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(’-’*川オッパイノオオキイヒトッテダイタンデスヨネ🍹ショウセツカイテミタオ🐰マタ♪
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2021/12/11(土) 23:07:53.176ID:h6Ul38Je0
髪の長い勇者がたまらず呼びかけると悩ましい女の声がそこかしこで無事を伝えて返しました。
「ありがとうございます、勇者さま。わたしなぞのために…」
「いやいや、こんなのお安い御用です…」
勇者はそうしてようやく攻撃の手を緩めると、何となく愉快な周りの雰囲気に気付きました。何とも信用のできない仲間になったばかりの他のいたずらっ子のような酔っ払いの一行も最後には笑いながら誰からともなくありのままの姿となって軽はずみなじゃれあいのような、慰め合いのような、そこからほとんど果てない宴となっていました。愚かしい事です。目の前には頭を振って誰ひとりの存在も目も忘れてしまったような顔つきでひとりの女盗賊が活き活きと誘う目で全てをさらけ出して踊ります。あたりの柳の木は一切大きく垂れ下がり、柳と柳の間からは灰色の空まで石畳の不思議な道がほのかに魔光を放ってそのまま一筋のびているような美しい、でもどこか悲しげな人けのない小屋一つない場所です。チラリホラリ、小さなドラゴンが舌を出したような不思議な花が咲くまだ肌寒い、ほとんど冬の日の夕暮れでした。
戦いの後、奇妙にひっそり静まった後のこの騒ぎに、勇者はまだ頭脳だけ戦いを求めるのを免れずにゆっくりやっと少しずつ知らず知らずにどうやら落ち着きを感じました。あらゆる狂ったような心得たような無上の陶酔。笑い声が上がりあふれるよう。勇者は自分をもとめるらしき幾人かの女と男たちに上機嫌になりました。でもその両手はもちろん、全身に浴びた敵の返り血にまるで猫のように声を発して笑うと、ついに勇者はそこから逃げるようにしてそそくさとひとり離れ川へと急ぎました。遠い天をいく現実のドラゴンを静かに高く見送りながら、あらかたその血を流してしまいますが髪の毛だけは中々汚れが取れずにいると遠く竜のその羽ばたきにあわれにも見ればダメージが痛々しく、悠久の命からがらという様相が少し滑稽に思えました。
世にも平和な時。心の中の嵐のけたたましい振る舞いは既に音をたてて破られて、斧持つ鬼、鉾持てる夜叉、剣持つ穢れ知らぬ武人もなんとなく、みながみなに小さくしのがれ心は常に固められ、今はその強い覚悟をもって命をかけたこの無慈悲な旅程の先にも必ずや彼らのすべての光明がめでたく疑いなく信じられ、呪文も念仏も良心もいらないままいつの間にやら仲間たちはいかにも自然今すべてみなぎる力と知恵をもって生まれたままの姿となってたがいにやさしく時に涙しほほ笑み合い、汚らしくも温かく讃えあっているのでした。
天下は我らのものなるぞ、という勇気。
恐ろしい日の光りをも嘲笑うドラゴンすらもなおただ暮れかけた紫の空にそのまま行きちがえども然しながら自然にその二頭のそれぞれ憤怒の牙と痛々しい、しゃにむの悲しい眷属とともどうしようもない黒雲の影をのみ目指すような。美しい不思議な色彩の空は盾も貫く戦場では頼もしい仲間そのすべてみな慶び祝うような愉快爽快な気分。にわかに激しく胸に高まる大和魂、悪意の暴れるこの世にさらに極まるよう。
異世界_____
「ついにボクは異世界に勇者として君臨できるんだ。誰だよ、こんなに手間かけさせやがったのは?」
勇者はようやく水浴びを終えてしまうと少々暗い階段を上って自嘲気味に、でも自信に満ちた表情で往来の女性たちを目にしました。何一つ変わらないようないつもの欲情がムクムクと心を包み、それでもボロボロになったような古臭い平静を装って暇さえあれば明日にも知れぬ互いの命を思うような素振りで馴れ馴れしく、どこまでもしつこくそして計算を巡らせるのでした。数人の女の子たちも上機嫌で、ついに悦びに満ちたように上手とは言えない歌を歌いだします。それが周りにも伝染して皆が皆笑顔となりました。彼女らのつんと澄ました露な肌をみて鍛え上げられた身体にオイルのような生気がみなぎります。まるで人の皮をかぶった悪魔。何もかも悟りきって迷信を捨てきったような青ざめた笑顔とともにその笑い声からは離れました。その時勇者の心にはなぜか改めて妙な悲しさと妙な情けなさがあおりたてられ、こわごわと眠りかけた小さな子の目を覚ますよう。
