まれるぞ!!』
〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『願ったり叶ったりだ!!』
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『違う!! 磁力で動けなくなるぞ!!』
的確な言葉が瞬時に出てこない。
辛うじて出てきた単語で、誰かが察してくれることを願うが、通じない。
手にした武器も、棺桶を身に着けた味方も。
あらゆる金属が、一気にノーザンライツに取り込まれる。
クロマララーもその場に踏ん張ることが出来ず、磁力によってノーザンライツに取り込まれた。
陽光で淡い明るさに照らされるノーザンライツ内は、芸術品の様な美しい内装をしていたが、それを堪能する者は一人としていなかった。
地面に縫い付けられるようにして倒れている棺桶が、最初に突入した味方であるのは間違いない。
煙幕の中で何かが起きて、そして、ここで死んだのだ。
[::-■=■]『ゴキブリは、そこで死んでな』
投じられた煙幕弾が、濛々と白煙を噴出させる。
すぐに視界をその煙に奪われたが、ここで何が起きたのか、その身をもって理解することになった。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『はぁ……はっ……あっ……!?』
ジョン・ドゥのマスクは優秀だ。
粉塵や毒ガスから使用者を守るため、有害な酸素を無害化するためのフィルターを搭載しており、どんな状況下でも戦える。
だが。
酸素の供給が途絶えてしまえば、生身の人間は生きていけない。 粘性の高い煙幕がフィルターを詰まらせ、酸素の供給を停止させたのだ。
それを取り除こうにも、内部に入り込んだ煙を指で掻きだすことは出来ない。
これが生身の人間だったならば、呼吸器官を無力化させられ、窒息死するだろう。
カメラにも煙が張り付き、どのモードに切り替えても何も見えない。
逃げ出そうにも、強力な磁力で足が捉えられているため、その場から動くことが出来ない。
何もできず、ただ酸素だけが奪われていく。
仲間に事態を伝えようとしても、酸素がなければ声が出せない。
この備えがあったからこそ、あの男は一人でここを防衛していたのだと、ぼんやりとした意識の中でクロマララーは納得した。
僅かな酸素を全て失い、クロマララーが窒息死するまでにはそう時間は必要なかった――
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――時を同じくして、ラヴニカでの内戦は次の舞台に移っていた。
ラヴニカは黒煙に包まれていた。
それは火事による黒煙でもあり、発煙筒による黒煙でもあった。
スーツ姿のシナー・クラークスの堪忍袋は既に張り裂け、組織から指示された目的は忘却の彼方に置き去っていた。
( `ハ´)「状況は?」
<=ΘwΘ=>『駄目です、足取りさえ』
( `ハ´)「もっと家を燃やせば出てくるアル」
<=ΘwΘ=>『ですが、これ以上燃やせばこの街の復興が……』
( `ハ´)「焼き畑っていうのを、お前は知らないアルか。
燃えた分は、いい肥料になるアル」
<=ΘwΘ=>『……かしこまりました』
目的としていたチップは手に入らない。
ならば、この街を灰の山にしたところで問題はない。
( `ハ´)「……私は一人になりたいアル。
護衛はいらないから、さっさと行けアル」 彼の周囲にいた部下は装甲の下で驚愕の表情を浮かべたが、小さく頷いてその場から走り去った。
炎と煙、そして悲鳴と銃声がその場に残された。
ラヴニカが誇っていた技術の多くが、この戦いで失われることだろう。
保管していた貴重な何かも、例外ではない。
( `ハ´)「さっさと出てくるアル。
モーガン・コーラ」
(*‘ω‘ *)「……気づいてました?」
物陰から姿を現したのは、土壇場でシナーを裏切った女だった。
分厚い化粧の下に隠された表情は、決して真実を物語らないことだろう。
彼が初めて見た時と顔はまるで別人だが、放つ不愉快な雰囲気は変わらない。
あえてこちらに気づかせようとしている可能性もあるが、今となってはどうでもいい。
モーガン・コーラという名前も偽名だったのは、言うまでもない。
( `ハ´)「化粧臭いアル」
(*‘ω‘ *)「失礼しちゃう!! けっこういい値段の化粧品なんですけど」
( `ハ´)「チップを手に入れたのに、どうしてここに残ってるアル?」
(*‘ω‘ *)「保険ですよ、保険。
ラヴニカはこの世界に必要な街なのでね、滅茶苦茶にされないようにしないと」
( `ハ´)「だったらもう手遅れアル。
……で、何でここに来たアルか」
(*‘ω‘ *)「いやぁ、礼儀として決着をつけてあげないと」
( `ハ´)「礼儀? 決着?
随分と高貴な考えアルね、反吐が出るアル」
言いぐさがまるで騎士だ。
土壇場でこちらを裏切り、逃げ回っていた人間の言葉とは思えない。
(*‘ω‘ *)「まぁまぁ、死ぬ前にせめて何かしらの武勇伝を持っておきたいじゃないですか。
タルキール出身なら、そういう考えあるんでしょう?」
( `ハ´)「いつタルキール出身なんて言ったアルか?」
(*‘ω‘ *)「アクセントもそうだし、料理の好みで分かりますよ。
さぁ、私が憎いんでしょう?
