(´・ω・`)Ammo→Re!!のようです
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その瞬間、誰もが空を見上げた。
異なる戦場。
異なる立場に関わらず、その光景は絶望的な物に映った。
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誰もがただ、見上げるしかできなかった。
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9月25日。
午後0時4分。
カーテンを閉じるように夏の昼空が灰色に染まり、世界に夜が訪れた。
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September 25th PM00:04
その現象は世界各地の空で観測されていた。
ある者は争いの中で。
ある者は日常の中で。
そして、ある者は死にゆく中で、見慣れた空が変容する様を目撃した。
初めは灰色、あるいは黒い柱が地上から空高くに立ち上っていく様子が確認された。
数秒の内にその柱は世界中で目視されることになったが、似たものを見た経験のある人間はいた。
“鐘の音街”こと、ティンカーベルで観測された巨大な爆発を記憶している人間だ。
あの時は海中で起きた爆発だったため、ここまで巨大なものになることはなかった。
故に、この現象は世界中にいるほとんどの人間にとっては初体験の物と言っても過言ではなかった。
経験済みの人間はティンカーベルで起きた爆発を見た人間ぐらいだが、その規模は桁違いだ。
この現象を世界で最初にカメラに収めた人間は、後にこう語っている。
『あれは、世界の終りの様な光景でしたね。
最初はね、何か、ただの黒い煙だと思ったんですよ。
だけど次第に成長していくから、これは妙だと思ってね。
えぇ、はい。 だから写真を撮りました。
丁度手元にあったし、これを撮っておかないと後悔すると思ったからです。
正解でしたよ、撮影していて』 映された写真は見ようによっては、黒い大樹が生えてきたかのような光景。
刻一刻と形を変え続ける雲は大木に巻き付くツタの様に電流を纏い、光り輝いている。
ほとんどの目撃者が仰け反る程に見上げた辺りで、黒雲が空を覆い始めた。
すぐに衰えるかと思われたその現象は一切萎えることなく、世界中の空に広まった。
『柱の頂上、って言えばいいんですかね。
それがね、まるで見えない天井にぶつかったみたいに横に広がり始めたんです。
その時も写真に撮っていましたよ。
私はあまりオカルトを信じないのですが、あの時確信しました。
この世界にはどうしようもない天井があるんだな、って。
ははっ、もちろん比喩ですよ。
ほら、高山病ってあるじゃないですか。
あれも目に見えない天井を越えた人間にだけ現れますよね。
あの時の煙も、そうした類の天井に阻まれたんでしょうね。
物理的な、そうした壁です。
人間が空の彼方に飛び立てない壁が、そうさせたんでしょうかねぇ』
最も離れた地点から観測した人間――天体観測が趣味の男――でも、空の片隅に炭を垂らしたかのように世界が黒く染まっていくことが確認されている。
空はすぐに青さを失い、濃い灰色の雲によって日の光が遮断された。
神々しくもあり、禍々しくもあるそれは、数分の内に世界中に影響を及ぼし始めた。
太陽光発電は機能を停止し、気温が大幅に低下した。
その現象について、ホッパー・ブリエビオはこう述懐する。
『あれは、暴力的な冬だったよ。
まだ薪の用意も、当然、冬の支度もしていなかったから町中皆が凍えてな。
そうだなぁ……風が一番辛かったな。
突風みたいな、そう、木枯らしとでも言おうか。
生ぬるい風が吹いてきたかと思ったら、一気に冷たい風になってな。
嵐が来る前の空模様に一番近いな。
大きな違いは、太陽からの熱が全くなくなったことだよ。
日差しが完全に遮られているのに、空の高さは分かるってのが、不気味でなぁ……
……これはオフレコなんだが、正直、興奮していたよ。
嵐が来ると思うと、ほら、なぁ?』
神を信じることのなかった人間も、この時ばかりは世界の終わりを予感した。
三基のニューソクの爆発が引き起こしたこの現象は、第三次世界大戦以降初となる人口の冬を作り出した。
だがそれは、冬というよりも夜。
分厚い雲が遮断した陽光は世界のほとんどを夜にしてしまった。
もともと夜だった地域からは星空が失われ、巨大な月も鳴りを潜めた。
暗がりの世界でも、非日常的な光景の前に大勢が冷静さを欠いた。
これが世界を巻き込んだ巨大な戦争の、第二局面の始まり。
即ち―― ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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――人類が経験する、二度目の核の冬の始まりだった。
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第十四章 【 Ammo for Rebalance part11 -世界を変える銃弾 part11-】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 同日 PM00:07
空に起きた異常事態を前にしても、戦いの勢いが萎えなかったのは世界で唯一イルトリアだけだった。
海と空から攻め込まれた世界最強の街の住人は、だがしかし、悲壮感や絶望感は微塵も感じていなかった。
それどころか、彼らの大部分――赤子を除く――は歓喜していた。
戦争の相手がジュスティアでないだけで、いつかこうした形で戦争が起きることは分かっていた。
世界中に傭兵を派遣し、多くの人間を殺してきた経験を持つ人間が多く住んでいるため、戦争で生じたあらゆる恨みが濃縮されるような街だ。
ここに住む以上、誰もが覚悟を決めていた。
そして、誰もがその時に向けて行住坐臥、殺し合いの準備をしていた。
落下傘部隊はその多くが生きて地面に足を付けることなく死んだが、その死体は爆弾としての役割を持っていた。
体中に装備した爆発物によって死体が爆ぜ、地面や家屋に損傷を与える。
爆発と同時に可燃性の液体が散布され、周囲に引火した。
生きて街を燃やすか、それとも、死体となって燃やすかの違いだった。
だがこれは自爆テロを躊躇しない集団との戦闘で多くのイルトリア人が経験しており、対応法は今も昔も同じだった。
撃ち殺す、ただそれだけだ。
躊躇えばそれだけ被害が増える。
躊躇うことによるメリットは何一つない。
可能であれば余計な動きをされる前に、安全な場所で撃ち殺すに限る。
陸上と違い、空中の的は風によって流されてしまうため、撃ち殺したとしてもそれが安全な場所に落下するとは限らない。
その点で言えば、よく考えられた爆撃だった。
半分は相手の思惑通りに街は空爆を受け、多数の民家が被害を被った。
既に死者も出ているだろう。
イルトリア中に鳴り響く数多のサイレンが、これまでに街が経験したことのない攻撃を受けていることを意味している。
そうした状況下であっても、空の異変に対して彼らの意識が向けられないのは、それどころではないからだ。
目下、イルトリア人にとって空の脅威は雲ではなく、相手の飛行兵器なのである。
現代では貴重品となっているはずのヘリコプターが群れを成して空を飛び、火を噴いて墜落していく。
墜落したヘリコプターが新たな爆弾と化し、イルトリアの街に新たな火柱と黒煙が上がる。
自宅を焼失しつつある人間でさえ、その手に持ったH&K416ライフルの照準がぶれることは無かった。
一家に最低でも人数の二倍の銃器があるイルトリアにおいては、侵略行為は常に意識していたことであり、銃の扱いに慣れた彼らが戸惑うことなど有り得ないのだ。
イルトリアの戦場で最も活躍しているのが軍人であることは当然だが、次いで戦果を挙げているのは退役軍人たちだった。
「ワドル!! 弾よこせ!!」
とある退役軍人用の老人ホームでは、車椅子に座った老人たちが嬉々として銃を手に取って空に向かって発砲していた。
彼らが現役の頃に手にしていた銃に比べれば、かなり高い精度での復元が実現しており、不調は一切感じられなかった。
素材の違いもそうだが、生産するための向上の品質と材料の確保が安定化したのが大きな理由だった。
加えて老人ホームに支給されているライフルはあえて重量を増すことにより、射撃時の安定性を確保していた。
例え老いたとしても、体に染みついた射撃の腕は衰えていない。
安楽椅子で弾薬を準備していたワドル・ドゥランドは、ここ数十年の中で最も生き生きとした表情を見せている。
かつては戦場で機銃を手に猛威を振るった男も、寄る年波には勝てず、銃を構えることが出来なくなっていた。
だが、弾倉に弾を込める速度は今でもほとんど変わらず、空になった弾倉に誰よりも速く弾を込めていた。
「ほれ、落とすなよ!!」
大声でそう叫びながら、弾倉を放り投げる。
その動きと声はまるで鈍さを感じさせない。
彼らが人生の多くを過ごした時が今、ここでこうして蘇っているのだから無理からぬ話なのかもしれない。
心を戦場に置いてきた人間にとっては、この時ほど嬉しい瞬間はない。
彼らにしてみれば、よく間に合ってくれた、と感謝の気持ちさえ抱くほどだ。
もしも戦場がこうして誕生しなければ、彼らは心と離れたまま死ぬことになる。
今日は死んでもいい。
それが、イルトリア中の老人ホームで最も声高らかに叫ばれている言葉だった。 「助かる!!」
受け取ったデズモンド・デサントス・デイランダーは素早く弾倉を交換し、一発だけ空に向けて撃った。
その一発は降下中の棺桶を撃ち抜き、空中で爆散させた。
死体の破片が炎を纏い、落ちてゆく。
最後の降下兵を撃ち殺した時点で、彼ら老兵の仕事は終わった。
後は、今を生きる者達がどう戦うか、だ。
戦える者が市街戦に参加し、そうでない民間人は街で起きている火災等の対処に当たる。
民間人だからと言って敵が手を抜くことはあり得ない。
それを知るイルトリア人だからこそ、街中総出で戦争に参加していた。
大人も。
子供も。
そして、彼ら老人も。
皆、生き残る為に銃を手にし、人を殺す覚悟を決めていた。
「最後のあいつで、俺は20人は撃ち落としたな」
狩りの成果を自慢気に語るデズモンドに対し、ワドルは鼻で笑いながら答える。
「あぁ、それぐらいは落としたな。
だけど、あっちのばあさんたちはもっと落としてたぞ」
老人ホームの庭や屋上に偽装用のパラソルを広げ、優雅に狙撃銃を構えていた老女達の間から朗らかな笑い声が聞こえてくる。
彼女たちの自慢し合う戦果は、最低でもデズモンドの二倍はあった。
潔く自分の負けを認め、デズモンドは溜息を吐く。
「元狙撃手の連中じゃ分が悪い。
さぁて、街の中は若手に任せるかの」
老人にできるのは定点での防衛だけ。
街中で銃を撃ち合えるほど元気であれば、今頃は老人ホームではなく、別の場所にいたはずだ。
彼らにとって重要なのは、この施設を守り切ること。
そして、その周囲の敵勢力を壊滅させることだ。
狙撃手の老人たちを筆頭に、それぞれが施設の形状を利用した防衛陣地を作り上げていく。
「籠城戦に備えるなんて、いつ以来だ」
「冬に塹壕を掘るよりはいいだろ」
「確かにな!! とりあえず、雪かき用のスコップでも用意しておくか」
黒く染まっていく空を見上げ、二人は大昔の戦場に思いを馳せていた。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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ヾ:ヽ|二i二|ヾ:ヽ:::|O、'-'‐'" / >'
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同日 PM00:09
イルトリアから北に離れた荒れ地を、複数の装甲車、戦車が高速で移動している。
その最後尾から離れた場所を走るのは、一台のセダンだった。
ハンドルを握るのは細目の男。
助手席でカメラを構え、興奮気味にシャッターを切るのは眼鏡の男だ。
(;-@∀@)「すげっ!! すげぇっ!!」
<ヽ`∀´>「いやぁ、ありゃあ凄いニダね。
前にティンカーベルで報告されたやつと同じような気がするニダ」
(;-@∀@)「確かに!! でも、それ以上ですよ、これは!!
