小説書く
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だが真冬の服の胸倉は、掴むとすぐに千切れてしまう。
赤い毛糸がはじけて俺の腕の上を這う。537℃の熱が皮膚を溶かし同化する。
その様子を真冬が死んだ目で見ている。
「あなたも一緒に死ねばよかったんだ」と真冬は言った。
「お前が後ろ向きに飛び込むから」と俺は言った。
「胸倉しか掴むところがなかったんだ。まさか服が千切れるなんて思わなくて」
「私が前向きに飛び込んだら、あなたは追いつけなかったわ」と真冬は言った。
俺の腕は際限なく熱くなっていく。細胞の溶解熱。高圧下の運動エネルギー。
その傷跡は不思議と虫食いのような形になっていく。
握りしめていたはずの布が俺の体内を浮上し、それに従って俺の腕も消えていく。
俺は左半分だけの身体で、浅い呼吸を繰り返している。
真冬はただまっすぐに俺を見ている。
「仕方がなかったんだ」と俺は言った。「届かなかったから」
「なんでも手の届く範囲でなんとかなると思わないで」
真冬は受話器を置くように、ぴしゃりと言った。時が止まった。
「あなたは決して飛び込まないのよ。たとえ恋人が死んでもね」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています