むかしむかし、一休さん(いっきゅうさん)と言う、とんちで評判の小僧さんがいました。

 一休さんのとんちの評判を聞いて、殿さまがお城に一休さんを招き入れました。
「さっそくじゃが、そこにあるびょうぶのトラをしばりあげてくれぬか。
 夜中にびょうぶから抜け出して悪い事ばかりするので、ほとほと困っておったのじゃ」
 もちろん、ひょうぶに描かれた絵のトラが出てくるなんて、うそに決まっています。
 しかし有名な絵描きが描いたのでしょうか、びょうぶに描かれたトラはキバをむいて、今にも襲いかかってきそうでした。
「本当に、すごいトラですね。
 それでは、しばりあげてごらんにいれます。
 なわを、用意してください」
「おおっ、やってくれるか」
「はい。もちろんですとも」
 一休さんはそう言うと、ねじりはちまきをして腕まくりをしました。
 そして家来が持ってきたなわを受け取ると、一休さんは殿さまに頼みました。
「それでは、トラをびょうぶから追い出してください。
 すぐに、しばってごらんにいれます」
 それを聞いた殿さまは、思わず言いました。
「何を言うか! びょうぶに描かれたトラを、追い出せるわけがなかろうが」
 すると一休さんは、にっこり笑って言いました。
「それでは、びょうぶからはトラは出て来ないのですね。
 それを聞いて、安心しました。
 いくらわたしでも、出てこないトラをしばる事は出来ませんからね」
 それを聞いて、殿さまは思わず手を叩きました。
「あっぱれ! あっぱれなとんちじゃ! ほうびをつかわすから、また来るがよいぞ」

 こうして一休さんはたくさんのほうびをもらって、満足そうにお寺に帰りました。