空が侵されているなんて、初めて見ました!!」
すっかり変貌した空模様を見て、アサピー・ポストマンが更に興奮する。
表情を変えはしないが、ニダー・スベヌも正直、この景色には驚きを覚えていた。
微細な変化ならまだしも、天候そのものが変わってしまうほどの何かなど、考えたこともない。
そもそも、人の作り出した物が天候を左右することなど有り得るのだろうか。
<ヽ`∀´>「……方角は分かるニダ?」
(;-@∀@)「あ、えっとちょっと待ってくださいね。
っと、フェッチ山脈があれだから。
クラフト山脈の方ですね。
位置もクラフト山脈からそう遠くないですよ」
<ヽ`∀´>「そこまで分かるニダ?」
望遠レンズで拡大して見ているとはいえ、そこまで断言できるとしたらそれは才能の類だ。
ヨルロッパ地方に踏み入っているにも関わらず、彼の目は目標を違えることなく捉えていた。
観測手として狙撃手の隣にいれば、これほど心強い人間はいないだろう。 (;-@∀@)「えぇ、望遠レンズで拡大して見ていますが、あの黒い柱……
背後にクラフト山脈があって、その比較をすれば何となくは。
いやぁ、デカイ……
ティンカーベルで見たやつの二倍はありそうですね。
あ、でももう一本ありますね。
それも割と近くですが」
二か所で起きたニューソクの爆発。
それらが無関係であるはずがない。
クラフト山脈の近くは円卓十二騎士の一人が潜入予定の施設があり、そこの発電をニューソクで行っていることはほぼ確定している。
敵の本拠地と思わしき場所での爆発だとすれば、ハロー・コールハーンは任務の一つを果たしたことになる。
<ヽ`∀´>「……ってことは、そうニダか」
(-@∀@)「何かありましたか?」
<ヽ`∀´>「いや、こっちの作戦の一部が完了したってだけニダ。
アサピー、空だけじゃなくて前の連中の方の情報も収集してほしいニダ」
(-@∀@)「あ、分かりました。
……うーん、速度は変わらずですね。
そろそろカルディコルフィファームが見える辺りでしょうか」
アサピーの言葉に、ニダーはちらりと左側に広がる海を見やる。
確かに、そこには大きな島が広がっており、ビルが幾つも建ち並んでいるのが見えた。
内藤財団によって復興を果たし、統合された街。
こうやって街の復興に介入してきたのも、自分たちの影響力を高めるため。
そして、イルトリアから近い位置に陣取るためだったのだろう。
広大な大地を生かし、戦力をそこに隠すことも可能。
交易が盛んな街であれば頻繁に船が出入りしても不自然なことはない。
武器と兵器を運び入れるのに、これほど都合のいい場所はない。
イルトリアを攻略するならば陸と海の両方から攻め入るのは必然。
そうでなければ、世界最強の軍隊によって正面から打ち破られるのは火を見るよりも明らかだ。
対して、ジュスティアに対する備えは陸にあった。
陸続きである複数の街に介入し、兵力を増強させ、今日を迎えたのだろう。
<ヽ`∀´>「……そろそろお迎えが来ると思うニダ」
(-@∀@)「イルトリアの陸軍ですか?」
<ヽ`∀´>「そうニダ。 ただ、こっちが巻き込まれないようにしないといけないニダね」
イルトリア陸軍からすれば、侵略者もニダー達も同じ存在にしか見えない。
白旗を上げても意味がないため、合流される前にこちらがイルトリアの味方であることを知らせなければならない。
その最善の手段は一つだけ。
(-@∀@)「結局、我々は何をどうすればいいんで?」
<ヽ`∀´>「あいつらからかっぱらった狙撃銃で、後ろから攪乱してやるニダね。
正直、装備が全然足りないニダ。
イルトリア軍から見て、ウリたちが味方だと思わせるには、それなりの活躍を見せないと駄目ニダ」
挟撃の形を取るようにすれば、イルトリアはこちらを味方と判断してくれるだろう。
少なくとも、可能性の一つではあるが。
(-@∀@)「まぁ、そりゃあそうですけど。
ライフルでどこまでやれますかね」 ニダーが襲った集団が所持していたのは、どれも強力な武器だったが、棺桶が使用する前提の物ばかりだった。
強力な弾が装填されている大口径の狙撃銃は、その反動だけでも十分に危険な物だ。
<ヽ`∀´>「やれるだけやるニダよ。
アサピーは銃をどれぐらい撃てるニダ?」
狙撃銃ともう一種類、鹵獲したアサルトライフルがある。
手に入れた弾薬の数と敵の数は、絶望的なまでの差があった。
だが、ないよりはいい。
(-@∀@)「正直、当てられないと思いますよ」
<ヽ`∀´>「じゃあ写真撮影をしながら、状況をウリに教えてほしいニダ。
その銃は自分の身を護る為に使うニダ」
彼の特性を生かすのならば、戦闘要員ではなく観測手として協力させる方法が最善。
少しでも人手が欲しい所だったが、今回の場合銃が撃てても当てられないのでは意味がない。
(-@∀@)「頑張ってみます」
<ヽ`∀´>「それでいいニダ。
さて、そろそろ挨拶するから、運転代わってほしいニダ」
周囲にあるのは荒野と海。
そして、海に続く高い崖ぐらいだ。
整備された道路ではあるが、遮蔽物になるようなものはない。
ここで仕掛ければ、間違いなく発見される。
(-@∀@)「ま、まぁそう言うなら……」
だが、ニダーがブレーキに足を乗せようとした時、それは起きた。
離れた場所からでも分かる程の爆発が車列の中で発生したのだ。
<ヽ`∀´>「あら?」
(;-@∀@)「え!?」
すかさずアサピーはカメラを構え、様子を窺う。
(;-@∀@)「多分ですが、車列の真ん中で爆発が」
<ヽ`∀´>「事故じゃなさそうニダね」
高性能爆薬による爆破。
対戦車用地雷の可能性もあったが、その爆発の威力は明らかに過剰だった。
地雷の様な指向性がなく、非常に荒々しい爆発だった。
何者かが地中に高性能爆弾を仕掛け、爆破させた可能性がある。
(;-@∀@)「あれ…… 何だ、あれ……?」
丁度下り坂に差し掛かったからこそ、彼らはそれを目視することが出来た。
高速で移動していた車列が最初の爆発に戸惑ったかと思うと、その最前部と最後尾で同時に爆発が起きた。
連続した爆発のせいで、まるで蛇の頭を潰したかのように車列が乱れている。
黒煙を纏った爆発を避けようと、左右に車列が展開する。
そして、更なる爆発。
周囲にオレンジ色の炎が一瞬でまるで海の様に広がり、連鎖的に爆発が起き、周囲を包み込む。
まるで煉獄が一瞬にして生まれたかの様な光景に、ニダーは思いきりブレーキを踏み込んだ。
これ以上の接近はこちらが巻き込まれる。 <ヽ`∀´>「失礼!!」
(;-@∀@)「知ってました!!」
構えていたカメラのシャッターを切りながら、アサピーは叫ぶ。
後に爆発は道に埋められていた物が爆発したのだと、彼のカメラが撮影した写真が一連の動きを説明する貴重な資料となった。
(;-@∀@)「い、イルトリア軍ですか?!」
<ヽ`∀´>「……なんか違う匂いがするニダ」
そう言いつつ、ニダーは車をその場に停め、後部座席から狙撃銃を手に取って屋根の上に乗った。
<ヽ`∀´>「アサピー、状況を教えてほしいニダ」
(-@∀@)「はい、えーっと……
先頭の数台がそのまま行きましたが、半数以上が残っています。
あっちこっちを見て……って、こっちを見ている奴がいます!!」
<ヽ`∀´>「了解ニダ。 もし接近してくる奴らがいたら教えてくれニダ」
そして銃声がアサピーの頭上で響いた。
放たれた大口径弾は車輛から降りたジョン・ドゥの胸部を撃ち抜き、その場に転倒させた。