ラヴニカと同じぐらい憎いなら、今ここで私と戦うのはいい気分になりますよ」
こちらの逆鱗を撫でるように、女は言った。
( `ハ´)「貴様、これ以上私を愚弄するアルか」
(*‘ω‘ *)「あぁ、勿論素手で戦ってあげますよ。
いいハンデでしょう?
負傷を言い訳にしたとしても、十分だと思いますが」
(#`ハ´)「挑発しているつもりなら、最高の挑発アルね。
ただの女が、私に素手で勝つ?
面白い、やってみればいいアル!!」
(*‘ω‘ *)「その言葉を待っていました、シナー。
ここから先は、一人の武人としてお相手願いましょう」 (#`ハ´)「武人?! お前が?!
ふざけるな!!」
(*‘ω‘ *)「……少し、愚弄しすぎたみたいですね。
こうでもしないと、あなたは本気で乗ってこないと思いましてね」
左手は後ろ腰の位置に。
右手は甲を下に向け、槍の様に束ねた指先をシナーに向ける。
指をゆっくりと曲げ、勝負に誘われる。
(#`ハ´)「女だからといって、油断も手加減もしないアルよ」
(*‘ω‘ *)「“タルキールの龍”、そう呼ばれていた時もあったそうですね。
街にいる連中は、その時の部下でしょう?」
流通の中継地点。
“竜の口”の名で知られるタルキールは、栄はするものの、決して豊かになることは無かった。
他の街が生み出す流通によって栄えているだけであり、そこに生じる僅かな需要によって生きながらえているだけの街だ。
シナーは街の未来を危惧し、己の未来を憂いた。
安全な道が一つ生まれてしまえば、それだけでタルキールの活気は激減するだろう。
ヨルロッパ地方にある街がいくつも協力し合えば、それが実現してしまう。
生まれた街が衰退するのは見たくない。
幼少期から祖父に武術の英才教育を受けた彼は、仲間を募り、タルキール以外の街で盗賊行為に手を染めた。
狙ったのは金持ち、あるいは権力者。
得た金は貧しい者に分け与え、己の行為を正当化した。
武器は極力使わず、徒手によって相手を無力化した。
部下が増え、思想が生まれた。
思想は広まり、更に部下が増えた。
世界のバランスは極めて危うく、力を持つ誰かのちょっとした匙加減で崩れてしまう。
数千人の部下を各地に持っても、世界を変えることは出来ない。
そんな折、シナーはある組織からの接触を受け、彼らの参加に入ることにしたのだった。
シナーが本当に許せなかったのは。
世界を変えたいと願ったのは――
(;`ハ´)「……情報通らしいが、それだけじゃ勝てないアルよ」
(*‘ω‘ *)「勿論、情報で戦うつもりはありません。
私があなたのことをよく知っている、それを理解した上で戦ってもらいたいのです。
全力で、死力を尽くして、持てる全てを注ぎこんで戦ってほしいのです」
(#`ハ´)「私じゃない、お前が死力を尽くすアル!!」
(*‘ω‘ *)つ◆「これ、何だと思います?」
小さく、そして金属特有の輝きを放つその人工物。
血眼になって探し、街に火を放ってでも手に入れようとしたチップだ。
(#`ハ´)「……」
(*‘ω‘ *)「私を倒せば、簡単に奪えますよ」
それを胸ポケットに入れ、女は挑発的な笑みを浮かべた。
(#`ハ´)「調子に乗ったアルな、お前」 (*‘ω‘ *)「これでやる気が出たでしょう?
さぁ、いつでも」
強い踏み込みが強い打撃を生むのは事実だが、それが欠けたとしても、それを補うための技術がある。
飄々とした様子だが、醸し出す芯の強さは偽物ではない。
( `ハ´)「……名前を聞いてやるアル」
(*‘ω‘ *)「ティングル・ポーツマス・ポールスミス。
あなたを殺す女の名前です」
( `ハ´)「いいや、墓石に刻む名前アル」
悠然と一歩を踏み出し、シナーは静かに拳を突き出した。
ティングルはその意図を汲み取り、同じようにして拳を突き出した。
磁力に引き寄せられるようにして、両者の拳が触れ合う。
それが、開始の合図。
( `ハ´)「ふんっ!!」
(*‘ω‘ *)「?!」
拳に込めた絶妙な力。
足元から発生させた力を腰、背中を使って加速させ、拳に移動させる。
そして捻転するような力の流れへと変化させ、相手の腕を通じて体全体にその歪みを伝える。
自分の体に流れ込んでくる不愉快な力から逃げようと咄嗟に動いたティングルは、シナーの思惑通りにバランスを崩す。
そのまま倒れるほどの力で放ったのだが、踏み込みの浅さが災いして、片膝を突かせるだけにとどまった。
それで十分。
絶好の位置に頭が落ちてきたことにより、シナーは躊躇わずにローキックを放つ。
連撃は、だがしかし、ティングルの絶妙な防御によって阻まれた。
顔に当たる寸前でシナーの足を受け止め、低い体勢を利用して、彼の股間目掛けてアッパーを繰り出してきた。
( `ハ´)「ちっ!!」
(*‘ω‘ *)「ぽっ!!」
体捌きで攻撃を回避した直後、ティングルの裏拳がシナーの鼻先を掠める。
まるでハンマーの様に思い一撃。
鼻孔の奥がジワリと痛み、鉄臭がした。
鼻の奥から血が垂れてくる前に、シナーは親指でそれを拭い取った。
