11月でも暖かいある日の午後、パルル・ハルダルさんは小さな木舟の舳先(へさき)で危なっかしくバランスを取りながら、ところどころに魚の引っかかった長い網を、濁った水の渦巻く川から引き揚げる。

すぐ背後には、スンダルバンスの密林が迫っている。インド北東岸からバングラデシュ西部にかけて、ベンガル湾に面して約1万平方キロにわたって広がるマングローブ干潟だ。

ハルダルえっショックさんの夫は4年前、森深くまで魚を捕りに出かけたきり帰らなかった。同行していた2人の漁師は、彼の身体がやぶの中に引きずり込まれるのを目撃した。人々が敢えて森に踏み込むことで増加しつつある、トラによる被害の一例だ。
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