次弾が装填され、薬莢が屋根から転がり落ちる。
訓練を積んだ狙撃手でさえ運に委ねる要素が強い、一キロ近い距離の狙撃。
ニダーが積み重ねてきた訓練と実戦の濃さがその一発に表されていた。
<ヽ`∀´>「襲撃者はどこの誰ニダ?」
(-@∀@)「い、いえ、それがまだ見つからなくて……
連中も探しているみたいです」
<ヽ`∀´>「……部隊なら、とっくに仕掛けているはずニダ。
どこの誰か知らないけど、何かを狙っているニダ」
敵の敵は味方、とは言ったものだが敵対する存在の素性は少しでも知りたい。
ニダーにとっての情報の価値は極めて高く、時には銃器に勝るものだ。
(-@∀@)「あ…… 多分、あれかな?」
<ヽ`∀´>「見つけたニダ?」
(-@∀@)「うーん、自信はないんですが……
あっ!!」
<ヽ`∀´>「……ありゃ、あれは」
――荒野が、一斉に牙をむいた。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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ⅷリ|i∪i|iii|ii∩:|i|iii′ - 、iiⅶi` ー- ⊥ ==┴f┘===彡'r{∪」
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`¨¨´ⅵ‐'iリiii|iii|∪ |iii|iiiiiiii|三三≧==―¬冖¨ ̄ⅷiiiiiiiiリ
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同日PM00:15
その襲撃は全く予想外の物だった。
対イルトリア用に進軍を開始した10の部隊は、道中で8と2に分かれた。
それ自体も予想外だったが、部隊を途中で切り離してでも進軍が可能な様に打ち合わせは済んでいた。
“アンクル”と“テイルズ”からの通信は途絶していたが、それでも進軍を止めなかったのはそういう訳だった。
だが、追跡者を引き離したかと思えば、イルトリアを前にして襲撃を受けてしまった。
上位3つの部隊である、“ヘッド”、“アイズ”そして“ネック”は離脱に成功した。
大部分がこの荒野に釘付けとなってしまったのには、理由があった。
まず、一つ目が初動である。
敵の仕掛けた高性能爆薬は部隊の中腹である“ストマック”の一部を吹き飛ばし、それと同時に多数の車輛のタイヤが溶けた。
恐らくは化学物質を使った罠。
結果としてタイヤを破壊された車輛がその場に立ち止まらざるを得ず、被害を受けずに済んだ車輌が仲間を助けるために停車したのである。
こうなった場合の指揮系統は上から順に移行するため、“チェスト”の部隊長ニュッ・バランスにその場の指揮を執ることになった。
( ^ν^)「慌てるんじゃない!!」
装甲車の中からインカムを通じて仲間に呼びかけるも、混乱は収まらなかった。
それが問題の二つ目である。
視界を遮り、戦意を喪失させる炎の壁だった。
棺桶はあらゆる攻撃や環境に対応できる力があるが、炎は数少ない天敵の一つだった。
特殊なゴムで作られたタイヤさえ溶かすほどの炎であれば、バッテリーや他の電気系統に支障が出る。
そういった点で言えば寒冷地も弱点の一つだが、今周囲を取り巻く炎は人間の本能にも恐怖を植え付ける。
装甲車の中は比較的安全だが、バッテリーが熱によって爆発しないとも限らないため、ここから先は徒歩での移動が強いられる。
( ^ν^)「俺の声が聞こえる奴は棺桶を装備して敵を迎え撃つぞ!!」
炎の外に脱出しさえすれば、いくらでも手立てはある。
( ^ν^)『全ては、世界が大樹となる為に』
装着が終わった人間から車外に出ることになったが、そこで彼が目にしたのは、予想していない光景だった。
襲撃者の正体はイルトリア軍ではなかったのだ。
その正体は、よりにもよって――
〔欒゚[::|::]゚〕『こいつら、セフトートの残党か!!』 ――世界を変える祝砲で散ったはずの、セフトートの生き残りだった。
あらゆる犯罪行為が容認され、あらゆる犯罪者が集う悪徳の街。
その街はハート・ロッカーの砲撃で確かに滅ぼしたが、その残党がこちらの動きに合わせて襲撃してきたのだ。
セフトートの残党であると一目で分かったのは、独特な装飾を施した棺桶にあった。
街である以上、セフトートにも軍隊が存在する。
軍隊という名の盗賊と言い換えるのが適切だが、確かに軍隊がある。
その軍隊では鹵獲した棺桶を使用しているために装備はバラバラ、機体もバラバラだが、同士討ちを避けるために統一した装飾が施されている。
棺桶の頭部、そのマスク部分を更に覆う黒い追加装甲に白い骸骨が描かれているのだ。
[::゚Ш゚::]
圧倒的な威圧感を与えるための装飾。
ヨルロッパ地方、そしてシャルラ地方に近い街だからこそ、その戦闘力の高さは生半可なものではない。
ジュスティアでさえ攻め込もうとせず、派遣警官を密かに潜入させ、犯罪者を逮捕するだけだった。
真っ先に砲撃で狙い打ったのも、そのポテンシャルと反抗心の強さがあったからだ。
そして、ニョルロックに近いという問題もあった。
もしかしたらニョルロックに攻め入ろうとしていた時にこちらの部隊に気づき、襲撃を決めたのかもしれない。
イルトリアともジュスティアとも違う彼らの軍隊の強みは、言うまでもなくその残忍さにある。
奇襲、包囲、そしてこちらが仲間を助けるために車外に出てきた瞬間に四方八方に隠れていた銃腔から放たれた銃弾が、驟雨となって部隊を襲う。
〔欒゚[::|::]゚〕『散開して対応しろ!!
各リーダー、指示を頼む!!』
しかし、ここで慌てているようではイルトリア軍との戦争には勝てない。
彼らは訓練を積んできたのだ。
血の涙を流すほどの憎しみと訓練を経て今日を待ったのだ。
このような場所で、このような相手に手間取ってはならない。
装甲車のドアを力任せに取り外し、即席の盾にする。
ライフルを手に、ニュッは炎の中から飛び出した。
[::゚Ш゚::]『出てきたぞ!!』
〔欒゚[::|::]゚〕『あぁ、出てきてやったよ!!』
複数の銃腔が彼一人に向けられた瞬間、ニュッはほくそ笑んだ。
これでいい。
彼の使うジョン・ドゥ・カスタムは、トゥエンティ・フォーの装甲を流用した防御特化の物。
上位の棺桶である“名持ち”と称される物と同等か、それ以上の性能を有するジョン・ドゥの防御力は極めて高い。
飛来した対強化外骨格用の強装弾をあえて車の扉で受け、その方向に向けてライフルを斉射する。
片手で発砲したライフルの弾は荒野に吸い込まれるが、悲鳴が聞こえることは無い。
黒く染まった空の下、鳴り響く銃声と発砲炎の不気味なコントラストが戦場を不気味に装飾する。
炎を背に、ニュッは叫ぶ。
〔欒゚[::|::]゚〕『どうしたぁ!!』
司法から放たれる銃弾は装甲表面で潰れ、その場に落ちる。
次々と炎の中から味方が姿を現し、爆発的加速力で襲撃者たちに接近する。
襲撃の優位性を奪い取ればこちらのものだ。
そもそも奇襲をしてくるということは、自分たちの戦力がこちらに劣ると考えている何よりの証拠。
正面突破こそが相手にとっては最も嫌う展開であると分かれば、味方たちの行動は迅速だった。
元イルトリア軍の同志から受けた訓練の成果が、ここで現れる。
〔欒゚[::|::]゚〕『イルトリアの前の前菜だ!!