( `ハ´)「ハンデのつもりあるか?」
今の場面なら、足払いが来るはずだった。
そうすれば、シナーを転倒させ、有利な状況を生み出せた。
まるで最初からその選択肢を選ばないようにしているかのような攻撃に、思わず言葉が出ていた。
(*‘ω‘ *)「いいえ、ハンデではありませんよ。
あのタルキールの龍に勝つということは、正面から技で勝負するということですから」
(#`ハ´)「それの驕りがハンデアル!!」
倒れ込むようにしてその場に両手をつき、シナーは四足歩行の形態をとる。
次の瞬間、両腕の力を使って両足を持ち上げ、ティングルの頭上に向けて振り下ろした。
(*‘ω‘ *)「ぽっ!!」 ティングルは両腕を交差させてその一撃を防いだ。
こちらの攻撃を受ける必要などないのに。
まるでプロレスの様な動きに、シナーは苛立ちを抑えきれない。
(#`ハ´)「ぬうあっ!!」
(*‘ω‘ *)「ぼ?!」
防御され、効果がないと分かった瞬間、シナーの次のプランは動いていた。
両足でティングルの足を挟み、強引に引きずり倒したのだ。
(*‘ω‘ *)「ぃんっ!!」
致命的な一撃になり得た攻撃だったが、ティングルは受け身を取って衝撃を緩和。
(#`ハ´)「ちぇぃ!!」
両手が地面についた状態のティングルの上に跨り、シナーは絶対的に優位な位置を手に入れた。
マウントポジション。
体格差のある馬乗りの状態は、決着をつけるにはあまりにも簡単すぎる。
しかし、相手が女子供でも、シナーの拳は容赦なくその命を奪う。
踏ん張れないのであれば、踏ん張る必要性の少ない体勢に持ち込むしかない。
ティングルの腹の上に乗ったシナーは、一瞬の躊躇いもなく拳を彼女の顔に向けて振り下ろした。
(*‘ω‘ *)「流石っ!!」
(;`ハ´)「ぐっ!?」
瞬間的に下半身の力でシナーが持ち上げられたことによって、彼の拳は何もない地面に直撃していた。
(*‘ω‘ *)「だけど、優秀だから次の一手が分かりますよ」
( `ハ´)「……なるほど、認識を改めるアル」
再び拳を振り上げ、シナーはティングルの胸骨に向けて左の一本拳を放った。
(*‘ω‘ *)「エッチ!!」
それを難なく横から叩き、軌道を反らせつつ手首を掴まれる。
が、シナーの右拳はティングルの腹に乗せられていた。
(*‘ω‘ *)「しまっ……!!」
無寸勁、あるいはノーインチパンチ。
触れた状態からでも十分に人体にダメージを与えられるその攻撃を受け、ティングルは初めて苦悶の表情を浮かべた。
悲鳴と共に腹の底から空気を吐き出し、悶絶する。
だがシナーの攻撃は止まない。
( `ハ´)「じぇい!!」
解放された左拳で顔を殴りつけ、右拳で眼球を狙う。
女という生き物である以上、顔を徹底的に痛めつけられることに耐性はない。
左右の連打によって徹底的に戦意を奪おうとしたが、目に攻撃を受けないよう、頭部を動かすだけの冷静さはあった。
鼻血を出し、口の中を切り、頬に痣が出来ても――
(* ω *)「……ははっ」
――女は、笑っていた。 (;`ハ´)「こいつっ!!」
直後。
シナーの判断が一瞬だけ遅れた。
それまでほとんど無抵抗だと思っていたティングルが、突如として体を持ち上げ始めたのだ。
腹の上に男を一人乗せたままブリッジを行い、シナーの体制が崩れたところに、体重を乗せた右ストレートを放った。
それはガラ空きの肋骨を捉え、的確にダメージを与えた。
更に、そこに指をねじ込み、骨を圧迫してきた。
筋肉で覆われているはずの肋骨を、指で破壊しに来たのだ。
(;`ハ´)「ぐっ……おおお!!」
痛みから逃げようと、攻撃を加える。
その都度肋骨を刺激され、大した威力を発揮できない。
更に、左手が得物を狙う蛇の様に股間に伸ばされているのを察知したシナーは、流石にその場から跳び退かざるを得なかった。
(;`ハ´)「えげつない戦い方するアルね」
(*‘ω‘ *)「ぺっ! あなたも、女の顔を殴るなんてえげつないですね」
地面に吐き出した血の中には、歯の欠片が入り込んでいた。
これだけ打撃を受けていながら、ティングルの目には涙一つ浮かんでいない。
まるでプロボクサーだ。
(;`ハ´)「……どこの組織の人間アルか?」
(*‘ω‘ *)「ふふっ、知りたければ……ね?」
軍人の女でも、ボクサーの女でも、ここまでの豪胆さは手に入らない。
乗り越えてきた修羅場の質と数は、恐らく、こちらが想像している以上。
武術の心得はあるが、技量ではシナーに劣っている。
しかし、それを補うだけの汚れた戦い方をしてくる。
的確に急所を狙い、的確に攻撃を防ぐ。
軍人としての経験は間違いないだろう。
戦場格闘技に通じる動きがある。
ならば、技術で押し通す。
( `ハ´)「……」
シナーは己の右手を前に出した。
先ほどティングルが仕掛けてきたのと同じように、今度はシナーが勝負を仕掛ける番だ。
( `ハ´)「来いアル」
(*‘ω‘ *)「面白そうですね、では遠慮なく」
お互いに手の甲を触れ合わせた瞬間、シナーが動いた。