「おっとっと、またまたいつもの劣情が鎌首を…」
心にとげのようなものがまた感じられ自然に勇者は一人声を落としました。
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2021/12/11(土) 23:08:53.973ID:h6Ul38Je0
勇者は慎重に振り向いてだれともなく、力勝るはずの自分が他の無茶苦茶なくだらない者達にまたどう思われるか、たまるものか、そう考えながらそうしてこれ見よがしにそばの岩に腰を下ろしました。まだ水が乾ききらず、転々と自分の後に雫が跡を残します。流石に寒さがして全身をさするととくに自分の巨大な乳房を触るとき無上な落ち着きを感じて人目を盗んで少し慰めました。そして最近気に入った女性のことを考えめぐらせて再び少しこの命がけの旅の前にかしこまる思いがしました。自分の本当の痛み、そして限界を再三超える肉体のもたらす奇跡、神妙さ、命そのものが高める魂の行くへ、その神掛かる兆候に大きな意味を見出し気構える自分の心の動きを客観的に、冷静に静かに見つめつつ。
『勇者様、あれを御覧ください。みなあなた様を讃えておるのですぞ!』
「うん、ありがとう」
すれ違う真面目くさった中年の仲間がうれしげに話しかけてきました。そして間もなくそれから遠くに見える一人の退廃的な若い少女が、そんな勇者にまっすぐ静かに近づいてきました。あらゆるものが堕落してしまうことをこの上なく上手に証明するかのような眉毛の長い中性的で小悪魔的姿でした。
勇者は男性と勘違いした自分に恥ずかしさを感じました。それどころかそのうちすぐにその羞恥心をさとられるような愚かな臆病心が自分の既成概念というものに対して悪魔のように乱暴に蹴散らしてしまうな不思議な違和感を感じました。まるで村を襲う魔物のように。勇者は気を取り直そうとします。何かしらしきりに考えようとはしましたがやがて深く弱弱しい妙な溜息を一つ漏らすと素直に恥ずかしそうにはにかんで少女にほほえみました。
少女ははきわめて興奮しているようすで、その目は勇者を見ているような見ていないような、とんでもない遠い未来を見ているような。じつは勇者のすることには何ら関心すらないようでもありました。少女はは男性的な性格なのか態度がキビキビとしていて時々思いもよらない動きの美しい踊りを舞いました。勇者はでもなにやらそれを冷笑してやりたいような物申したい気持ちになってゆっくりとたしかに自分の頭がぼんやりとしてくるのを感じました。
少女はそのまま軽やかな肢体を風に舞わせて、透き通るような肌の思案気味で華奢な細身の身体に揺れる乳房をさらしてしまいます。その拒むものもない欠くところひとつない甘美な美しい官能色が、不覚も間違いもない鍛え抜かれた身体の女勇者の目に心底震える新しい生きがいに化け変わりその体を稲妻のようにその芯から貫いてしまうのでした。
勇者は自分の欲望をはるかに超越してしまった変に明るい、朗らかで開放的な少女の所作に驚いている間に自然と自制心を吹き飛ばされてしまいます。ついに防具のその重みにふと腹が立つほどにみるみる興奮してしまって我を忘れると同時に、この上はのぼりつめた舞台の上で震えるような恥の息はきっと睨んで抑え込むも一つしぐさの揺らぎのうちに、たちまちこれまた生まれたばかりの姿でその肉体に棲む大気の縺れを祓おうという素敵にばかばかしい気配となりました。ぞっとするほどピンクに光るようなあたたかい蒸気が頬から天を望むのに一層欲情が煽り立てられて激しい羞恥心を蹴散らしました。
『乾杯!』
その時どこかで上がるめでたい声。勇者は突き刺すような正気をやっと取り戻すと、妙に一時臆病な心の常として、結果を予想していろいろと思いまどいもう何をすべきか全くわからなくなったのでした。今は心の胸を焦がすのを自覚するしかありません。そうしてその恋がだんだん膨張してくると、ついに破裂するしかありません。これからどうなるのか、勇者にはさっぱり予想ができなくなってしまいました。
ボクは、女性に恋をしてしまったの?
