安倍晋三元首相の銃撃事件は、無職山上徹也容疑者(41)の宗教団体に絡んだ“恨み”による単独犯とみられる一方、何者かに洗脳されていたという見方も出ている。果たして、“洗脳殺人”は可能なのか。専門家が分析した。

 山上容疑者が県警の調べに対し「当初は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の韓鶴子総裁を狙ったが、新型コロナウイルス禍で来日しないので安倍元首相に狙いを変えた」との趣旨の供述をしていることも判明した。

 一方で、別の捜査当局が山上容疑者が「好戦的思想の謎の団体」に知らず知らずのうちに“洗脳”された線を探っているという情報もある。洗脳で殺人まで行わせることは可能なのか。

 国際社会病理学者で米国凶悪犯罪に詳しい桐蔭横浜大学の阿部憲仁教授はこう語る。「洗脳の真偽は定かではありませんが、母親から社会性を否定されるほど心理的にネグレクトされていた山上容疑者のことを考えると、洗脳すること自体は不可能な話ではないかもしれません」

 米国では20世紀、カルト集団の首領チャールズ・マンソンが支持者を洗脳し、殺人を行わせた例などがある。その例などを分析すると、“洗脳殺人”の方程式があるという。

「①心に穴のあいた人間を探し、②その気持ちを理解し愛情をかけ、③他の人間関係を絶たせることで逃げ場をなくし、④指導者そして他のメンバーとの間に抜け出せない親密な人間関係を構築させ、⑤指示通りに行動しない場合は耐え難い心理的苦痛を感ずるよう条件付け、⑥殺人というゴールを設定しそのトンネルを進むことだけが自分に残された道だと思い込ませる、という図式になります」と阿部氏。

 これを山上容疑者に当てはめるとどうなるか。高校3年生だった1998年ごろに母親が旧統一教会に入信し、2002年に経済破綻。一部報道によると、母はそれ以前にも別の宗教に傾倒し、幼少期の容疑者らが“放置”されたこともあったという。

「愛情が必要だった時期に母親を奪われ、家庭も破壊された山上容疑者の心にあいた穴は、生き続けることを不可能にするほどのものであったことは事実です。そして、そうした“心の空白”には例外なく破壊的な考えが入り込みます。併せて、他者との心の交流を持たない単調で苦痛な人生を歩んで来た者にとっては20年といった歳月は、通常の私たちにとってとは異なり、“つい昨日のこと”のように身近な現実として感じられています」と言う。

 阿部氏自身は「洗脳殺人の可能性はそれほど高くないのではないか」と推測している。

 それでも「ポッカリあいた山上容疑者の心の穴に、彼が抱いていた感情と一致する思想が刷り込まれたとしたら、条件的には不可能な話ではないかもしれません。また、洗脳まで行かなくとも、誰かと接触して刺激を得たという可能性はあります。彼の中には40年にわたる自分でも説明のできない怒りが、まるで時限爆弾のようにため込まれていたわけですから」と指摘している。

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