今まで一所懸命に張り詰めていた気もちが、尻餅を突くと同時に、みるみる弛んで来るにつれて、何とも知れない可笑しさが、腹の底からムクムクと湧き起り初めるのを、どうすることも出来なくなった。
それはとてもタマラナイ程、変テコに可笑しい……頭の毛が一本ごとにザワザワとふるえ出すほどの可笑しさであった。
魂のドン底からセリ上って、全身をゆすぶり上げて、あとからあとから止め度もなく湧き起って、骨も肉もバラバラになるまで笑わなければ、笑い切れない可笑しさであった。

……アッハッハッハッハッ。ナアーンだ馬鹿馬鹿しい。名前なんてどうでもいいじゃないか。忘れたってチットモ不自由はしない。俺は俺に間違いないじゃないか。アハアハアハアハアハ………。

こう気が付くと、私はいよいよたまらなくなって、床の上に引っくり返った。頭を抱えて、胸をたたいて、足をバタバタさせて笑った。笑った……笑った……笑った。
涙を嚥んでは咽せかえって、身体を捩じらせ、捻りまわしつつ、ノタ打ちまわりつつ笑いころげた。

……アハハハハ。こんな馬鹿な事が又とあろうか。

……天から降ったか、地から湧いたか。エタイのわからない人間がここに一人居る。俺はこんな人間を知らない。アハハハハハハハ……。

……今までどこで何をしていた人間だろう。そうしてこれから先、何をするつもりなんだろう。何が何だか一つも見当が附かない。俺はタッタ今、生れて初めてこんな人間と識り合いになったのだ。アハハハハハ…………。

……これはどうした事なのだ。何という不思議な、何という馬鹿げた事だろう。アハ……アハ……可笑しい可笑しい……アハアハアハアハアハ……。

……ああ苦しい。やり切れない。俺はどうしてコンナに可笑しいのだろう。アッハッハッハッハッハッハッ……。