現住建造物等放火の罪に問われている住所不定、無職の男(59)。起訴状によると、男は2023年5月15日午後5時50分ごろ、山口県防府市で母(当時82)と息子(当時31)と一緒に暮らす自宅に放火しようと、家屋の倉庫兼車庫に火を放ち、木造2階建て住宅を全焼させたとされます。現場は住宅密集地で、隣の家の駐車スペースの一部にも延焼しました。

6日、山口地裁で開かれた初公判で「間違いありません」と起訴内容を認めた男。検察は冒頭陳述で、事件のいきさつを話しました。

犯行の約1時間前。仕事から帰ってきた男は、電気代を気にせずテレビをつけたまま料理をする母親に腹を立て、口論になります。男が腹いせに、家じゅうの照明をつけて回ると、気づいた息子が照明を消し注意したため、息子とも口論になりました。口論の中で「わしゃ早く死にたいんじゃ」と言った男に対し、息子はひと言「じゃあ死ねば」。腹を立てた男は包丁を持ちだして手首を切りますが、母親に包丁を取り上げられたため、腹いせに自宅に火をつけようと、車庫に置いてあった灯油を床にまき、放火しました。灯油の量は約38リットル。その後、男は息子らがいるリビングに戻り、放火したことを告げたといいます。

息子が警察や消防に通報し、火は約1時間半後に消し止められましたが、この火事で住宅は全焼。母親は自宅内で意識不明の状態で救助され、顔やのどにやけどを負いました。

母親はネコを探すうちに意識失う
息子の供述調書によると、男は冷静な感じで「火をつけたで」と言ったあと、火を消そうとする息子に対し「消防呼んだほうがいいぞ」「警察も呼んだほうがいいぞ」などと言ったといいます。

やけどを負った母親は放火を知らされたあと、家で飼っていたネコを探そうと、足が悪い中2階などを探し回っているうちに、意識を失ったといいます。供述調書の中で母親は「男を罰してほしい気持ちはない。なぜこんなことをしたのか知りたい。男には命を大切にしてほしい、これからも男の力になりたい」と述べました。

犯行態様の危険さなどを指摘する検察側に対し弁護側は「男にはこだわりが強いという特性や自殺願望があり、これらが犯行に影響を与えた」と主張しました。

7日の公判で検察側は「危険性の大きい犯行。母親は10日間、集中治療室で治療を受けるなど、結果は重大」として、懲役5年を求刑。一方弁護側は、執行猶予の付いた判決を求めました。裁判員裁判で審理され、12日に判決が言い渡される予定です。