ペニスの赤いろが忘れられない。
ぼくはあの日ペニスの真っ赤をみた。
先生の筋肉質な尻がぼくのお腹を押しつぶした日だ。
大切なスリーポイントを外したぼくに先生は居残り練習を命じ、
仲間たちがみんな先に帰り生徒という生徒が下校した七時のことだ。
俺が最後だから鍵を預かっていると言って指先でチャラチャラさせた先生は、
ぼくがボールをしまいに体育館倉庫へ入ったとき後ろから抱き着いてきて、いくつかの愛の言葉をささやいた。
ぼくはたちまち拒絶し、先生を押し返したが、ビクともしない。
先生のおもては真顔で、くちびるをつぐみ、かわりに鼻の穴をいっぱいに広げ荒い息をしている。
大きな体の横を抜けてしまおうと早歩きに近づいたとき、先生の強靭な前腕がぼくの胸を通せんぼした。
押しのけようとした。動かない。まわりこもうとした。どこまでも伸ばされる。くぐろうと屈んだとき、先生はぼくの背中に覆いかぶさり、腰の上に座り込まれた。
ぼくはひとしきりジタバタしたが、なにも変わらなかった。先生の呼吸は猛りに猛り、ちいさなぼくの体を仰向けに転がし、柔いお腹の上に、重い筋肉質な尻が乗る。
ぼくは苦しさから呻いた。先生のくちびるがそれに覆いかぶさる。ぼくは気持ち悪くなり、涙を流した。
「大輔ぇ。悪いのう。でもすぐじゃ。すぐ終わるから辛坊しとくれぇ。すぐじゃ」
先生は自分の上半身の服を脱ぎ捨て、
「乳首じゃ。乳首をきつくすってくれぇ」
とぼくの頭を鷲掴みにして己の胸に近づけた。ぼくは恐れのために言われるがまま口先をつけた。先生の乳頭はすぐに硬くなった。
「ええ子じゃ。もうたまらん。もうええよな。いや、まだじゃ。また吸って欲しいところがあるんじゃ。ええな?」
そう言ってぼくを倉庫の奥へ放り投げると、先生はズボンごとパンツを脱ぎ捨てた。
悪意が天に唾を吐く直前といった風に、ペニスがそそり立ち、亀頭が真上を向いている。その太さと長さは筆舌に尽くしがたい。
裸体の先生が迫ってくる。その肉体の強靭さは、筋肉の筋が全身のいたるところで見事に張り詰めている様からもうかがい知れる。あれに抗うすべなどないことが察せられた。
ぼくは身じろぎひとつできなかった。あれは壁のように迫り、倒壊するかと思われた。
先生の腰が眼界を満たした。その真ん中に巨大なペニスがある。それが黒々としているのは影に浸っているからばかりでない。地の色が黒い。ぼくのものをどれだけ不躾に扱ったとしても、ああはなるまいと思われた。
「しゃぶるんじゃ」
ぼくはまたしても従順になろうとした。が、ぼくの脳裏には、今日のスリーポイントのときと、あれが外れたときの仲間たちの落胆の表情が映った。
ぼくの自尊心は震えた。
「なにしとんじゃ! しゃぶらんかい。しゃぶらんかい! もう待てんのじゃ。しらんぞ。どうなっても、おまえの後頭部が潰れても、しらんかなら!」
と先生はぼくの頭をがっしり掴み、ペニスは狙いを定め、槍のような殺意でぼくの喉の奥まで刺し通した。
「あぐぅ……うぐぇ……おごぉお……」
口腔と脳みその境が消え、意識が苦しみと癒着したように思われた。ぼくは先生のからだに手をついて力の限りすべてを遠ざけようとした。まったくなにも変わらない。強烈な臭気を伴って、深い嗚咽がおこった。
ぼくは暴れるように頭をふり、そこで一瞬、意識のすべてを取り戻した。ぼくは明晰になった頭で、スリーポイントの悔しさを思い出し、負けてはならないと決意した。
ぼくの奥歯はきつく食いしばった。連動して犬歯が下の歯と合わさる。ぼくは厚い弾力のものを奥歯ですりつぶすようにかみしめ続けた。
ぼくの頬に痛烈な痛みが加わり、それが左の次に右にも加えられた。気づくと先生は甲高い声をあげていて、すぐに悲鳴だと気づいた。
ぼくの口は開いた。先生は巨体を脇の方へ傾斜させた。ぼくの体は獣のような活力で駆け出し、やがて四足歩行は二本足で駆け、よちよちしたのがすぐに一目散のダッシュになった。
ぼくは駆けた。校舎の一画に明かりがあり、折よく幾人かの教員の姿が見えた。ぼくは口の中の不快なものに気づき、唾も血も一緒に吐き捨てた。
褐色の廊下の上に、真っ赤にちぎれたペニスがある。先生の亀頭のかけらに違いなかった。……
そののち、ぼくはあのペニスの食感を思い出すにつけて、快感を伴っていることに気づいた。二年が経ち、ぼくはあれ以来、いったいいくつのペニスを食べたのか思い出せなくなっていた。おわり