叶わない夢を見続ける少年の物語
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皆は、自分の将来の夢は何かって考えたことはあるか?
例えば無邪気な小学生なんかは、城のお姫様になりたいとか仮面ライダーになりたいとか、考えたことがあるんじゃないかな。
たとえそれがありえない事だとしても、それを信じて疑わない自分がいるんだよな。
でも、それってなんか可哀そうだよな。 厨房のころ、俺は人生計画なるものを立てるのが好きだった。
それを何かに書き記すことで、それが未来を書き記す魔法の本みたいになってかっこよかったから。
恥ずかしい思い出だよ。
でも、それは同時に俺の特別な思い出の一つだったりする。 そんな見てるだけでも恥ずかしくなる俺なんだが、その計画表はいたって真面目で現実味のあふれるものだった。
高校では何をして、どんな大学に行って、こういう仕事について。
それらはもうすでに、俺の中で確定していたことだった。
例えば、俺の将来の夢はパイロットになることだった。 すごい現実的な話になっちまうんだがな。
まず、パイロットになるためにはいくつかの道がある。
そん中で俺は一番可能性の高い、航空学校の道を選んだんだ。
その航空学校の入学試験で必要なことって何だとおもう?
意外にも、大学で習うレベルの物理やら何やらと、英語力の二種類なんだ。
まあ後は身体検査だったり面接だったり。
だから俺は大学こそ決まってなかったものの、物理の道には進もうと決めていた。
ちなみに、文系の人でも全然可能性はあるから、絶対に物理の道に進まなければいけないわけじゃないんだけどね。 英語は苦手だったな。
しかも、学校で習う英語ってたかがしれてるんだよな。
だから俺は高校で1年間留学することも視野に入れてたんだ。
高校で留学って言うと結構珍しいことなのかもしれないけど、理由なんてそんなもんさ。 こんな感じ。
まず最初に一番でっかい夢を立てて、それを成し遂げるために必要なことをリストアップしていく、みたいな。
これは自分でも驚いたんだけどね、その人生計画表はなんと50ページにまで及んだんだ。
俺の本気ってなかなかすげえだろ?
パイロットになれなかったら自殺してやるよw 大学生になったころ、俺には彼女がいた。
彼女は俺とサークルが一緒で、俺が大学2年の時に告白されたんだ。
中学生のころ告白に失敗してから、恋人なんて作ろうともしていなかったんだけどな。
好きって言われたら、好きになっちまうだろ。 一方で問題もあった。
あと一年で大学卒業って時だったんだがな、俺は彼女と別れるか必死に悩んだんだ。
航空学校に行くためには勉強が必要だ。
しかも、航空学校って全国に3つしかキャンパスおいてないのな。
大学卒業後は遠距離になっちゃうんだ。
でも、彼女は俺の勉強を応援してくれた。
家も航空学校の近くに引っ越すなんて言い出すのな。
なんて無茶な、なんて思ってたりしたんだけど、彼女本当に親説得させちゃって。
嬉しかったけど、少し困ったかな。 俺の航空学校受験も迫ってきて、俺は勉強と健康維持のための運動が忙しかった。
彼女と会う時間なんてないように思えたが、彼女は俺の日課である30分のランニングについてきてくれた。
つくづく、いい彼女を持ったなんて思っちまうよ。
そんな時に事件が起きたんだ。
俺はいつもみたいに彼女とランニングをしてたんだ。
そして次に気がついた時には、俺は病院のベットに寝かされていた。 「は…」
間抜けな声とともに俺は体を起こした。
全身に激痛が走る。
俺のその様子に気づいた彼女が「まだ寝てないとだめ」って言って、そっと俺を寝かせてくれた。
状況をいまいちよく呑み込めない俺に、彼女は丁寧に説明してくれた。 まず、俺はランニング中に軽トラにはねられたようだった。
奇跡的に頭は強く打ってなくて、脳に障害が残らなかったみたい。
だけどやっぱりけがは避けられなかったみたいで、右腕と肋骨を一本ずつ折ったらしい。
なるほどさっきの激痛はそれか。 幸い、それは3か月で全治するって言われたから安心した。
今年の航空学校受験は多分無理だけど、俺はまだ22歳だから、年齢制限までにあと2回受験のチャンスがある。
何より、生きてて本当に良かった。
「トラックにひかれるなんて災難だな。でも生きててよかったよw」
俺は冗談まじりに言ったんだ。
でも彼女はすごい悲しそうな顔をして、ただうつむいているんだよ。 「あ…」
「気がついたかいシオン君。」
彼女がなにかを言い出したが、そのタイミングで医師が入ってきた。
「楽にしてていいよ。ところで、そこの彼女さんから話はきいたかい?」
「あ、はい。だいたいは。なんでも、軽トラックにはねられたとか。」
「うん。軽トラックは速度制限を無視して走行していたんだ。それにはねられて死ななかったのは、不幸中の幸いだね。」
「そうっすね。治療ありがとうございます。」
「あー、そのことなんだけど…」
「ん?どうしたんですか?」 「君の右足、もう動きそうにないんだ…」
「へ?」
俺は医者から告げられた一言に呆然とした。
右足が、動かない…?
俺は右足を動かそうとした。
確かに動かない。
俺が右足を動かそうと格闘していると、医者から説明された。 「複雑骨折の一種だ…君の右膝の関節はもうくっつくことはないんだ…」
「…」
正直言葉が出なかった。
「そうですか」なんて言ったりしたものの、頭は理解していなかった。
とりあえず、俺はいったん病室に一人にしてもらったんだ。 しばらく経って、俺はようやく現実を受け入れはじめた。
「もう…動かない、か。」
そっか。
俺の足、もう動かないのか。
そっかそっか。
いきなり呼吸ができなくなったかと思えば、自分の涙を鼻から吸い込んでしまったことに気づいた。 しばらくして、俺は退院した。
入院中の記憶なんてほとんど覚えてないよ。
とにかく、俺は大事な人に別れを告げようと思ったんだ。手紙で。
俺の夢は決して叶わないものになってしまった。
もう何もやる気がおきない。
これから、何かをしようと思えない。
俺は半端に生きながらえてしまったが故に、今後自堕落な生活を送ることになるんだ。
叶わない夢を見続けるくらいなら、死にきってしまった方が数千倍もマシだと思ってしまったんだ。 手紙では、一人一人に今までの感謝を告げた。
そして、一人一人に謝った。
俺を一生懸命育ててくれた両親に。
俺の背中を見て育ち、俺と長い時間すごしてきた妹と弟に。
俺を好きになってくれて、どこまでもついてきてくれようとした彼女に… 俺は手紙を書きながら、自分の性格はどうしようもなく糞だなって改めて思った。
俺が死ねばみんなが悲しむって分かってる。
でも…
なんの楽しみもないこの世界で生きながらえることができるほど、俺は強くないんだよ。
ごめん、皆。
俺は最低なわがまま野郎だ。 これで、全員か。
俺は手紙を書き終えた。
ふと机の角を見ると、まだ何も書かれていない便箋が一枚残っているのが見えた。
せっかくだから使い切るか。
とは思ったものの、もう大切な人なんて……
「…」
あと一人だけ、いるな。
俺は紙にペンを走らせた。
『 Dear John… 話は少しだけ遡る。
俺は人生計画の通り、本当に高校で留学しちまったんだよ。
あまり裕福な家計ではないのに、金を出してくれた両親にはホントに感謝してる。
俺は最初、留学行くことにあんまり重み?みたいなのを感じてなかったんだよ。
ちょっと一年間アメリカ行ってくるわw みたいな。
でも、留学はそんな、一言で完結させることなんかできないくらい特別な思い出なんだ。 留学生はホストファミリーを選べないって知ってたか?
