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5年前に書いた掌編小説が出てきたから読んでくれ
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2023/06/13(火) 23:11:34.222ID:PN+AN74p0
高校2年生の春、美奈は突然、学校に行くことをやめた。

「虐められたのか」と頻繁に尋ねていた父親も、嫌なことがあったわけじゃない、としか話さない娘に諦め気味で、最近は何も言わない。
母親の広子は「そういうこともあるのよ」と美奈が自ら心を開くのを辛抱強く待った。
不登校と言っても部屋に引き篭もるわけでもなく、午前中はリビングでのんびりして、午後には飼い犬と散歩をしたり、母親と買い物に出掛けて過ごした。
夜、夫が美奈を案じる言葉を口にすると、広子が「美奈は健康的な不登校だから大丈夫」と締めくくるのが半ばお決まりになっているのだ。

「健康的な不登校」が始まって半年を過ぎた頃、美奈の同級生が訪ねてきた。
いかにも運動部といった、日焼けした逞しい体躯の少年の来訪に広子は驚いたものの、坂上と言います、美奈さんと同じクラスです、と緊張しながら礼儀正しく振る舞おうとする彼に、しかし広子は嫌な印象を抱かなかった。
美奈は「あ、本当に来たんだ」と笑っている。
「お母さん、ちょっと出掛けてくるね。大丈夫、2時間くらいで戻るから。喫茶店で話すだけ」
「家に上がってもらったら?」
「坂上くんがまともに話せなくなるから」
その屈託ない様子に少し安心し、美奈を送り出したものの、広子は気が気ではなかった。

坂上という少年は広子の恋人なのだろうか。 不登校と関係があるのだろうか。
まさか、娘に限って不埒なことはあるまい。
いや、そうとは限らない。親の想像だにしない世界が美奈たちにもあるのだ――。
やきもきしながら落ち着かずに待ったが、美奈は2時間後にあっけなく帰宅した。

「来週から学校行くから」
帰ってくるなり美奈はそう言った。
「あなた、さっきの男の子と何か――」
「やだな、何もないよ。心配して相談乗ってくれてたんだ。相談っていうか雑談」
美奈はおかしそうに話す。
「今日ね、告白されたけど断っただけ。坂上くん、野球部なんだ。野球には技術も必要だけど、私たちくらいの年齢だと基礎トレーニングがもっと大事だって。
お前の不登校も基礎トレーニングみたいなものだろうって。私、この半年でマッチョになったみたい。心配かけてごめんね」

翌週から美奈は、何事もなかったかのように学校へ行き始めた。
――美奈は大丈夫。ちゃんと大人になる。
昼間、ひとりになったリビングで揺るぎなくそう思えた自分に「私も少しマッチョになったかな」と独りごちて、広子は思わず微笑んだ。
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2023/06/13(火) 23:14:42.593ID:PN+AN74p0
これはだいぶイマイチなやつ
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2023/06/13(火) 23:15:20.713ID:PN+AN74p0
「飛んでいる鳥ってなんだか悪い十字架みたいだね」
そう言ったのは誰だったっけ。
学生生活も終わろうとしている3月の、晴れた日。
お城の公園のベンチに座って、僕は一人で空を見上げていた。
僕はこう答えたはずだ。渡り鳥はどうやって目的地までの正しい道がわかるんだろう――。
ふふっと笑って彼女が答える。悪戯っぽく、邪気がない笑顔がフラッシュバックする。

「正しい道なんてないよ。一本道じゃないんだよ、きっと」

そうだ、あれはまだ大学に入学したての頃だった。

「私たちの目の前にあるのはいつも十字路だから」

講義で隣に座った女の子と連絡先を交換して、デートをしたんだ。

「間違えると地獄が待ってる、悪い十字架みたいな十字路?」

4月の晴れて気持ちのいい日曜日だった。
僕らは親元を離れ、はじめての一人暮らしに浮かれていた。
彼女はまた、ふふっと笑ってこう言った。

「そうだよ、どっちに進んでも間違えてるかもしれない、悪い十字路」

「どっちに進んでももの凄い幸福が待ってるかもしれない」

楽観的な方が気が楽だ。

「――くんは、天の邪鬼だねえ」と彼女が真顔で言う。

どっちが、と僕は思ったけど、口にしない。
彼女と大学の外で会ったのは、その時きりだった。

「社会」は彼女が言うように、どちらに進んでも間違えている迷い道なんだろうか。
右に進んでも左に進んでも変わらない景色。元の木阿弥。
そんなルーチンワークの毎日を想像すると気が滅入る。
「だけどさ、どっちに進んでも間違ってるなら、いっそ来た道を戻ればいい」
と僕は彼女に言う。
「戻れば少なくとも、幸福な日があったことを思い出せる。君とお城の公園で話した、晴れた日みたいな」

天の邪鬼だねえ、と彼女が笑う。
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2023/06/13(火) 23:15:42.591ID:5GXYNzIi0
父親とか夫とか、呼び名が変わると混乱する
この話は広子の視点から進行していくので、夫に統一した方が良い
それにともなって母親のという言葉もいらない
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2023/06/13(火) 23:19:16.525ID:PN+AN74p0
もうひとつある
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2023/06/13(火) 23:20:57.812ID:PN+AN74p0
学生の頃に、僕は毎日缶コーヒーを飲んでいた。1年で500本は飲んだんじゃないかと思う。
缶コーヒーはコーヒーとは別のものだ。ひとつきに1回だけ通う、喫茶店でコーヒーをすする度にそう感じた。
学校にも禄に行かず読書に没頭し、友人と麻雀を打ち、バイト代を趣味のバイクに費やして過ごす日々。
思い返せば朦朧とした意識で、怠惰で不毛な学生生活という舞台に溺れてみただけなのだ。60年代のように。
そうして僕は、無為に缶コーヒーを消費して、無自覚にプライドだけは高く虚飾に満ちて、皮肉屋な人格を形成し、6年めに大学を辞めて社会に出た。

「将来のこと、考えてるの?」

いつもの喫茶店で、彼女が唐突にそう言った。
彼女の言う「将来」はつまり、「私とのことをどう考えているのか」という意味だと瞬時に理解する。

「考えてはいるよ、もちろん。今の仕事は続けたいし」
信頼し合え、尊敬し合えることはわかっている。
彼女の仕草や表情に異性を感じることも少なくはない。にも関わらず、僕は一歩を踏み出せない。

「不安なのね」と彼女がストレートに言う。

「君はこんなカフェで毎週、ちゃんとしたコーヒーを飲んでいる僕しか知らない」僕は彼女のようにまっすぐに伝えることができない。

彼女は考える素振りをする。

「それはつまり、あなたには秘密があるってこと?正体は某国のスパイだとか――」

「そんなに格好いいものじゃないよ」と僕は苦笑する。彼女はまた考え込む。

「別に今いるのがあなたの散らかったアパートで、私たちが飲んでいるのが缶コーヒーでも、私は構わない」

僕と彼女は半年後に小さな結婚式を挙げた。
僕は過去の自分と離別したのだろうか。それとも過去を取り込んで、「ちゃんとした」コーヒーを飲むに値する人間になったのだろうか。
僕の胃に流し込まれた大量の缶コーヒーのことを、今でも考える。
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2023/06/13(火) 23:28:25.421ID:PN+AN74p0
最後のが一番いいな
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