>>32

 立ち続けるものいい加減に疲れたと言うあたりで動く部屋が止まった。今度は私が母と暮らした場所と似た場所だった。違うことと言えば一人一部屋が与えられることと、ここには女性がおらず皆歳の近い睾丸の抜かれた男達しかいないと言うことだった。
 ここにも謎の生物が居た。この謎の生物は穏やかそうに見えたがとんでもない巨悪だった。私達は皆鼻に穴を開けられ激痛に悶えることになった。鼻の内側に穴を開けられ、輪っか状の飾りを通された。謎生物は私達を一通り虐め抜くと、私が産まれ育ったところの謎生物と同じ様にご飯を運んできた。激痛でご飯どころじゃないと思っていたのだが、空腹には勝てず食べてみると、何だか今まで食べていたものより味が濃く、こってりとして美味しかった。
 新しい部屋での生活は鼻に穴を開けられたことを除けば概ね快適だった。段々と風が冷たくなってきたが、謎の生物は私達の部屋の周りにせっせと囲いを作っていた。風が遮られ温かくなった。これから段々と寒くなることを冬が来ると言うらしかった。
 謎の生物が居ない間は会話を楽しんだりもした。私達が女性器から産まれるためには交尾と言うものが必要らしいが、謎生物が女性の肛門や女性器を弄りまわしているのは交尾の代わりになるのだと教わった。私も一度くらい交尾を経験してみたかったが、私達の様に睾丸を抜かれた男性には交尾は出来ず、ごく限られた睾丸を抜かれていない男性にのみ許された特権らしい。それはなんだか酷く不公平だなと思った。
 やがて少しずつ温かくなった。これが春と言うものらしい。そして春の後には夏が来るのだとも聞いた。私はあの蠅達が群がる夏がまた来るのかと思うと酷く憂鬱な気分になった。
 しかし、蠅達よりも恐ろしいのはやはり謎の生物達だった。いつもは無害な彼らだが、時折豹変して酷く恐ろしくなるのだ。身体に太く長い得体の知れない針を刺してきたり、私達の詰めをなにやら固いもので強引に削り取ったりするのだ。どうしていつも無害でいられないのか、何故私達はこうして虐められないといけないのか、ちっとも理解出来なかった。