女上司「終電……行っちゃったね」部下「ボク、駅に住んでるんで大丈夫です!」
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ガタンゴトン…
女上司「あっ……。終電……行っちゃったね」
女上司「よかったら――」
部下「ボク、駅に住んでるんで大丈夫です!」
女上司「え?」
部下「よかったら今夜は駅に泊まりませんか?」
女上司「え? え?」
部下「ご案内します。さあ、どうぞ!」 部下「ただいまー」
駅長「おお、お帰り」
女上司(ちゃんと挨拶してる……)
部下「今日は会社の上司を連れてきたよ」
女上司「こ、こんばんは」
駅長「よくいらっしゃいました。まあ、ごゆっくり」
女上司「はい……」 女上司「この様子だと、あなた本当に駅に住んでるの?」
部下「ええ、そうですよ。履歴書の住所も駅になってます」
女上司「え、ホント!?」
部下「はい、住所はこの『○×駅』になってます」
女上司「よくウチの会社入れたわね……」
部下「『駅に住んでるなんて珍しい! 採用!』って感じでした」
女上司「ウチの人事のやりそうなことだわ」 部下「とりあえず、ベンチでくつろぎましょうか」
女上司「うん」
部下「このベンチが特にお気に入りでしてね。ひんやりした座り心地がたまりません」
女上司「へ、へぇ〜」
部下「コーヒーでも飲みながら、仕事について語り合いましょう」
女上司「ありがとう」
部下「あの得意先のことなんですけど……」
女上司「あそこは手強いから……」
ペチャクチャ… 部下「ところで、お腹すきません?」
女上司「そうだね……ちょっとすいたかも」
部下「じゃあ、用意してもらってきます」
女上司「用意?」
部下「キヨスクのおばちゃーん!」
おばちゃん「あいよ!」
女上司「こんな時間に勤務してるの!?」 部下「ちょっと夜食を用意してくれない?」
おばちゃん「あいよ。おにぎりと味噌汁でいいかい?」
部下「うん、上等上等」
おばちゃん「すぐ作るから待っててね」
ニギニギ… コトコト…
女上司「キヨスクの中で調理してる……」 おばちゃん「はい、できたよ!」
部下「ありがとう、おばちゃん!」
部下「さ、どうぞ。いただきまーす」モグッ
女上司「いただきます」ハム…
部下「どうですか?」
女上司「おいしい!」
おばちゃん「アハハッ、ありがとねえ」 部下「寝ましょうか」
女上司「寝るって……まさかベンチで?」
部下「いえいえ、ちゃんと寝るためのスペースがありますよ」
女上司「ああ、そうなんだ。よかった……」
部下「それじゃ駅長、おやすみなさい!」
駅長「ああ、おやすみ」
女上司(ホントに駅に泊まることになっちゃった……) 次の日――
ガタンゴトン…
部下(始発の音で目が覚める……)
部下「おはようございます」
女上司「おはよ〜……」
部下「あ、もしかして低血圧ですか?」
女上司「まあね〜……寝起きはこんな感じ……」
部下「さ、顔を洗って会社に行きましょう!」
女上司「は〜い……」 ……
女上司「あー、今日も遅くなっちゃったね。ごめんね」
部下「仕方ないですよ、大きなプロジェクトを控えてますし」
部下「それに、ボクは駅に住んでますから」
女上司「そうだったね」
部下「よかったら、今日も寄りませんか?」
女上司「うん、寄らせてもらおうかな」 部下「じゃ、今日はビールでも」カシュッ
女上司「ありがと」カシュッ
女上司「それじゃカンパーイ」
カチンッ
女上司「立ち入ったこと聞いちゃうようだけどさ……どうして駅に住んでるの?」
部下「えっと、それは……」
駅長「私から答えていいかね?」
部下「あ、はい。どうぞ!」 駅長「彼は……赤ん坊の頃、駅のコインロッカーに捨てられてたんだ」
女上司「え……」
駅長「それを我々が拾って、育てることになった」