基本的に、どこかしらのホストファミリーが自分を選んでくれるのを待つんだ。
そのために自分の戸籍やら紹介文やらを書いて提出するんだが、その必須項目の一つに、「なんで留学したいとおもったのか」っていうのがあるわけだ。
そこで俺はストレートにこう書いた。
「パイロットになるにあたって必要な英語力を上げるために留学を決意しました」ってね。
たちまちそれを見た、一つのファミリーによって俺の留学先は決定された。 そこはファミリーと言っていいのか分からないくらい小さな家族だった。
母親と同年代の弟と俺。
俺はてっきりちっさな子供がたくさんいる家庭を想像してたから、最初にその家族構成を知った時は多少動揺したな。
でも問題はそこじゃなかったんだ。
弟は障害を持っていたんだ。
彼は盲目だった。
名を仮にジョンとする。
そういや、俺はそういう障害者と一緒に何かしたりする経験はなかったんだよな。 ちなみにジョンはその母親と血がつながっているわけではない。
養子っていうのかな。
両親を失い、目も見えずに、行き場をなくしたジョンに手を差し伸べたのがその母親だった。
すごいよな、その母親。
名を仮にマリンさんとしようか。 渡米して最初の頃の俺は、首を左に右に振りっぱなしだったな。
本当に、異世界に来たみたいだったよ。
何もかもが違ってて、新しいことばかり。
俺は好奇心が人一倍に強かったし、これには興奮せざるおえなかった。 一方で、辛いこともやっぱりあるんだ。
英語が聞き取れない、聞き取ってもらえない、自分と相手の価値観が違いすぎる。
一回、人と話すことが嫌になったくらいだ。
それを乗り越えるのが留学の一つの目標なんだけどな。
最初はみんなそんなもんだ。 俺の英語力も安定してきて、まともにコミュニケーションができるようになってきたころ、俺はジョンに話しかけられたんだ。
ジョンは俺に自分の将来の夢を語ってきた。
簡単に言うと、ジョンの夢は俺と同じくパイロットになることだった。
なるほど、俺をホストしてくれたのはそのおかげか、なんて思いつつ、彼のパイロットへの愛を聞くことになるんだ。
俺はジョンの目を見ながら、黙って話を聞いていた。 空を飛ぶことへの憧れ、乗り物への好奇心。
ジョンははじめて飛行機に乗った時、パイロットになりたいと思ったらしい。
俺も最初はそうだった。
そんで、一度そう思ったら色々興味がわいてくるんだよな。
どうしたら飛行機を操縦できるのか、とか。
パイロットってどんな人なのか、とか。
それで、調べていくうちにすっかりその虜になってしまう。
俺とジョンはとことん似たもの同士だった。 みんなは高校生のころ、俺みたいにこんなはっきりした将来の夢をもっていたか?
もちろん、いることにはいるんだろうけど、そういう人は結構少なかったんじゃないかな。
実際、俺の周りにそういう人は少なかったし。
だから、こうやって夢を語れるっていうのは俺にとってすごい嬉しいことのはずだったんだ。
本来ならば、な。 でも俺はその時、嬉しいとも楽しいとも思わなかったんだ。
皆はさ、目が見えないパイロットが操縦する飛行機に乗りたいと思うか?
実際に、パイロットになるには厳しい身体検査がある。
その検査は、一見なんの以上もない健康な人でも半数しか受からないほど厳しい検査だ。
両眼視力はもちろん、片目視力、空間把握能力、色覚、平衡感覚…
パイロットになるにあたって、目が見えないのは致命的だったんだ。
最初こそ俺と面を向かって話していたジョンだが、いつの間にかジョンは壁に向かって喋りかけていた。 俺は考えてみた。
もし、今この時点で俺がパイロットになれないということが確定したら、俺はどうするか。
死ぬ。以上だ。
それだけ、俺は妥協を許さない性格だったんだ。 ジョンは飛行機について語るのが好きだった。
そして、俺はそれを聞くのが好きだったんだ。
「僕はボーイング777-400 を操縦してみたいな。その理由はあーたらこーたら。」
とか、
「エアバスの飛行機には基本的に操縦桿がないんだよ。全部ジョイスティック。しってた?」
とか。
とにかくジョンの飛行機に関する知識はすごかった。 なんでこんなに飛行機について色々知ってるのか一度聞いたことがあるんだが、ジョンは小型機のコックピットに何度も乗ったことがあるらしいな。
アメリカでは結構いろんな人が小型機を運転できるんだとか。
