――日本は暴動が存在しない唯一の国ですが、素晴らしいことではないのですか
確かに日本人が暴動を起こしたことはないが、それは大きな間違いだ。なぜなら近代国家の起点は暴動だからだ。アメリカならボストン湾茶会事件という植民政府の徴税に反発する民衆の蜂起が建国の背景にあったし、フランスは「レ・ミゼラブル」の世界のフランス革命だ。暴動がないということは国民が自発的に不満を発露し、権力を脅かすという民主主義の基本原則がないということでもある。

――秩序があるということは悪いことではないと思います
たとえばフランスは、日本よりはるかに賃金が高く労働時間も短い。これは、ストライキが年中行事のように盛んな結果だ。政権がおかしなことをすれば、パリ市中は火炎瓶と略奪で街が燃える。「黄色いベスト運動」はそれだったし、当時のマクロン政権は妥協策を提示せざるを得なくなって一定の成果を出して暴動が治まった。建国の起点がフランス革命なので、多くの国民は経営者や政府よりも抵抗する側を支持しやすい。

――日本では災害時にもや窃盗が起きませんでした
今のトルコ地震や、かつてのアメリカ南部のハリケーン被害では、スーパーなどで民衆が物品を奪いに押し寄せたりする現象が起きた。それは被災地への配給が適切に行われていないからだ。暴徒化は、人々が抑圧された状態の時に起きる。強権的な政府があったり、政治の失敗で国民が貧困にさらされていたり、災害時に食うに困るときに人間の本性が出るものだ。東日本大震災では略奪が起きなかったが、日本人はこういうときに「我慢」しがちだ。それは美談ではない。

――どういうことでしょう
海外なら暴動が起きているときに無理をして耐えてしまうことが、過労死に象徴される世界一の自殺大国の理由になっている。自分が死ぬだけならまだいいが、不満を抱えた集団が誰かをスケープゴードにして晴らそうとすることで、日本の中学校では被害者が死ぬほどの陰湿ないじめが起きたり、田舎の村八分がひどくなる。抑圧の根源を解消し、世の中を健全にしていく流れが作れず、余計に陰湿化し、社会が閉塞感で窒息しそうになる悪循環が起きる。

――どうして日本人はそこまで耐えがちなのでしょうか
日本は四季がある島国で水田稲作の農耕民族の国柄があり、狩猟民族のように資源を実力で「獲得」してきた歴史を持たない。江戸時代の日本人は9割以上は百姓で、年貢米を納めるためだけに農耕にいそしみ続け、どんな悪代官の取り立てにも我慢した。その代わり我田引水を許さず、サボったり、楽をして生産量を拡大するような自分と同じ次元にいる調和を乱す存在を村八分で圧殺し続けることでたまったウップンを「倍返し」していた。そうした流れがあり、お侍同士のクーデターにすぎない明治維新が起きるまで300年間身分制に耐えてきたし、戦前は自分たちだって軍国主義の被害者であるにもかかわらず、植民地の朝鮮人などの起こした抗日独立運動のような独裁への抵抗を起こしたことはなく、支配に逆らおうとする朝鮮人を差別したりいじめることでストレス発散していた。現代人は洋服を着てスマホを使っていても、精神水準は江戸時代の小作農の百姓のままで、この未開の時代から続く事大主義的な民族病を克服できていないのだ。