それがまためでたく顔が真っ赤になるようなうれしいような恥ずかしい気持ちがして、またどこかすえ恐ろしい思いがして心が重く、孤独なつめたい苦しみを感じました。
そして急に大胆に、再び恋を告白してしまおうとあえぐように何かささやく少女を目の前に見つめ合うと思考は一切役に立たなくなるのでした。なにやらとてつもなく大きな音ともにおいしそうな肉の焼ける匂いがします。少女はかわいらしい女の仕草でおなかいっぱいにその空気を一度吸うと微笑んで、気味の悪いほど美しいその若い青白い肉体の赴くままにちょっと伏し目がちに、やがてぼうっとした気になってしきりに強く何か興奮の渦中に夜通しその目が暗く光るような、頬がげっそりとして女らしい乳房だけが成熟を繰り返していくような、木陰で震える小動物のようないつにない衝動が身体中に広がるのに任せてしまいました。あたりは晴れやかな、でも一種異様な緊張感に包まれています。
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2021/12/11(土) 23:09:36.633ID:h6Ul38Je0
微笑んで潤んだ舌をみせる無邪気な少女。その軽やかな動きのそのたび、意識に華やぐような不思議なもやもやした霧。でもその時錯覚か偶然か、その少女の眼の奥にわずかに魔物のような、洞穴にほの光る鉱物のような特殊な光が宿ってみえて女勇者はついに何度も何度もそれを確かめようとせざるを得ず、やはりどことなくみるみるとその牙が伸びてくるのを見て確かめてしまうとたちまちそこから飛びのいてしまいました。同時にとてつもない恥ずかしい思いを感じます。そして静かに、勇者はたちまち赤黒く変化していく少女を引き離し他でもない狂気の事態を理解しました。
周りを見回します。勇者は驚きました。すでに攻撃部隊の男たちにはその壊滅的宴が蔓延し、補給部隊の女たちも元気にその快楽の匂いにあっけなくからめとられつつあります。
輪郭の鋭く変わりつつある目の前の少女。その白い牙は、その灰色の肌にぼろぼろとほとんど何かがはがれていく身体から緊張した表情で何かを必死にもっともっと生きたいと訴え諦めきれずにいる魂を映すようでした。勇者は硬直して少女から離れると尚もすがりつく少女の無心な呼吸と毛髪の抜け始めてしまった哀れな姿にどうしてもとうとうその頭を一息に打ち砕いてしまいました。勇者の手は震えました。これがきっと自分の終わりなのかもしれないと思いました。心に覚悟を薄っすらときめてしまうとその時、なぜか記憶によみがえるいとしい幼馴染の男の子の昔の言葉であって、それがおのれのことながら底知れず湧き上がる不思議な動揺と同時に、またすこし自己嫌悪になってしまいました。
「何をいまさらなんだ…」
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2021/12/11(土) 23:10:05.928ID:h6Ul38Je0
悲劇的なため息とともにつぶやくと、急に生まれて初めてのようなその感情がつぎつぎとあらわれては消え、振り返ると意外にもしみじみ死の恐怖こそをその意思の闇の中から発見してしまうのでした。
「僕の中では一番男の子らしい女の子だね。すごくカッコいいよ。でも、僕には特別すぎて…」
それから純良な笑顔できれいに陽の光に泳がせた髪の毛とともに背を向けて行ってしまうその姿を思うと勇者は、今は石のように動かなくなった生に対してムラムラとなぜか執着心が湧いてきました。悲し気な孤独な眼をした彼を思い再び苦しくなりました。それをいまさらのように特別に思うと首の付け根まで赤くなる底知れない白白とした、ひとつの罪悪感でした。勇者はぶるっ、と身体が震えてしまいました。
「ボクは君を追いかけていて君になりたくって…。それももう終わりだね。君は今どこで誰といるの? その悪魔の支配する世界の中で。ボクはもう、君のもとに帰りたい…」
勇者は動悸が止まりませんでした。
「ああ、なんてかわいそうなんだろう…」