ほとんど無意識の内に体が動き、ティングルの手首を掴む。
関節と骨を利用し、その場に投げ飛ばそうとした。
だが、途中で攻撃が止まってしまう。
(*‘ω‘ *)「さぁ、どうしました?」
(;`ハ´)「こ……の……馬鹿力がっ……!?」 曰く、理想の筋肉とは緩急の差が著しい物を指す。
この時のティングルの筋肉は、万力を想起させるほどの頑強さで、シナーの技術を受け付けなかった。
冗談の様に硬くなった腕と、服の上からでも分かる隆起した筋肉。
特出しているのは、布地が弾けんばかりに膨張した下半身の筋肉だ。
上半身の筋力不足を補って余りある下半身の筋肉が、こちらの理をねじ伏せているのだ。
どういう生き方をすれば、ここまでの筋肉を手に入れられるのだろうか。
馬乗りの状態から逆転されたのは、この下半身の筋肉が原因だろう。
(*‘ω‘ *)「腕力よりも脚力の方が出力は上。
で、あれば踏み込みが万全でない人の技など私の筋力では意味がないんですよ」
(;`ハ´)「膂力なんぞ!!」
(*‘ω‘ *)「打撃戦において膂力は絶対。
さぁ、どうします!!」
まるでこちらを試しているような物言いだが、拮抗状態が出来ている事実は覆せない。
( `ハ´)「ふっ!!」
力むことによって生み出した、筋力の拮抗状態。
それを打破するのは、言うまでもなく技術だ。
生み出された不用意な力を利用し、ティングルの体を宙に浮かせる。
(*‘ω‘ *)「なっ?!」
( `ハ´)「きゃおらっ!!」
狙うはわき腹。
体の中心軸を狙うことにより、姿勢を乱す狙いだ。
抉り込むようにして掌底を放ち、吹き飛ぶことで威力を軽減させようとする目論見も、腕を掴み合っている今は通じない。
掌底がティングルの腹に当たった瞬間、太いタイヤに対して打撃訓練をしていた日々が脳裏をよぎった。
生半可というレベルではない。
筋肉に対する圧倒的なまでの信仰心。
無駄を削ぎ落した体に残された筋肉は、正に結晶体と言ってもいいだろう。
ここまでの次元の筋肉を持つ人間は、これまでに見たことがない。
組織でも1、2を争う筋量を持っているクックル・タンカーブーツも、ここまでの密度には至っていなかった。
(*‘ω‘ *)「女性のお腹を触るなんて!!」
(;`ハ´)「ちっ!!」
着地され、その勢いを利用して押し倒されそうになる。
踏ん張ろうとした時、両足に激痛が走り、抵抗むなしく尻から地面に倒れ込んでしまった。
そのまま馬乗りされ、先ほどまでとは逆の立場となった。
(*‘ω‘ *)「技術も、怪我には勝てませんか」
女には男と違って、一撃で悶絶させ得る器官が露出していない。
だが、共通する弱点はある。
(;`ハ´)「軽いアル!!」
今出来る範囲内で脱力し、加速させた右手が放ったのは、顔面への強烈な平手打ち。
顔を正面から打ち付けたその一撃は、打撃に慣れている人間だとしても怯まざるを得ないものだ。
目、鼻を同時に攻撃したことにより、反射的に大量の涙が溢れ出る。
激痛とは違い、まるで電撃を浴びたかのような痛みが瞬間的に思考を支配する。 (*;ω; *)「ぬぁっ?!」
(;`ハ´)「技術は!!」
背中に回した左手で脊椎に直接攻撃を与える。
本人の意思とは無関係に直立してしまったティングルは、何が起きたのか理解できていない様子だった。
(;`ハ´)「膂力に!!」
下半身の筋力に対する自信を、シナーは逆手に取った。
脚の付け根を掴み、骨の内側に対して防御不可能な一撃を放つ。
(*;ω‘ *)「AッChiiッ!?」
その痛みを形容するなら、焼けた針を骨に突き立てられたようなもの。
如何に優れた体感、筋力を持っていても、瞬間的なこの痛みには対抗できない。
(#`ハ´)「勝る!!」
崩れた体勢。
しかしこちらは倒れたまま。
それでも、シナーには勝算があった。
狙いは一つ。
筋肉で補えない、関節。
流れるようにティングルの利き足である右足に絡みつき、足緘――下方から相手の膝を破壊する関節技――を放つ。
これを用いて足を折れば、勝機はこちらにある――
(*‘ω‘ *)「……はぁ、面白くない事しましたね」
(;`ハ´)「んなっ?!」
――シナーが関節技を放ったまま片足で持ち上げられ、地面に叩きつけられるまでは、そう思っていた。
(;`ハ´)「がっ?!」
(*‘ω‘ *)「関節技対策を怠っていると思ったのなら、残念でしたね」
(;`ハ´)「化け物か……!!」
関節部の頑強さは並ではない。
男一人を持ち上げて、叩きつけられるだけの力。
馬鹿力ではなく、技術に対抗するための力を持っている。
(*‘ω‘ *)「タルキールの龍ならあるいは、と思いましたが。
残念です、この程度で」
(#`ハ´)「勝手に期待して、勝手に失望してるんじゃないアル!!」
背中を打ち付けられたことによって呼吸が乱れていたが、すでに回復しつつあった。
関節技は既に解かれているが、まだ、奥の手がある。
立ち上がり、ゆっくりと息を吐く。
( `ハ´)「ふぅ……!!」
(*‘ω‘ *)「培った技術、この程度ではないでしょう?
