0001jc!ﾀﾞｵ
2022/05/18(水) 21:24:50.379ID:384pr25s0瞬くようなあまりに素早いその顔を傷つけるかのようにすぐ顔前を過ぎゆく人間の濃いその死の臭いに満ち満ちた、また光と火と闇の濁流。
まるで地獄の中の悪魔そのもののような白々しい表情で、その精神病院のベッドの中のような闇の中心で妖しくそれらを睨みつけながら瞬時ピクリとそれは時折その青ざめた表情を変化させました。時に訝し気に何食わぬ風に、あるいは底知れぬたくらみの濁流をぼんやりとただ漂うのを中途、いつの間にかに妨げられ見上げながらそしてついつい少し驚くように、あるいはそれは心躍らせてにわかにその一部始終を顔一面を以て気でも違ってしまったかのように我を忘れて。それは散々に泣いて喚いた後の静寂と影の中に溶け入るようにまざまざと夢中に。
その異様なただ確かな命の名残というべき不審な活動は、二回、三回、四回、と今や漠然として轟々と、もはや全ての命を狂った死の闇の中へ堂々とさらうような予感に満ちて、靄のように立ち込めてなにか不吉な前兆のように力強いなにかいかにも闇からの明らかな精霊たちをそこいら中に産み散りばめていました。その一部始終は言語を絶する地獄の業火を想像しうる限りに深い、暗い恐怖の闇に鋭く、今実に煌々とまんまと揺らめかせているのでした。
それは恐ろしい非情な不安も、複雑なその特異な焦慮も、なにかすべて忘れたように嬉しそうに恐ろしく微かに笑うよう。今やどんな鮮やかな人の活動にも引けをとらないそのほとんど魂と躍動、まるで重力の振動というべきものに果てしもなく輝きあふれるのでした。
そこにもし、誇りがなかったら。そこにもし、輝きがなかったら。そこにもし、思いがなかったら。
あの人がもし、そこに…
狂気__________
それでもまだ、正しさはでも、そこに残ったの。
それは一隻の深紅の美しい旗艦であって、その宇宙戦艦の巨大な身を挺してでも人知れず育み続けた秘かに地獄の神髄から取り出したような世を呪い、人を呪ういかにも酔狂なその大きな邪気の火をひとつ、闇の中に無事、静かにその冷やかな底から起動させたのを確認するような泰然の陶酔の中にありました。実になに事もなかったかのように沈着に、その恐怖の振動の中に慄然としながらもあるいは狂喜しながらもジッと、たちまち立ち上るその異様に激しい輝く悪夢の神秘の重力からはむしろ最大に引き剥がされながら実に酷く時に揺さぶられ、全てのその砲門の緊張して興奮を極めた止めどない一切合切の激しい斉射の絶え間ないそれら瞬きの合間に静かに、飽くまで毒々しいその青ざめて気ちがいめいた突拍子ない激しい死の影の中に、秘かに血まみれの青ざめた冷たい地獄への覚悟を胸にまったくなに食わぬ風に静かに、さも大切そうにとぼけてそれを愛し気に見守るような気味の悪い戦線離脱を今ゆっくりと開始していました。
「フィフス進入角度良好、進入速度、良好！」
一体、あなたは誰なの？
主砲斉射は尚も激しく興奮を続けました。それは皮肉にも何か、凋落の兆しにこそ激しく抗うように。
女は隣の男をよく知っているかのようでした。ただその美しくも何食わぬ顔は、最も近しい関係は例えばその男ではないというような透明の空気をそこに漂わせていました。
「シャア大佐は、モビルスーツデッキでモビルスーツを？」
「はッ、サザビーです」
その士官らしき女が艦橋の最上席で隣の男に質します。色彩を非常に抑えた深紅の紅が、まとめ上げられたその長い金髪の深い輝きにどこかよく映えました。視界には向かい合って戦場の全ての動きが苦心もなく、薄暗い地図上の極めて単調ないくつかの光として半透明状の巨大なモニターにただ訳もなく今明滅を繰り返しています。
「大佐、ギュネイ・ガスの空域が膠着状態です。援護の必要を認めますが…」
女があらかじめコンソールを叩くと、手元の小さなモニターが明るく灯り改めて一人の男が今まさに座席に乗り込むのが映し出されました。その時女の声には並々ならない、ただ二人のその濃い感情的な関係が少しだけなぜか何気なくよく分かるようなつかの間の吐息がどうしてもどこか静かに澄ましてもわずかに籠るのでした。
「フィフス・ルナの投入は終わったのだな。総員、引き上げのサインを出せ！」
男はなんとはなく慌ただし気に、足元の暗がりに青い目を険しくしながら誰をも逃さず捕らえるこの荒々しい全身に鋭い重力の轟音の事態に改めてそれを見極めるように、あるいは皮肉にそれをとぼけて見せるかのようでした。
おわり
