死のよろこび

  シヤアル・ボオドレヱル


蝸牛匍ひまはる泥土に、
われ手づからに底知れぬ穴を掘らん。
安らかにやがてわれ老いさらぼひし骨を埋め、
水底に鱶の沈む如忘却の淵に眠るべし。

われ遺書を厭み墳墓をにくむ。
死して徒に人の涙を請はんより、
生きながらにして吾寧ろ鴉をまねぎ、
汚れたる脊髄の端々をついばましめん。

あゝ蛆虫よ。眼なく耳なき暗黒の友、
汝が為めに腐敗の子、放蕩の哲学者、
よろこべる無頼の死人は来きたれり。

わが亡骸にためらふ事なく食い入りて、
死の中に死し、魂失せし古びし肉に、
蛆虫よ、われに問へ。猶も悩みのありやなしやと。