ジョンは小型機パイロットの友達にコックピットに乗せてもらっていると言っていた。
へえ、そりゃすげーや。 ある日、俺らは飛行機のシミュレーションゲームをやってみた。
ジョンはすごい喜んでたな。
なんせ、目が見えないジョンにとってこれがはじめてのビデオゲームだったとか。
俺がジョンに現在地とかの情報を説明して、ジョンが俺に次は何をするだとかの手順を教えてくれる。
きっとそのゲームをしている間は、俺たちは最高のパイロットコンビだった。
「僕たち、きっと素晴らしいパイロットになれるね。」
ジョンは呟いた。
それにたいして俺は、「そうだな。」としか言ってやれなかったな。 でもやっぱりゲームは楽しかった。
同じ空港へのアプローチを何度も繰り返して、悪天候での着陸も試してみて。
今思えば、あんなクリア条件もタスクもないゲーム、何が楽しいんだろな。
でも、あの時は時間さえ忘れるくらいに楽しいと思っていたんだ。 「ジョンはパイロット以外になってみたい仕事はないの?」
「もし僕がパイロットになれないのであれば、生きている意味がないよ。」
「…」
ある日、ジョンとマリンさんの会話が聞こえてきた。
俺は聞いていない、理解していないふりをして自室にむかった。
そんで俺はベットの上で考えたんだ。
数か月前まで俺たちは面識すらなかった。
1年が過ぎて俺が帰国すれば、接点なんてなくなる。
ジョンなんていわば他人も同然なんだ。
俺は自分に言い聞かせたよ。
でもそしたらあの時の、胸を締め付けられるような苦しみは一体なんだったんだろうな。 ちょうど、ジョンの16の誕生日のことだった。
アメリカでは16の誕生日は一つの大きなイベントらしくて、大人になったことを意味するらしい。
タバコとか酒とかは21かららしいけど、16で運転免許がとれるようになったり選挙権が与えられたりするんだとか。
マリンさんは、それをちょうどジョンの人生の分岐点にしようとしたらしい。
ジョンに本当のことを伝えたんだ。
視力がないとパイロットにはなれないこととか、いろいろ。
ジョンは全部を聞く前にそれどころではなくなっちゃってさ。
こんなのは間違っていると泣きわめくジョンを、俺は見ていられなかった。 マリンさんの気持ちも分かるよ。
どうせいつかは直面する日が訪れてしまうんだ。
それは後になるほど言いづらいもんな。
実際に今回も、マリンさんは心を相当痛めたと思う。
でもやっぱり自分の子供は大切だもんな。
ちゃんと将来生きていけるような、もっとマシな夢を持ってほしかったんだろうな。
その日ジョンは、マリンさんに不満を吐き続け、俺を嘘つきと罵り、その焦点の合っていない目からは夥しい量の涙を流していた。 俺はその日の夜、ベットの中でなかなか眠れずに考えていた。
ジョンに言われたことを思い出したんだ。
「僕はパイロットに憧れていたけど、でも薄々本当はなれないことに気づいていた。でも俺君が、僕たちはいいパイロットになれると言ってくれたんだ。僕が頑張って勉強したパイロットの知識をすごいと言ってくれたんだ。本当に僕がパイロットみたいだって言ってくれたんだ。だから、僕も本当にパイロットになれると信じたんだ。なんで生半可に期待を持たせたんだ、この嘘つき」って。 俺はその日の夜、ベットの中でなかなか眠れずに考えていた。
ジョンに言われたことを思い出したんだ。
「僕はパイロットに憧れていたけど、でも薄々本当はなれないことに気づいていた。でもシオン君が、僕たちはいいパイロットになれると言ってくれたんだ。僕が頑張って勉強したパイロットの知識をすごいと言ってくれたんだ。本当に僕がパイロットみたいだって言ってくれたんだ。だから、僕も本当にパイロットになれると信じたんだ。なんで生半可に期待を持たせたんだ、この嘘つき」って。 正論だった。
俺は、ジョンが笑顔になってくれることが嬉しかった。
俺のおかげでジョンが笑ってくれてるんだって勘違いしていた。
でも、ジョンは俺が創ってきた笑顔の分だけ傷ついた。
俺はこの家に来るべきではなかったんだ。
唯一の救いは、この時すでに帰国の直前だったことだな。 それからは俺たちは特に何も話さずに帰国の日を迎えた。
留学中にできた友達は、涙を流して俺を見送ってくれた。
また戻るの意味をこめて「I’ll be back (アイル・ビー・バック)」と親指を立てた時は皆で笑いあったりもした。 でも、ファミリーとはそうはいかなかった。
