子どもの頃の話。
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子どもの頃、僕は2階建ての借家にすんでいた。
母親も仕事をしていたので、学校から帰っても自分一人のことが多かった。
ある日、夕方遅く学校から帰ってくると、家の中が暗い。
「おかあさ~ん」と呼ぶと、2階からか小さな声で「はあ~い」と
応える声がする。もういっかい呼ぶとまた「はあ~い」。
自分を呼んでいるような気がして、2階へあがる。
階段をあがったところでまた母を呼ぶと、奥の部屋から「はあ~い」と声がする。
奇妙な胸騒ぎと、いっこくも母に会いたいのとで、奥の部屋へゆっくりと
近づいていく。
そのとき、下で玄関を開ける音がする。母親があわただしく買い物袋をさげて
帰ってきた。「しゅんすけ、帰ってる~?」明るい声で僕を呼んでいる。
僕はすっかり元気を取り戻して、階段を駆け下りていく。
そのとき、ふと奥の部屋に目をやる。
奥の部屋のドアがキキキとわずかに動いた。
僕は一瞬、ドアのすきまに奇妙なものを見た。
こっちを見ている白い人間の顔だった。 39歳の頃、僕は4階建ての団地にすんでいた。
母親は仕事をしていたので、職業訓練所から帰っても自分一人のことが多かった。
ある日、夕方遅く職業訓練所から帰ってくると、団地の中が暗い。
「ママぁ!」と呼ぶと、奥の部屋からか小さな声で「金ぇ…」と応える声がする。
もういっかい呼ぶと「働けぇ…」。
自分を否定されたような気がして、部屋へあがる。
また母を呼ぶと、奥の部屋から「酒ぇ…」と声がする。
奇妙な胸騒ぎと、いっこくも早く飯を食いたいので、奥の部屋へゆっくりと近づいていく。
そのとき、背後で玄関を開ける音がする。
母親があわただしく買い物袋をさげて帰ってきた。
「たけし、まだ仕事決まらないの…?」ため息混じりの声で僕を呼んでいる。
僕は少しだけイラッとしながら、玄関へ踵を返す。
そのとき、ふと奥の部屋に目をやる。
奥の部屋のドアがキキキとわずかに動いた。
僕は一瞬、ドアのすきまに奇妙なものを見た。
こっちを見ているアル中無職ギャンブル狂いの父の顔だった。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています