日暮れ前までに小さな懐中電灯の光だけ頼りに、砂に埋もれたメーヴェの整備を一通り二人ですましてしまうとそれから砂の上に少年と少女は自由にのびやかに、そして突然降りしきるけたたましながら優しく爽やかな砂の滝の音にそっと静かに耳をそばだてながらその体を横たえ眠ることになりました。少年は軍服に似合わないような不思議そうな顔をしていました。
「腐海の生まれた訳か…。君は不思議なことを考える人だなあ…」
小さなテトはキョロキョロとすることもなく、その時分にはもうコロコロ妙な音を立てながら疲れ切ったように、横たわる少女の肩に丸く寄り添って蹲っています。少女は高く淡く明るい、奇妙なこの結晶の神殿の天井をまっすぐ優しく見つめ、やはりゆっくりとまた言葉を続けます。
「腐海の木々は、人間の穢してしまったこの世界をきれいにするために生まれてきたの。大地の穢れを、体に取り込んできれいな結晶にしてから死んで砂になっていくんだわ」
少年は肘を立て横になりながらも少女の方を向き、その仄かに浮きたつように白い顔に見入りながらずっと話を聞きました。そのもじゃもじゃの髪の毛を包む動物の皮でできたらしい柔らかな操縦士の保護帽から耳を塞ぐ耳あてが今は下を向いて垂れて、それは呆気にとられたようにピクリとも動きません。
「この地下の空洞は、そうしてできたものなの…」
するとどこからか気づかなかった水源が現れては消えて、この地下の中庭に新たな水路を結んではほどいている水の音が二人の耳に近づいてきます。少女はしばらくして、また確かな声で丁寧にその言葉を継ぎました。
「あの蟲たちは、この森を守っているの。人が再び世界をこんなに穢してしまわないように…」
「なるほど。だとしたら、ボクたちは滅んでしまうしかなさそうだ。何千年かかかるかもしれないのに、瘴気や蟲におびえて生きていくことはとてもできないよ」
犬のように砂にお腹をつけて、そのままうつぶせに寝転んでしまうとそこにある懐中電灯の仄かな光に何か見出したように、それから一点を見つめて少年は言葉を先に進めます。
「せめて…、腐海をこれ以上は広げない方法が必要なんだ…」
少女はもう目を伏せて、悲しそうに言いました。
「あなたも、●シャナと同じのように言うのね…」
「違う! ボクたちは巨神兵を戦争に使うつもりなんてない! 明日、みんなに会えばわかるよ」
にわかに少女の言葉に興奮して大きな声を出した少年はすでに、半身を一人の兵士らしい力強い素早さですっくと起こしてしばらく、少女を静かに見下ろしていました。
「もう、眠りましょう。明日沢山、飛ばなきゃ…」
低い声でそういうと、少女はあっさりと眠りについて小さく寝息を立て始めます。少年は唖然として、突然目の前に小さな花束が足元に現れたような不思議な顔をしながら、まだいとけない顔のその同じ少女の言葉を何度も頭にめぐらせ真摯な目で、非常な新しい謎に満ちた夢のような世界の足音を感じていました。

何らかんらで谷はそのあと何らかんら救われます。予言者のおばあさんもいます。脇を固める子供もいます。
「姫様、青い異国の服を着ているの」
「その者青き衣をまといて金色の野に降り立たん。おお、言い伝えは本当であった」
青い服の少女は微笑みながらなおも金の光の上を歩きます。生まれたばかりの天使のように。

おわり