一人残らず食ってやれ!!』 ライフルを投げ捨て、ニュッは叫んだ。
〔欒゚[::|::]゚〕『近接戦用意!!』
高周波振動ナイフを抜き放ち、疾駆する。
その姿が土煙に隠れるほどの速度に達するのに要したのは、僅かに二秒。
そして眼前に襲撃者を捉えたのはその直後だった。
〔欒゚[::|::]゚〕『お前たちはこの世界に入らないんだよ!!』
[::゚Ш゚::]『うおおおっ!!』
近接戦の用意をする間もなく、ニュッのナイフが深々と敵の脳天に突き刺さる。
それに呼応するかのように、彼の後ろから続々と味方が飛び出し、反撃に打って出ていた。
[::゚Ш゚::]『全部奪い取れ!!』
だがそれは相手も同じだった。
奇襲の効果が失われる前に放ったその号令で、一斉に近接武器に手が伸びる。
近代兵器を用いても、この距離であればやることは一昔前の殺し合いと同じ。
〔欒゚[::|::]゚〕『何一つくれてやるな!!』
――白兵戦だ。
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ニニ三三三三三_ { ノ
ニニ三>‐ _二二_ヽ`┐_zz〔_
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¨7ー-‐"::::::::::::`¨´i∨i:i:i:l |:::::: ::::::} l 、 \
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廴ド/ /.: . : . :`弋:i:i:i:i:i:≧=≦--.._ :. : ヽ
(Уヽ/' /. : .,>::::斗≦:i:i/:,r=、ヽ. : . :∨
ゝイ/ー/ ヽ./,ィ .;i:i:i:i:i:i:i:i:i:{::丈ノ丿 . : . ∨
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ヾ:_:才¨¨ ̄`ー ^丈:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:<./. . \三ニニニ
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ニ才三二". : . : . :./ .i:/.: . : . : . . . . . '∧
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <ヽ`∀´>「おーおー、楽しそうなことやってるニダね」
スコープの先で起きた時代錯誤とも言える白兵戦に、ニダーは思わず声を漏らした。
運転席でハンドルを握ったまま、アサピーが尋ねる。
(;-@∀@)「ど、どうします?」
<ヽ`∀´>「連中の装備とかをイルトリアに教えたかったけど、もう手遅れニダね。
あそこまで楽しそうにやってたら、情報の収集なんてイルトリア軍だけで出来るニダ。
本格的に参ったニダね」
二人の作戦は破綻し、ニダーが独自で担っていた役割も無意味になった。
世界の変化があまりにも急激であるため、事前の計画は意味をなさない。
一つだけ意味があるとしたら、散り散りになっている仲間の動向を予想できるぐらいだ。
新鮮な情報は全て現地から得るしかなく、本部に助けを求めることは出来ない。
二人はジュスティアから完全に切り離され、独自の裁量で行動しなければならなくなっていた。
素人のアサピーと共に出来ることは限られていた。
既に敵の一部がイルトリアに向かったことを考えれば、今出来ることは情報取集ではない。
世界のバランスを崩そうとする組織に対抗できる数少ない存在を、これ以上減らさせないようにすることだ。
<ヽ`∀´>「……こっから援護して、弾がなくなったらイルトリアに向かうニダ」
(-@∀@)「なるほ…… えっ?!
やっぱり戦うんですか?!
イルトリア軍じゃないんですよ?!
そのまま素通りしましょうよ!!」
<ヽ`∀´>「仕方ないニダよ。 本当は手を貸したくないけど、セフトートの連中をここで失うのは惜しいニダ。
陸上部隊の半分以上をここで削り切れば、イルトリアにとっちゃ残党はやぶ蚊程度の存在ニダ。
はぁ…… 手を貸すのは本当に嫌ニダ」
セフトートはニダーにとっても、ジュスティアにとっても目の上の瘤の様な存在だった。
犯罪者にとっての楽園は、言い換えれば治安維持組織にとっては癌そのもの。
世界中のならず者が集い、奇妙なバランスと秩序を保ち、弱肉強食の世界のルールをどこよりも色濃く体現していた。
だからこそ今日まで生き延び、真っ先に潰されたのだ。
そんな街に手を貸すのは、警官であるニダーにとっては苦渋の選択だ。
だがこれが最善手である以上、躊躇は出来ない。
後は、彼らが馬鹿でないことを願うだけだ。
<ヽ`∀´>「さっきと同じく、とりあえずウリが気づいていないような敵の動きを教えてほしいニダ」
(-@∀@)「り、了解です」
再度ライフルの光学照準器を覗き込み、息を吐く。
狙いを定め、銃爪にそっと指を添える。
銃声と共に反動が肩に伝わる。
レバーを引いて次弾を装填し、三人目に狙いを定める。
(-@∀@)「……ニダーさん、今何人撃ちました?」
唐突な質問に、ニダーは半ば呆れながら答えた。
<ヽ`∀´>「まだ二人ニダ」
(-@∀@)「おっかしいな…… あっ、やっぱり。
ジョン・ドゥの射殺体が他に4体はあるんですよ」
<ヽ`∀´>「そりゃあ、セフトートの方が仕留めたニダよ」 (-@∀@)「そうですか……」
分かり切ったことをアサピーがあえて訊くということは、何か違和感を覚えたのだろう。
その正体に彼が気づくのを待つのでは間に合わない。
<ヽ`∀´>「だけど、アサピーが変だと思ったのなら、絶対に何かあるニダ」
(-@∀@)「えっ」
<ヽ`∀´>「ウリはお前の事を信頼しているニダ。
ジャーナリストの勘っていうのはかなり信憑性があるニダ」
光学照準器の倍率を変更し、より広域を目視できるようにする。
<ヽ`∀´>「……ひょっとしたら、あいつが生き残っているかもしれないニダね」
(-@∀@)「あいつ?」
<ヽ`∀´>「セフトートがこれまで残っていた理由の一つニダ。
“狂犬”ニダ」
ニダーは遂に、光学照準器にその影を捉えた。
<ヽ`∀´>「やっぱり、トレバー・アヒャ・フィリップスがいるニダ。
ジュスティアが最重要犯罪者として広域手配して、ずーっとマークしている奴ニダ」
初めて犯罪行為に手を染め、警察に追われることになったのが8歳。
それから街を転々とし、犯罪を重ね、気が付けば世界最悪の犯罪者の一人になった。
それだけの重罪人をジュスティア警察が放置するはずもなく、幾度も逮捕もしくは殺害を試みた。
しかし、今日までそれは成功していない。
“モスカウ”の警官が何人も挑み、そして返り討ちにあった。
無論、一対一であればモスカウの警官が後れを取るようなことは無い。
だが、アヒャが潜伏しているのは世界最悪の街だ。
警官が入り込んでいると分かれば、街が総出で排除に尽力するような街。
街に入り込んでも無傷で済めば御の字。
命がある状態で帰還できた警察官の数は、極めて少ない。
ましてや犯人を確保した状態で脱出に成功した人間は、十指に収まる程しかない。
<ヽ`∀´>「あいつがやったことのない犯罪はないニダ。
特筆すべきなのは、戦闘の才能ニダ」
(;-@∀@)「どの程度のものなんですか?」
<ヽ`∀´>「あいつは以前、円卓十二騎士を一人殺したことがあるニダ。
それも、素手で」
(;-@∀@)「うそん」
警官上がりの円卓十二騎士であるその人物は、セフトートへの潜入を成功させ、アヒャとの接触に成功した。
だが、彼を生け捕りにしようとしたのが失敗だった。
寝込みを襲ったところ、警察官の匂いを嗅ぎとったアヒャによって投げ飛ばされ、そのまま殴り殺されたのだ。
<ヽ`∀´>「あいつを逮捕しようとして派遣されたけど、返り討ちニダ」
(;-@∀@)「それだけの人間なのに、どうしてあまり知られていないんですか?」 ジャーナリスト、あるいは新聞記者としての経験があるアサピーでさえその名を知らないのは無理からぬ話だ。
重犯罪者をジュスティアが逮捕できず、あまつさえ円卓十二騎士を殺されたとなればジュスティアの恥になる。
幸いなことにアヒャが名声の類を気にするような人間ではなく、本能のままに生きる人間だったことだ。
<ヽ`∀´>「秘匿したニダ。 あいつをセフトート以外に出ないようにして」
視線の先で、アヒャが駆る棺桶が炎の中から飛び出してきた。
その棺桶はあまりにも不格好だった。
恐らく、素人のアサピーが見てもそのコンセプトを理解することはできないだろう。
それは四機の棺桶を継ぎはぎにして作り出された異形であり、アヒャ以外には扱えない代物なのは明らかだ。