するとなぜか残忍な心が胸に湧き上がっていました。すべての事が首尾良く罠に人を導く誘惑の種に見えて今更ながらむしゃくしゃとしました。勇者はそれからどんな事をしたかよく分からなくなりました。それは一つの恋が叢雲から月が現れ闇夜を払うように勇者の心をすっかりと現実に帰した瞬間でした。
「はっはっはっはっは…」
自分のことを女の子と言ってほしいのは君だけだったかもしれない。うそのようだけどボクはワザとそれに気づかないふりをしていたんだろう。
わけのわからない何とも言えない彼から離れた後の不思議な転落。もしかしたら大事なものをはっきり取りこぼして落として無くさぬよう神さまに隔離されたような自分のこれまでの人生を冷静に見つめなおしました。恥ずかしくなってきました。勇者は麻酔がかかったようにいとしい彼の記憶がないのでした。そうした喪失が改めて心にありありとよみがえり、それから今更のようにまたグルグルと何か嵐のようなものが魂をひしひししたたか揺さぶるのですが半分頭が壊れているのか、効果的にはご利益ありません。勇者は再び立ち上がりました。静かに、命を川面のそこから蘇らせる天使のように。
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2021/12/11(土) 23:10:35.576ID:h6Ul38Je0
『ああ…!』
いつのまにか体を合せ始めた男女が遠くに見えました。ともに言葉なく、さらりとすぐに下半身の隙間のあらぬ気の渦に魂すべてを委ね、傍目にも鼓動が一気に高まるようです。その周りにもいつものように誠意のない会話と悪い不正直な残念な空気のままいつのまにやら収奪をはじめある者は巻き込まれ、笑い合い、また取り立てて言えば傍目にも必然下半身のうずきだけは愛想も未練もなく強いわけのわからないありがたい幸福感をむなしく脳と全身に漲らせます。そしてそのうたかたの幸福のような時間を過ぎれば必ず絶望の悲鳴と絶叫があがるはずでした。また強姦のような様相のはるかの二人。好きな男の子と自分を重ね少しあさましく、酷くまた新鮮で心地よい気持ちに誘惑されるのを感じるともうすぐに勇者はたちまち怒りを抱きました。二人の魔物の兆候を確かめるや今やその頭を一撃のうちにむごたらしく切り落してしまいます。
勇者は少しの溜息の後、そこでなぜか雄叫びを上げました。そうして勇者はうつむいて目を閉じると少し瞑想をしました。苦々しくも何か、記憶のどこか十分に突き止めた気がせず、あと千回はこれを繰り返そうというこの悪の闇から忌々し気に現実のほうへと立ち戻りました。遠巻きの男や女たちの自分を見る眼差しに自然気にかかる新鮮で刺激的な暗示、熱くめでたくその心を震わせますが勇者はそれに怒り声を上げました。狂ったような呪いのような全身の神経の高ぶり、それからあんまり夢中になって走っているうちにいつの間にやら底知れない喪失感がむずむずと体を支配してこの世界から一刻も早く抜け出したくなります。
「どうすればいいのか考えた。それすらも飽きるくらいに。もう、破壊しつくしてやる。破壊しつくすか、ボクが死ぬかだ!」
身震いするような甘い解放感が勇者を満たしました。そこに乳房をさらして逃げ惑う女。勇者はそれに憎むような、乾くような、血がにじむような目をしてその魔物化の兆候を見出そうと懸命になりました。もはやだれもが逃走していました。弱り切っているまともな人間のメンバーも一人、二人と魔物と化したかつての仲間たちの毒牙にかかって死んでしまいます。勇者は奇妙な冷たい笑みをその頬に浮かべながら一人ぼんやり何かこの喧騒からただただ何かを取り戻そうというよくわからない欲望にとらわれ、そんなうちにずっと暴れまわって容赦なく、つぎつぎ仲間たちの変わり果てた姿を血しぶきをあげて残忍に切り殺し続けました。その夜、勇者の荒々しい肉体は震えた溜息をひとつ吐くと限界を超えて、疲れ切っていつのまにかついに闘い続けることを放棄してしまいました。なんともいえない生々しい不安にとらわれると勇者はぴったり、そこで息を殺してすっと飛び出し藪のなかにただひとり、たまらない残忍な解放感と現実への郷愁に浸りました。そこに今まで一度も聞いたことのなかったようなみずみずしい青年の澄んだ声が聞こえてきました。悲鳴と怒声、魔物の雄たけびがあたりにはあふれていました。
