宮崎  『火垂るの墓』にたいしては強烈な批判があります。 あれはウソだと思います。
まず、幽霊は死んだ時の姿で出てくると思いますから、ガリガリに痩せておなかが減った状態で出てくる。

それから、巡洋艦の艦長の息子は絶対に飢え死にしない。
それは戦争の本質をごまかしている。
それは野坂昭如が飢え死にしなかったように、絶対飢え死にしない。
海軍の士官というのは、確実に救済し合います、仲間同士だけで。
しかも巡洋艦の艦長になるというのは、日本の海軍士官のなかでもトップクラスの
エリートですから、その村社会の団結の強さは強烈なものです。
神戸が空襲を受けたというだけで、そばの軍管区にいる士官たちが必ず、
自分じゃなかったら部下を遣わしてでも、そのこどもを探したはずです。

……それは高畑勲がわかっていても、野坂昭如がウソをついているからしょうがないけれども。
戦争というのは、そういうかたちで出てくるものだと僕は思いますけどね。
だから、弾が当たって死ぬのもいるけれど、結局死ぬのは貧乏人が死ぬんですよ。

稲葉振一郎「ナウシカ解読」 インタビュー