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 彼女が作ってくれたクリームソーダはとても冷たく、甘く、瑞々しかった。きっと水筒の水には氷が沢山入っていたのだろう。持ち運んでいる間に少し溶けかけたバニラアイスが炭酸で泡が立ちシュワシュワと膜を張る。きっと高級さで言えば彼女の家でお母さんが出してくれるジュースの方がずっと高級なのだろうしこの田舎では珍しいものなのかもしれない。ただこの田舎のしかも野外でクリームソーダを飲んだのはきっと俺達が初めてだろう。
 「ありがとう、クリームソーダなんて飲むのは初めてだけれど、とっても美味しいよ」
 そうお礼を伝えると、彼女は嬉しさと安心が半々で混ざった様な顔でどういたしましてと答えた。
 クリームソーダはあっという間に飲み干してしまったが、駄菓子はまだ沢山余っていた。二人で色々食べながらどれが一番好きかなんて話したりした。彼女にとっての一番は粉ジュースで、二番はカルメ焼きとのことだった。どちらも俺が最初に持って行った駄菓子だった。
 駄菓子をあらかた食べ終えた後も他愛の無い話が続いた。下校当初の緊張などすっかりどこかに消えてしまって、このまま二人で永遠に話していられるように錯覚しかけた頃に不意にチャイムが割って入った。
 夕方五時を告げるカラスと一緒に帰りましょのチャイム、遊びの終わりを告げる音だった。いつも男友達と遊んでいる時もこの鐘が鳴れば帰り支度を始める。この楽しい時間がいつまでも続いて欲しいと思ってもそれは現実にはならない。俺にも彼女にも帰りを待つ家族がいるし、まして彼女の親からすればこうして彼女が付き添いなしで出かけることさえ滅多にない経験だろう。帰り道は寂しいものだけれど、また会えるのだから、きちんと送り届けてあげないと。
 「五時のチャイムが鳴ったし、そろそろ帰ろうか」
 そう言って散らかしたごみを片付け始めると、彼女から待ったがかかった。
 「あの、もう一つだけ。これを貰ってください」
 そう言って彼女は茶色の紙袋を手渡してきた。これはあの駄菓子屋で沢山駄菓子を買って持ちきれない時にだけ入れてくれる袋だった。ただし、やけに角ばっていて駄菓子が入っているようには見えなかった。
 袋を受け取って開けてみると、中身は日焼けし色褪せつつある箱に入っている超合金ロボットの玩具だった。三年前にやっていた、戦隊物の合体ロボット。当時はとても子供たちの間で人気で、勿論俺も夢中になっていて、彼女の前でも何度も話をした。その時、駄菓子屋にこの玩具が入荷したが、高くて誰も買えないと話したことを思い出す。
 勿論、大人と一緒なら変える金額だった。でも駄菓子屋に大人と一緒に行く子供はそう居ないし、玩具が買ってもらいたい時には玩具屋に連れて行って貰うのが常だ。そういう理由で売れ残り、次の年になればまた新しい戦隊に替わり、ロボットも替わる。そうやって売れ残り続けたロボットだった。