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0001jc!ダオ
垢版 |
2022/04/08(金) 21:47:46.124ID:elTVDiFOM
やにわに再び舞い上がる無数の白い胞子。それは止めどなく真っ黒に煙立ち込める雪雲そのもののように重々しく頭上に君臨する異様な空に風もなくふわふわと吸い込まれ、やがてそのコントラストの隙間の中から夢でも見ているかのように少女にもかつて聞き覚えのある少し重い鈍いエンジン音が妙に風に漂うように悲し気に、いかにもゆっくりと徐々に徐々にこちらに接近して漏れ伝わるのでした。そこかしこでまだ火のはぜる小さな音。まるで明るい真夜中のようなその小さな雑音にすら紛れてしまうなんともささやかな、実にまだ小さい今にも消え去るような音でした。それはなんとなく物欲しそうに檻の中からおびえてこちらをのぞく獣のような、地獄の底から這い出してきた非常に苦悶する負傷者のような、あらゆる神経が麻痺して夢を見ながら過去を漂う老人のような。まだ言い知れない深い失望によってうずくまったまま地面を見つめ続けるアスベル。接近して通り過ぎたらそれきりだろうこのブリックの音にはついにまだ気づけてはいないようでした。
少女は内心迷いました。無限の黒煙の上で間に間にペジテをうかがう今はまだ得体の知れない航空機は恐らくここペジテの輸送船ブリックであることは間違いないでしょう。でも、それが街を奪われたペジテの住人を乗せた、したがって避難船であるのならそれはそれで喜ぶべきことです。ですがもしそうでない場合、もし狂ったように奪った船を以て救いがたい邪悪な暴虐を再び働こうとするトルメキア兵たちか或いは、もう何機か厚かましくトルメキアの戦闘船も余計に血に飢えた猟犬のように近づいているのだという可能性も低くはないはずです。その時は、どうすればいいの?
一体何が起きているの__________?
鉛のように重い雪山の降りしきる止めどない雪のような冷たい緊迫した一瞬でした。そしてもし接近するブリックの存在を知らせたら、絶望に顔を歪める今のアスベルなら常識では考えられない無防備な喜びを瞬間的に爆発させて、後先を考えずに砂漠の真ん中で合図を送って彼らを呼び込んでしまうことを想像することはもう造作もないことでした。そればかりでもありません。自然このままもしアスベルの苦しむまま黙って探っていたらこのペジテの王族であり飛行士アスベルからなにか予期できないあのトルメキアとの戦いにおいてなされた驚くべき彼らのはかりごとの一端を知れるのかも知れない。それはひょっとすると風の谷にもきっと無関係ではなく、では必然少女は今はこのまま黙って彼の重い口の開くのに任せてそのまま一言一句をただ聞き漏らさずに、かくしてその真偽だけを再びその自分の心に改めて確かめれば良いはず。どこまでもそれだけで良いはずでした。でもその時、少女は不思議なことになんとも言えない寒気のするような、運命を冷たい手でその皮膚を食い破るようにしてなに者かに力強く握られているのを感じる初めて味わうような後ろめたさを確かに感じるのでした。
神さま、どうか__________
足元に一度目を落として心に祈ると、再び震える少年を少女はさり気なく正面に見ました。この少年はただひとり生き残り、父も母も失ったのだ、そう思うと少女は今にも柔らかなその唇のかんぬきをあっけなく外してしまいそうでした。それは恐ろしい瞬間でした。狂おしいほどに顔が上気して赤黒い小さな子供のように痩せこけた口の歪んだ悪魔が意地悪そうにその牙をちらちらとと光らせながら背中から退屈そうな顔を作ってひょっこりこちらをのぞくような。閉じ込められて窒息しそうな、蛇にでも絞められているような瞬間でした。

残念ながら今日はここまでです。
何らかんらで谷はそのあと何らかんら救われます。予言者のおばあさんもいます。脇を固める子供もいます。
「姫様、青い異国の服を着ているの」
「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし。おお、古き言い伝えはまことであった…!」
青い服の少女は微笑みながらなおも金の光の上を歩きます。生まれたばかりの天使のように。

おわり
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