その後の静香

霧峰村の時女本家、地下奥深く。
長い階段を二度折り返した先に、暗い牢獄はあった。
一族の秩序を著しく乱す者、生涯に渡って自立不可な者、一族を離反した者…
いずれも時女に相応しく無いと判断された者が、ここで余生を送ることを余儀なくされる。
次代当主となるはずだった、時女静香もここに身を置いて早数年。
座敷牢に囲まれた彼女は、粗末な衣服を纏い、その日の勤めを果たしていた。

囚人となった者にも役目は与えられる。

霧峰村に暮らす者が特別な勤めと称するそれは、囚人の安全を保障する対価でもあった。
男と女の囚人では役目に差異はあるものの、共通しているのは子孫を残すことだ。
男の囚人は牢獄を訪れた女に子種を注ぐ。
女の囚人は牢獄を訪れた男の子種を受け入れ子を産む。

「当主、勤めが終わりました」
「よし、下がって元の勤めに戻れ」

静香の下を訪れた男は、静香と密着させていた体を浮かせると、衣服を整えて牢を出た。
現当主となった広江ちはるは、力なく畳に横たわり、嗚咽を漏らす静香を複雑な表情で見下ろした。
まだ静香に出会ったばかりの頃、自信に満ち溢れていた彼女の姿は既にない。
ちはるは大きくため息を一つつくと、座敷牢をあとにするのだった。