令和3年(行ヒ)第285号 行政措置要求判定取消、国家賠償請求事件 令和5年7月11日 第三小法廷判決

主 文
1 原判決中、人事院がした判定のうちトイレの使用に係る部分の取消請求に関する部分を破棄し、同部分につき被上告人の控訴を棄却する。
2 上告人のその余の上告を棄却する。
3 訴訟の総費用は、これを10分し、その1を被上告人の負担とし、その余を上告人の負担とする。

理 由
上告代理人山下敏雅ほかの上告受理申立て理由(ただし、排除された部分を除く。)について
1 本件は、一般職の国家公務員であり、性同一性障害である旨の医師の診断を受けている上告人が、国家公務員法86条の規定により、人事院に対し、職場のトイレの使用等に係る行政措置の要求をしたところ、いずれの要求も認められない旨の判定(以下「本件判定」という。)を受けたことから、被上告人を相手に、本件判定の取消し等を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
⑴ 国家公務員法86条は、職員は、俸給、給料その他あらゆる勤務条件に関し、人事院に対して、人事院若しくは内閣総理大臣又はその職員の所轄庁の長により、適当な行政上の措置が行われることを要求することができる旨を規定し、同法 87条は、上記の要求のあったときは、人事院は、必要と認める調査、口頭審理その他の事実審査を行い、一般国民及び関係者に公平なように、かつ、職員の能率を発揮し、及び増進する見地において、事案を判定しなければならない旨を規定する。
⑵ア 上告人(昭和▲▲年生まれ)は、平成▲年4月、≪略≫として採用され同16年5月以降、経済産業省の同一の部署で執務している。上記部署の執務室がある庁舎(以下「本件庁舎」という。)には、男女別のトイレが各階に3か所ずつ設置されている。なお、男女共用の多目的トイレは、上記執務室がある階(以下「本件執務階」という。)には設置されていないが、数の階に設置されている。
イ≪略≫複上告人は、生物学的な性別は男性であるが、幼少の頃からこのことに強い違和感を抱いていた。上告人は、平成10年頃から女性ホルモンの投与を受けるようになり、同11年頃には性同一性障害である旨の医師の診断を受けた。そして、上告人は、平成18年頃までに、私生活を送るようになった。≪略≫を受けるなどし、同20年頃から女性としてまた、上告人は、平成22年3月頃までには、血液中における男性ホルモンの量が同年代の男性の基準値の下限を大きく下回っており、性衝動に基づく性暴力の可能性が低いと判断される旨の医師の診断を受けていた。なお、上告人は、健康上の理由から性別適合手術を受けていない。
⑶ア上告人は、平成21年7月、上司に対し、自らの性同一性障害について伝え、同年10月、経済産業省の担当職員に対し、女性の服装での勤務や女性トイレの使用等についての要望を伝えた。これらを受け、平成22年7月14日、経済産業省において、上告人の了承を得て、上告人が執務する部署の職員に対し、上告人の性同一性障害について説明する会(以下「本件説明会」という。)が開かれた。担当職員は、本件説明会において、上告人が退席した後、上告人が本件庁舎の女性トイレを使用することについて意見を求めたところ、本件執務階の女性トイレを使用することについては、数名の女性職員がその態度から違和感を抱いているように見えた。そこで、担当職員は、上告人が本件執務階の一つ上の階の女性トイレを使用することについて意見を求めたところ、女性職員も使用している旨を述べた。
イ1名が日常的に当該女性トイレ本件説明会におけるやり取りを踏まえ、経済産業省において、上告人に対し、本件庁舎のうち本件執務階とその上下の階の女性トイレの使用を認めず、それ以外の階の女性トイレの使用を認める旨の処遇(以下「本件処遇」という。)を実施することとされた。上告人は、本件説明会の翌週から女性の服装等で勤務し、主に本件執務階から2階離れた階の女性トイレを使用するようになったが、それにより他の職員との間でトラブルが生じたことはない。また、上告人は、平成23年▲月、家庭裁判所の許可を得て名を現在のものに変更し、同年6月からは、職場においてその名を使用するようになった。⑷上告人は、平成25年12月27日付けで、国家公務員法86条の規定により、職場の女性トイレを自由に使用させることを含め、原則として女性職員と同等の処遇を行うこと等を内容とする行政措置の要求をしたところ、人事院は、同27年5月29日付けで、いずれの要求も認められない旨の判定(本件判定。以下、本件判定のうち上記のトイレの使用に係る要求に関する部分を「本件判定部分」という。)をした