憎しみを伝播させないようにするにはどうしたらいいのか
僕はずっとそんなことを考えていたら、背中から翅が生えてきた。
そして、1メートルほど左右に翅が伸びたところで、すぐにバタバタと勝手に動きだし、体がフワッと浮き上がり飛ばされていった。
初めはひどく混乱したが、鳥になりたかった子供の頃を思い出し、これも悪くないと自分を納得させ、落ち着かせた。
飛び始めてから、どれくらい経っただろう。
体はもうひどく疲れていたので休みたかった。
とはいえ、翅にはそんな僕の人間臭い考えも筒抜けで、ありがたいことに、すでに僕の寝床をそこに見つけていた。
そして僕は関節をはずし、身を丸く縮めていく。 
変だった顔が粘土のように凹凸がすっかり消えて、実に清々しい。
神経症の女の爪によって、開けられた数ミリの穴から、コンドームの中に滑らかに入っていく。
ここは雨風が強いので、再びその穴から出るのは難しいだろう。
でもここは意外と心地が良かったのでそんなことはどうでも良かったのだ。
でも今も、時々外の様子が気になって、穴に耳を押し付けてみる。
ただ、聞こえるのは畏怖を感じさせるほどの蝉時雨だけ。
僕は夏の蝉と入れ替わりでこんな穴の出入りをずっと繰り返している気がする。