おばちゃん
俺はこの鉛筆を見るとな?
おふくろのことを思い出してしょうがないんだ

不器用だったからなぁ…
鉛筆もまともに削れなかったから毎夜毎夜おふくろが削ってくれたんだ

ちょうどこの辺に火鉢があってな?その前にきちんとおふくろが座ってさ
白い手で肥後守を持ってスイスイ削ってくれるんだ
その削りカスが火鉢の中に入って、ぷーんといい香りがしてな?
きれいに削ってくれたその鉛筆で俺は落書きばっかして勉強なんてひとつもしなかったもんだ

でも、鉛筆がどんどん短くなっていくと、その分だけ頭が良くなった気がしたもんだ
頭んとこちょこっと削って名前を書いたりしてな
昔はものを大事にしたもんだ

お客さん、ボールペンってのは便利でいいもんでしょ?

だけど《味わい》ってのがない

その点、鉛筆は握り心地が違う
木のぬくもり、六角形が指の間にぴたっと収まる
試しに書いてみな?どうだ?
デパートでお願いするとこれ1本2万円はする品物だよ

でもちょっと削ってあるからな?1万5千円だな
いいやいいやくれてやったつもりで1万円でどうよ