一見雪山にほのかに草花が色めいてよろめきながらも荒々しく、その刺すように冷たい冬の覆いを力強い生命力で出発点にして突き破り、なんとか寒い陽の光に顔を出して喜んでいるかのように見えます。ですがそれらはあくまで腐海の景色であって、よく見ればたちまちに所々おどろおどろしく、地形すら溶かして腐るその白く輝く雪のような雲は新たな森の萌し、毒の瘴気の広がりでした。誰に想像できる光景でしょう。山はつくねんとして一種異様な静けさで、煮え切らないようなその同じ小高さで律儀に規律正しく並んで立って、もはや美しさというより不気味に絶えず漂う得体の知れない恐怖の瘴気の白雲に、なぜかまるでぽっかり浮かんで彷徨うよう。
白いメーヴェの乗せる二人。空は晴れてすがすがしく、瘴気の渦のはるか上空に本物の雲を優雅に泳がせていました。
「そうかな? ボクにはいつもとおんなじにしか見えないが…」
二人が乗るメーヴェの影がどこまでも静かに、悪鬼の呪いの麻袋のような、狂ったキチガイの祭りの後の興奮の砂浜のような、腐海の瘴気のそのめちゃくちゃな落ち着かない病んだ平原にそのまま真っすぐに、ただ飛行雲だけ孤独に連れて涙の垂れるようにひたすら一筋、音もなくただ揺らぎ続けていました。
「蟲たちがいない…」
ナウシ●の眉の根は険しく、この異様なちょこんと天空の島のような山々の麓をただただ睨んでいました。
「なぜかしら…?! こんなに胸がドキドキする…」
雲があまりにのんびりとして、地上は寂しく放任されてそのまま冷たく見放されているよう。
「もうすぐだ。あの山を越えればボクの仲間たちがいる」

残念ながら今日はここまでです。
何らかんらで谷はそのあと何らかんら救われます。予言者のおばあさんもいます。脇を固める子供もいます。
「姫様、青い異国の服を着ているの」
「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし。おお、古き言い伝えはまことであった…!」
青い服の少女は微笑みながらなおも金の光の上を歩きます。生まれたばかりの天使のように。

おわり