「ユパ様…!」
「ユパ様だ」
「ユパ様、おかえりなさい!」
惜しまれる夕日、だいだい色に傾いた太陽に明日の活力を与えられているような温かな村。静かなその谷の平和にチラホラと、いくつか歓声が湧いてそのうち集って旅人をおおいに迎え始めます。
「姫様、お着きになりましたぞ」
「もうちょっと」
少女は振り向きません。ただ太陽の色を忠実に移す円錐上の風車の屋根に、ナウシ●は一人、羽の補修をするのかテキパキそれをなんとか素早く済ましてしまおうと応えて微笑みます。
「ユパ様!」
「おお、ミト小父! 精が出るな」
風車の屋根の補修用の小さな小窓から出た忌憚のない大きな胴間声に、旅人は素早くはばかることなく応じました。
「今宵はまた、異国の話を聞かせてください」
小窓に一杯、あふれるような大きな頭が続けます。
「いいわ…、回して」
無事に回転を始める風車。
「いいようですな」
それを確かめてしまうとほんの小さな小窓に風を受け、輝く髪をなびかせた美しい少女は夢見るような微笑を残し素早く音もなく吸い込まれます。風車は律儀に水を引き上げ始め、あっという間にさざ波を湛える頭上の水路。その下では早速何かの品評会が行われ始めています。
「おお…、これは確かに良い品じゃ、ユパ様」
「さっそく明日から人手をくり出して取りに行かなくては…」
「姫様の腐海遊びは困りものではあるがな…」
「まあ、しかし…」
「いい風使いになったものだ、ナウシ●は…」
旅人は感慨深い声を上げました。
そこに、ナウシ●は生まれたばかりの小さな幼子を抱いて旅人の前に現れます。
「ユパ様、この子は今年______」 

何らかんらで谷はそのあと何らかんら救われます。予言者のおばあさんもいます。脇を固める子供もいます。
「姫様、青い異国の服を着ているの」
「なんじ青い衣服をまといて金色の野に降り立たん。おお、言い伝えは本当であった」
青い服の少女は微笑みながらなおも金の光の上を歩きます。生まれたばかりの天使のように。

おわり