どこか気まずくて、会話が生まれない。
マリンさんは長々と「この家に来てくれてありがとう」的なことを言っていたけど、それが本心なのか俺は疑ってしまった。
弟にはもう「グッバイ」くらいしか言わなかったっけ。
1年間お世話になったのに、謝らなきゃいけないのに、最悪だよな。俺は。 帰り道。
いくら飛行機が好きな俺でも約14時間の空の旅。
俺は何もしていなかった。
何だろう、後味が悪いって言うのかな。
とにかく、何かをする気がおきなかったんだ。
そこでふと気づいた。
「ん?リュックに何か入ってる…?」
俺のリュックには、側面にペットボトルか何かを入れるためのスペースがあった。
そこに封筒が入っている。
俺はそれを開封し、中に入ってた手紙を読んだんだ。 「シオン君へ
最後に、あんなことを言ってしまってごめんなさい。私は動揺していて、本心ではないことも言ってしまったんです。本当にごめんなさい。僕は、シオン君にはすごく感謝してるんです。私の母は体が悪く、家事をこなせない日があります。シオン君はそれを手伝ってくれました。私たちが旅行に行ったことを覚えていますか?その時、シオン君は私たちの重い荷物を運んでくれました。そして、毎日放課後に一緒に遊んだことを覚えていますか?シオン君が紹介してくれたビデオゲームはとても面白かったです。できることなら、また二人で遊びたいです。私の話は誰もがつまらないと言います。でも、シオン君は楽しそうに私の話をきいてくれました。
僕はまだ、パイロットになることを諦めきれませんw。僕は、パイロットになるために視力が必要だなんて思っていません。私は、盲目の人のための空間を把握する機械を開発しますw。シオン君の話を聞いて、改めてパイロットになりたいと思ったんです。僕は言ったでしょう?パイロットになれない人生は意味がないと。僕は僕なりに頑張ってみます。
シオン君は僕を応援してくれました。
僕の諦めかけていた人生に意味を与えてくれました。シオン君と出会えて良かった。この1年間は、これから僕が生きていく一生の中で、特別な思い出になります。さようなら。
ジョンより」 俺は飛行機の中で何度もこの手紙を読んだ。
やがて飛行機は日本に着いた。
俺はその手紙を大事にリュックにしまい、飛行機から降りた。 「おう、俺。どうだったよ。この一年。」
「お帰り、俺。アメリカ楽しかった?」
本当に久しぶりに両親の顔を見た。
そっか。帰ってきたんだな。日本に。
でも今は再開を喜ぶより、帰国を祝うよりも言いたいことがある。
俺は声高らかにこう言ったんだ。
「最高の、1年だった!」と。 “Dear John”
俺はそう書いて手が止まった。
「はは。はははは!」
俺はもうおかしくて笑いが止まんなかった。 「全く一緒じゃねぇか!俺らは。」
今までに書いた手紙をかき集めて、手中に収める。 「ジョン。お前、こんな気持ちだったのかよ!」
机をたち、歩き出す。 「ああ、思い出したよ。」
持っていた手紙を、全部ごみ箱に放り投げた。 「やっぱり、あれは…」
ただ歩くこともままならない体で、俺は夢中で松葉杖をついた。 「やっぱり、あれは最高の1年だった!」
そう言って俺は家を飛び出した。 「俺さ、パイロットになる夢、諦めねーよ。」
なんのことかも説明しないで俺は勝手に語る。
「今はこうやって足が使えないけどさ、義足やら何やらで代用できないかなw」
俺がいきなり語りはじめて皆困った顔してたなw
「そりゃいまの技術じゃ無理だけどさ、将来、本物の足みたいに動く義足が開発されるかもしれないじゃん。」
誰かが言う。もし開発されなかったら…?って。
「そん時はそん時だよw」
だって…
「俺が作ればいいんだよ!」 こんな自分を一生懸命育ててくれた両親のために。
こんな自分を愛してくれた彼女のために。
こんな自分に生き方を教えてくれたかつての弟のために。
これから俺は幸せな人生を歩んでいくんだ。 みんなは、自分の将来の夢が何かって考えたことはあるか?
例えば、とある片足を失った大学生なんかは、パイロットになることを望んだんだ。
たとえそれがありえない事だとしても、それを信じて疑わない自分がいるんだよな。
でも、それでいいじゃんか。 ピエロットは僕の名前です。
由来はまぁ、結構深いわけがあるんですが。
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