どうします? マックスペインを使いますか?」
こちらが隠し持っている薬物について読まれていたのは予想外だったが、それでもかまわない。
もとより、それに頼るつもりはない。 ( `ハ´)「こんなもの、使う必要はないアル」
ジャケットの内ポケットから取り出したアンプルを地面に叩きつけ、踏み砕く。
一時的な身体強化の薬など、感覚を鈍らせるだけだ。
( `ハ´)「かかってこい、筋肉馬鹿」
(*‘ω‘ *)「では、行かせていただきましょう」
そう言って、ティングルが仕掛けてきた。
踏み込みを感じさせない程の短く低い跳躍。
( `ハ´)「破ッ!!」
真っすぐに伸びてきた右ストレート。
それに合わせて、左の手のひらで受け止める。
加速した上に伸びきった状態に合わせたため、その衝撃でティングルがよろめく。
(*‘ω‘ *)「んぬ!!」
( `ハ´)「邪ッ!!」
続けて放つのは崩拳。
縦に構えた拳を踏み込みと同時に放つ。
両足に激痛が走るが、それを意識の外に追いやる。
常軌を逸した集中力こそが、シナーの奥の手だ。
(*‘ω‘ *)「ちいっ!!」
こちらの様子が豹変したことに気づいたのか、ティングルが防御の為に両腕を交差させる。
( `ハ´)「腕もらった!!」
触れた瞬間、抉る様にして威力を上げる。
拳の下で、骨に当たる感触。
下半身とは違い、上半身の膂力は一般人よりも優れている程度。
(*‘ω‘ *)「があっ!!」
だが、こちらの威力を殺すためにティングルは僅かに後方に跳躍していた。
そして着地と同時に前蹴りが飛んできた。
( `ハ´)「ふあっ!!」
それを右手で受け止め、ティングルがやったのと同じように跳躍して威力を殺す。
ただし、こちらのそれは確かな技術の産物。
消力。
己の四肢を極限まで弛緩させ、あらゆる攻撃の威力を霧散させる高等技術だ。
( `ハ´)「どうしたアル?」
(*‘ω‘ *)「……これが消力ですか」
( `ハ´)「来ないならこっちから行くアル!!」
大股で接近し、シナーは弛緩させた右腕を思いきり振り抜いた。
狙いは顔。
反射的にティングルはそれを左腕で防いだ。
(*‘ω‘ *)「ぎっ!?」 ( `ハ´)「いくら我慢しても無駄アル」
続けて太腿。
服の下にある人体最大の器官、皮膚への攻撃は筋力や年齢の一切を無視する。
両椀を鞭にした一撃は、技術を軽んじた人間にはよく効く。
鞭の様な打撃、これ即ち鞭打。
( `ハ´)「しゃっ!!」
(*‘ω‘ *)「ぬぇい!!」
しかし、すぐに攻撃の隙を見つけてきた。
鞭化するのはあくまでも先端部分。
その軌道は結局のところ根元が事前に示すため、防御するためには攻め込むのが最善の手となる。
台風の中心部に向かうような恐怖の中、ティングルは的確にシナーの関節に打撃を当て、鞭打を無力化する。
膝蹴りがシナーの顔に飛んできた。
( `ハ´)「は……ぬ?!」
咄嗟に消力で無力化しようとした瞬間、首の後ろにティングルの両手が回された。
なるほど。
消力最大の弱点は脱力後に攻撃の威力を減退させる距離の有無だ。
壁に追い込まれれば消力が無力になるのと同じように、こうして捉えられてしまえば威力を殺すことなど不可能。
この僅かな攻防で弱点を理解したとは、恐ろしいほどのセンスだ。
両手を顔の前に出し、威力を可能な限り殺す。
自らの手と主に顔に受けた衝撃は殺されることなく、二度、三度と膝蹴りが顔を襲う。
四度目の攻撃が来る前にシナーはティングルを持ち上げ、地面に叩きつけた。
(*‘ω‘ *)「げぁっ!?」
(#`ハ´)「ふーっ!!」
距離を取り、構えをとる。
( `ハ´)「さぁ、まだアルよ!!」
格闘戦でここまで苦戦することは、これまでに一度もなかった。
苦戦することが楽しいと思ったのは、これが初めてだった。
(*‘ω‘ *)「楽しいですね!!」
( `ハ´)「むかつく奴アルね!!」
最初は憎しみ。
今は楽しみ。
思う存分己の技術を出し切れる相手がいるというのは、幸せなことなのだ。
武器や兵器の性能に左右されることなく、鍛え上げた拳足と技術で戦う純粋さ。
(*‘ω‘ *)「あなたの技量、感服しました。
研鑽の日々に敬意を表します。
故に、円卓十二騎士、末席の騎士としてここで引導を渡しましょう」
ジュスティアの最高戦力である十二人の騎士。
その一人というのであれば、この馬鹿げた戦闘能力の高さも頷ける。
よもや、こうして騎士と戦える日が来るとは。
( `ハ´)「……やっぱり、その類だったアルか。
だが、肩書は実力じゃないアル!!」 (*‘ω‘ *)「本当はもっと戦いたかったのですが、ここで幕引きとします。
お詫びに、私が得たものをお見せしましょう。
武人として知りたいでしょう?
