会計を終えて店を出たところで、紙袋を持とうかと声をかける。教科書類一式となるとそこそこ重い。
 「そうだね、一つお願いしても良いかな。と言うか私ここから自分の家までの帰り道がわからないんだけど……、帰り道も案内お願い出来ないかな」
 学校から本屋までの道がわからないのだから帰り道がわからないのも当然と言えば当然だった。案内する分には一向に構わないので十二天の住んでいる集落の名前を聞いた。ここから歩いて三十分程かかるところだったが、幸い俺の家と方面は同じだった。
 「そう言えば十二天はスマホて持ってないのか」
 今時スマートフォンさえあれば大抵の場所はわかる筈なのだが。この田舎でさえ中三女子のスマホ普及率は九割に迫るくらいだ。まして神奈川の様な都会に住んでいた年頃の女子がスマホを持たずにいることが想像できなかった。
 勿論、ここで持っていると十二天が言えば連絡先を交換したいとの下心もあった。
 「スマホは無くしちゃってね。週末に新しいのを買いに行くことになってるんだ」
 残念ながら今は持っていないらしかった。
 「そういえばさ、さっきもUFOの本とか買っていたけれど、自己紹介の時のあれってどのくらいガチなの?」
 おそらく九分九厘彼女は本気なのだと思うが、一応聞いてみることにした。
 「え?UFO探しのこと?ガチだよ。と言っても最近始めたばっかりなんだけどね」
 どうやら最近始めたばかりらしい。もっと昔から頭の螺子が飛んでいるのだとばかり思っていたので正直意外だった。
 「それは流石に言いたくないなぁ。そうだ、天神岡くんも手伝ってくれるならその内教えてあげるよ」
 UFO探しのお誘いを受けた。まぁ本気で探すかは兎も角として、この誘いに乗っておけばこれからも継続的に彼女と接点を持つことが可能だろう。
 部活を引退してすぐに受験勉強に切り替えられるようなタイプでも無いし、どうせ遊んでしまうのなら可愛い女の子と遊ぶ方がいくらか有意義だ。
 「いいよ、俺に何が出来るかはわかんないけど」
 十二天は少しだけ驚いたような表情を見せた。まさか自分から誘っておいて乗ってくると思ってなかったんじゃないだろうな。
 「ありがとう。じゃあまず明日の放課後に図書室に付き合ってもらおうかな」
 すぐに表情を元に戻し、十二天が言った。今日も本屋でそっち系の本を探していたし、その続きと言うことだろうか。それくらいなら俺にも出来そうだ。
 了解と答え、何を話せばいいのか分からなくなったので無言のまま歩く。おそらく彼女には何かがあり、そしてその地雷は踏まぬが吉だ。下手を打つくらいなら多少の気まずさは我慢して美少女と二人で歩いている現実を心の中で堪能しようではないか。
 十分くらいだろうか、ほぼ無言で歩いていた。勿論不自然でない程度に浅い話を振ってみたりはしたし、彼女の方もそれに対してきちんと反応はあった。ただ先程の様な踏み込んだ話は一切しなかった。
 十二天の言った集落に着いたので、ここから先は道はわかるかと聞いたところ首肯した。じゃあ家まで送るよ、荷物もあるしさと押しつけがましくならない程度にここで帰ったりしないと意思表示してみる。
 十二天はそれに対して特に何も思うところが無かったのかありがとうと言って集落の中を進み始めた。
 「ここが私の家」
 そう言って立ち止まったのは立派な日本家屋の家だった。この集落の中でも一番大きいのではないだろうか。
 「じゃあ、また明日ね。今日一日沢山面倒かけちゃったね、ありがとう」
 どういたしましてと言って彼女に預かっていた紙袋を渡すと、彼女は勝手口から家に入っていった。