([∴゚[::|::]゚]
絶句しつつ写真を撮るアサピーに、ニダーは静かに説明を続けた。
<ヽ`∀´>「ジョン・ドゥ、ジェーン・ドゥ、ソルダット、そしてエーデルワイス。
それぞれの装甲と腕部をくっ付けたのが、あの棺桶ニダ。
あんな棺桶使うやつはあいつ以外にいないニダ」
骨格のベースはエーデルワイスとジョン・ドゥを合わせたものであり、脚部の構造は速度を重視したジェーン・ドゥ。
装甲の一部はソルダットを用い、防御性能も重視している。
最大の特徴は通常の両椀に加えて、背中から生えた三対の腕だ。
合計で八本の腕がそれぞれ意志を持って動き、近距離から遠距離の戦闘を実現している。
二本の腕は高周波ナイフを構えているが、他の腕は防弾の盾、拳銃、そして長距離射撃が可能な機関銃を持っている。
一言でいえば、滅茶苦茶である。
そう、完膚なきまでの出鱈目であり、不格好そのものだ。
まるで子供が好きな食べ物を一つにまとめたかのようなその棺桶は、セフトートにやってきた元ラヴニカの技術者による作品だった。
複椀を操作するための技術は、基盤だけが生き残った“ヒューマン・センティピード”という名のコンセプト・シリーズのものを使用しており、見た目と中身は何もかも違う。
動かす人間の持つセンスだけでその棺桶は動いており、彼が一人で戦いの中に入って生き残ることのできる所以の一つでもある。
(;-@∀@)「複椀を操作するなんて、聞いたことないです」
<ヽ`∀´>「普通の発想じゃないニダ。
世の中には天才って人種がいるニダ。
数字の羅列を見ただけで計算ができるような類の天才と同じで、あいつは戦場にいるだけで場の空気が全て読める天才ニダ。
だから捕まえられないし、殺せないニダ」
危機察知能力だけでなく、適切に対処する術を感覚で全て行える人間。
その代償かは分からないが、彼の理性のタガは外れている。
欲望のまま、狂気のままに行動する。
あらゆる犯罪に手を染め、動物以上に欲望に忠実に生きているのだ。
(;-@∀@)「うへぇ…… 相手にしたくないですね」
<ヽ`∀´>「まぁ今回ばかりはその天才っぷりに感謝ニダね。
ただ、流石に物量で押されたら勝てないニダよ」
四方八方をカバーできる複椀ではあるが、その隙間を狙った銃撃を防ぎきれるものではない。
盾で守れるのは最大で二方向。
相手がアヒャの危険性に気づき、一斉に攻撃をすれば流石に命はないだろう。
<ヽ`∀´>「セフトートの連中も馬鹿じゃないから、アヒャを守るだろうけど、まぁ手を貸した方がいいニダね」
(;-@∀@)「で、でもこっちの手持ちの武器なんて限られていますし、狙撃ぐらいしかないですよね?」
<ヽ`∀´>「普通はそうニダ」
(;-@∀@)「普通は」 <ヽ`∀´>「でもほら、今は普通じゃなくなったニダ」
全てを諦めたようなアサピーの顔を見て、ニダーは心からの笑みを浮かべた。
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トレバー・アヒャ・フィリップスにとって殺しとは、自慰をするようなものだった。
殺したいから殺す。
その考えが間違っていると言われたが、それを我慢することはできなかった。
生まれつき我慢することが苦手だった彼には、幸いなことにその我儘を貫き通せるだけの筋力があった。
小さな町で生まれ、そこで初めて手を染めた犯罪は窃盗だった。
店にあった玩具を手に取り、そのまま逃げたのだ。
大勢の大人が彼を追いかけてきたが、半殺しにしたことで玩具は彼の物になった。
それから彼は暴力の有用性を学び、次々と実践に移した。
結果として警察が彼を追い、彼は仕方なく生まれた町を出て行った。
行く先々で暴力と窃盗、欲望の発散を行った。
気が付けば世界中どこでも彼を追う人間がいたが、今日まで生きてきた。
([∴゚[::|::]゚]『あっひゃひゃひゃ!!』
そして、今日。
これまでの人生で一番と言えるほどの愉快な時間が訪れていた。
長らく世話になったセフトートが吹き飛び、運よく生き延びた彼の心に生まれたのは、純粋な怒りだった。
故郷と呼べるものを奪われた気分を初めて味わい、これまでにないほどの怒りを胸に戦いに臨んだ。
奪ってきた立場の人間が、奪われて憤るなどあまりにも自分勝手な考えだが、アヒャにはその自覚がない。
彼にとってセフトートは彼を受け入れてくれた唯一の楽園だ。
だからセフトートの軍に入り、街のために働いていた。
([∴゚[::|::]゚]『どうしたぁ!!』
思い出すのは、今はなき街並みと、そこにいた彼の友人たち。
友人でないとしても、彼を受け入れてくれた大切な人間。
その面影がちらつくたび、彼の怒りが燃え上がる。
([∴゚[::|::]゚]『手前ら全員皆殺しだぁ!!』
彼の棺桶には複数の腕だけでなく、死角を補うための複数のカメラが搭載されている。
自分を中心に周囲全方位をカバーする視覚情報をもとに、彼の意思をくみ取った複椀が動く。
余計なことは考えず、目に付いた敵は全て撃ち殺すか、銃弾を防ぐか、ナイフで切り裂く。
〔欒゚[::|::]゚〕『狂人があああ!!』
明らかに指揮官が駆る銃装甲のジョン・ドゥが立ちはだかる。 ([∴゚[::|::]゚]『ありがとよ!!』
双方が構える高周波振動ナイフが激突し、火花と甲高い音が手元から発生する。
〔欒゚[::|::]゚〕『こいつを殺せば一気に押し崩せるぞ!!』
([∴゚[::|::]゚]『ははっ、そうかよ!!
だったら手前をぶっ殺す!!
そのついでに全員ぶっ殺す!!』
重装甲だからと言って、あらゆる攻撃に耐えきれるわけではない。
棺桶である以上、狙えるものはある。
([∴゚[::|::]゚]『どっせい!!』
狙ったのは膝関節と顔面だった。
膝を狙った前蹴りと同時に、機関銃で顔面を殴打する。
関節部の強度には限度があり、例え重装甲で名を馳せる棺桶だったとしても、アヒャの一撃を耐えきることは出来ない。
逆側に折れた関節から潤滑油と血しぶきが上がる。
〔欒゚[::|::]゚〕『あっ……ぐおおあああっ!!』
([∴゚[::|::]゚]『そこでおねんねしてな、ベイビー!!』
〔欒゚[::|::]゚〕『つ…… 捕まえた!!』
残された足で踏み込み、アヒャに抱きついてきたかと思えばそんな事を口走る。
なるほど、とアヒャは冷静に思った。
この程度の人間が指揮官であれば、恐れる必要はない、と。
([∴゚[::|::]゚]『見えてるんだよぉ!!』
炎の中から飛び出した挟撃も。
遠方から狙っている銃腔も。
全ては、アヒャの目には見えていた。
全方位カメラが捉えた敵影に対し、彼の脳波に反応した服椀が即応する。
発砲、防御。
この動作だけがあれば、アヒャが殺されることは無い。
指揮官が捨て身で攻撃を仕掛けてくるということは、それだけ切羽詰まっているということなのだ。
群れを率いる存在が前に出てくるなど愚の骨頂。
理屈ではなく感覚でそれが過ちであると知るアヒャは、嬉々として目の前の男の首を切り落とした。
首の付け根に滑らかに差し込まれたナイフによる一閃は、本人が苦痛を感じるよりも先に切断を終えていた。
首より先に胴体が地面に倒れ込み、最後に首が地面に落ちる。
機関銃から吐き出される薬莢の雨の中、アヒャの両眼は周囲を睨め回し、近接戦闘に備えた。
([∴゚[::|::]゚]『こいやぁ!!』
初めて彼が覚えた感情の正体が、これまで彼が踏みにじってきた感情であることは、アヒャはまだ知らなかった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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同日 PM00:01
世界に夜の帳が降りる少し前に、ジュスティア沖にいた13隻の原子力空母は所定の位置に到着していた。
錨を降ろし、上陸艇に乗った兵士たちが続々とジュスティアに上陸していく様は、巨大なケーキに群がる蟻のようだった。
ジュスティアを守るはずだった海岸警備隊は度重なる砲撃にさらされ、文字通り全滅している。
唯一、スリーピースだけがジュスティアを外敵から守るため、その役割を果たしていた。
そして、その防壁を破壊するだけの威力を持つ主砲を構える超ド級戦艦“ロストアーク”だけが、ジュスティアへの攻撃を完全に停止させていた。
(#´・ω・`)「あの糞野郎どこ行きやがった!!」
停止の原因はたった一人の裏切り者による工作だった。
ショボン・パドローネにとっても、そして彼の所属するティンバーランドにとっても、その工作は十分すぎる効果を発揮していた。
つい数分前までは追う側だったにも関わらず、今では追われる側になっている。
全ては、彼が追っていたワカッテマス・ロンウルフの仕業だった。
〔欒゚[::|::]゚〕『裏切り者を見つけ出せ!!