一撃必殺を」
( `ハ´)「はっ! 一撃必殺なんていうのは――」
(*‘ω‘ *)「そう、武人の夢です。
そして、悪を滅すると誓った人間にとっての理想。
私はこの手に掴んでいるんですよ、その技を」
――その言葉は、シナーの中にある夢の一つだった。
許せなかったのは不平等。
納得できなかったのもまた、不平等だった。
富める人間がいて、飢える人間がいる。
何故助け合えないのか。
同じ人間ならば、助け合えばいい。
隣人や友人同士が助け合えるのなら、隣町が、離れた街が助け合ってもいいはずだ。
力によって何もかもが変わってしまうこの世界のルールがなければ、世界は一つになれるのに。
文句を言う輩を黙らせることが出来ればと、彼は技を身に着けた。
そして戦いの中で気づく、一撃必殺という言葉の遠さを。
急所を的確に狙い打てば殺せるが、確実ではない。
結局のところ武器に頼るしかないのだと、どんな武人でも諦める夢。
( `ハ´)「面白い、やってみるアル!!」
見たかった。
ぜひとも、見たかった。
世界の正義を名乗るジュスティアの騎士が放つ一撃必殺。
常人離れした筋力を獲得し、技を力でねじ伏せるほどの人間が言う一撃必殺を。
任務も、義務も。
シナーの心には、幼少期からの夢が満ち溢れていた。
これまでに多くの武術家が夢見て到達できなかった幻想の一つ。
仮にそれが完成していたとしたら、それを打破したい。
幻想は幻想のままだと。
夢は夢のままだと。
全てを、否定してみせたい。
(*‘ω‘ *)「言い残すことは?」
( `ハ´)「夢見たまま死ねアル」
直後にティングルが見せた構えは、あまりにも無防備だった。
両肩を脱力させ、視線だけはこちらに向けた姿。
まるで幽鬼のようだが、下半身が語るのは圧倒的な加速への用意。
速度、そして脱力。
先ほどシナーが見せた消力の亜種とでも言おうか、緊張と緩和の差による威力の増大を狙った攻撃。
なるほど、とシナーは内心で溜息を吐いた。
結局のところ、打撃の威力を高めるには脱力が欠かせないのだ。
最速で放つ一撃を的確に急所に当てる。
それが、ティングルの言う一撃必殺の正体だ。
これは誰もが考え、そして挫折するものだ。
急所に当たりさえしなければ、何も恐れなくていい。
片腕を犠牲にすれば、十分に対応できる。 自分の左肩をティングルに向くように捻り、備える。
刹那。
何かが、シナーの背後から頬を掠めていった。
(;`ハ´)「あ?」
直後に銃声。
目の前では、ティングルが膝を突いていた。
その表情は呆気に取られており、動揺の色が浮かんでいる。
(*゚ω゚ *)
<=ΘwΘ=>『同志!!』
(;`ハ´)「な」
<=ΘwΘ=>『この糞尼!!』
(;`ハ´)「止めろ、撃つな!!」
――警告は、僅かに遅かった。
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[::-■=■]『はぁ……はぁ……!!』
ギコタイガーは膝を突き、肩で呼吸をしていた。
武装は全て使い果たし、高周波振動と電撃を同時に放てる警棒は折れ曲がっている。
地下からのワイヤレス式の電力供給がなければ、こうしていることすらできていない。
目の前に転がるのは侵入を試みたストーンウォールの兵士たち。
そして、背後に転がるのもまた、ストーンウォールの兵士たちの死体だ。
[::-■=■]『ったく……てこずらせ……やがって!!』
防御に特化した棺桶でも、ここまで耐えきることは難しかっただろう。
強力な磁力、そして煙幕弾がなければ持ちこたえることは不可能だった。
特別にあつらえた装甲はその防御性能を失い、銃弾を曲げたり防いだりすることはもうできない。
満身創痍。 死に物狂いで襲い掛かってきた人間達は控えめに言っても強敵だった。
科学力の差が勝敗を分けたと言っても過言ではない。
[::-■=■]『う……!! 雄おおおおおお!!』
しかしそれでも、ギコタイガーは咆哮を上げた。
疲弊しきった体でも、その声は上げずにはいられなかった。
勝利を確信し、己の達成した偉業を知らしめる叫び声は、ノーザンライツ内に木霊した――
ノリ, ゚ー゚)li「……何かぶつぶつ言ってるねぇ」
(゚A゚* )「大方、自分が英雄にでもなった夢やろ、しょうもない」
――彼の耳に聞こえるのは、彼の死に際に放った雄叫びの残響。
目に映るのは勝利の名残だけだった。
現実とは違うことに気づけぬまま、彼は幸せな夢を見る。
幸せな夢がいつまでも、そう、いつまでも続くのだ。
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ノーザンライツ自体に何かしらの細工があることは、調べるまでもなく分かっていることだった。
十字教の要であることに加えて、十字教の重鎮が住まう施設ならば、それは必然。
防御に特化させた仕掛けが複数あることは想定しており、それらを打破するために備えはしていた。
ノー・ガンズ・ライフたちが用意したのは、大量の高性能爆薬だった。
建物の壁を破壊するために用意したものだったが、唯一の入り口を塞ぐ厄介な棺桶を相手に使うことを躊躇いはしなかった。
それだけ相手の用意が厄介であり、一度に多くの犠牲を出してしまったことが決断を速めた。
加えて、磁力を使っていることは明白であり、それを利用しない手はなかった。
自分自身が移動する時にだけは磁力を弱め、防御に徹する時は最大出力で対応する。 実に分かりやすい相手だった。
クロマララー・バルトフェルドが死んでしまったのは非常に手痛い代償だったが、得たものはあった。
相手は、究極的な馬鹿ということが分かったのだ。
(゚A゚* )「残りの爆薬は?」
答えたのは、ジャンヌ・ブルーバードだった。
ノリ, ゚ー゚)li「さっきの扉1枚ぐらいだねぇ。
でも、内側はそこまで手厚くないって情報だよ」
(゚A゚* )「しゃーない、最悪は高周波ナイフで蝶番を切り落とせばえぇ。
残りはこの中にいるのは間違いないはずや!!
