男「もうこの手は一生洗いません!」アイドル(これで呪いはうつった……!)
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握手会――
男「握手をお願いします!」
アイドル「はーい!」
ギュッ
男「感激です! もうこの手は一生洗いません!」
アイドル「……!」
アイドル(やっと……やっとこの時が来た! アイドルになって数年、長かったわ……!)
アイドル(これで呪いはうつった……!)
…………
…… あれはまだ私がいたいけな女子高生だった頃――
JK(あっ、私が大好きな俳優だ!)
JK「すみませーん」
俳優「なんだい?」
JK「よかったら握手して下さいませんか?」
俳優「ああ、いいとも」
ギュッ
JK「嬉しい! この手は一生洗いません!」
俳優「そうかい……これでやっと……」ニヤッ
JK「?」 JK(さっきはああいったけど、さすがに一生洗わないのは無理だよね。汚いし……)
JK(もったいないけど……)
ジャー…
JK「い゛っ!?」
JK「あづあづあづぅぅ!!!」
JK(ちょっと水に手を触れただけで、まるで酸でも浴びたような痛みが……)
JK(どうなってるのこれ!?) JK「水がダメならふきんで……」
JK「いだぁい!」
JK「水がダメってこと? じゃあ、濡れてないタオルで」
JK「あぎゃあああっ!」
……
JK(ダメだ……! 色々試したけど、手を拭いたり洗ったりする行為が一切できない……!) 医者「検査の結果……」
JK「……」ゴクッ
医者「どこにも異常ありませんね」
JK「えっ、そんな!? 本当に手が痛いんです! 何とかして下さい!」
医者「うーん、もしかすると心の病気かもしれませんので、いい病院を……」
JK「もう結構です!」 JK(どうして!? どうしてこうなっちゃったの!?)
JK(何か思い当たる節は……)
JK(この症状が出た日、私は何をしたっけ……)
JK(あの日は俳優さんに出会えて握手を……あっ!)
JK(俳優さんと握手した時、あの人意味深に笑ってた……!)
JK(あれだ! あれで私の手はおかしくなったんだ!) JK(スケジュールを調べたら、ここにいれば俳優さんに会えるはず……)
俳優「……」スタスタ
JK(来た!)
JK「ちょっとあなた!」
俳優「おや、君か。なんの用だい? 今度はサインかな?」
JK「違うわよ!」
JK「あなたと握手してから……私の手、おかしくなっちゃったのよ!」
JK「手を洗おうとすると、激痛が走る……どうしてくれるの!」
俳優「ああ、やはりその件だったか」 俳優「呪いを受け取ってくれたファンに大サービスだ。教えてあげよう」
JK「呪い……!?」
俳優「そう、それは呪いなんだ。呪いをつけられた人間は、手を洗えなくなってしまう。誰かにうつすまでね」
JK「どうやったらうつせるの!?」
俳優「簡単だよ。誰かと握手して、『もう一生手を洗わない』と言われればいい。これで相手にうつる」
JK「だったら今すぐもう一度握手してよ! 呪いを返す!」
俳優「残念だが、それは無理だ」 俳優「今ここで俺が君と握手して、『もう一生手を洗わない』といっても呪いはうつせない」
JK「どうして!?」
俳優「そういうものなんだよ。頼んだり脅したり買収したり、イカサマのような方法では呪いをうつすことは不可能なんだ」
俳優「だいたいその方法が通用するなら、俺はとっくに誰かにうつしてたさ」
俳優「これでも俳優。金はあるし、大金を条件に呪いをうつそうとしたこともあるがそれは出来なかった」
JK「……!」
JK「それじゃ私はどうすれば……」
俳優「“一生手を洗いません”と言ってもらえる身分になるしかないね」
俳優「例えば……アイドルとかさ」
JK「……!」 JK(決めた……)
JK(私は絶対この呪いを誰かにうつす!)
JK(さいわい容姿には恵まれてる。本気でアイドルを目指せば、なれないことはないはず!)
JK「アイドルになってやる!!!」
こうして私のアイドルへの道が始まった―― 審査員「次の方ー」
JK「はい」
審査員「ほう、なかなか可愛いね。えーと、アイドルを目指す意気込みを教えて下さい」
JK「はい、何がなんでも! どんな手を使っても……アイドルになってみせます!」
審査員「!」
JK「どうか……どうかよろしくお願いします!」
審査員(なんという気迫……! これほどの迫力は、最近の子にはなかった……) こうして見事審査に受かり――
講師「あ、え、い、う、え、お、あ、お!」
JK「あ、え、い、う、え、お、あ、お!」
講師「もっとダイナミックに踊って!」
JK「はいっ!」スタターンッ
講師「どんなに疲れててもスマイル!」
JK「……」ニコッ
講師「ナイススマイル!」
JK(呪いをうつせる時を想像すれば……いくらでも笑みなんか作れるわ!) 社長「君のデビューが決まった。いよいよ君もアイドルの仲間入りだ」
アイドル「ありがとうございます!」
社長「大いに期待している。頑張ってくれたまえよ」
アイドル「マネージャー、お願いがあるんですけど……」
マネージャー「なんだい?」
アイドル「握手会の仕事をどんどん持って来て下さい!」
マネージャー「へえ、珍しいね。握手会はやりたがらない子もいるのに」
アイドル(なんたってそのためだけにアイドルになったんだから!) それから人気アイドルに上り詰め、数年――
アイドル「終わった……」
アイドル「やっと、あの男に呪いをうつすことができた!」
アイドル「試しに手を……」
ジャブジャブ
アイドル「洗える! やっほう!」
アイドル(目的は果たしたし、もうアイドルなんかやめていいけど、しばらく続けるか)
アイドル(私が呪いをうつした男に説明してやる必要もあるだろうしね) アイドル「さあ、今日も歌うよ〜! みんな応援してね〜!」
ワーワー
アイドル(さて、あの男は来てるかな……)
アイドル(来てる!)
