「舵を引け! 舵を!」
少女はついに救えませんでした。生まれて初めて味わう、神さまのむごい、冷たい計らいと自分の何とも情けないふがいなさと身体の芯から震えていくような覆ることない真っ暗な挫折です。
「姫は無事か? 向いの崖だ、急ごう!」
漆黒の夜に赤く燃える落ちた巨大船。その散乱した瓦礫の中に静かに眠る赤黒い巨大な何か。それは終わりのない運命の新たな道筋を脈打つよう。
「う、動いてる。まるで生きているようだ」
「巨神兵だよ」
「巨神兵。あの、火の七日間で世界を焼き尽くしたという?!」
「1000年もの長き年月を、生き延びていたものがあるとはな…」

「なかなか良い谷ではないか」
時折上下に揺さぶられながら金の甲冑の奥から青い瞳が遥か陸上を見下ろすと、再び振動の激しい窓を離れて人目を忍ぶように、でも力強く幅を利かすような冷たい静けさで長い剣を飛行艇の床に突き立て中央へ座りました。
「然し、命令では逸早く例のものを…」
「命令は実行不可能だ。超大型船でも奴の重さに耐えられなかった」
「然し、情報では…」
男は言葉を飲み込むと、痺れたように上官の頬に浮かぶ尋常でない覚悟が仄かに燃えるような微笑みのその美しさに、恐れるような嫌悪するような、愛するあまり邪悪な思考が自動に置き換わるような不安定な疑わしい平和を湛え、犀利な目で付き従いました。
「黙れクロトワ。まさk本国の馬鹿どもに奴を本気で握らせたいのか?」
「殿下、本気でここを…」
「くどいぞクロトワ。この話は二度とするな」
陽の光に輝く美しい田園風景。先行部隊が侵入します。何一つ新しさのないような、必要としないような手際のよい、あまりに静かで速やかな奇襲でした。
王の間に銃声が。
「姫様!」

何らかんらで谷はそのあと何らかんら救われます。予言者のおばあさんもいます。脇を固める子供もいます。
「姫様、青い異国の服を着ているの」
「なんじ青い衣服をまといて金色の野に降り立たん。おお、言い伝えは本当であった」
青い服の少女は微笑みながらなおも金の光の上を歩きます。生まれたばかりの天使のように。

おわり