カジュアル衣料品店「ユニクロ」などを展開するファーストリテイリングは11日、今年3月に報酬を改定し、国内の従業員の年収を最大で約40%引き上げると発表した。海外展開を積極的に進めてきた中、国内の給与を世界的な水準に近づけることで優秀な人材の獲得につなげる狙い。政府が物価上昇率を超える賃上げを経済界に求める中、同社の報酬改定が今年の春季労使交渉(春闘)にどう影響するか注目される。

 報酬改定の対象は、本社やユニクロなどに勤務する国内の社員約8400人。新入社員の初任給は現在の25万5000円から30万円に、入社1年目から2年目で就任する新人の店長は月収29万円から39万円にそれぞれ引き上げる。そのほかの従業員の年収も数%から約40%の範囲で報酬をアップする。

 同社では海外の従業員の方が日本よりも賃金が高い傾向にある。今回の改定は、この国内外の報酬差をなくし、能力や実績に応じた形にするのが目的。これまで国内の従業員に支給してきた役職や勤務地に応じた手当は廃止し、能力や意欲などに応じて付与する「グレード」で報酬が決まるようにする。

 賃上げを巡っては、岸田文雄首相が4日に三重県伊勢市で行った記者会見で「インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい」と訴え、5日の財界団体の新年祝賀会でも物価上昇率を上回る賃上げを要請。連合は今春闘で5%程度の賃上げを目標にしているが、今回のファストリの賃上げ決断はこれらを大きく上回る水準で、一連の報酬改定によって国内の人件費は15%ほど上がるという。

 同社は昨年秋にもパートやアルバイトを対象に時給を約20%引き上げている。今回の報酬改定の対象外となった社員についても、今後、報酬のアップを予定している。

 松野博一官房長官は11日の会見でファストリの報酬改定について「積極的な賃上げ方針を打ち出す企業の報道が相次いでいることを前向きに評価したい」と歓迎した。物価高が続く中、「最大の処方箋は物価上昇に負けない継続的な賃上げを実現することだ」と述べ、賃上げの波及に期待感を示した。