90年代のある夏、俺は家族で沖縄へと出かけた。
当時中学2年だった俺は、沖縄という別世界のありがたみが分かるはずもなく
専らの興味は、ホテルのゲームセンターや土産物にあった。
ホテルは当時にありがちな趣味の悪いリゾートホテルといった風合いで
親から自由行動を与えられるわけもない年齢では、選択肢は限られていたという事情もあった。
それでも俺はホテルのプールや、プライベートビーチで原色の水着をまとって大騒ぎするような人たちと
同じようにして楽しむ気分にはなれなかった。
今ではそれをはっきりと区別する適当な言葉があるが、当時の俺としても漠然とした疎外感というか
あそこは自分のいるべき世界ではないと言ったような感情があったように思われた。
暇を持て余した俺はホテルのフロントの向かいにある土産物コーナーをぼんやりと眺めていた。
シーサーの置物、派手なアロハシャツ、沖縄の名産
予想を裏切るようなものは何一つない、地元のデパートにでも行けば揃わないものはないような退屈な土産物屋だった。