あいつはジュスティアの犬だ!!』
噂とは恐ろしい物だ。
ほんの僅か、そう、一滴の毒だけで状況が一変してしまう。
戦時中という特殊な状況下でなおかつ、それに慣れていない人間は容易く噂に流されてしまう。
一度でも噂が流れてしまえば、後はそれが脚色されて広まるのも時間の問題だ。
〔欒゚[::|::]゚〕『艦長が言った通り、何人もジュスティアの犬がいるぞ!!』
時差で訪れたこの展開は、明らかに混乱を狙ったもの。
要は時間稼ぎのための混乱だが、今のショボンにとっては迷惑極まりない展開だった。
こちらが何を言っても信用されず、何をしても疑いが晴れることは無い。
流された噂は、恐らくショボンがジュスティアの内通者であるという旨のものだったに違いない。
そしてそれは、信用に足る人間の口から漏れ出た言葉が発端だったのは間違いない。
ティンバーランドという組織は広く受け入れをしている反面、その背景については念入りに調べ、決して志がぶれないように注意している。
となると、噂の始まりと今に至る経緯を想像するのは難しくない。
だが、味方がそのことに気づけていないのが問題だった。 〔欒゚[::|::]゚〕『拳銃に通常弾を装填しておけ。
艦内で徹甲弾を撃てば大惨事になりかねないぞ』
聞こえてくる言葉を真実と仮定すれば、この船の艦長であるスパム・シーチキンにワカッテマスが何かを言ったのだ。
それに対して彼女が何か反応をし、それを聞いた部下が誤解し、仲間に噂を流す。
程よく広がったあたりで、ワカッテマスはショボンから逃げた。
当然、裏切り者を始末するために追うショボンだが、その姿を見る者の視点によって状況は変わってくる。
ワカッテマスが逃亡中に噂を追加で流布すれば、その効果は絶大な物になる。
時間が経てば解決するような噂だが、その時間を生み出すことなど今は無理だ。
〔欒゚[::|::]゚〕『いたぞ!!』
拳銃から容赦なく銃弾が浴びせかけられる。
辛うじて物陰に隠れ、抗議する。
(#´・ω・`)「だから、俺は違う!!」
反撃を一度もせず、口頭と行動で己の潔白を口にするが、効果は見られない。
こちらが一切の反撃をしていないということにすら気づけてないのは、戦艦という極めて閉塞的な空間がもたらす心理的な圧迫が原因だろう。
既にショボンの命令に従っていた同志は射殺され、ワカッテマスとの立場は逆転した。
ここからの逆転は非常に難しい。
彼は円卓十二騎士の一人、“ウォッチメン”。
何にでもなれる者、の二つ名で呼ばれたジュスティア警察創立以来の最優秀の警官と言ってもいい。
真実を見抜く力に長けているということは、相手の弱点を見抜く力を持っているということ。
遅効性の毒を効果的に用いることで、こうしてショボンを追い詰めている手腕がその証拠だ。
こうしている間にも彼はこの戦艦を無力化しつつ、脱出を図るだろう。
もしもそれが結実すれば、間違いなくロストアークは任務を果たせなくなる。
現に主砲の一部が使用不可能となり、その影響で他の主砲も急ピッチで確認作業が行われている。
その主犯は間違いなくワカッテマスだが、今はショボン一派の犯行ということになっていた。
(#´・ω・`)「同志を撃つんじゃない!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『黙れ裏切り者が!!』
跳弾から逃げるため、流石にその場から走り出す。
鉛弾が船の壁を撃ち抜くことは無いが、ショボンの命を奪うことはあまりにも容易だ。
〔欒゚[::|::]゚〕『……っ!! おい、こっちで同志が一人殺されてるぞ!!』
(#´・ω・`)「それはお前らが!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『絶対に逃がすな!!』
ジュスティアの攻略にロストアークの援護射撃は不可欠だ。
スリーピースを突破するためには、圧倒的な質量で攻め込むしかない。
ここで戸惑っていては、ジュスティア攻略に時間がかかってしまう。
速攻勝負のこの作戦は、時間が経てば経つほど不利になる。
長期にわたってジュスティアに仕込んだ毒が意味を成す前に終わってしまえば、これまでの努力が水泡に帰してしまう。
(#´・ω・`)「この……馬鹿野郎どもが!!」
もしも自分がワカッテマスの立場であれば。
もしも自分がこのロストアークを無力化しなければならない立場であれば。
今行うべきことは、生き残った主砲の無力化だ。
ロストアークには主砲が合計で40門存在する。 五連装砲が四基、それが艦橋を挟んで前後にそれぞれ設置されている。
ワカッテマスが先ほど行った妨害工作で前方部の数基が無力化されたが、その詳細は分からない。
自動装填装置を破壊されてしまっていれば、1トン以上の重量がある砲弾を人力で装填しなければならない。
そのような訓練を受けた人間は、ほんの数人しかいない。
最悪の場合は砲弾が誘爆し、船が真っ二つになる未来だ。
そこでようやく、ショボンはワカッテマスの所在に思い当たった。
この船の無力化をするならば、沈没させるのが最適解だ。
それを簡単に行えるのは、間違いなく爆発の起きた砲塔の近く。
体にまだ“マックスペイン”の恩恵が残されている間にそこに向かい、ワカッテマスの妨害工作を止めなければならない。
(#´・ω・`)「うおおお!!」
狭い艦内を走り回り、ショボンは最短ルートで目的地に向かう。
砲弾が保管されている場所が近づくにつれ、火薬と物が焼け焦げた匂いが濃くなっていく。
サイレンが鳴り響き、海水を使ったスプリンクラーによる放水が行われているエリアに到着した時には、それは匂いだけでなく黒い煙と共に彼の鼻に入ってきた。
足元に溜まっている海水が、その放水量と時間を如実に物語っている。
(´・ω・`)「……頼むぞ」
それは、味方に対する願いであると同時に、自分の持つ悪運の強さに対する切実な気持ちだった。
そして何より、砲弾への誘爆が一番の心配だった。
最悪の場合はニューソクの誘爆へとつながり、付近にいるオーシャンズ13のニューソクにまで連鎖的に誘爆する展開だ。
頭上からしたたり落ちる水を無視して、ショボンは自動装填装置のある場所に向かった。
彼の推理が当たっていれば、ワカッテマスは間違いなくこの空間で工作をしているはず――
( <●><●>)「――いやはや、本当に来るとは」
角を曲がった瞬間、仁王立ちになったワカッテマスがショボンを出迎えた。
出会い頭に放たれたのは言葉と前蹴り。
完全な不意打ちによって防御不可能な一撃と化した前蹴りは、正確にショボンの鳩尾にめり込んだ。
力を籠めることも出来ず、胃の中身をその場にぶちまける。
(;´・ω・`)「げはぁっ?!」
( <●><●>)「優秀な刑事だったからこそ、私の行動が読めるのも分かっていました。
そしてその読みは、概ね正しいですね」
ドーピングで強化できるのは筋力だけであり、内臓の強化はできない。
痛覚を遮断できることもできないため、膝を突いて苦悶の声を押し殺すのがせいぜいだった。
(;´・ω・`)「あぐ…… 糞ッ!!」
( <●><●>)「おや、悪態が出るならまだいけますね」
無防備な後頭部を狙って、ワカッテマスの踵が振り下ろされる。
当然、防御などできない。
後頭部を直撃した一撃はショボンの意識を現実から遠ざけ、激痛が意識を現実とつなぎとめた。
(;´・ω・`)「目が覚めたよ、糞が!!」
( <●><●>)「さて、優秀な刑事さんに質問しましょう。
どうして私がここであなたを待っていたと思いますか?」
(;´・ω・`)「さぁな、悪趣味な奴の考えなんて分かるかよ」 ( <●><●>)「答えは簡単。 同じジュスティアの人間として、お話がしたかったからです。
あぁ、ご安心くださいね。
すでに工作は済んでいるので、この船は沈みます」
(;´・ω・`)「野郎……!!」
痛みが和らいできたが、まだ後頭部に受けた一撃の余波は消え切っていない。
相手が悦に入っている間に、反撃の隙を伺うしかない。
今は耐える時。
だが、次に出てきたワカッテマスの言葉に、ショボンの思考が停止した。
( <●><●>)「ジュスティアの秘密は、どこまで調べましたか?」
一瞬、何を言っているのだろうかと聞き返そうとしてしまう。
こちらの沈黙の意味をくみ取ったのか、ワカッテマスが続ける。
( <●><●>)「力が全てを変える時代に、あの街が生まれたのは何故か。
スリーピースの建造と、防衛装置の技術。
知れば知る程、ジュスティアが分からなくなるんですよ。
私はそれについて調べて、ある人物に辿り着いた。
だけどひょっとしたら、別のアプローチがあるのかもしれない。
そこで、あなたに質問なんですよ。
何か、知っていることはありませんか?」
(;´・ω・`)「何を言ってるんだ、お前は」
流石に、ショボンの中にある疑念が言葉となって口から出てくる。
( <●><●>)「きっと、ジョルジュさんはそれを知っている。
てっきり同郷のあなたに話しているものだと思ったのですが、無駄だったようですね」
興味を失ったように溜息を吐き、ワカッテマスはショボンに背を向けた。
( <●><●>)「後はどうぞお好きに」
(;´・ω・`)「……そうさせてもらうさ!!」
ショボンは一気にその場から駆け出し、ワカッテマスの横を通り過ぎた。
今はこの男に構っている時間がない。
先ほどの言葉が真実だとしても、まだこの船を沈ませるわけにはいかない。
