>>59

 「天神岡君?よろしくね」
 窓側最後尾と言うベストポジションをあっさり手に入れた十二天は此方を向いてにこりと微笑んだ。
 先程の自己紹介で十二天の奇人っぷりは充分伝わってきた。中三にもなってUFOを探すのが趣味なんて平然と初対面の大人数の前で言ってのける女が普通な訳が無い。
 それでも、彼女の微笑みは反則だった。彼女の内面にはおそらく幾つもの欠点が隠れているはずだ。それでもそんな疑念を全て包み込んで見えなくしてしまう、目が眩むような微笑みだった。
 転校生の彼女は当然教科書など持ち合わせておらず、今日一日机を合わせて教科書を見せてやることになった。既に彼女の魅力に当てられている俺としては平静を装いつつも心臓が高なって血管の一つや二つ破れるんじゃないかと心配になる程だった。我ながら単純な男である。
 普通の転校生であれば休み時間等にはクラスメイトが集まってきて俺の席周りなぞ五月蠅くて居られないくらいになる筈なのだが凡そそんな気配はない。男子からも女子からも怪訝な視線を感じる。男子はまだ下心を理性で抑え込んでいる様な状態で済んでいるが、女子の中にはこのクラスに新たに紛れ込んだ異物をどう処理してやろうかと言う敵愾心丸出しの視線を向けてくる者も居る。
 これだけの容姿にあのような悪目立ちの仕方ではそれも詮無いことかもしれない。そして彼女が悪目立ちしたおかげで彼女に今のところ誰も寄り付かないと言うのは俺からしてみれば僥倖なのかもしれないとさえ思った。