そこには少女の不運をかこつように、時々閃光を放って凍ったような雨をぶつけてくる濃い霧以外にはなにも見ることができない小さな一つの丸窓だけがかろうじてこの妙にじめじめと雨の匂いのする湿気に満ちて呪われたような小さな暗い小部屋を目に見せていました。まさかここであっけなく命を絶たれるようなこともないだろうとは思いながらも、その時が現実にやってくるまでは必死で谷の無事を祈ろうと青ざめた顔をうっぷしている少女。大きな籠からこぼれてその足元に転がるいくつかのジャガイモが時々床の隅から隅へともみくちゃになりながら舞台を移して、この妖怪じみた巨大なブリックが絶えず追いつめられた獣のようにこのうつろな雷とともに雲の中に落ち着きなく潜んでいるらしきを教えました。そのほかには薄汚れた土嚢袋と口のかけた土瓶だけ。ナウシカは涙からすっと血が出るような苦悶のうちにもこんな生のジャガイモを食べたらあとできっとお腹を壊すからこうして捕らわれの身の自分にも隠すことなくこうして置いているのだろうかなどとフと考えて、少し自分でおかしくなって笑いました。それはもう、死を覚悟したひとりの少女の苦しい心の疲労の果てであったのかも知れません。
「気を付けてください。さっきまで暴れていたので…」
看守の声が来訪者を知らせます。アスベルかとも少し期待しましたが、やはりそうではなさそう。では誰なのか、少女にはもう少しの見当もつきませんでした。手の間を抜けたテトが髪の毛の中で外を覗いながらうなじのあたりに小さなその温かな手を当ててくすぐるようでした。希望の訪れを知らせて言葉もなく懸命に勇気づけてくれているよう。ナウシ●は今、感情を殺してつくねんとただ祈るだけしかできませんでした。
知らない足音が部屋の中に入りました。小さな足音で、もしかしたら女性かも知れない。弱り切ったナウシ●はそう思うと少し安心しました。例えここでこの人物に命を奪われることになろうとも、男性よりは女性の方が良い。追いつめられたペジテにもまだ良心があったことに少女は静かにそっと神さまに感謝しました。ところが、もうひとり別の存在をすぐさま慌ただしい足音が知らせたのです。

残念ながら今日はここまでです。
何らかんらで谷はそのあと何らかんら救われます。予言者のおばあさんもいます。脇を固める子供もいます。
「姫様、青い異国の服を着ているの」
「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし。おお、古き言い伝えはまことであった…!」
青い服の少女は微笑みながらなおも金の光の上を歩きます。生まれたばかりの天使のように。

おわり