せめて、せめてスリーピースだけでも突破しなければジュスティアを攻め落とすのは難しい。
三重の壁に砲撃で空いた穴から入り込もうと部隊が派遣されたが、その作戦は失敗に終わっている。
空から攻め入ろうとした部隊は砲弾を撃ち落とした兵器によって瞬く間に全滅し、地上からの攻略を余儀なくされている。
だが壁の中は今、甚大な被害を受けているはずだ。
ジュスティアの要所であり、正義の象徴とも言える左右対称に建てられたビル、ピースメーカーが倒壊したことが分かっている。
今が好機なのは間違いないが、スリーピースの入り口は固く閉ざされており、ジュスティア陸軍による厳重な防御陣地がこちらの進軍を阻んでいる。
火薬の匂いが濃くなるにつれ、ショボンの焦りもより強いものになっていく。
ついに作業をする人間の声や跫音、作業をする音が耳に届く場所に到着した彼が見たのは、想像よりも遥かに酷い損傷具合だった。
自動給弾装置は戦艦の要だが、その装置が跡形もなく吹き飛び、床や天井にその破片が突き刺さっている。
他の区画にまで被害が及んでおり、頭上からは日の光が差し込んでいた。
降り注ぐ日の光に反射するのは、消火に使われた海水だ。
その絶望的な光景の中で棺桶に身を包んだ者達が床に走った亀裂を溶接し、砲撃の衝撃で亀裂が広がらないように懸命に修理をしていた。
この船にある他の主砲を撃たないのは、砲弾への細工を警戒しているだけではなかったのだ。 砲塔が直接爆発したのではなく給弾装置が爆発したことにより、砲弾に詰まっていた火薬が炸裂し、これだけの被害をもたらしたのだ。
逆に言えば、砲弾の爆発でもこれだけの被害で抑えたこの空間の堅牢さが分かる。
常に数発だけがその給弾装置内にあり、必要な分は下の階からエレベーターを使って自動で輸送する形をとっていたのも幸いした。
しかしワカッテマスがどのような罠を仕掛け、この船を沈めるのかが分からなければその堅牢さも気休めでしかない。
だが狙うなら、とにかく亀裂だ。
(;´・ω・`)「……くそっ」
ここで声をかけ、ワカッテマスが仕掛けた罠を見つけ出し、解除することが出来れば話は簡単だ。
だが今のショボンは裏切り者としてのレッテルを貼られており、声をかけた瞬間に殺されかねない。
相手が棺桶で武装しており、こちらが生身である以上は一方的な敗北は避けられない。
かといってここで黙っていても、船が沈没する未来が避けられるわけでもない。
ショボンは意を決し、両手を挙げて作業中の仲間たちに声をかけた。
(´・ω・`)「俺の話を聞いてくれ!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『ん?!』
溶接作業をしていたジョン・ドゥの手が止まる。
(´・ω・`)「敵はまだこの給弾装置に罠を仕掛けているはずだ!!
頼む、俺に手を貸してくれ!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『裏切り者がのこのこと!!』
作業をしていたジョン・ドゥがその場から消えた。
超至近距離での加速は常人の視力では捉えられない。
足元に上がった水しぶきだけが移動した唯一の証拠。
思いきり壁に叩きつけられたショボンは肺の中の空気を全て吐き出し、苦悶の声を上げる。
だが一切の抵抗も、回避行動もしなかった。
全身の筋肉を硬化させ、どうにか致命傷を防ぐ程度に抑えたのは、相手がこちらを殺そうとしてなかったからだ。
壁に押し付けて持ち上げられる。
無言で見上げられ、機械仕掛けの両眼の奥にある男の目を正面から見据える。
〔欒゚[::|::]゚〕『……』
(;´・ω・`)「……頼む」
その言葉を聞き、僅かの沈黙。
男はゆっくりと言った。
〔欒゚[::|::]゚〕『……分かった』
〔欒゚[::|::]゚〕『おい、いいのかよ!!
だってそいつ、ジュスティアのスパイなんだろ』
〔欒゚[::|::]゚〕『だったら、こんなところに来やしないだろ。
今は手が必要なんだ』
(;´・ω・`)「助かる」
ジョン・ドゥの手がショボンから離れ、その場に降ろされる。
〔欒゚[::|::]゚〕『それで、アテはあるんだろうな』 (;´・ω・`)「あぁ。 亀裂を塞ごうとしているだろう?
奴は恐らく、亀裂を広げるために爆弾を仕掛けている。
ワカッテマスがここに来なかったか?」
〔欒゚[::|::]゚〕『……それなら、俺が見たよ』
別の場所で作業をしていたと思わしき男が、のそりと姿を現した。
〔欒゚[::|::]゚〕『さっき向こうに行ったやつだろ?
この下のフロアにある弾薬保管庫から出てきたのを見たぞ』
〔欒゚[::|::]゚〕『そこは今誰が見てる?』
〔欒゚[::|::]゚〕『分からない、だが、あそこに入るにはキーコードが必要だ。
俺達じゃ入れないぞ』
その瞬間、空気が一気に変化した。
パズルのピーズがはまり、一枚の絵が出来上がる感覚だ。
誰もがワカッテマスが描いた絵を理解し、今必要なことを理解した。
〔欒゚[::|::]゚〕『艦長に連絡を!! 急げ!!』
後は時間との勝負だ。
弾薬保管庫には主砲の砲弾が弾種ごとにコンテナに数十発単位で収められており、一種のマガジンの様になっている。
それを機械制御で上にある装置へと送り込み、連続した砲撃が実現する。
ワカッテマスが仕掛けた最初の罠の被害がそこまで甚大にならなかったのは、その仕組みのおかげでもある。
そしてそこを狙われれば、この船が一撃で二つに分断されるのは言うまでもない。
だからこそ厳重な管理下にあり、権限を持つ人間でしかアクセスできないようになっている。
そこに入っていたとなると、答えは言うまでもない。
〔欒゚[::|::]゚〕『艦長!!』
艦長である、スパム・シーチキンに連絡が行く。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi『なんだ』
〔欒゚[::|::]゚〕『時間がありません、とにかくすぐに前方の弾薬保管庫のロックを解除してください!!』
この船を直感的に操作できるスパムならば、閉鎖された区域のロックを解除するなど何ら苦ではない。
今ならば、まだ間に合う可能性がある。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi『……いいだろう。
作業をしながら説明しろ』
〔欒゚[::|::]゚〕『ありがとうございます!!』
すぐにショボンを含めた5人が下の階へと急行する。
分厚い鉄の扉が開き、薄暗い空間に敷き詰められたコンテナの林が彼らを出迎えた。
頭上で輝く蛍光灯の明かりはコンテナに遮られ、満足に物陰を見ることが出来ない。
だからこそ、そこは機械の目を持つ仲間に任せることにした。
〔欒゚[::|::]゚〕『急げ!! 爆発物があれば身を挺してでも処理するんだ!!』
(;´・ω・`)「時間がなかったはずだ、コンテナの装甲が薄い場所を探すんだ!!」
狙うならば、自動給弾に必要不可欠な穴のある個所だ。
そこに高性能爆薬を仕掛ければ、後は勝手に誘爆し、この空間が全て吹き飛ぶ。
ショボンの言葉を理解したジョン・ドゥたちが示し合わせたようにコンテナの上に乗り、不審物の探索をする。 〔欒゚[::|::]゚〕『おい、ここにあったぞ!!』
早速一人が見つけたが、爆弾は一つとは限らない。
〔欒゚[::|::]゚〕『複数ある可能性がある、おい、この通信が聞こえている奴は全員弾薬保管庫に来るんだ!!』
手分けをして大量のコンテナを捜索するが、それが無駄に終わる可能性は極めて高い。
それでも、何もしないでこの船を沈めさせるわけにはいかない。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi『総員に告ぐ。 これより本艦はスリーピースに突っ込む。
錨を投棄。 直線上にいるあらゆる友軍は直ちに退避せよ。
艦内にいる同志たちは必要な物を持ち、速やかに脱出せよ。
弾薬保管庫で作業中の同志諸君。
……すまない』
その言葉は事実上の敗北宣言と捉えられるものだった。
作業を中断することなく、誰もが声を荒げる。
まだだ。
まだ終わっていないのだ。
〔欒゚[::|::]゚〕『そんな!! まだ諦めないでください!!』
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi『諦めてなどいない。 主砲が撃てない戦艦など、よくて盾か囮にしか使えない。
私はこの船と共に奴らに挨拶をしてやるだけだ。
残り時間が分からないなら、終わりの時間はこちらで決めさせてもらう』
スリーピースの突破には主砲が必要不可欠だが、その主砲が使えない戦艦は確かに無用の長物と言ってもいい。
もしもこの規模の船がスリーピースにぶつかるか、接近することが出来ればこの船が橋としての役割を果たせる。
しかし、それは分の悪い賭けだ。
戦艦である以上、出せる速度はたかが知れている。
喫水の事を考えれば、陸上に乗り上げること自体がそもそも不可能に近い。
同時に、ショボンたちがワカッテマスの罠を全て見つけ出すこともまた、不可能に近いのだ。
(´・ω・`)「なら、我々も自分たちの終わりを自分たちで決めさせてもらいますよ」
ショボンたちの作業が成功すれば、この船が突撃する必要はなくなる。
だが時間が分からない。
可能性を信じれば、可能性に殺されることになる。
〔欒゚[::|::]゚〕『糞っ!! タイマーが止まらねぇ!!