アイドル(となると、ライブ後にやってきそうね……殴られるかもしれないし気を付けないと)
……
アイドル(あれ? 来なかった……) ワーワー
アイドル「また来てる」
ワーワー
男「……! ……!」バッバッ
アイドル(なにサイリウム振ってんのよ。手を洗えない身分のくせに)
……
アイドル(ライブ後待ってたけど……また来なかった! なにやってんのあいつ!?)
アイドル(私に呪いをうつされて、地獄を見てるはずなのに!)
アイドル(どうしても気になっちゃう! こうなったら――) ある日のライブ後……
男「……」スタスタ
アイドル「いた!」
男「えっ!? ア、アイドルさん!」
アイドル「ちょっとあんたぁ!」
男「なんですか?」
アイドル「私に言いたいことあるでしょ!」
男「ありますよ。いつも応援してます! とても可愛いです!」
アイドル「そうじゃなくて!」 アイドル「少し前、私と握手したでしょ!」
男「しましたね」
アイドル「その後、何か異変起こってない?」
男「異変?」
アイドル「手を洗う時とか!」
男「手を洗う時? 異変なんて起こりようがありませんよ」
アイドル「え、なんでよ? 嘘おっしゃい」
男「だって僕、あれからずっと一度も手を洗ってませんから」
アイドル「え……!?」 アイドル「洗ってないの?」
男「はい」
アイドル「一度も?」
男「一度もです。絶対洗わないように気を使ってます」
アイドル「……!」
アイドル(そんな……この人は私と握手した時の“一生洗いません!”を有言実行してるというの!?)
アイドル(私が呪いをうつされた時なんか、その日のうちに手を洗ったのに……) アイドル(こんなにも私を思ってくれているファンに、呪いをうつしたままでいいの!?)
アイドル(いいえ、よくない! それじゃ私の気が済まない!)
アイドル「……」ガシッ
男「な、なにを!? 汚いですよ!?」
アイドル「いいの!」
アイドル(出来るかどうか分からないけど、呪いよ。どうか私に戻ってきて……)
アイドル「私、この手を一生洗わない!」
パァァァァァ…
アイドル「!」
男「!」 アイドル「何今の!?」
男「……?」
アイドル「ねえ、ちょっと手を洗ってみてくれる? そこに蛇口あるから」
男「わ、分かりました」
ジャブジャブ…
男「洗えますよ」
アイドル(ということは、呪いは私に戻ったわけね!)
男「僕の手は本当に洗ってなかったんで、アイドルさんも洗った方がいいですよ」グイッ
アイドル「えっ」
男「さあ」
アイドル「あっ、ちょっ、やめっ――」 ジャブジャブ…
アイドル「……洗える」
男「?」
アイドル(渡した呪いを返してもらおうとしたら……呪いが消えた)
アイドル(私が強く念じたからなのか、私が心から呪いを返して欲しかったからか、分からないけど……)
アイドル(とにかくこれが“呪いを完全に解く方法”だったんだ……)
アイドル「勝った! 私たち呪いに勝ったのよ!」
男「え、えええ……?」
アイドル「ほら、あなたも喜んで! やったーっ!」
男「ええと、やったーっ!」 アイドル「嬉しいよ……」
男「あ、あの……?」
アイドル「私の手を握って、本当に洗わないでいてくれたなんて……」
男「いや、普通そこは引くところじゃ……」
アイドル「ううん、これはまさしく運命! 私、運命の男を見つけちゃった! よろしくね!」ギュッ
男「は、はい……!」
…………
…… 記者「いやー、まさかまさかの電撃引退! ファンの方と交際をなさっているとは!」
記者「あまりに幸せそうなので、他のファンの方々も祝福ムードになっているようです!」
アイドル「私の相手は、この人しかいないと思ったので……」
男「抱きしめられた時は本当に気持ちよかったです」
アイドル「もうっ!」
記者「最後に一言お願いします!」
男「もうこの体は一生洗いません!」
アイドル「いや洗ってよ」
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