女上司「ちょっと待って下さい。駅長さんにもご自宅がありますよね。どうしてそこで育てなかったんですか?」
駅長「駅から出そうとすると、ものすごい勢いで泣いてねえ。警察や医者でもどうすることもできなかった」
駅長「出せないなら……じゃあ駅で育てればいいってことになってね」
駅長「駅の職員みんなで育てることになったんだ」
部下「学校も駅から通ったんですよ。先生も駅に家庭訪問に来て……」
女上司「よくテレビとかで話題にならなかったわね……」 女上司「それで……ご両親は?」
部下「……」フルフル
部下「もう現れることはないでしょう。それは確信してます」
駅長「……」
女上司「いっとくけど、私が実はお母さんなんてオチはないからね!」
部下「分かってますよ! ボクたち、それほど年離れてないですし!」
女上司「ならいいんだけど」
女上司(こういう人生もあることは否定しない。だけど、ずっと駅に住んでていいのかな……) ある日――
女上司「あー、また終電がなくなる時刻になっちゃったね」
部下「そうですね」
女上司「あのさ、よかったら今日は私の家に来ない?」
部下「え……?」
女上司「たまには……駅以外のところに帰るのもいいかもよ?」
部下「そうですね! 今日はそうします!」 女上司「ここが私の家よ」
部下「へぇ〜、いいマンションですね」
女上司「さ、入って入って」
部下「お邪魔します」
女上司「くつろいでいいよ」
部下「は、はい」
女上司「あれ? もしかして緊張してる?」クスッ
部下「女性の部屋入るの初めてなんで……」
女上司「リラックスリラックス、こうやって足伸ばしていいのよ」
部下「遠慮なく……」 女上司「チャーハン食べる?」
部下「あ、いただきます」
ジャー… ジャッジャッ
女上司「深夜に食べるチャーハンも乙なもんよ」
部下「おいしいです!」
女上司「ふふっ、ありがとう」 女上司「私の部屋……駅と比べてどう?」
部下「どう、とは?」
女上司「ほら、居心地とか……」
部下「……」
部下「正直、とてもいいと思いました。ずっとここにいたいなぁ、と」
女上司「ありがと」
女上司「じゃ、寝ようか。お布団敷くね」
部下「はい……」
…………
…… それ以来――
女上司「今日は早く帰れるね」
部下「そうですね」
部下「あの、よかったら……あなたの家に行ってもいいですか」
女上司「うん、いいよ!」
部下「それじゃ、駅長に電話します!」
部下「あ、もしもし! 今日は遅くなるから……」 駅長「今日も帰りが遅くなるそうだ」
おばちゃん「おやおや。ということはそろそろかもしれないねえ」
駅長「うん……あいつも成長したもんだ」
おばちゃん「寂しいかい?」
駅長「そりゃ寂しいさ。ずっと親代わりだったんだもの」
駅長「だけど……嬉しさの方が勝るよ」
おばちゃん「フフッ、そうかい」 スタスタ…
部下「ただいまー」
駅長「お帰り」
女上司「こんばんは、私も来ちゃいました」
駅長「どうぞどうぞ、いらっしゃい」
部下「駅長、今日は大事な話があります」
駅長「よろしい。駅長室で聞こうじゃないか」 部下「駅長……ボクたち、結婚します!」
女上司「……」
部下「それを機に、ボクは駅を出て、この人のマンションで暮らそうと思います」
部下「よろしいですか?」
駅長「もちろんだとも!」
部下「駅長! ……いや、お父さん!」
駅長「父と呼んでくれるか。嬉しいよ」
女上司「ありがとうございます、お義父さん」
駅長「息子をよろしく頼みます……なんて。アッハッハ」 駅長「それじゃ、新生活を送る二人に、駅長としてエールを送らせてもらおうかな」
部下「うん!」
女上司「お願いします」
駅長「新しい生活に……出発進行!」ビシッ
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