残り1分だ!!』
それは、最初に爆弾を見つけた男の発言だった。
〔欒゚[::|::]゚〕『とにかくコンテナから遠ざけろ!!
誘爆すればもうこの船はお終いだ!!』
〔欒゚[::|::]゚〕『ああっ、糞!! 糞!!
道を開けてくれ!! このまま外に持っていく!!』
コンテナから飛び降り、男は胸に爆弾を抱えたまま部屋を飛び出した。
その瞬間。
ショボンの背筋に電流の様なものが流れ、全身の血の気が引いた。
(#´・ω・`)「ああああ!!
の野郎おおおおおお!!」
ショボンは叫びながら男が直前までいたコンテナに飛び乗り、そこに置かれていた物を手に取る。 (#´・ω・`)「いぇおう!!」
弾薬保管庫で大爆発が起きたのは、そのすぐ後の事だった。
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ワカッテマス・ロンウルフの得意とする諜報戦は、毒を数滴垂らすことだった。
複数の真実に嘘を一つ紛れ込ませることで、その嘘は遅効性だが威力の高い毒となる。
毒が効果を発揮するタイミングをこちらであらかじめ決めることが出来れば、戦況を変えることは可能。
この戦艦を無力化するために選んだのは、そういった嘘だった。
まずは艦長に対し、ショボンへの信頼を疑わせるよう、スリーピースの情報を流す。
当然、それを聞いていた彼女の部下がそれを他者に話すことも想定している。
ショボンからの追跡を逃れる間、彼が複数のジュスティア人と共に反旗を翻したと噂を流布した。
その噂が艦内に広がり、認識をマヒさせ、こちらの思った通りに毒するには僅かな時間が必要だった。
結果、この艦内におけるショボンの立ち位置と彼に同行した人間は裏切り者のレッテルを貼られ、それまでの立場が逆転することになったのである。
だがそれでも、この戦艦を無力化するにはまだ不足だった。
主砲の一部を破壊したことによって艦内に亀裂が走り、間接的に砲撃を止めることは出来たが、まだ足りないのだ。
溶接作業が行われてしまえば、ある程度の砲撃能力が回復してしまう。
そうなる前に、せっかく生まれた傷を広げない手はない。
主砲を破壊した工作は一度しか使えない物だったが、出来れば砲弾への誘爆を利用してこの戦艦を沈めたい。
そこで、ショボンを利用することにした。
このような組織に落ちぶれ、周囲から追われたとしても、それでも彼の本質はジュスティア人だ。
真実と正義の為に動くようにと、その体は長年の訓練にさらされてきた。
一度体に染みついた習慣はそう簡単には消えない。
ワカッテマスが次に打つ手を考え、対策仕様と躍起になるはずだ。
例え自分が裏切り者として周囲から追われたとしても、彼は正義のためにその身を犠牲にしてこの船を守ろうとする。
だから、与えたのだ。
分かりやすい答えを。
納得のいく、疑問の余地のない答えを。
既に罠は仕掛け終え、ワカッテマスはこの船から逃げ出すという答えを。
事実は逆だ。
罠はまだ仕掛けていない。
そして、ワカッテマスはこの船に残る。
弾薬保管庫への侵入は現実問題として、不可能だった。 だが、ショボンがわざわざ味方を引き連れて艦長に依頼した結果、不可能は可能となった。
後はジョン・ドゥを身にまとい、共に爆薬を探すという体で爆発物を設置する。
その場からの脱出は、爆発物の処理が出来ないから外に出ると言えば簡単に行く。
戦艦の外に出たと同時に、下から大きな爆発音と衝撃が彼を襲った。
いつの間にか、空が灰色に染まりつつあった。
嵐ではない。
何かもっと、別の要因だ。
〔欒゚[::|::]゚〕『……おかしいですね』
まだ船が沈む気配がしない。
爆薬の量は申し分なかったはずだ。
そう思った時、背後からその答えが現れた。
(#´・ω・`)「はぁ……はぁ……!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『よくもまぁ生きていますね』
傷だらけのショボン・パドローネ。
その姿は傷だらけで、いたるところが煤だらけになっている。
(#´・ω・`)「お前は……っ!!
お前だけは絶対に殺す!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『無理ですよ。 生身で私を殺そうなどと』
(#´・ω・`)「それはどうかな」
そう言って、ショボンが右手を掲げ、指を鳴らした。
その、直後の事だった。
〔欒゚[::|::]゚〕『?!』
(#´・ω・`)「どぅら!!」
マックスペインの力によって人間離れした速度でその場から駆け抜け、ショボンがワカッテマスの目の前に現れる。
背後は手すりを挟んで海。
後退するのには、僅かばかりの逡巡が生じた。
その逡巡が、命取りとなった。
(#´・ω・`)「一緒にハッピーになろうぜ!!」
その言葉と共にショボンが抱きつき、ワカッテマスはショボンの意図を理解する。
どうしてわざわざ声をかけ、どうして生身でこちらに挑んで来たのか。
マックスペインを重ねて使用し、命を削って得た運動能力。
それは全て、彼が腹に巻き付けた大量の高性能爆薬をこの距離で使うため。
引き剥がすには、もう遅い。
〔欒゚[::|::]゚〕『このっ……!!』
(#´・ω・`)「イピカイエェェェ!! マザファ――」
――形容しがたい大爆発がワカッテマスを襲い、その意識を奪い取った。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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同日 PM00:16
ゆっくりと。
朝日が昇る様に、ゆっくりと、だが確実に意識が覚醒していく。
激痛が全身に広がり、血の気が失われているのが分かる。
爆発の衝撃を受けた正面の骨はほぼ全て折れているだろう。
(;<●><●>)「あ……そ……」
ショボンという男を侮っていた。
あの爆発の規模の理由と彼の傷から導き出される答えは、一つだけ。
こちらの仕掛けた爆弾を味方のジョン・ドゥに向かって投げつけ、それを体で覆わせたのだ。
そうすれば弾薬への誘爆は防ぐことができる。
そしてそのままこちらを追いかけ、どこかで調達した爆薬で自爆してきたのだ。
爆発はジョン・ドゥの装甲を吹き飛ばし、ワカッテマスに致命傷を与えた。
ショボンは爆発四散し、その肉片は戦艦の壁の染みとなっている。
しかし、それでも彼はやり遂げた。
この船を沈めさせない、ということを。
(;<●><●>)「っふふ、流石……」
ワカッテマスは海風を浴びながら、そう呟く。
任務は失敗した。
戦艦の無力化には成功するが、その先がない。
この船は間もなくスリーピースに突っ込む。
(;<●><●>)「いやぁ……まいった……なぁ」
不思議と、後悔はなかった。
ギリギリの綱渡りを楽しんだ結果がこれだ。
自分の気持ちのままに、答えを知りたいがために動いた。
ならばこの結果は因果応報。
相応の結果なのである。
何もかもを最前線で知りたいという欲がこの結果を生み出しただけ。 (;<●><●>)「さぁて……」
打てる手は全て打った状態だ。
主砲の無力化は図らずも成功したが、この船がスリーピースに激突すれば恐らく侵攻は止められなくなる。
(;<●><●>)「……ここまでか」
船底が削れるような振動が船全体を襲う。
まるで悪夢の様にスリーピースが迫る。
(;<●><●>)「ふふっ……こうすることは……分かってましたよ」
そして、その振動がこの戦艦に引導を渡すことになる。
断末魔の様に甲高く、そして重々しい金属が裂ける音が響き渡り、船が傾き始める。
船底に仕掛けた爆弾が振動によって起爆し、船のバランスを崩したのだ。
速度が徐々に失われ、岩礁に乗り上げた戦艦が倒れていく。
肉食獣が眠りにつくようにゆっくりと傾く中、ワカッテマスは嬉しそうな声を上げた。
(;<●><●>)「……おや、来ましたか」
その声が誰かの耳に届くことは無い。
サイレンと悲鳴、金属が千切れる音が船全体に広がっている。
もう間もなく、この船は跡形もなく爆散するだろう。
(;<●><●>)「まったく……君はいつも……」
黒く染まりつつあるジュスティア上空にそれを見た時、ワカッテマスの胸に去来したのは安堵感。
どうにか時間を稼ぐことは出来た。
彼が来るまでの間、ジュスティア内への侵入は防げた。
後は、彼に委ねよう。
――ロストアークが爆散した時、ジュスティアに一機のヘリコプターが降り立った。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第十四章 【 Ammo for Rebalance part11 -世界を変える銃弾 part11-】 了
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