街のすさまじい悲しく狂ったようなすすけた黒い煙をゆっくりと上空で歩いて見回るようにしていたブリックが、やがてすぐさまおもむろに思い切ってどこまでも続くような砂漠に向かって胴体着陸をしました。
生真面目そうな顔でそれを見ていたアスベル。待ちかねたようにナウシカをそのまま置いて駆け寄りました。
ブリックはそれを待ち構えていたかのように鉄扉を開くとすぐに数人の大人を吐き出しました。四階建てほどの、とても大きな機体。案外小さなジェットエンジンはあっけなく静止して、そのままその火を消しました。
「アスベル! 生きていたか…!」
先頭を切って真っすぐ向かってきた笑顔の男にとても険しい顔で詰め寄るアスベル。その表情には絶望の色がありました。
「なんてことをしたんです! あれじゃ再建もできない!」
質問の答えをなにもかも前もってそろえていたかのような落ち着き払って取り澄ました男。左右から目配せをする若者たちも白々として口には不真面目な微笑さえ見えました。
「街を見たんだね。大丈夫、腐海に飲まれても直ぐ焼き払える」
そんな建前など当てになるかというようなアスベルの表情はでも、こんなに大人が言うのだからいっそ信じて楽になりたいなにも知らない子供の表情が見え隠れしました。堰を切って再び詰め寄るアスベル。
「でも、巨神兵はここにはいないんだ!」
「わかっている…。風の谷だ」
意外にもあまりに素早い抜き差しならない恐ろしいこの答えに、もはや落とし穴に矢のように落ちてさすがに一瞬きょとんとするしかないような眉をしかめるアスベル。その背中越しにナウシ●がメーヴェを頭上に担いで駆け寄りました。見開かれた瞳は、すでにすべての話の道筋を見つめていたよう。
「なぜそれを…?」
乾いていていかにも偽物の、なにかを人の目から隠すような冷たい笑いを男はしました。男は透かさず非常識な言葉を継ぎました。
「我々も遊んでいたわけじゃない。作戦の第二弾も発動したよ。今夜にも風の谷のトルメキア軍は全滅だ!」
「なんだって?」
「全滅って…、なにをするの?! 」
慌てふためいてメーヴェを放り出すナウシ●。面食らった男は怪訝な顔でアスベルを見ました。
「アスベル…、この人は?」
いかにも言いづらそうにうつむいて、まるで愚かすぎる怪しい大人をなじるような目をしながら少々苦々しく吐き出します。
「風の谷のナウシ●。命の恩人だ…!」
「おお…」
「風の谷の…?!」
大人たちは一様にうろたえたように見えました。ナウシ●は身を震わせて詰め寄りました。
「教えて! なにがあるの!?」
そこに応えは返りませんでした。左右の男たちは一向に要領を得ないような目配せをしながら、その癖気の毒気にひそめた眉根をお互い交換しあって静かになにかを勝手にそのままやり過ごしているような。ナウシ●はやがて裏切られて怒ったような、あるいは子供をいさめるような、涙のにじむ藁にもすがるような必死さでアスベルに詰め寄りました。
「アスベル、あなた知っているんでしょう?! 教えて!」
アスベルのその目は足元の砂の一粒だけを悲し気に、いかにも苦しそうな泣き声のような、あるいは謝罪をするような弱々しい、やがて後に続く卑屈で恐ろしい冷たい毒針のような絶望と邪悪な告白をありありと今示しているようでした。
「蟲に、襲わせるんだ…」

残念ながら今日はここまでです。
何らかんらで谷はそのあと何らかんら救われます。予言者のおばあさんもいます。脇を固める子供もいます。
「姫様、青い異国の服を着ているの」
「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし。おお、古き言い伝えはまことであった…!」
青い服の少女は微笑みながらなおも金の光の上を歩きます。生まれたばかりの天使のように。

おわり