ナウシ●は眼前に迫る王蟲の呪いの竜巻のようなそれぞれ無数の足の激しく地をたたくのをただ一点を見つめ、そのまま青くほの白く輝くほかならぬ少女のいとけないその真摯な顔で迎えました。
土とカビのにおいが鼻を突きました。その後には生まれて初めて味わうような激しい地震のような衝撃、そしてすべての埃が白い蛇のようになって崩れ行く鋼鉄の船にそっと人々を永久に閉じ込めるように薄笑いをするように巻き上がりました。
そして少女は高く高く天へと弾き飛ばされ、闇にうごめく真っ赤な土煙の中にそのまま舞い落ち姿を消しました。どんな悪魔的な好奇心も神聖な、霊的な、処女的、聖母的な彼女のきよらかな姿をとても冷静にただ観察はできなかったでしょう。とうとう王蟲は血まみれになって、真っ赤な目もそのままに人からすべてを奪うように、魂にそれを刻み付けでもするように、すべて一突きずつ恨みを晴らして闇を崇拝するように、大地をたたいてつぶして踏み壊し続けました。ガンシップも戦車も、哀れな兵士や将校も男も娘も神がかった例外はそこには決して許さないように、封印するように。
するとどこかからか神さまの深いため息のような、あるいは無限の記憶から死者たちがよみがえりこの世の光をすべて閉じて務めを果たし、お互い睨みあって最期の勝鬨のような叫びのような、一方でもともとの自然の元来本当の悲しみむせぶようなやわらかな風が大きく吹いたと思うと、実に不思議なことに、惜しげなく燃え続け人を呪い世を呪い、生命や真実を闇へと戻すことこそを義務としていたかのような狂って熱く燃えていた王蟲たちの異常な目の攻撃色の赤い光がみるみるちょうど一点を中心とするように、呪いが神の許しをえるように一つ二つと、それからあっという間に広がって奇妙な恐怖のあらたな平静が妖しくながい破壊の果てに取り戻されていきます。
オームの足元に唖然として首をもたげる男がいます。クロトワでした。
空にエンジン音が聞こえます。ペジテのブリック。ユパが乗るものでした。
「王蟲の、攻撃色が消えていく…!」
地上では鋼鉄の城にかろうじてしがみついた民の中、老婆は血走った見えない目を天にいっそう耳を澄まします。
「大気から、怒りが消えた…!」
がれきからミトが顔を出して様子を見ていました。人々の顔も一斉に外に出ます。
「止まった、王蟲が止まったぞ…!」
王蟲はいつのまにやら螺旋状になって止まっています。静かにただかすかな風だけが人々の耳を撫でて澄ましていました。その中心にひとりの少女が、いえ美しく明るくて朗らかであったはずのあの少女の身体が一つ。それはただ細く、長く静かに悲しく砂に横たわるだけでした。それからやがてその亡骸を惜しむように、なついて縋ってむずかるようにあの王蟲の幼虫が寄り添います。また風がすこし生き生きとしてきて砂を舞わせます。なにかがそこに輝いて見えます。それは金に輝く王蟲の食指。それはとてもとても小さくか細い、ほんの幼い永遠に輝く真心ただそのものでした。
「ひめねえさまが!」
「おお…!」
人々はもはや、誰もが彼女の甘美な運命をその目で見守るぶるぶる震えた魂の観客でした。あまりに広すぎる、あまりに壮大な舞台の上で、やはり彼女は一人身動き一つできませんでした。それは、なにかをなみなみと人の魂の器に注ぎ、なにかを悠然と見えざる手ですくって捨ててしまうような真っ白な光景でした。朝日が人々の顔にこんこんと温かい赤白い霧を注ぎ始めます。
「ひめねえさまが、死んじゃった…!」

残念ながら今日はここまでです。
何らかんらで谷はそのあと何らかんら救われます。予言者のおばあさんもいます。脇を固める子供もいます。
「姫様、青い異国の服を着ているの」
「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし。おお、古き言い伝えはまことであった…!」
青い服の少女は微笑みながらなおも金の光の上を歩きます。生まれたばかりの天使のように。