ええか、ここで殺さな、ウチらが殺されるんや!!
応酬の連鎖はここで終わりにするんや!!
マイノリティがノーマルになるんなら、ここしかないで!!」
控えている仲間たちに声をかけ、世界最後の悪役になる覚悟を決める。
内藤財団がその役を担おうとしていたようだが、実際は違う。
彼らが代弁するのは大多数の意見であり、世界の日陰に生きてきた人間の声ではない。
ここで立ち向かわなければ、マイノリティは駆逐の対象となり、これから先の世代の一部を切除することになる。
性とは人の命そのものだ。
辛みを好む人間がいれば、苦みを好む人間がいる。
それと同じこと。
それを否定する世界は間違っており、それを前面に押し出そうとする世界は決して受け入れてはならない。
これは自分たちの存在を否定させないための戦いであり、そのために悪になると決めた人間達の行動だ。
故に、虐殺と言われる行為に手を染めようとも、一向にかまわなかった。
自分たちと同じマイノリティが虐げられてきたように、彼らもまた、それを実行に移すだけに過ぎない。
不毛な応酬と言えばそれまでだが、それがここで終わるのならば、決して不毛ではない。
中央の礼拝堂に街の生き残りがいるのもそうだが、教皇のクライスト・シードがまだ見つかっていない。
街の外に通じる地下通路が存在している可能性があるため、早めにこの建物を崩落させなければならない。
だが残された爆薬の量では、それは叶わない。
残された手段は、焼き払うことだけだ。
(゚A゚* )「油断せず行くで!!
さっきみたいなけったいな装置がないとも限らん。
クリアリング、報告を徹底するんや!!」
建物内全てを消毒すれば、いずれにしても十字教の権威は失墜する。
十字教という巨大な組織がなくなれば、マイノリティの居場所は確保できる。
宗教とは価値観。
ならば、その価値観が瓦解すれば、差別や偏見が変わるのは間違いない。
6人一組を原則とし、ノーたちは建物中に散り散りになった。
無論、彼女を筆頭とする腕に覚えのある者達は礼拝堂に通じる扉の前に立っていた。
これから行うのは、間違いなく虐殺行為になるものだ。
逃げ場を奪い、最後にすがるものとして神を選んだ哀れな十字教徒を殺す。
各々、ライフルの残弾を確認し、準備が整ったことを確認し合う。
先陣を切ることになったのは、ジャンヌ。
ノリ, ゚ー゚)li『握り拳と握手は出来ない』
両腕に“マハトマ”を装着し、続けて別の棺桶の起動コードを入力する。
ノリ, ゚ー゚)li『忘れないで。私だって男の子に愛してほしいと言っているだけの、ただの女の子よ』 小型ポーチの形をしたコンテナに収められていた布を取り出し、それを眼前に掲げる。
すると、その布が一瞬の内にはためきを止め、一枚の盾の様に固まった。
携帯用護身布を使用する“ノッティング・ヒル”は携帯性に優れ、電流によって硬度を変える繊維によって防御と攻撃の両方を可能とする。
扉に右手をかけ、左手はノッティング・ヒルを盾として構え、上半身を守る。
その背後で、仲間たちが銃を構え、いつでも射撃が可能な状態にあった。
ノリ, ^ー^)li「よーし……」
次の瞬間、豪華な装飾を施された重厚な扉が冗談の様に吹き飛んだ。
マハトマの筋力補助だけでなく、ジャンヌ自身の膂力とセンスの成す技だ。
宙を舞った扉が、厳かな空気の礼拝堂に並ぶ椅子をいくつも潰す。
部屋の中央にある巨大な十字架を囲む形で並べられた木製の椅子は、恐らくそれ一つだけでも数百万ドルの値が付くほどのアンティークだ。
高い天井から差し込む日の光が部屋を程よく照らし出し、壁画や天井画の鮮やかな色合いが目に付く。
ノリ, ^ー^)li「ジャジャーン!!
