ルンバになった夢を見た。
 あの平べったいお掃除ロボット。
 魅力的なピロピロを振って歩くキュートなロボット。

 わたしはその夢の中で人々の足元、何もない床をゆっくり這っている。
 白い、白い床。
 そこは誰の目も届かなくて、冷たくて居心地がよくて、わたしはゆったりとゴミを食む。
 糸くずわたボコリ髪の毛紙くず食べこぼし、たくさん食べて、それが人のためになる。

 わたしは人知れず役に立つ、そんな存在。
 誰の目にも触れなくたって、誰の誉め言葉もなくたって、わたしは誰かの役に立つ。

 だから、夢が覚めたとき、わたしはしばらく呆然として、それから静かに泣いた。

 学校にわたしの居場所はない。
 みんなの目が、わたしを隅に追い立てて崖っぷちから突き落とす。
 敵を、それもクソみたいに弱くて醜い敵を見る目。
 でも本当はみんなはわたしのことなんて見ない。
 知ってもいない。
 わたしも知らない。
 わたしのいる意味も生きてる価値も。

 先生にも親にも言えない。
 多分信じてもらえない。
 それに説明なんてできない。
 痛み、痛みが、痛いんだ。

 だから、わたしは学校にいる間ずっと意識を体の外に出して、そしてひたすら外からわたし自身を押しつぶす。
 小さな、体積ほとんどゼロの誰の邪魔もしないただの点になるように。
 でも駄目だった。
 我慢した痛みが、押しつぶした痛みが、集まって、固まって、わっと叫び出したくなって、わたしはカッターを取り出してその刃の薄い薄い刃先とそれが切り裂く肉とその裂け目から吹き出る血の色を想像して、想像して、想像するだけで何もできない。
 わたしはただ声を押し殺して静かに泣く。
 だからやり方を変えることを決めたんだ。

 わたしは何にも気にされない誰の目にも止まらない、そんなものを世界から切り取って自分に貼っていく。
 薄める。
 ふわっと軽く。
 ついには誰の目にも見えなくなるように。

 わたしは、わたしは、ルンバになりたい。