「すみません、すみません。あなたは124ゴロ〜ジャスさんですか?」
勇者はその時、透き通ったような笑い声を吹き出してしまいました。
「はっはっはっはっは…」
投げ出すようにそこにそのまま座り込んでしまうと、自分の記憶にある一人のにっこりとしたそれでいて悲し気な幼い男の子のわずかな記憶は本当に自分のものであったであろうか、などと考えてしまいました。どうでもよくなってしまったのです。それほどにどうみてもその娘は好きな自分自身のキャラクターなのでした。唖然として再び、その姿と相対しました。しかもそうした自分とどう考えても全く同じ表情をするその娘に、そのうち静かに幸福を感じながら。
「んも〜、悪人め、下種め、馬鹿ゲームメーカーめ、まぬけなこんなゲーム早く発禁されてしまえ…」
そう小さくつぶやいたのは最後の必死の抵抗であったかもしれません。月の光をうつす泥水にうっとりして目を移すと、そこに口紅のついた煙草の吸殻が一つ。まるでピカピカと光を放つ何か神さまか悪魔の目覚ましのよう。
人はなぜ、いつのまにやら恋につられて明け暮れて、やつれて疲れ泥だらけになり取戻し、死ぬまで狂って走り続けるのでしょう?
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2021/12/11(土) 23:11:07.084ID:h6Ul38Je0
勇者と魔道師はぜえぜえしながらそのあと誰にも知られぬまま柳林を抜けて、再びの藪を勇猛につっきって、こんどはぬかるんだ道を何分か走って歩いて突き当ってしまいました。もう二人でいつ死んでもいいという幸福な開放感でした。この異世界に何の未練も穢れもないという感じ。するとそこに一台の新しい小さな自動車が不思議と木に衝突した形で事故をしてしまったのかひっそりなぜか止まっています。中には男女が二人。
何だろう?
何でしょう? 私にもさっぱり…。
勇者たちは立ち止まりました。その懐かしいしかし相容れないはずの光景が愚かしくも戦慄の中にその豊かな経験値のなかにだいたいの一閃の攻略をひらめかせそのうちゆっくり接近を試みました。間違いなく、二人は少しどぎまぎしていますが頑張ります。そしてなにやらその車の窓が少しあいていて、次第に中の男女の肉声と金属的な猛烈に朗らかなラジオの声が勝手に耳に入ってきます。そのラジオの声に、勇者たちは同時にごくりと唾を飲み込むと、ようやく今完全に正気を取り戻し二人同じく頬をピクピクさせました。
「セックスなんてどうでもいいのさ。ただボクを束縛してほしいんだ。この世の中の悪魔の誘惑を遠ざけていてくれ。世界に唯一、ぼくを支えていてくれ、どんな時も。ああ、そして君はなんて美しい眼をしているんだ…」
「でもみんながそういうわ?」
「ん、そんなバカな…」
「わたし、これでも浮気だっていくらでもできるのよ?」
「…ああ、いっそぼくを殺してからそうすればいい、いい?」
しばらく見つめあう二人。
「いいよ」
どうしたことか、やがていじわるく見つめあって二人は楽しく笑い合いました。そこにラジオが不思議に口をさしはさみます。 
『こいつらまた切り札か。ホント、一人ずつ殺したらどれだけの人助けになるかしれない。勝手に死ねよ、バカ』
笑い声が起きました。
「私、キスしたいな…」
「おいおいおい…、おまえ無茶苦茶だぞ。子供が見てる、あ見てるぞ、警察見てる、お見てる、ん?! んおっ!? おーおーおーww、ん〜へぇ〜っ、あ、はいはいはいwww、…ほお〜w。おい、おいおい、いま絶対コスプレ流行ってんぞ!」
「でもチョットちがくない?w」

おわり
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