どうもー、神の使いです!!」
十字架の足元には、身を寄せ合って怯えすくむ老若男女がいた。
数にして100人ほどだろうか。
誰も手に武器を持たず、十字架だけを持っている。
女子供は泣きだし、男は十字架を握りしめて祈りを捧げている。
諦めたか現実逃避をしているのか、穏やかな表情を浮かべている者さえいる。
ノリ, ^ー^)li「神様にお祈りは済んだ?
じゃあ、ここまで!!」
背後でライフルが火を噴いた。
容赦なく一斉に放たれた銃弾がジャンヌの視線の先にいた人間を、肉の塊にしていく。
悲鳴も祈りの声も、嘆きの声すらも、銃声が上書きする。
次々と死体が増える中、ジャンヌは疑念を抱いていた。
数が少なすぎる。
ノリ, ゚ー゚)li「地下室でもあるのかな?」
「正解です」
その声は、十字架の裏から聞こえてきた。
出てきたのは、スーツ姿の男だった。
( ・∀・)「この十字架をどかすと、教皇とその愉快なお仲間たちがみんな隠れていますよ」
ノリ, ゚ー゚)li「民間人は?」
( ・∀・)「地下は二重構造になっていて、民間人が手前、その奥に教皇たちです」
ノリ, ゚ー゚)li「情報ありがとう。 で、君は誰?」
( ・∀・)「マドラス・モララーです。
親しい人もそうでない人も、皆モララーと呼びます」
ノリ, ゚ー゚)li「そうか、モララー。
その情報が正しいかどうかは分からないけど、一応感謝しておくよ」
( ・∀・)「いえいえ、お気になさらず。
で、行きます? それなら、私が色々と案内しますよ」 ノリ, ゚ー゚)li「遠慮しておくよ。 罠でない保証がない」
( ・∀・)「あらら、残念。
では、私は行かせてもらいますね」
ノリ, ゚ー゚)li「狙いは何?」
( ・∀・)「愛を手に入れるんです」
ノリ, ゚ー゚)li「愛?」
( ・∀・)「えぇ、愛。 私ね、こう見えて前は牧師をやっていたんです。
皆が愛って言葉を使うから、私はそれが欲しくなりましてね。
人だけが持つ愛ってやつが、どうしても手に入れたいんです」
ノリ, ゚ー゚)li「……あっそう。
だけど、モララー、君はここで死んでもらうよ。
狂人のふりをしているセントラスの人間なら、生かす理由はないからね」
( ・∀・)「どうしても駄目ですか?
私がこれからすることは、決して皆さんの損にはなりませんよ」
ノリ, ゚ー゚)li「それは言葉だけだからね。
じゃあね」
手を上げ、発砲を促す。
無慈悲に放たれる無数の銃弾。
しかし、モララーはその場から動くことも、目を閉じることもしなかった。
( ・∀・)「……私はね。 神とやらに愛されているみたいなんですよ」
だが、銃弾は一発も彼の服に穴を開けなかった。
両手を広げ、不敵な笑みを浮かべる。
( ・∀・)「だけど、愛が分からない。
己の愛の為に他者の愛を踏みにじる君達なら――」
ノリ,;゚ー゚)li「ちっ!!」
銃弾が当たらない芸当なら、先ほど見たばかりだ。
ジャンヌは迷わずに接近戦を選び、疾駆した。
ノッティング・ヒルを細長くし、槍の様に突き出す。
金属以外の物も曲げられるのならば話は別だが、そうでなければこれでトリックが暴ける。
( ・∀・)「――私に、愛を与えてくれるかもしれませんね」
膂力を強化した一投は、だがしかし、当たるかと思われたその直前に眼前に掲げられた小型のコンテナに阻まれた。
人間の腕力ではない。
ドーピングをしているか、棺桶を使っているに違いない。
だが、攻撃を防いだということは、こちらの攻撃を危険視したということ。
攻撃は通じる。
銃弾は駄目だが、近接戦闘ならば問題はない。
( ・∀・)『食えるときは無礼な奴を食うんだ。 野放しの無礼な奴を』
コンテナを眼前に掲げたまま、モララーがそう告げた。
中身が空になったコンテナが地面に落ちると、そこには口元を覆い隠す異形の仮面があった。
( ・曲・)『さぁ、愛の対話をしましょう!!』 ノリ, ゚ー゚)li「ペトロヴィッチ、タルコフ!! こいつの相手を!!」
ソルダットに身を包んだペトロヴィッチ・グラスゴーとタルコフ・ホップスターが前に出る。
([∴-〓-]『任せろ』
([∴-〓-]『神父を殺すのが夢だったんだ』
ノリ, ゚ー゚)li「拳で殺せ。 油断するなよ、さっきのあいつと似たような装置を使っているぞ」
( ・曲・)『では、どこまでの覚悟があるのか見せてもらいましょう。
……ねぇ?』
地響き。
そして、巨大な振動が一同の足元から生まれた。
ノリ,;゚ー゚)li「なんっ?!」
ラース・オブ・ゴッド
( ・曲・)『神 の 怒 り。 教皇たちは“ラスゴ”と呼んでいましたね』
次の瞬間、モララーと十字架の周囲を残して全ての地面が消失した。
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マム ______ r' ´ /
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マム li:i:l | `l / / / | /
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第十二章 【 Ammo for Rebalance part9 -世界を変える銃弾 part9-】 了
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