「サンゴ汚したK・Yってだれだ」


これは一体なんのつもりだろう。沖縄・八重山群島西表島の西端、崎山湾へ、
長径八メートルという巨大なアザミサンゴを撮影に行った私たちの同僚は、
この「K・Y」のイニシャルを見つけたとき、しばし言葉を失った。

巨大サンゴの発見は、七年前。水深一五メートルのなだらかな斜面に、
おわんを伏せたような形。高さ四メートル、周囲は二十メートルもあって、
世界最大とギネスブックも認め、環境庁はその翌年、周辺を、
人の手を加えてはならない海洋初の「自然環境保全区域」と「海中特別地区」に指定した。

たちまち有名になったことが、巨大サンゴを無残な姿にした。
島を訪れるダイバーは年間三千人にも膨れあがって、よく見るとサンゴは、
水中ナイフの傷やら、空気ボンベがぶつかった跡やらで、もはや満身傷だらけ。
それもたやすく消えない傷なのだ。

日本人は、落書きにかけては今や世界に冠たる民族かもしれない。
だけどこれは、将来の人たちが見たら、八〇年代日本人の記念碑になるに違いない。
百年単位で育ってきたものを、瞬時に傷つけて恥じない、精神の貧しさの、すさんだ心の……。

にしても、一体「K・Y」ってだれだ。

??「写'89 『地球は何色?』」『朝日新聞』、1989年4月20日、東京夕刊、1面。